コプレーナ導波路 (CPW) シミュレーター 戻る
RF・マイクロ波シミュレーター

コプレーナ導波路 (CPW) シミュレーター — 特性インピーダンス Z_0

表面実装 RF 基板の基本配線、コプレーナ導波路の特性インピーダンスを Wheeler/Hilberg 近似で可視化。中心線幅 W・ギャップ G・比誘電率 ε_r を変えて、50Ω 配線を作る感覚を養えます。

パラメータ設定
中心線幅 W
mm
ギャップ G
mm
比誘電率 ε_r
周波数 f
GHz

無限厚誘電体・薄い完全導体を仮定した Wheeler/Hilberg 近似 (空気側無し、両側グラウンドが十分広い CPW)。

計算結果
形状係数 k = W/(W+2G)
実効誘電率 ε_eff
特性インピーダンス Z_0
実効波長 λ_g (at f)
CPW 断面図

上:中心線 W (黄)・ギャップ G・両側グラウンド (灰)/下:誘電体基板 ε_r/曲線:電気力線のイメージ

Z_0 vs 形状係数 k = W/(W+2G)

青曲線:現在の ε_r での Z_0(k)/赤破線:50Ω 目標/黄点:現在の動作点

理論・主要公式

コプレーナ導波路 (CPW) は、同じ表面に中心導体 W と両側ギャップ G・隣接グラウンドを並べた伝送線路です。特性インピーダンスは形状係数 k と完全楕円積分比 K(k)/K(k') で決まります。

形状係数 k と相補係数 k':

$$k = \frac{W}{W + 2G}, \qquad k' = \sqrt{1 - k^2}$$

楕円積分比 K(k)/K(k') の Hilberg 近似 (精度 ≈ 8 ppm):

$$\frac{K(k)}{K(k')} = \begin{cases} \dfrac{\pi}{\ln\!\left(2\,\dfrac{1+\sqrt{k'}}{1-\sqrt{k'}}\right)} & (0 \le k \le \tfrac{1}{\sqrt{2}}) \\[2pt] \dfrac{1}{\pi}\ln\!\left(2\,\dfrac{1+\sqrt{k}}{1-\sqrt{k}}\right) & (\tfrac{1}{\sqrt{2}} \le k \le 1) \end{cases}$$

無限厚誘電体上の実効誘電率と特性インピーダンス:

$$\varepsilon_\text{eff} \approx \frac{\varepsilon_r + 1}{2}, \qquad Z_0 = \frac{30\pi}{\sqrt{\varepsilon_\text{eff}}}\,\frac{K(k')}{K(k)}$$

実効波長 (位相速度 c/√ε_eff から):

$$\lambda_g = \frac{c}{f\sqrt{\varepsilon_\text{eff}}}$$

コプレーナ導波路 (CPW) シミュレーターとは

🙋
CPW って初めて聞きました。マイクロストリップと何が違うんですか?
🎓
ざっくり言うと、マイクロストリップは「表に信号線、裏にグラウンド面」というサンドイッチ構造だ。CPW (Coplanar Waveguide) は同じ表面に中心線とグラウンドを並べて置く。中心線 W の両側にギャップ G を空けて、その外側がグラウンド——だから上のシミュレーターの断面図でも、黄色い中心線の両脇に灰色のグラウンドが見えるだろう。裏面にビアを打たなくてもグラウンド接続が取れるから、ミリ波の高周波で重宝される構造だよ。
🙋
なるほど。じゃあ Z_0 = 50Ω にするには W と G をどう決めるんですか?
🎓
面白いのはここで、CPW の特性インピーダンスは W と G の絶対値じゃなくて、比 k = W/(W+2G) だけで決まるんだ。マイクロストリップだと W/h (基板厚さに対する幅) が効くけど、CPW は同じ面にあるからスケール不変。シミュレーターで W と G を同じ比率で揃えて拡大縮小してみて。Z_0 はぴくりとも動かないはずだ。
🙋
本当だ!W を 1mm にして G を 0.6mm にしても、デフォルトと同じ Z_0 が出る。スケールが効かないんですね。
🎓
そうそう。だから実務では、まず使える基板の最小ライン幅やプロセスから決まる制約 (例えば W ≥ 0.1mm、G ≥ 0.075mm 等) の中で、目標 k を作る。デフォルト値 (W=0.5, G=0.3, εr=4.3) だと k≈0.45 で Z_0≈78Ω だね。50Ω 狙いなら k をもっと上げる、つまり W : G の比をもっと W 寄り (例えば 3:1 や 4:1) にする必要がある。試しに W=0.6, G=0.1 にしてみると 50Ω に近づくよ。
🙋
あと「実効波長 λ_g」って何ですか?周波数を上げたら短くなりますよね。
🎓
いいところに気づいたね。CPW は誘電体と空気の境目に電磁界が広がるから、平均的な誘電率 ε_eff ≈ (ε_r+1)/2 を感じる。位相速度は c/√ε_eff で、真空中より遅い。なので同じ周波数でも波長が短くなる。5GHz、FR-4 (εr=4.3) なら自由空間で 60mm の波長が、CPW 上では 37mm 程度になる。マッチング回路や分布定数フィルタを設計するときは、この λ_g が物差しになるんだ。

