パラメータ設定
「スイープ」は運転速度を300〜6000 RPMで自動的に動かし、危険速度を通過する瞬間を確認できます。
キャンベル線図(自然振動数 vs 回転速度)
シアン=モード1(FW実線・BW破線)/オレンジ=モード2/白=エンジンオーダー線(1×実線・2×破線・3×点線)/赤丸=危険速度/黄縦線=運転速度
危険速度マップ(バーチャート)
各バー=危険速度の RPM 値/黄水平線=運転速度/赤くハイライトされたバーが運転速度に最も近い危険速度
理論・主要公式
ロータが回転すると、ジャイロ効果により自然振動モードが前進ホワール(FW)と後退ホワール(BW)に分かれます。回転速度を $\Omega$ [rev/s]、静止時の自然振動数を $f_n$ [Hz]、ジャイロ結合係数を $g$ とすると:
前進ホワール周波数(回転と同方向):
$$f_\text{FW}(\Omega) = f_n + g\,\Omega$$
後退ホワール周波数(回転と逆方向):
$$f_\text{BW}(\Omega) = f_n - g\,\Omega$$
k 次のエンジンオーダー励振線:
$$f_\text{exc} = k\,\Omega$$
k× 励振が m モードの FW と交差する危険速度:
$$\Omega_\text{crit} = \frac{f_{n,m}}{k - g} \quad,\quad N_\text{crit}\,[\text{RPM}] = 60\,\Omega_\text{crit}$$
運転速度がいずれかの危険速度に近いと、わずかな不釣り合いでも大きな振動が発生します。実務では運転速度と最近接の危険速度との分離余裕を15〜20%以上確保するのが標準です。
キャンベル線図シミュレーターとは
🙋
タービンや圧縮機の設計資料を見ていると「キャンベル線図」って必ず出てくるんですけど、結局何を見るための図なんですか?
🎓
ざっくり言うと「どの回転速度で共振しちゃうか」を一枚で見るための図だよ。横軸が回転速度(RPM)、縦軸がロータの自然振動数(Hz)。回転速度に比例して上がる励振線(1×、2×、3×…)と、自然振動数の枝が交わる点が、危険速度になる。上のシミュレーターで黄色い縦線が「運転速度」、赤い丸が「危険速度」だよ。
🙋
あれ、自然振動数って一定の値じゃないんですか? なんでカーブしてるんですか?
🎓
そこがロータダイナミクスの面白いところで、回転体には「ジャイロ効果」が効くんだ。回転すると振動モードが「前進ホワール(FW)」と「後退ホワール(BW)」に分かれて、FWは回転と同じ向きに振れまわるから自然振動数が上がる、BWは逆向きで下がる。シミュレーターで「ジャイロ結合係数 g」を0.3に上げてみて。シアンとオレンジの線がぐーんと開くのが見えるはず。
🙋
なるほど!1×、2×、3× の白い線が斜めに引かれてますけど、これは何の励振なんですか?
🎓
回転と同期する励振の周波数だよ。1× は不釣り合いやミスアライメント、2× はカップリングや軸の偏心、3× 以上は歯車のかみ合いや羽根車の翼通過。式で書くと $f = k\,\Omega$ なので、k 次の励振線の傾きはちょうど k になる。シミュレーターでは1×が実線、2×が破線、3×が点線にしてあるよ。
🙋
運転速度1500 RPMだと、最近接の危険速度が1655 RPMで余裕10.3%って出てます。これって安全ですか?
