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高速デジタル / RF

差動ペアインピーダンス計算機 — USB / HDMI 100Ω 差動配線

表面マイクロストリップ差動ペアの差動インピーダンス Z_diff・奇モード Z_odd・偶モード Z_even を、線幅・線間・基板厚・誘電率から即時計算。USB 90Ω と HDMI 100Ω 目標との差をその場で確認できます。

パラメータ設定
線幅 W
mm
線間 S
mm
基板厚 H
mm
比誘電率 ε_r

IPC-2141A 簡略式(銅厚 T=0、表面マイクロストリップ)を使用しています。

計算結果
単線 Z_0
差動 Z_diff
奇モード Z_odd
偶モード Z_even
差動ペア断面と Z_diff vs S/H

上=差動ペア断面図(W・S・H・基板)/下=S/H に対する Z_diff カーブ(赤丸=現在点、破線=USB 90Ω / HDMI 100Ω 目標)

理論・主要公式

表面マイクロストリップの差動ペアでは、まず単線マイクロストリップの特性インピーダンス Z_0 を求め、続いて2本の線間結合による補正を適用して差動インピーダンス Z_diff を得ます。

単線マイクロストリップ Z_0(IPC-2141 簡略式、銅厚 T=0)。H は基板厚、W は線幅、ε_r は基板の比誘電率:

$$Z_0 = \frac{87}{\sqrt{\varepsilon_r + 1.41}}\,\ln\!\left(\frac{5.98\,H}{0.8\,W}\right)$$

差動インピーダンス Z_diff。S は線間距離:

$$Z_\text{diff} = 2\,Z_0\,\bigl(1 - 0.48\,e^{-0.96\,S/H}\bigr)$$

奇モード Z_odd と偶モード Z_even:

$$Z_\text{odd} = \tfrac{1}{2}\,Z_\text{diff},\qquad Z_\text{even} = Z_0\,\bigl(1 + 0.48\,e^{-0.96\,S/H}\bigr)$$

USB 2.0/3.x は Z_diff = 90Ω、HDMI・SATA・PCIe・1000BASE-T は Z_diff = 100Ω が代表的な目標値です。

差動ペアインピーダンス計算機とは

🙋
USB や HDMI の基板パターンって、わざと2本の細い線を平行に走らせてますよね。あれって何のためなんですか?
🎓
あれが「差動ペア」だ。ざっくり言うと、1本の線で信号を送る代わりに、極性が逆の2本の信号を1組のペアで送る方式だよ。受信側は2本の差だけを見るから、外来ノイズが2本に同じように乗っても打ち消されるんだ。高速デジタル信号では、これがほぼ標準。USB・HDMI・PCIe・Ethernet、全部この方式だね。上のシミュレーターで「線幅 W」と「線間 S」を動かしてみて。Z_diff のカードがリアルタイムに変わるよ。
🙋
USB は 90Ω で HDMI は 100Ω って書かれてるのを見たんですが、これは何の数字ですか?
🎓
それが「差動インピーダンス Z_diff」だ。ペアを1組として見たときのインピーダンスで、ケーブル・コネクタ・基板パターンを通してこの値を一定に保つことが、高速信号品質の生命線になる。値がずれると反射が起きて、波形が崩れたり、ひどいとリンクが立たなくなったりする。シミュレーターには「USB 90Ω」「HDMI 100Ω」のボタンがあるから押してみて——スライダーが一気にその目標を狙う値に切り替わるよ。
🙋
線間 S を狭くすると Z_diff が下がっていきますね。これはどうしてですか?
🎓
いいところに気づいたね。2本の線を近づけると線同士の容量結合が強くなって、差動モードで励振したときに片方の線から見える等価キャパシタンスが増える。インピーダンスは Z ∝ 1/√C だから、容量が増えれば Z は下がる。下のカーブで S/H を 0 に近づけると Z_diff がぐっと落ち、S/H が 3 を超えると単線の2倍にほぼ落ち着くだろう? この「結合の効き」が差動配線の本質なんだ。
🙋
「奇モード」と「偶モード」のカードもありますね。これは何ですか?
🎓
2本の線を独立に解析するときの「モード分解」だ。奇モード Z_odd は2本に逆位相を入れたとき1本が対GNDで見るインピーダンス——これが差動の本体で、Z_diff = 2·Z_odd の関係。偶モード Z_even は2本に同位相を入れたとき1本が見るインピーダンスで、コモンモードノイズの伝搬を扱うときに重要になる。実務ではコモンモードフィルタやコモンモードチョークの設計でこの Z_even が効いてくるんだよ。

