球周りの強制対流
理論:球の熱伝達の相関式
概要
球の熱伝達の式はいくつかあるようですが、どれを使えばいいですか?
代表的なのはWhitakerの式とRanz-Marshallの式だ。どちらも流れがないときのNu = 2(周りへの熱伝導)から始まり、流れの効果を足す形をしている。Re = 1000くらいまではほとんど同じだが、レイノルズ数が大きくなると差が開く。Ranz-Marshallの式は液滴の蒸発の実験から作られたので、小さな粒子や液滴には向いているが、大きな球の速い流れにはWhitakerの式が合う。鋼球の冷却と微粒子を例に、数値で確かめよう。
2つの相関式
Whitakerの式はRe = 3.5〜7.6×10⁴、Pr = 0.71〜380の範囲で作られた。μ/μ_s は壁温での粘度との比で、気体ではほぼ1とみなせる。
集中定数法による冷却時間
噴霧乾燥から生まれた式
Ranz-Marshallの式は、1952年にアメリカのランツとマーシャルが、噴霧乾燥の設計のために、つり下げた水滴の蒸発を測って作った。液滴の蒸発と熱伝達は同じ形の式で表せるので、燃料噴霧、スプレー乾燥、粉体の加熱など、粒子や液滴を扱うあらゆる分野で今も使われている。一方Whitakerの式は1972年に、それまでの多くの実験データをまとめ直して、広いレイノルズ数とプラントル数に使えるようにした式だ。
計算例
例1:2つの式の比較(空気、Pr 0.71)
| レイノルズ数 | Whitaker | Ranz-Marshall | 差 |
|---|---|---|---|
| 1 | 2.40 | 2.54 | +6% |
| 10 | 3.35 | 3.69 | +10% |
| 100 | 6.62 | 7.35 | +11% |
| 1,000 | 18.3 | 18.9 | +4% |
| 10,000 | 61.2 | 55.5 | −9% |
| 70,000 | 183 | 144 | −22% |
例2:直径10 mmの鋼球の空冷
300℃の鋼球を20℃の空気で50℃まで冷やす(Whitakerの式、放射は含めない)。風速5 m/sでは Re = 3185、Nu = 33.0、熱伝達率86.8 W/m²K、ビオ数0.0032、時定数71秒。
| 風速 | 熱伝達率 | 50℃までの時間 |
|---|---|---|
| 0.5 m/s | 28.0 W/m²K | 490 秒 |
| 2 m/s | 54.2 W/m²K | 254 秒 |
| 5 m/s | 86.8 W/m²K | 158 秒 |
| 10 m/s | 126 W/m²K | 109 秒 |
| 20 m/s | 184 W/m²K | 75 秒 |
| 40 m/s | 271 W/m²K | 51 秒 |
風速を8倍の40 m/sにしても、冷却時間は3分の1にしかならないんですね。
球のまわりの境界層は風速が上がると薄くなるが、熱伝達率はおよそ風速の平方根でしか増えない。だから冷却時間を半分にするには風速を5 m/sから約18 m/sへ3.6倍にする必要があり、送風の動力は風速の3乗で増えるので、効率はどんどん悪くなる。また低い風速では、ここで入れていない放射が効いてくる。放射率0.8なら300℃で約16 W/m²Kに相当し、0.5 m/sの28 W/m²Kと比べて無視できない。ビオ数が0.003と小さいので、鋼球の内部の温度差は気にしなくてよい。
例3:静止空気中の微粒子(Nu = 2)
| 粒子の直径 | 熱伝達率 h = 2k/d |
|---|---|
| 50 µm | 1,050 W/m²K |
| 5 µm | 10,500 W/m²K |
計算のポイント
- 物性は膜温度(表面と周囲の平均)で評価し、粘度の補正を入れる。
- レイノルズ数が式の適用範囲に入っているか確かめる。
- 風速が小さいときは自然対流と放射を加える。
- ビオ数が0.1を超えるなら、集中定数法ではなく内部の熱伝導を解く。
- 粒子群や充填層では、隣り合う粒子の影響で熱伝達率が変わる。
「ボールベアリングの焼入れ」
軸受の鋼球は、焼入れのあと油や空気で冷やされる。小さな球ほど熱伝達率が大きく、しかも体積に対する表面積が大きいので、速く冷える。直径が2倍になると、熱伝達率はおよそ0.7倍、時定数は直径に比例して増えるので、冷却時間は約3倍になる。サイズの違う球を同じ条件で冷やすと、大きな球だけ硬さが足りないことがあるのはこのためで、球の大きさに合わせて冷却条件を変えている。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 高ReでRanz-Marshall | 20%程度の過小評価 | Whitakerを使う |
| Nu = 2を忘れる | 低Reで過小評価 | 伝導の項を入れる |
| 放射を無視 | 高温で冷却を過小評価 | 放射を加える |
| Biを確かめない | 内部の温度差を見逃す | Bi < 0.1を確認 |
| 代表長さを半径に | Reを半分に | 直径を使う |
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