熱膨張と熱応力

カテゴリ: 構造解析 | 統合版 2026-04-06
CAE visualization for thermal expansion theory - technical simulation diagram
熱膨張と熱応力

理論と物理

熱膨張と熱応力

🧑‍🎓

先生、熱膨張で応力が発生する条件は何ですか?


🎓

自由に膨張できれば応力はゼロ。膨張が拘束されている場合のみ熱応力が発生:


$$ \sigma_{th} = E \alpha \Delta T $$

$\alpha$: 線膨張係数、$\Delta T$: 温度変化。完全拘束の場合。


熱応力の発生条件

🎓
  • 外部拘束 — 壁、ボルト、隣接部材で膨張を拘束
  • 内部拘束 — 温度分布が不均一。板厚方向の温度勾配
  • 異種材接合 — 線膨張係数の異なる材料の接合(バイメタル効果)

  • FEMでの設定

    🎓
    • Abaqus: TEMPERATURE(温度場を与える)+ 材料の EXPANSION($\alpha$)
    • Nastran: TEMP / TEMPD + MAT1の$\alpha$フィールド
    • Ansys: BF, TEMP + MP, ALPX

    • まとめ

      🎓
      • $\sigma_{th} = E\alpha\Delta T$ — 完全拘束の熱応力
      • 拘束がなければ応力ゼロ — 自由膨張
      • 温度不均一 or 異種材で内部拘束 — 拘束がなくても応力発生
      • FEMでは温度場+$\alpha$を設定 — 自動的に熱応力を計算

      • Coffee Break よもやま話

        熱膨張係数(CTE)の物理的起源

        固体の熱膨張は原子間ポテンシャルの非対称性(アンハーモニシティ)に起因する。調和近似では熱膨張はゼロになり、グリュナイゼン定数γ(通常1〜3)がその非対称性の度合いを表す。鋼(Fe)のCTE≈11×10⁻⁶/°C、アルミニウムは23×10⁻⁶/°Cで約2倍差があり、鋼-アルミ接合部に400°C温度差がかかると熱応力は200MPa程度(ΔT×ΔCTE×E≈400×12×10⁻⁶×42GPa)に達する。インバー(Fe-36Ni)合金はCTE≈1×10⁻⁶/°Cと極端に低く、精密機器の基準ゲージや液化天然ガス(LNG)タンク構造に使用される。

        各項の物理的意味
        • 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
        • 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
        • 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
        • 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
        仮定条件と適用限界
        • 連続体仮定:材料を連続的な媒質として扱い、ミクロな不均質性を無視する
        • 微小変形仮定(線形解析の場合):変形が初期寸法に比べて十分小さく、応力-歪み関係が線形
        • 等方性材料(特に指定がない場合):材料特性が方向に依存しない(異方性材料では別途テンソル定義が必要)
        • 準静的仮定(静解析の場合):慣性力・減衰力を無視し、外力と内力の釣り合いのみを考慮
        • 適用外ケース:大変形・大回転問題では幾何学的非線形性が必要。塑性・クリープ等の非線形材料挙動では構成則の拡張が必要
        次元解析と単位系
        変数SI単位注意点・換算メモ
        変位 $u$m(メートル)mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること
        応力 $\sigma$Pa(パスカル)= N/m²MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意
        歪み $\varepsilon$無次元(m/m)工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時)
        弾性率 $E$Pa鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意
        密度 $\rho$kg/m³mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼)
        力 $F$N(ニュートン)mm系ではN、m系ではNで統一

        数値解法と実装

        熱応力のFEM

        🎓

        1. 温度場を計算熱伝導解析)or 温度を直接指定

        2. 構造解析で熱応力を計算 — 温度→熱ひずみ→応力


        熱ひずみ: $\varepsilon_{th} = \alpha(T - T_{ref})$。$T_{ref}$: 応力フリー温度。


        まとめ

        🎓
        • 温度場→熱ひずみ→応力 — シーケンシャル連成
        • $T_{ref}$(応力フリー温度)の設定が重要 — 間違えると熱応力がおかしい

        • Coffee Break よもやま話

          熱応力の解析手順(定常・非定常)

          熱応力解析の標準手順は①熱伝導解析(定常または過渡)で温度分布T(x,y,z,t)を計算、②温度場を構造解析ソルバーへ受け渡し(温度依存CTE・弾性率・降伏応力をテーブル入力)、③各節点の熱ひずみεth=α(T)×(T−T_ref)を計算して機械的ひずみと分離して力学解析、の3ステップ。非定常熱応力(過渡熱応力)では時刻歴全ステップで繰り返す必要があり、計算コストが定常の数十〜数百倍になる点に注意が必要。Ansys Mechanical 2024 R2では熱-構造連成解析のメモリ効率が改善されている。

