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電気化学 / 腐食工学

電気化学腐食シミュレーター

アノード・カソードのターフェル定数を入力し、Evans 図(E-log i 線図)から腐食電位、腐食電流密度、腐食速度(mm/year)をリアルタイム計算。混合電位の交点で腐食速度が決まる原理を可視化します。

電気化学パラメータ
計算結果
腐食電位 Ecorr
V vs SHE
腐食電流密度 icorr
μA/cm²
腐食速度 CR
mm/year
質量減少速度
g/(m²·day)
Evans図

カソード平衡電位E₀,cを変化させたときの腐食電流密度の変化

ターフェル線図

βcを20〜200mV/decで変化させたときの腐食速度の変化

理論・主要公式
$$\eta_a = \beta_a \log\!\left(\frac{i}{i_{0,a}}\right), \quad \eta_c = -\beta_c \log\!\left(\frac{i}{i_{0,c}}\right)$$

腐食速度(mm/year): $CR = \dfrac{i_{corr} \cdot M}{n \cdot F \cdot \rho}$

Evans図って何を見ているの?

🙋
「Evans図」って何ですか?グラフに2本の線が描かれてますが、その交点がなぜ重要なんですか?
🎓
大まかに言うと、金属が溶ける(アノード:酸化)反応と、酸素や水素が還元される(カソード:還元)反応を同じグラフで見ている図だよ。横軸が電位、縦軸が電流密度の対数(ターフェル直線)で、2つの反応が釣り合うところが「腐食電位Ecorr」で、そこの電流密度が「腐食電流密度icorr」になる。これが大きいほど腐食が速いんだ。シミュレーターでE₀カソードのスライダーを右に動かしてみて。2本の交点が右上に移動して、腐食速度が上がるのが確認できるはず。
🙋
本当だ!カソードの電位を高くすると腐食速度が上がるんですね。これって現実にはどういう状況ですか?
🎓
例えば鉄パイプの外側が酸素豊富な水(溶存酸素が多い)に接している場合、酸素還元反応の平衡電位が高くなる(カソード直線が上にシフト)。だから、密閉した水回りより開放した水路の方が腐食が速いことが多い。逆に、脱酸素した水を使う(ボイラーなど)と腐食を遅らせられる、というのはこの原理だよ。「感度解析」タブでE₀cを下げていくと腐食速度が下がるのが確認できる。
🙋
「ターフェル定数βc」が大きくなると腐食速度はどうなりますか?「ターフェル感度」タブで試したら…腐食速度が下がりましたね!
🎓
鋭い観察!βcが大きいというのは、カソード反応が電位変化に対して「鈍感」という意味だ。直線の傾きが緩くなって交点が左下に移動する。現実には、βcが大きい(≈120 mV/dec)のは水素発生反応の典型値で、酸素還元(≈60 mV/dec)より腐食を促進しにくい傾向がある。このパラメータは腐食抑制剤の設計でも重要で、表面に吸着して反応機構を変え、βを意図的に大きくするものもあるんだよ。
🙋
腐食抑制剤がβを変える、というのは面白いですね!金属の種類を「亜鉛」に変えると、腐食電位がかなり低くなりますね。
🎓
そこが亜鉛を使ったトタン屋根や亜鉛メッキの原理になる。亜鉛は鉄より腐食電位(標準電位)が低いから、鉄と接触させると亜鉛が優先的に溶けて鉄を守る「犠牲陽極」として機能するんだ。船の船底や海底パイプラインには今も亜鉛塊を取り付けて保護している。スライダーで鉄と亜鉛を切り替えて比べると、腐食電位の差(ガルバニック電位差)が直感的に理解できるよ。

ターフェル式とファラデーの法則

電位と電流密度の関係はターフェル式で表されます。アノード(酸化)・カソード(還元)それぞれの過電圧 $\eta$ は:

$$\eta_a = \beta_a \log\!\left(\frac{i}{i_{0,a}}\right), \quad \eta_c = -\beta_c \log\!\left(\frac{i}{i_{0,c}}\right)$$

$\beta_a, \beta_c$: ターフェル定数 [V/decade](通常 0.04〜0.12 V/decade)、$i_{0,a}, i_{0,c}$: 交換電流密度 [A/cm²]。腐食電位 $E_{corr}$ はアノードとカソードの電流密度が等しくなる点です。

腐食電流密度 $i_{corr}$ からファラデーの法則で腐食速度を計算します:

$$CR\, [\text{mm/year}] = \frac{i_{corr} \cdot M}{n \cdot F \cdot \rho} \times 3.156 \times 10^{10}$$

