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電磁気・伝送線路シミュレーター

同軸ケーブル特性インピーダンス計算機 — Z_0 と伝搬速度

内導体半径・外導体内径・誘電体の比誘電率を変えると、放射状の電界とケーブルを進む信号パルスがリアルタイムで描かれます。特性インピーダンス Z_0・速度因子・単位長キャパシタンス/インダクタンスがどう決まるかを「目で見て」学べます。

パラメータ設定
内導体半径 a
mm
外導体内径 b
mm
比誘電率 ε_r
周波数 f
MHz

c = 2.998×10⁸ m/s、ε_0 = 8.854×10⁻¹² F/m、μ_0 = 4π×10⁻⁷ H/m を定数として使用しています。既定値は PTFE(ε_r ≒ 2.3)を想定。

計算結果(ライブ)
特性インピーダンス Z_0
半径比 b/a
速度因子 VF
比誘電率 ε_r
単位長キャパシタンス C
単位長インダクタンス L
電界アニメーション・伝搬パルス・Z_0 設計曲線

左=同軸断面と放射状の電界(内→外)+外側に広がる信号リング/中央下=速度因子 VF でケーブルを進むパルス(点線=真空中の光速の基準)/右=Z_0 vs b/a 曲線と現在点(赤丸)・50Ω/75Ω 基準線

理論・主要公式

同軸ケーブルは内導体(半径 a)と外導体(内径 b)の間を電磁波が TEM モードで伝搬する伝送線路です。横断面のラプラス方程式から、単位長キャパシタンス C と単位長インダクタンス L が解析的に求まります。

特性インピーダンス Z_0(ε_r は誘電体の比誘電率):

$$Z_0 = \frac{60}{\sqrt{\varepsilon_r}}\,\ln\!\frac{b}{a} = \sqrt{\frac{L}{C}}\ \ [\Omega]$$

単位長キャパシタンス C と単位長インダクタンス L:

$$C = \frac{2\pi\,\varepsilon_0\,\varepsilon_r}{\ln(b/a)}\ \ [\text{F/m}], \qquad L = \frac{\mu_0}{2\pi}\,\ln\!\frac{b}{a}\ \ [\text{H/m}]$$

伝搬速度 v_p・速度因子 VF・波長 λ:

$$v_p = \frac{1}{\sqrt{LC}} = \frac{c}{\sqrt{\varepsilon_r}}, \quad \text{VF} = \frac{v_p}{c} = \frac{1}{\sqrt{\varepsilon_r}}, \quad \lambda = \frac{v_p}{f}$$

空気(ε_r=1)では Z_0=50Ω が b/a≈2.30、Z_0=75Ω が b/a≈3.49 で得られます。Z_0 は ln(b/a) に比例するため、半径比 b/a を 2 倍にしても Z_0 は約 1.4 倍にしか増えません。寸法でなく比だけで決まるのが同軸の設計上の特徴です。

同軸ケーブル特性インピーダンス計算機とは

🙋
無線機の取扱説明書に「50Ω系」って書いてあるんですけど、ケーブルの抵抗が 50Ω ってことですか?テスターで測ったらほぼ 0Ω だったんですけど。
🎓
いい質問だね。Z_0 は直流抵抗じゃないんだ。同軸ケーブルは「伝送線路」で、電磁波が内導体と外導体の間を進む。そのとき、波が感じる「波動インピーダンス」のことを特性インピーダンス Z_0 と呼ぶ。式は $Z_0 = (60/\sqrt{\varepsilon_r})\,\ln(b/a)$。上のシミュレーターで a=0.5mm、b=3.5mm、ε_r=2.3 の既定値で 77Ω くらいになるだろう?アニメーションの青い矢印が内導体から外導体へ向かう電界、黄色いリングが伝わっていく信号だよ。
🙋
あれ、半径そのものじゃなくて「比」だけで決まるんですか?
🎓
そう、それが同軸の設計上の急所だ。b/a の比だけで Z_0 が決まる。だから 50Ω 同軸は太いやつ(RG-8 とか)も細いやつ(RG-58 や同軸 1.5D)も全部 b/a ≒ 3.4。比は同じ。太さの違いは耐電力と損失だけ。太いほど大電力に耐え、損失も少ない。携帯機器に細いケーブルが使えるのはこの「比だけで決まる」性質のおかげだよ。
🙋
速度因子 VF っていうのが 0.66 とか出てますけど、これは何ですか?
🎓
ケーブルの中を電磁波が進む速さを、真空中の光速で割った比だ。同軸では誘電体の比誘電率だけで決まって $\text{VF}=1/\sqrt{\varepsilon_r}$。PTFE や固体 PE は 0.66〜0.70、発泡 PE なら 0.80 を超える。下の帯アニメで黄色いパルスが信号、点線が真空中の光速の基準。点線より黄色が遅れて進むのが速度因子だよ。アマチュア無線で λ/4 のスタブを切るとき、VF を掛けないと共振点がずれる。
🙋
50Ω と 75Ω はどう違うんですか?テレビは 75Ω って聞きました。
🎓
同じ誘電体で同じ太さの同軸でも、b/a を変えると性能のピークが違うところに来る。最大電力伝送できるのが約 30Ω、最低損失が約 77Ω、その中間の妥協点が 50Ω。だから無線・計測機器は 50Ω に統一されている。一方、テレビや CATV は長距離で減衰を抑えたいから損失最小の 77Ω に近い 75Ω を選んだ。右のグラフの黄色(50Ω)と赤(75Ω)の破線に赤丸が重なるよう b/a を動かしてみるといい。同じケーブルを混ぜると整合が崩れて反射が起き、ゴーストが出たり信号が弱くなったりするんだ。