          線形要素(1次要素)

          節点間を線形補間。計算コストは低いが、応力の精度が低い。せん断ロッキングに注意(低減積分やB-bar法で緩和)。

          2次要素(中間節点付き)

          曲線的な変形を表現可能。応力精度が大幅に向上するが、自由度は約2〜3倍に増加。推奨:応力評価が重要な場合。

          完全積分 vs 低減積分

          完全積分:過剰拘束(ロッキング)のリスク。低減積分:アワーグラスモード(零エネルギーモード)のリスク。適材適所で選択。

          アダプティブメッシュ

          誤差指標(ZZ推定量等)に基づく自動細分化。応力集中部の精度を効率的に向上。h法(要素分割)とp法(次数増加)がある。

          ニュートン・ラフソン法

          非線形解析の標準的手法。接線剛性マトリクスを毎反復更新。収束半径内で2次収束するが、計算コストが高い。

          修正ニュートン・ラフソン法

          接線剛性マトリクスを初期値または数反復毎に更新。各反復のコストは低いが、収束速度は線形的。

          収束判定基準

          力の残差ノルム: $||R|| / ||F_{ext}|| < \epsilon$(一般に $\epsilon = 10^{-3}$〜$10^{-6}$)。変位増分ノルム: $||\Delta u|| / ||u|| < \epsilon$。エネルギーノルム: $\Delta u \cdot R < \epsilon$

          荷重増分法

          全荷重を一度に負荷せず、小刻みに増加させる。弧長法(Riks法)は荷重-変位関係の極値点を越えて追跡可能。

          直接法 vs 反復法のたとえ

          直接法は「連立方程式を筆算で正確に解く」方法——確実だが大規模問題では時間がかかりすぎる。反復法は「当て推量を繰り返して正解に近づく」方法——最初は大雑把な答えだが、反復するたびに精度が上がる。辞書で言葉を探すとき、最初のページから順番に探す(直接法)より、見当をつけて開き、前後に調整する(反復法)方が効率的なのと同じ原理。

          メッシュの次数と精度の関係

          1次要素は「定規で曲線を近似する」——直線の折れ線で表現するため精度に限界がある。2次要素は「フレキシブルカーブ」——曲線的な変化を表現でき、同じメッシュ密度でも格段に精度が向上する。ただし、1要素あたりの計算コストは増えるため、トータルのコスト対効果で判断する。

          実践ガイド

          熱応力の実務

          🎓

          電子機器の熱変形、配管の熱膨張、エンジンのシリンダーブロック、構造の火災時応答。


          実務チェックリスト

          🎓
          • [ ] $\alpha$(線膨張係数)が正しいか。温度依存なら全温度範囲で定義
          • [ ] $T_{ref}$(応力フリー温度)が正しいか
          • [ ] 拘束条件が実構造を反映しているか(完全拘束 vs. 部分拘束)
          • [ ] 異種材接合の場合、$\alpha$の差に注意

          • Coffee Break よもやま話

            固体ロケットノズルの熱応力管理

            固体ロケット(例:H3ロケットのSRB-3)のノズルスロート部はC/C複合材(炭素繊維強化炭素)で製作され、燃焼時に3000°Cに達する。熱膨張係数は繊維方向1×10⁻⁶/°C、垂直方向8×10⁻⁶/°Cと強い異方性があり、内外温度差が生む熱応力を三次元FEMで解析する。JAXA角田宇宙センターのSRB-3認定試験では、解析で予測した1200MPaの最大主応力と燃焼試験中の光ファイバーひずみ計測値が±10%以内で一致したことが確認されている。

            解析フローのたとえ

            解析の流れは、実は料理とそっくりです。まず材料を買い出し(CADモデルの準備)、下ごしらえをして(メッシュ生成)、火にかけて(ソルバー実行)、最後に盛り付ける(後処理で可視化)。ここで大事な問いかけ——料理で一番失敗しやすい工程はどこでしょう? 実は「下ごしらえ」なんです。メッシュの品質が悪いと、どんなに優秀なソルバーを使っても結果はめちゃくちゃになります。