$M$: 金属の原子量 [g/mol]、$n$: 溶解の価数(例:Fe→Fe²⁺では n=2)、$F$: ファラデー定数(96485 C/mol)、$\rho$: 密度 [g/cm³]。

実際の腐食工学への応用

配管・構造物のライフ予測:海水中の鉄鋼構造物や埋設パイプラインの腐食速度をこのモデルで推定し、耐用年数設計や検査周期の設定に活用します。実測のicorrと比較して腐食マップを作成します。

防食技術の設計:外部電流(カソード防食)や犠牲陽極(亜鉛・アルミ)でEcorrを下げ、腐食速度をゼロに近づける設計の基礎理論です。シミュレーターでE₀cを下げてEcorrがアノード平衡電位を下回ると腐食が止まることを確認できます。

腐食抑制剤の評価:インヒビターがβ値や交換電流密度i₀に与える影響を定量化し、最も効果的な添加量を決定します。電気化学インピーダンス分光法(EIS)などの実験データと組み合わせます。

よくある質問

電気化学セルで試料金属の電位を連続的に変化させながら電流を測定する「分極曲線測定」で求めます。Ecorrより±50〜300 mV程度の範囲でlog(i) vs E のプロットがほぼ直線になる領域(ターフェル領域)の傾きから βa、βcを読み取ります。自動分極装置(ポテンショスタット)を使うと測定時間は通常15〜30分です。
一般に腐食速度の評価基準として、<0.1 mm/year: 優秀(most materials rated as excellent)、0.1〜0.5 mm/year: 良好、0.5〜1.0 mm/year: 許容範囲(薄肉部品は要注意)、>1.0 mm/year: 危険とされます。ただし、構造物の肉厚や求められる寿命によって判断が変わります。例えば板厚20mmの海洋構造物なら0.1 mm/yearでも20年で2mm薄くなるため、設計時に考慮が必要です。
塗装防食は金属と腐食環境の物理的遮断で、Evans図の両電流密度(i₀)を実質的にゼロに近づける効果です。一方、カソード防食は外部電流または犠牲陽極でEcorrをアノード平衡電位より低下させ、アノード反応を熱力学的に禁止します。実務では両者を組み合わせることが多く(例:埋設パイプラインの塗装+外部電源カソード防食)、塗装損傷部でもカソード防食が補完できる利点があります。
このツールは均一腐食(全面腐食)の1次元モデルです。実際の腐食では、①孔食(ピッティング):塩化物による局部腐食でEvans図には現れない、②応力腐食割れ(SCC):応力と腐食の相乗効果、③ガルバニック腐食:異種金属接触、④すきま腐食:酸素濃淡電池、⑤微生物誘発腐食(MIC)などが重要です。Evans図は均一腐食の傾向把握と防食設計の基礎に使いますが、局部腐食リスクには別の評価手法が必要です。
EcorrのごくわずかなΔE(±10〜20 mV程度)で電流を測定する非破壊的方法です。線形分極抵抗Rpと腐食電流密度の関係式(Stern-Geary式)$i_{corr} = B/R_p$(B = βaβc/(2.303(βa+βc)))から、試料をほとんど傷めずicorrを迅速に推定できます。このシミュレーターのターフェル定数βa、βcからBを計算する応用も可能です。
ステンレス鋼やアルミニウムなどでは、電位を上げると一度電流が増加(活性溶解域)した後、突然電流が急減する「不動態化」が起こります。Evans図では、活性域を超えたアノード直線が電流が下がる「不動態域」に移行する形で現れます。このシミュレーターは単純なターフェル直線を想定しているため不動態は表現できませんが、実際のステンレス腐食評価では不動態維持電位(パッシベーション電位)と腐食電位の比較が重要です。

電気化学腐食シミュレーターとは

本シミュレーターの物理モデルでは、アノード反応およびカソード反応の分極挙動をターフェル式により記述する。アノード電流密度 \( i_a \) とカソード電流密度 \( i_c \) は、それぞれ平衡電位 \( E_{eq,a} \)、\( E_{eq,c} \) とターフェル勾配 \( \beta_a \)、\( \beta_c \) を用いて次式で表される。 $$ i_a = i_{0,a} \exp\left( \frac{E - E_{eq,a}}{\beta_a} \right), \quad i_c = i_{0,c} \exp\left( -\frac{E - E_{eq,c}}{\beta_c} \right) $$ ここで \( i_{0,a} \)、\( i_{0,c} \) は交換電流密度である。腐食電位 \( E_{corr} \) は \( i_a = i_c \) を満たす電位として決定され、そのときの電流密度を腐食電流密度 \( i_{corr} \) とする。腐食速度 \( v \)(mm/year)は、ファラデーの法則に基づき、金属の原子量 \( M \)、価数 \( n \)、密度 \( \rho \)、ファラデー定数 \( F \) を用いて次式で算出する。 $$ v = \frac{M}{\rho n F} \cdot i_{corr} \cdot 3.15 \times 10^7 $$ 本モデルにより、ユーザーが入力したターフェル定数からEvans図上の交点を求め、腐食挙動をリアルタイムに評価できる。