よくある質問

特性インピーダンスが異なる線路を直結すると不整合が起き、入射波の一部が反射します。50Ω 系に 75Ω ケーブルをつなぐと電圧反射係数 |Γ| = |75−50|/|75+50| = 0.2、VSWR = 1.5 になります。送信機側に反射電力が戻り、出力低下や保護回路の作動を招きます。整合させるには λ/4 変換器(特性インピーダンス √(50×75)≒61Ω の同軸を λ/4 長で挟む)や、抵抗パッドによる整合器を使います。
表皮効果により電流が導体表面近くに集中し、実効的な抵抗が周波数の平方根に比例して増えるためです(導体損は √f に比例)。さらに誘電体の損失正接 tan δ により誘電損が周波数に比例して増えます。1 GHz を超えると誘電損が支配的になり、PTFE や発泡 PE のような低 tan δ 誘電体が必要になります。10 GHz を超えるとセミリジッドや導波管へ切り替える設計が一般的です。
VSWR 1.5 のとき反射電力は入射の約 4%、VSWR 2.0 で約 11%、VSWR 3.0 で 25% です。家庭用無線機やアマチュア無線では VSWR 2.0 以下、業務無線や送信機保護を重視する用途では VSWR 1.5 以下が目安です。VSWR が 3.0 を超えると送信機の保護回路が出力を絞り始め、半導体ファイナルでは熱破壊のリスクも生じます。アンテナアナライザで実測しながらマッチングを取るのが基本です。
純粋に空気だけなら ε_r = 1.0006 ≒ 1 として VF ≒ 1 が得られ、誘電損が最小になります。ただし実際には内導体を保持するためのスペーサ(PTFE 製のリングや螺旋)が周期的に入るため、平均ε_r は 1.05〜1.20 程度です。これにより 50Ω 半剛性同軸でも b/a を理論値より少し小さくして補正します。最高性能の校正用ケーブルや基地局送信フィーダで使われ、損失が固体誘電体の半分以下に抑えられます。

実世界での応用

無線通信・送受信機の入出力:無線機・トランシーバ・SDR ドングルなど、ほぼすべての RF 機器の入出力は 50Ω 系で統一されています。アンテナと送信機をつなぐフィーダ、機器内部のセクション間配線、SMA/N 型/BNC コネクタなどはすべて Z_0 = 50Ω を前提に作られ、整合がとれていることで反射損失と送信機保護の両立が実現されます。

テレビ・CATV・ビデオ信号:地上波テレビ、衛星放送、CATV、業務用ビデオ機器は 75Ω 系です。長い引き回しが多いため損失最小に近い 75Ω が選ばれ、F型コネクタや BNC(75Ω 版)が使われます。50Ω 用 BNC と 75Ω 用 BNC は形状が似ていますが内部寸法が異なり、混用すると微小な不整合と物理的損傷を引き起こします。

計測・校正:ベクトルネットワークアナライザ(VNA)、シグナルジェネレータ、オシロスコープの高速プローブなどは 50Ω 校正が基本です。半剛性同軸(セミリジッド)や精密 SMA を使い、Z_0 のばらつきを ±0.5Ω 以下に管理して校正基準を保ちます。プリント基板上のマイクロストリップ線路も 50Ω に設計して、コネクタからチップまでインピーダンスを一貫させます。