よくある質問

本ツールは「エッジカップル差動マイクロストリップ」(同一層に2本を並走配置)を対象としています。基板表面の1層に2本の線を線間 S で並べ、裏面はベタGND、という最も一般的な構成です。ブロードサイドカップル差動(2本を別層に重ねる構成)は計算式が異なり、ストリップライン差動(GNDで上下を挟む構成)も別式が必要です。一般的な USB・HDMI・Ethernet PHY 配線はほとんどがエッジカップル差動マイクロストリップなので、本ツールが当てはまります。
本ツールは IPC-2141 簡略式(T=0 仮定)を採用しており、初期見積もりの精度を優先しています。一般的なプリント基板の銅厚は 18〜70μm(0.5〜2 oz/ft²)で、これがインピーダンスに与える影響は通常 1〜3% 程度です。より高精度な評価が必要な場合は、Wadell 完全式や 2D 電磁界ソルバ(Polar Si9000、HyperLynx、CST 等)を使い、銅厚・ソルダレジスト被覆・基板表面粗さなども含めて計算してください。量産前には基板メーカーのテストクーポンと TDR 測定で校正することを推奨します。
基板の比誘電率 ε_r をデータシートで確認し、ツールに入力してください。代表値は FR4: 4.3、Rogers RO4003C: 3.55、Rogers RO4350B: 3.66、Isola I-Tera MT40: 3.45、Megtron 6 (R-5775): 3.4、テフロン (PTFE): 2.1 です。なお ε_r は周波数依存性があり、高周波になるほどわずかに下がる傾向があるため、データシートで使用周波数帯での値を確認してください。また同一銘柄でも層厚・ガラスクロス比率で値がばらつくため、量産時はメーカー指定の Dk 値を使うのが安全です。
公称値そのもの(USB 90Ω、HDMI 100Ω)をターゲットに設計するのが標準です。ただし基板メーカーの製造公差(線幅 ±10%、基板厚 ±10%、Dk ±5% など)を考慮すると、計算上の値が公称値からどちらかに偏ると製造ばらつきで規格外になるリスクがあります。実用的には、量産公差を二乗和で見積もって規格内に収まるマージンが取れる中心値を選びます。基板メーカーに事前にスタックアップとインピーダンス計算結果を共有し、製造側の推奨値で調整してもらうのが安全です。

実世界での応用

USB 2.0/3.x ホストとデバイスの設計:USB 2.0 (D+/D−) と USB 3.x SuperSpeed (TX/RX) はいずれも差動配線で、規格は Z_diff = 90Ω ±15% です。スマートフォン・PC・ハブ・カメラなど、ありとあらゆる機器の USB ポート周辺で本ツールの計算が日常的に行われています。基板厚 0.4〜0.8 mm の薄型機器が多く、本ツールで先に W/S/H を決めてから基板メーカーに発注するのが定石です。

HDMI / DisplayPort 映像伝送:HDMI の TMDS(4ペア)、DisplayPort の Main Link(4レーン)は Z_diff = 100Ω ±10% で設計されます。4K/8K 対応で高速化が進み、SI(信号品質)が以前にも増して重要になっています。本ツールでまず線幅と線間の組み合わせを絞り、その後 2D 電磁界ソルバで精密化、最後に TDR で実測校正、という流れが一般的です。

Gigabit Ethernet と 10G/25G Ethernet:1000BASE-T 〜 10GBASE-T は 100Ω 差動、25G/40G/100G の SerDes も基板上は 100Ω 差動が基本です。サーバ・スイッチ・ストレージのバックプレーンや増設カードの設計で、層構成(スタックアップ)と差動ペアの寸法を本ツールのような計算機で詰めます。10G を超えると基板材料も低 Dk・低 Df の高速基板(Megtron 6、Isola I-Tera 等)が選ばれます。

PCIe・SATA・MIPI などのチップ間配線:PCIe Gen3/4/5 (8/16/32 GT/s)、SATA 6G、MIPI D-PHY/M-PHY などのチップ間高速インターフェースも Z_diff = 85〜100Ω 差動です。SoC・GPU・SSD・カメラモジュールの直近配線で、ボードの限られた面積に多数の差動ペアを通すため、本ツールで線幅・線間と基板厚の組み合わせを探索することが設計の出発点になります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「Z_diff = 2 × 単線 Z_0 と単純計算してよい」と考えてしまうことです。実際には2本の線が近づくほど結合容量が増えて Z_diff は単純な2倍より下がります。本ツールでも S/H = 0.2 のとき Z_diff は単線2倍の約 80% にまで下がっているのが下のカーブから読み取れます。USB の D+/D− や HDMI の TMDS ペアのように線間が線幅と同じオーダーで配線される場合、この結合補正を無視すると 15〜20% も計算がずれます。「単線で 50Ω 作ったから 2 本並べれば差動 100Ω」では実装後に痛い目を見ます。

次に多いのが、「ペアの片側だけを GND から離す(非対称配線をする)」ミスです。差動配線は対称性が命で、片方の線だけが他の信号やGND境界に近づくと、奇モードと偶モードが分離しにくくなり、差動モードからコモンモードへの変換が起きて EMI(放射ノイズ)と SI(信号品質)の両方が悪化します。両線間は常に等距離・等条件で配線し、層変更時のビアもペア対称で打つこと、隣接ペアからは最低でも 3W ルール(W = 線幅)以上離すことが基本です。本ツールはあくまで対称な差動ペアを前提とした計算であり、非対称配線は別解析が必要です。

最後に、「シミュレーターの計算値で量産発注してしまう」のは危険です。本ツールは IPC-2141 簡略式に基づく ±5〜10% 程度の見積もりであり、銅厚・基板の表面粗さ・ガラスクロスの織り方・ソルダレジストの被覆・温湿度などは考慮していません。実務では、(1) 本ツールで W/S/H/ε_r の初期値を決め、(2) 基板メーカーの公式インピーダンス計算(Polar Si9000 等)でスタックアップを確定し、(3) 試作基板でテストクーポンを使った TDR 測定で実測校正、という3段階の流れが基本です。本ツールは設計の最初の段階——どの寸法レンジで攻めるかの「肌感覚」を掴むための道具と捉えてください。