🎓
微妙なラインだね。API 612や684みたいな回転機械の規格では15〜20%以上の分離余裕を要求しているから、10.3%だと再設計の対象。軸径や支持ベアリングの剛性を変えて自然振動数をずらすか、減衰を入れて共振ピークを抑えるか、どちらかの対策が必要になる。シミュレーターで f_n2 を90 Hzに動かしてみて、最近接危険速度が変わるのが見えるはずだ。
よくある質問
教育用に簡略化したモデルとして、ロータの代表的な低次2モード(典型的には1次曲げと2次曲げ、または並進・傾斜モード)を扱っています。実機では数十モードが密に並びますが、運転範囲内に入るのは一般に低次の2〜3モードに限られるため、危険速度マップの本質は2モード×3次励振でほぼ理解できます。f_n1・f_n2 は静止時(Ω=0)の固有振動数として入力します。
無次元化したジャイロ結合係数で、実機ではディスクの極慣性モーメントと横慣性モーメントの比、ベアリング配置、ロータの長さ/直径比などで決まります。長軸の発電機ロータ等で 0.05〜0.10、フライホイールやタービン円板のように厚みのある回転体で 0.15〜0.25 程度が目安です。本ツールでは0.00〜0.30を可変にしてあり、0にすると古典的な「振動数が回転速度に依らない」モデルに退化します。
同期励振(1×)はロータと同じ向きに回転するためBWを直接励振しません。一方で、シール内部の流体力やラビング、内部摩擦などの非同期励振、また地震動などの外乱はBWを励振しうるため、設計上完全に無視はできません。本ツールはBWを破線で常に表示し、励振線との交点は赤丸を打たない仕様にしてあります。FW × k× の交点(赤丸)が実務上もっとも重要な危険速度です。
運転速度がちょうど共振点に重なった状態で、わずかな不釣り合いでも振動振幅が急増します。ロータダイナミクスの教科書で言う「臨界速度通過」の問題で、起動・停止時に短時間で通過する分には減衰で振幅が抑えられますが、運転点として留まることは禁忌です。本シミュレーターのバーチャートで運転速度の黄色い線がいずれかのバーの先端と一致した状態に相当します。実務では運転速度を分離余裕が15〜20%以上とれる位置に移すか、剛性や質量を調整して危険速度を運転帯から追い出します。
実世界での応用
蒸気・ガスタービンの設計:火力・原子力・地熱発電所の蒸気タービン、航空エンジンや産業用ガスタービンでは、運転帯(典型 3000〜3600 RPM、航空エンジンでは数万RPM)の上下に複数の危険速度が並びます。設計初期にキャンベル線図を作って、運転帯と最近接危険速度との分離余裕(API 612 では15%以上)を確保するのが定石です。羽根の翼通過周波数(NPF)も励振線として書き加え、ブレード翼振動との干渉も評価します。
ターボ機械(圧縮機・ポンプ):遠心圧縮機や軸流圧縮機、大型ボイラ給水ポンプなどでは、複数段のインペラと長い軸の組み合わせで自然振動数が密に並びます。運転速度が複数の危険速度を通過するため、起動・停止のシーケンスをキャンベル線図上で計画し、各危険速度を素早く通過させます。スクイーズフィルムダンパや磁気ベアリングを使って減衰を増やす設計判断もここで行われます。
自動車エンジン・ドライブトレイン:クランクシャフトやプロペラシャフトのねじり振動も同じ枠組みで扱います。横軸を機関回転数、縦軸をねじり自然振動数とし、4気筒エンジンなら2×(点火次数)が主励振、V8なら4×が主励振として線図に現れます。ねじり振動ダンパ(フライホイール内のゴムやデュアルマス)で危険速度域の振幅を抑える設計が、この線図に基づいて行われます。
風力タービンと回転機械の状態監視:大型風車のロータ・ナセルでは、ブレードのエッジワイズ・フラップワイズモード、タワーの曲げモード、発電機軸のねじりモードがすべて干渉します。運転回転数が変動するため、キャンベル線図で「常時共振帯」を特定し、可変速制御で危険な回転数で停滞しないよう運転戦略を組みます。状態監視(CMS)の振動データもキャンベルプロットに重ねて、新しい励振や自然振動数のシフトを早期に検出します。
よくある誤解と注意点
最も多い誤解は、「危険速度は1個」だと思い込むことです。Jeffcottロータの教科書例では確かに1個の臨界速度しか出ませんが、それは1モード×1次励振だけを考えているからです。実機ではモードが複数あり、励振次数も1×に限らず2×・3×・羽根通過周波数などが効くため、運転帯の上下に必ず複数の危険速度が並びます。本シミュレーターで2モード×3次の組み合わせで6個の赤丸が出るのは、まさにこの状況を再現したものです。「最近接の1個」だけでなく、運転帯近傍のすべての危険速度を確認するのが正しい使い方です。
次に多いのが、ジャイロ効果をゼロとして設計してしまうことです。シミュレーターで g=0 にすると、自然振動数が回転速度に依らない水平線になり、危険速度は単純に $N_\text{crit}=60 f_n / k$ で決まります。しかし実機のディスク・インペラには必ずジャイロ効果があり、$N_\text{crit}=60 f_n/(k-g)$ が正解です。たとえば f_n=80 Hz、k=1、g=0.1 では、ジャイロを無視すると4800 RPMと予測しますが、実際は5333 RPMで533 RPMもずれます。設計時の予測と実機計測がずれる原因の代表例で、必ずジャイロ効果を含めた解析を行います。
最後に、「運転速度から離れていれば安全」という単純化に注意してください。キャンベル線図は線形で粘性減衰のみのモデルであり、実機ではシール力・流体力・内部摩擦などの非線形・非保存力が後退ホワールや劣モードを励振しうる場合があります。本ツールが示す危険速度は「同期励振が前進ホワールを励振する条件」であり、これだけで安全と結論できるわけではありません。詳細設計では完全な固有値解析(複素モード解析、安定性解析)が必須で、本シミュレーターは概念把握と初期検討のためのツールとしてご利用ください。