高速デジタル信号:USB 3.x の差動信号は 90Ω 差動、HDMI は 100Ω 差動、PCIe は 85Ω 差動など、デジタル高速インタフェースもすべて伝送線路として扱われ、特性インピーダンスを基板設計段階で管理します。同軸ではありませんが、TEM 近似と $v_p = c/\sqrt{\varepsilon_r}$ の関係は基板の伝搬遅延・スキュー計算にそのまま使われます。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「特性インピーダンスはテスターで測れる抵抗」だと考えてしまうことです。Z_0 は無限に長い線路の入力インピーダンスであり、線路を進む電磁波の電圧と電流の比です。直流的には内外導体は絶縁されていて抵抗無限大、内導体自身の導通は数 Ω 以下と、どちらも 50Ω にはなりません。50Ω は線路を「波が感じる」インピーダンスだということを忘れないでください。シミュレーターで b/a を変えると Z_0 が変わりますが、これは導体の電気抵抗が変わったのではなく、波動インピーダンスの形状が変わったのです。

次に多いのが、「太いケーブルほど Z_0 が小さい」と思い込むことです。実際には Z_0 は b/a の比だけで決まり、絶対寸法には依存しません。10mm 径の太い 50Ω 同軸も、1mm 径の細い 50Ω 同軸も、内導体と外導体の比はほぼ同じ(b/a ≒ 3.4 で PE 充填の場合)です。太さで変わるのは耐電力と単位長損失だけ。シミュレーターで a と b を同じ倍率で動かすと Z_0 がまったく変わらないことを確かめてください。これが b/a だけで決まるという公式の物理的意味です。

最後に、このシミュレーターが扱うのは「理想 TEM モードの周波数無依存 Z_0」である点に注意してください。実際の同軸ケーブルでは、超高周波(典型的に最大使用周波数の上)で高次モード(TE_11 など)が立ち始め、TEM 一波の仮定が崩れます。また導体損による微小な周波数依存(複素 Z_0)も無視されています。GHz 帯まで通常の同軸を使う範囲では本ツールの式で十分ですが、ミリ波や設計の極限を狙うときは EM シミュレータ(HFSS, CST, OpenEMS など)で実形状を解析する必要があります。

使い方ガイド

  1. 内導体半径 a [mm] をスライダーまたは入力欄で設定(既定 0.50 mm、b/a 比が特性インピーダンスを決める)
  2. 外導体内径 b [mm] を入力(RG-58 では 2.95 mm、a/b の比が特性インピーダンスに直結)
  3. 相対誘電率 εr を選択(ポリエチレン PE: 2.25、PTFE テフロン: 2.1、発泡ポリエチレン: 1.5~1.7)
  4. 信号周波数 f [MHz] を設定し、断面の電界アニメーションと伝搬パルスを観察する
  5. 特性インピーダンス Z_0、半径比 b/a、速度因子 VF、単位長 C・L が即座に表示される。プリセット(50Ω/75Ω/空気絶縁)で代表値も確認できる

具体的な計算例

RG-58/U 同軸ケーブル(a=0.81 mm、b=2.95 mm、εr=2.25、発泡 PE 被覆)で周波数 1000 MHz を入力した場合:特性インピーダンス Z_0 ≈ 50 Ω、速度因子 VF ≈ 0.66、波長 λ ≈ 198 mm、単位長キャパシタンス C ≈ 100 pF/m となります。RG-214 高周波用(a=1.04 mm、b=3.66 mm)では Z_0 ≈ 50 Ω を維持しながらより低損失化が実現できます。

実務での注意点

  1. 計算式 Z_0 = (138/√εr) × log₁₀(b/a) オームは無損失伝送線路モデルであり、実測では導体損失・誘電正接により高周波で数 Ω の偏差が生じる
  2. 速度因子 VF = 1/√εr は周波数依存性をもたないが、実装では ±2%の誤差範囲を見積もること(被覆材の空隙率ばらつき)
  3. インピーダンス測定時にケーブル長 λ/4 単位での共振を避ける;フィーディングでは VF で算出した 1/4 波長ケーブルをスタブ終端に使用
  4. 信号周波数が 10 GHz を超える場合は、表皮効果と分散特性を数値解析で補正する必要がある