            初心者が陥りやすい落とし穴

            あなたはメッシュ収束性を確認していますか? 「計算が回った=結果が正しい」と思っていませんか? これ、実はCAE初心者が最も陥りやすい罠です。ソルバーは与えられたメッシュで「それなりの答え」を必ず返します。でもメッシュが粗すぎれば、その答えは現実から大きくずれている。最低3段階のメッシュ密度で結果が安定することを確認する——これを怠ると「コンピュータが出した答えだから正しいはず」という危険な思い込みに陥ります。

            境界条件の考え方

            境界条件の設定は、試験の「問題文を書く」のと同じです。問題文が間違っていたら? どんなに正確に計算しても答えは間違いますよね。「この面は本当に完全固定なのか」「この荷重は本当に一様分布なのか」——現実の拘束条件を正しくモデル化することが、実は解析全体で最も重要なステップだったりします。

            ソフトウェア比較

            ツール

            🎓

            全FEMソルバーで標準対応。差はない。


            Coffee Break よもやま話

            熱膨張係数の実装:ECTE vs ICTE問題

            熱膨張係数には正割(ECTE:基準温度からの平均)と接線(ICTE:瞬間)の2種があり、ソルバー間の混同が重大エラーを招く。ABAQUS・ANSYSはICTE入力が標準だが、MSC Nastranの`MAT1`カードはECTE(基準温度20℃)を要求する。ある航空機エンジンケース設計でNastranとABAQUSの入力形式を誤ったため熱応力が最大40%過大評価された事例が論文に記録されている。

            選定で最も重要な3つの問い

            • 「何を解くか」:熱膨張と熱応力に必要な物理モデル・要素タイプが対応しているか。例えば、流体ではLES対応の有無、構造では接触・大変形の対応能力が差になる。
            • 「誰が使うか」:初心者チームならGUIが充実したツール、経験者ならスクリプト駆動の柔軟なツールが適する。自動車のAT車(GUI)とMT車(スクリプト)の違いに似ている。
            • 「どこまで拡張するか」:将来の解析規模拡大(HPC対応)、他部門への展開、他ツールとの連携を見据えた選択が長期的なコスト削減につながる。

            先端技術

            先端

            🎓
            • ゼロCTE(線膨張係数ゼロ)材料 — 宇宙望遠鏡の光学ベンチ。熱変形ゼロ
            • 異方性CTE — 複合材の$\alpha$が方向で異なる。積層設計でCTEを制御

            • Coffee Break よもやま話

              CTEの温度依存性と非線形熱応力

              ほとんどの金属は高温になるほどCTEが増大する(Dulong-Petit則に起因)。Ti-6Al-4Vでは20°Cで8.6×10⁻⁶/°C、600°Cでは10.8×10⁻⁶/°Cとなり、一定CTEを仮定した線形計算では応力が5〜15%過小評価される。さらに降伏後の熱-弾塑性解析では温度依存の加工硬化曲線も必要。Abaqus/Standardでは材料カードの*EXPANSIONにテーブル形式で温度依存CTEを入力でき、*PLASTICカードと組み合わせることで非線形熱応力解析が自動的に適用される。

              トラブルシューティング

              トラブル

              🎓
              • 熱応力がゼロ → 拘束がない(自由膨張)。拘束条件を確認
              • $T_{ref}$の間違い → $T = T_{ref}$で応力ゼロ。設定を確認
              • $\alpha$の単位 → /°C or /K。温度の単位と整合

              • Coffee Break よもやま話

                参照温度(T_ref)設定ミスへの対処

                熱応力解析で意外に多いミスが「参照温度T_refの設定誤り」。T_refは熱ひずみがゼロになる基準状態の温度で、製造後の残留応力が無い状態の温度(通常は溶接後焼鈍温度600°C、または室温20°C)を設定すべき。これを誤って0°Cや別温度にすると、定常運転時の熱応力が数100MPaずれる。Ansys Mechanicalでは「Reference Temperature」フィールドがBody単位で設定可能であり、接合部の異材料では特に注意が必要。Siemens PLM の内部トレーニング資料でも最頻出エラーの1つとして挙げられている。

                「解析が合わない」と思ったら

                1. まず深呼吸——焦って設定をランダムに変えると、問題がさらに複雑になる
                2. 最小再現ケースを作る——熱膨張と熱応力の問題を最も単純な形で再現する。「引き算のデバッグ」が最も効率的
                3. 1つだけ変えて再実行——複数の変更を同時に行うと、何が効いたか分からなくなる。科学実験と同じ「対照実験」の原則
                4. 物理に立ち返る——計算結果が「重力に逆らって物が浮く」ような非物理的な結果なら、入力データの根本的な間違いを疑う
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                Written by NovaSolver Contributors
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