集中熱容量法
理論:物体を「1つの温度」で表す
概要
熱処理の炉から出した部品が何分で冷めるか、ざっくり知りたいんです。FEMを組むほどでもないんですが…
そういうときに最初に使うのが集中熱容量法だよ。物体の中の温度差を無視して、全体を1つの温度として扱う。すると偏微分方程式が常微分方程式になって、答えは指数関数1本で書ける。使ってよいかどうかは、物体の中の熱の伝わりやすさと表面から逃げる熱の大きさの比、ビオ数で判断する。
エネルギー収支と時定数
| 経過時間 | 温度差の残り | 変化の完了度 |
|---|---|---|
| τ | 36.8 % | 63.2 % |
| 2τ | 13.5 % | 86.5 % |
| 3τ | 5.0 % | 95.0 % |
| 4.6τ | 1.0 % | 99.0 % |
ビオ数と代表長さ
ビオ数は「物体内部の熱抵抗 $L_c/k$」と「表面の熱抵抗 $1/h$」の比。内部の抵抗が表面より十分小さければ、物体の中はすぐに温度がならされ、ほぼ一様とみなせる。代表長さ $L_c$ には体積を表面積で割った値を使うのが一般的で、球なら次のようになる。
ニュートンの冷却則
「物体の冷える速さは周囲との温度差に比例する」という関係は、1701年にニュートンが匿名で発表した論文に由来するとされる。彼は熱した鉄の冷え方を観察して、赤熱した鉄よりずっと高い温度を、冷えるまでの時間から見積もろうとした。今日の集中熱容量法はこの関係に物体の熱容量を組み合わせたもので、300年以上たった今もCAEの入口で使われ続けている。ただし、放射や自然対流が支配的な高温域では熱伝達率が温度で大きく変わり、単純な比例は成り立たない点も、当時から議論の的だった。
計算例
例1:熱電対の応答時間
直径0.7 mm の球形の測温接点($\rho = 8500$ kg/m³、$c = 400$ J/(kg·K)、$k = 20$ W/(m·K))が、熱伝達率 $h = 400$ W/(m²·K) の気流の中に置かれたとする。$\tau = \rho c d/(6h) \approx 0.99$ 秒、ビオ数は約0.002 で集中熱容量法が十分使える。温度が急に変わったとき、95%まで追従するのに約3秒、99%で約4.6秒かかる。
流体の温度が1秒くらいで変わる現象を測るなら、このセンサでは遅れて小さく見えてしまう。熱電対の太さの選び方や、測った温度から本当の温度を逆算する補正の出発点になる計算だよ。
例2:鋼球の冷却を厳密解と比べる
直径50 mm の鋼球($k = 50$ W/(m·K)、$\rho = 7850$ kg/m³、$c = 460$ J/(kg·K))を、空気・強い送風・水の中で冷やす場合を考える。平均温度が初期との差の半分になるまでの時間を、集中熱容量法と球の厳密解(級数解)で比べ、その時刻の中心と表面の温度も示す(数値は初期温度差に対する比)。
| 冷却条件 | ビオ数(V/A) | 半減時間:集中/厳密 | 誤差 | 中心/表面 |
|---|---|---|---|---|
| 空気 h = 20 | 0.003 | 1043 秒/1045 秒 | −0.2 % | 0.501 / 0.499 |
| 送風 h = 200 | 0.033 | 104 秒/106 秒 | −2.0 % | 0.515 / 0.490 |
| 水 h = 2000 | 0.33 | 10.4 秒/12.4 秒 | −16 % | 0.645 / 0.411 |
水で冷やすと、時間は16%短く見積もられて、中心と表面の差も大きいですね。
そう。ビオ数0.1という境目は「誤差がおよそ5%を超えないあたり」の目安なんだ。水焼入れのようにビオ数が大きいと、表面だけ先に冷えて中心は熱いまま残る。焼き割れや残留応力が問題になるのはまさにこの温度差で、集中熱容量法ではそれ自体が見えない。そういうときはハイスラー線図計算機や数値解析に切り替えよう。
実務での使い方
見積もりから数値解析への流れ
- 代表長さ $V/A$ と熱伝達率の見積もりから、ビオ数を計算する。
- 0.1 未満なら集中熱容量法で時間スケールを出し、試験条件や工程時間の当たりをつける。
- 0.1 以上、または内部の温度差そのものが知りたい(熱応力・焼入れ・はんだの品質など)なら、ハイスラー線図や数値解析へ進む。
- 数値解析では、集中熱容量法で出した時定数を、時間刻みと解析時間の目安に使う。
FEMでの確かめ方
- 小さな熱電対や薄い板の過渡解析を作ったら、同じ条件で集中熱容量法の指数関数と比べる。ビオ数が小さいのに合わなければ、熱伝達率の与え方(面の選択、単位)か、熱容量(密度×比熱)の入力を疑う。
- 質量の単位が kg と t で混ざると、時定数が1000倍ずれる。FEMの単位系(mm・t・s など)では比熱の単位も変わるので特に注意する。
- 放射が効く高温域では、熱伝達率が温度で変わるので、指数関数1本では合わない。放射を含む場合は常微分方程式を数値的に解いて比べる。
「温度計が遅い」ことに気づかない実験
熱電対を太いシースに入れて保護すると、時定数は数秒から数十秒に伸びる。流体の温度が急に変わる試験では、測定値のなまりを「実際の温度変化がゆっくりだった」と読み違えやすい。解析と試験を比べて合わないとき、先に解析を直すのではなく、センサの時定数でなまらせた解析値と比べてみると、あっさり一致することがある。解析の検証では、測る側の応答も一緒にモデル化するのが確実だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| ビオ数の代表長さに半径を使う | 球ではビオ数が3倍に見積もられる | V/A を使い、定義を明記する |
| ビオ数を確かめずに使う | 水冷などで時間を大きく見誤る | 最初にビオ数を計算する |
| 内部の温度差が必要なのに使う | 熱応力・割れの原因を見落とす | ハイスラー線図か数値解析へ |
| 熱伝達率を一定とする(放射域) | 高温側の冷え方を誤る | 温度依存の $h$ で常微分方程式を数値的に解く |
| センサの時定数を無視して比較 | 解析と試験のずれを誤解 | 解析値をセンサの応答でなまらせて比べる |
自分でも数字を変えて試してみたいです。
ビオ数シミュレーターでビオ数の判定、熱電対の応答シミュレーターで熱電対の遅れ、コーヒーの冷却(ニュートンの冷却則)シミュレーターで身近な冷却曲線を確かめられるよ。ビオ数が大きいときはハイスラー線図計算機、表面近くだけが急変する短い時間の現象は半無限固体の非定常熱伝導、無次元時間の意味はフーリエ数の記事にまとめてある。
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