実世界での応用

産業での実際の使用例:自動車業界では、車体の亜鉛めっき鋼板やアルミ合金部材の耐食性評価に本シミュレーターが活用されています。例えば、自動車メーカーが排気系部品(マフラー)の材料選定において、異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)のリスクを事前に予測し、適切な防食設計(コーティング厚みや犠牲陽極の配置)に反映しています。また、海洋構造物(洋上風力発電の基礎部材)や化学プラントの配管材料選定でも、実環境の塩分濃度やpHを考慮した腐食速度の試算に用いられています。

研究・教育での活用:大学の材料工学科や腐食防食工学の実験講義では、学生が実験で得た分極曲線データを本ツールに入力し、理論値と比較しながら腐食メカニズムを学ぶ教材として利用されています。研究者は、新規耐食合金やインヒビター(腐食抑制剤)の開発段階で、ターフェル定数をパラメータとして腐食電流密度の変化を瞬時に確認し、実験計画の効率化を図っています。

CAE解析との連携や実務での位置付け:本シミュレーターは、単独の腐食診断ツールとしてだけでなく、有限要素法(FEM)ベースの構造CAEと連携して使用されます。例えば、自動車のボディ骨格モデルに腐食による板厚減少率を反映させることで、長期使用後の強度低下を予測するマルチフィジックス解析の一部として位置付けられています。実務では、設計段階での材料選定や防食仕様の妥当性確認、および既存設備の残存寿命評価(リスクベースメンテナンス)の基礎データ提供に貢献しています。

よくある誤解と注意点

「ターフェル定数を正しく入力すれば腐食速度が正確に計算できる」と思いがちですが、実際にはEvans図はアノード・カソード反応が単純な活性化支配である理想系を前提としており、拡散支配や不動態皮膜の影響、溶液抵抗によるIRドロップなど現実の複雑な因子は考慮されていません。そのため、計算値はあくまで「推定値」であり、実環境での腐食速度と乖離する可能性がある点に注意が必要です。

「腐食電位が貴(高い)ほど腐食速度が小さい」と誤解されがちですが、実際には腐食電位と腐食電流密度は独立したパラメータではありません。例えばカソード反応のターフェル勾配が急峻だと、同じ腐食電位でも腐食電流密度が大きく変わり得るため、電位のみで耐食性を判断するのは危険です。

「mm/yearの単位が小さいから安全」と思いがちですが、局部腐食(孔食や粒界腐食)では均一腐食速度が小さくても急激な貫通が生じることがあります。本シミュレーターは全面均一腐食を前提としているため、局部腐食のリスク評価には別途注意が必要です。

使い方ガイド

  1. アノード反応の標準電極電位 E0a(例:鋼の酸化反応 -0.61 V vs SHE)と交換電流密度 i0a(例:1×10⁻⁶ A/cm²)を入力
  2. カソード反応の標準電極電位 E0c(例:酸素還元 +0.40 V vs SHE)と交換電流密度 i0c(例:1×10⁻⁸ A/cm²)を入力
  3. シミュレーターが Evans 図を自動描画し、腐食電位 Ecorr・腐食電流密度 icorr・腐食速度(mm/year)を計算表示

具体的な計算例

軟鋼が海水中で腐食する場合:アノード E0a = -0.61 V、i0a = 2×10⁻⁶ A/cm²、ターフェル定数 βa = 50 mV;カソード E0c = +0.10 V、i0c = 1×10⁻⁸ A/cm²、βc = 100 mV と設定すると、腐食電位 Ecorr ≈ -0.52 V、腐食電流密度 icorr ≈ 5×10⁻⁵ A/cm² が得られ、腐食速度は約 0.23 mm/year と計算される(原子量 55.85 g/mol、密度 7.87 g/cm³ を使用)。

実務での注意点

  1. 電極電位は参照電極(SHE・CSE・Ag/AgCl)により ±0.2~0.4 V 変動するため、入力前に基準を統一する
  2. 交換電流密度 i0 は温度・pH・化学成分に強く依存(例:pH 低下で 10 倍増加)するため、運用環境データを優先使用
  3. ターフェル定数 βa・βc は文献値(βa 通常 40~60 mV、βc 60~120 mV)の±20% 幅で変動するため感度分析を実施
  4. イオン強度が高い環境(海水 vs 淡水)では i0 が急変し icorr が数倍変わる可能性がある