よくある質問

ミリ波 (30〜300 GHz) ではビアの寄生インダクタンスが無視できず、マイクロストリップでは表面のグラウンドリターンを取るためにビアを打つ必要があります。CPW は信号線の隣にグラウンドが並んでいるため、ビアを介さず最短経路でリターン電流が流れます。これにより寄生 L が小さく、不連続点での反射も抑えられます。また、半導体プロセス (GaAs/SiGe MMIC) では裏面加工が難しいため、表面で完結する CPW が標準的に使われます。
CBCPW (Conductor-Backed CPW) は裏面にもグラウンドを持つ CPW です。機械的補強やシールド効果が得られる一方、表面グラウンドと裏面グラウンドが平行平板共振 (パラレルプレートモード) を起こす可能性があります。これを抑えるには、表裏のグラウンドを多数のビアで縫う「フェンスビア」が必要です。本ツールは無限厚誘電体上の純粋な CPW (裏面なし) を扱っており、CBCPW の Z_0 はやや低めに出る傾向があります (典型的に 5〜10% 低下)。
本ツールは薄い完全導体を仮定しています。実際の銅箔 (18μm, 35μm 等) は有限厚で、表皮効果により高周波では実効的に表面のみを電流が流れます。導体厚みが G の 10% 程度なら Z_0 への影響は 1〜2Ω 程度ですが、厚膜銅 (70μm 以上) や狭ギャップ (G<100μm) では補正が必要です。また導体損失は α_c ∝ √f で増え、5GHz 以上では誘電体損失と並んで支配的になります。厳密設計では実測または 3D EM 解析で補正してください。
本ツールの式は両側グラウンドが無限に広いと仮定しています。実機では「グラウンド幅 ≥ 5×(W+2G)」程度を確保すれば、無限幅近似は十分な精度 (誤差 < 1%) で成り立ちます。これより狭いと「FGCPW (Finite Ground CPW)」になり、Z_0 はわずかに上昇 (グラウンドが遠いほど容量が減るため) します。実装制約でグラウンドが狭くなる場合は、専用の FGCPW 式 (Simons の教科書参照) や EM ソルバを使ってください。

実世界での応用

ミリ波 5G/6G 通信モジュール:28GHz、39GHz、60GHz 等のミリ波帯のフェーズドアレイアンテナや RFIC 周辺配線で、CPW は標準構造として採用されています。ビアレスでグラウンド接続が取れるため、寄生インダクタンスを抑えながら多素子間を密に配線できます。スマートフォンや基地局のミリ波モジュールの内部レイアウトを見ると、放射素子と給電線の間に CPW 状のグラウンド付き伝送線が並んでいるのが分かります。

MMIC (モノリシック・マイクロ波集積回路):GaAs や SiGe、GaN を使った RF/マイクロ波 IC では、半導体基板の裏面を加工せず表面のみで配線を完結させる必要があります。CPW はまさにこの要件にマッチし、増幅器・ミキサ・スイッチの入出力線、整合回路の伝送線、バイアス配線に広く使われます。設計者は本ツールのような近似式で初期寸法を決め、最終的に Sonnet や ADS Momentum で精密化する流れです。

レーダー・自動運転センサ:76〜81GHz 帯の車載ミリ波レーダーでは、アンテナアレイと送受信回路を結ぶ配線が CPW で構成されます。波長が短い (4mm 程度) ため、配線長の数 mm の差が位相に大きく影響します。本ツールで λ_g を見積もり、ビーム形成に必要な位相差から物理寸法を逆算するのが設計の第一歩です。

プローブ測定とテストフィクスチャ:RF プローブ (GSG: Ground-Signal-Ground プローブ) は CPW 配置でウェハ表面に接触します。被測定デバイスへの導入線も自然と CPW になり、特性インピーダンスを 50Ω に揃えることで反射のないクリーンな測定が可能になります。CPW の Z_0 を簡易計算する本ツールは、テストフィクスチャ設計の初期検討にも役立ちます。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「W を太くすれば Z_0 が下がる」と一面的に考えてしまうことです。確かに W だけを増やせば k = W/(W+2G) が上がり Z_0 は下がりますが、CPW の特性は「比」だけで決まります。W と G を同じ倍率で拡大すると Z_0 は変化しません。実装の現場では、まず製造プロセスの最小ギャップ G が決まり、その上で W を比例的に決める——という順序で寸法を選びます。シミュレーターで W と G を同時に 2 倍してみてください。Z_0 が変わらないことに最初は驚きますが、これが CPW のスケール不変性の本質です。

次に多いのが、「ε_eff = (ε_r+1)/2 がいつでも成り立つ」と思い込むことです。この簡略式は「無限厚誘電体・両側無限グラウンド・薄い導体」の理想条件下のものです。実機では基板厚 h が有限 (典型的に 0.1〜1.6mm) なので、h が G に比べて薄いと裏面の空気が見えてしまい ε_eff は (ε_r+1)/2 より小さくなります。逆に CBCPW (裏面グラウンド付き) では、低周波で平行平板モードに近づき ε_eff は ε_r に漸近します。本ツールの値はあくまで「初期検討用の暫定値」と捉え、最終寸法は基板厚を考慮した式 (Simons の教科書、Wadell の便覧等) または EM 解析で確定してください。

最後に、「形状係数 k だけ合わせれば実機でも理論通りに動く」という誤解に注意が必要です。理論式は形状・誘電率の幾何モデルから Z_0 を出しますが、実機では (1) 導体表面粗さによる損失増加、(2) フォトリソやエッチングによる寸法ばらつき (±5〜10μm)、(3) はんだレジストの誘電率影響、(4) ボンディングワイヤやコネクタの不連続、などが重なります。FR-4 のような低グレード基板では ε_r 自体が ±0.3 程度ばらつき、Z_0 が ±5Ω 振れることも珍しくありません。本ツールでナイーブな目標寸法を決めたら、テストクーポンで実測 → TDR や VNA で確認 → 補正、というループを必ず回してください。