異種材料熱膨張ミスマッチ

カテゴリ: 連成解析 | 2026-09-30 改稿
CAE visualization for thermal expansion mismatch theory - technical simulation diagram
異種材料熱膨張ミスマッチ

理論:伸びたい量の差が応力になる

概要

🙋

車載の基板で、温度サイクル試験のあとに大きめのチップ部品のはんだにだけ割れが出ました。小さい部品は大丈夫なのに、なぜでしょう?

🎓

熱膨張のミスマッチだね。セラミックの部品は1 Kあたり約6.5 ppm、ガラスエポキシの基板は約17 ppm伸びる。温度が上下するたびに、基板は部品より多く伸び縮みして、そのずれをはんだが受け止める。ずれの量は部品の中心からの距離に比例するから、大きな部品ほど端のはんだが大きくゆがむ。割れやすさはひずみの2乗くらいで効くので、部品の大きさの差が寿命の大きな差になるんだ。

ミスマッチひずみと薄膜の応力

$$ \varepsilon_{mis} = \Delta\alpha\,\Delta T, \qquad \sigma_{film} = \frac{E_f}{1-\nu_f}\,\Delta\alpha\,\Delta T $$

$\Delta\alpha$ は熱膨張係数の差、$\Delta T$ は接合したとき(応力ゼロの状態)からの温度変化。薄い膜が厚い基板に付いている場合は、膜が基板に合わせて伸び縮みさせられ、面内の2方向に応力が生じる。$E_f/(1-\nu_f)$ は2方向に拘束されたときの見かけの剛性。

バイメタルの反り(Timoshenko)

$$ \kappa = \frac{6\,\Delta\alpha\,\Delta T\,(1+m)^2}{h\left[3(1+m)^2 + (1+mn)\left(m^2 + \dfrac{1}{mn}\right)\right]}, \quad m = \frac{t_1}{t_2},\ n = \frac{E_1}{E_2} $$

厚さが同程度の2枚を貼り合わせると、応力の代わりに反りが生じる。$h$ は全体の厚さ、$t_1, t_2$ はそれぞれの厚さ、$E_1, E_2$ はヤング率。サーモスタットのバイメタルはこの反りを利用している。

はんだ接合部のひずみ

$$ \gamma \approx \frac{\Delta\alpha\,\Delta T\,L_{DNP}}{h}, \qquad N_f \propto \gamma^{-1/c}\ (c \approx 0.4\text{–}0.5) $$

$L_{DNP}$ は部品の中心(中立点)からはんだまでの距離、$h$ ははんだの高さ。部品や基板のたわみで一部が逃げるので、この式は上限の目安になる。疲労寿命 $N_f$ はひずみのおよそ2乗前後に反比例する(Coffin–Manson型の関係)。

Coffee Break よもやま話

鉄道のレールと時計の振り子

熱膨張の差を積極的に使った最初の工夫の一つは、18世紀の時計職人ハリソンの「すのこ振り子」だ。鉄と真鍮の棒を組み合わせ、温度で伸びる向きを打ち消し合わせて、振り子の長さが変わらないようにした。航海用の正確な時計を作るための発明で、同じ人がバイメタルの原型も考え出している。一方、熱膨張を逃がし損ねた例としては、夏にレールが曲がる事故が知られている。材料の違いによる伸びの差をどう逃がすか、どう使うかは、今も電子部品から橋まで共通の課題だ。

計算例

例1:材料の組み合わせとミスマッチひずみ

組み合わせ熱膨張係数の差100 Kでのミスマッチひずみ
アルミ/鋼11 ppm/K0.11%
銅/アルミナ10 ppm/K0.10%
シリコン/FR-4(面内)14.4 ppm/K0.14%
鋼/コンクリート2 ppm/K0.02%

0.1%のひずみは小さく見えるが、鋼なら約200 MPaの応力に相当する。鉄筋コンクリートが成り立つのは、鋼とコンクリートの熱膨張がほぼ同じだからだ。

例2:アルミナ上の銅膜

銅(E = 120 GPa、ν = 0.34)の薄膜をアルミナ基板に付けて100 K冷やすと、面内応力は約182 MPa。焼きなました銅の降伏応力は数十MPaなので、膜は塑性変形する。温度の上下を繰り返すと塑性ひずみがたまり、はく離や割れの原因になる。パワーモジュールの銅張り基板の信頼性が問題になるのはこのためだ。

例3:アルミと鋼のバイメタル

厚さ0.5 mmずつのアルミ(70 GPa)と鋼(200 GPa)を貼り合わせて100 K温めると、曲率は1.53 1/m(曲率半径0.65 m)。長さ100 mmの片持ちなら先端が約7.7 mm動く。ヤング率が同じなら1.65 1/mなので、剛性の差の影響は約7%と小さい。

例4:チップ部品のはんだ

中心からの距離はんだ高さ 0.05 mmはんだ高さ 0.10 mm
1.6 mm5.5%2.8%
3.2 mm11.1%5.5%
6.0 mm20.8%10.4%
🙋

部品が2倍の大きさになると、ひずみも2倍になるんですね。

🎓

そう。そして寿命はひずみのおよそ2.3乗に反比例するとすると、ひずみ2倍で寿命は約1/5になる。セラミック部品とFR-4、−40〜125 ℃の条件で、この式は部品や基板のたわみを無視した上限の目安だけど、傾向はよく表している。対策は、大きな部品を避けるか分割する、はんだを高くする、熱膨張の近い基板を使う、部品の下に樹脂を入れてはんだの負担を減らす、といったもの。有限要素法で実際のひずみと寿命を評価するのは、その後の詳細設計だね。

解析の進め方

手順と注意点

  1. 応力ゼロの温度を決める。はんだなら固まる温度付近、接着なら硬化温度。室温を基準にすると誤る。
  2. 熱膨張係数の温度依存を入れる。樹脂はガラス転移温度を超えると熱膨張係数が数倍になる。
  3. はんだは温度と時間で変形が進む(クリープ)ので、非線形の材料モデルで扱う。
  4. 接合の端は応力が集中し、メッシュを細かくするほど値が上がる特異点になる。値そのものではなく、決めた基準で比べる。
Coffee Break よもやま話

「室温で組んだのに反っている」

室温で問題なく組み立てたはずの基板が、最初から反っている——はんだ付けや接着の工程が原因のことが多い。はんだは200 ℃以上で固まり、そこから室温まで冷えるあいだに熱膨張の差が効くので、室温の時点ですでに200 K近い温度変化を受けている。接着剤も硬化温度で形が決まる。解析で応力ゼロの温度を室温に置くと、この初期の反りと応力を丸ごと見落とす。工程の温度の履歴から始めるのが正しい出発点だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
応力ゼロを室温にする初期の反りと応力を見落とす接合工程の温度を基準に
熱膨張係数を一定樹脂のTg以上で誤る温度依存を入れる
はんだを弾性で扱うひずみと寿命を誤るクリープモデル
端部の最大値をそのまま使うメッシュで値が変わる決めた位置・体積平均で比較
大きな部品を小さな部品と同じ扱い寿命を過大評価中心からの距離で評価
🙋

熱膨張や熱応力を自分でも計算してみたいです。

🎓

熱膨張の計算で熱膨張、バイメタル・サーモスタットでバイメタル、熱応力シミュレーターで熱応力を試せるよ。関連する話題はバイメタル、はんだ接合の信頼性、熱サイクル、熱による残留応力の記事にまとめてある。

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