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電力工学

フライバックコンバータ シミュレーター

ACアダプタやスマホ充電器の中身にある、最もシンプルな絶縁型DC-DCコンバータを設計するツールです。入力電圧・デューティ比・巻数比を変えると、出力電圧・一次側ピーク電流・境界モードの一次インダクタンスがリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
入力電圧 V_in
V
整流・平滑後の一次側DCバス電圧
デューティ比 D
1周期に対するスイッチON時間の割合
巻数比 N_p:N_s(n = N_p/N_s)
一次巻線数 ÷ 二次巻線数
スイッチング周波数 f_sw
kHz
スイッチがON/OFFを繰り返す周波数
出力電力 P_out
W
負荷へ供給する電力(損失なしと仮定)
計算結果
出力電圧 V_out (V)
出力電流 I_out (A)
一次側ピーク電流 I_pk (A)
一次インダクタンス L_p (µH)
蓄積エネルギー (mJ/cycle)
動作モード
フライバック回路図 — スイッチング動作

スイッチONで一次巻線にエネルギーを蓄え(一次電流が上昇)、OFFで二次巻線から出力へ放出します(二次電流が下降)。一次・二次はドット記号で結合方向を示します。

出力電圧 vs デューティ比 D
出力電圧 vs 巻数比 n
理論・主要公式

$$V_{out}=V_{in}\cdot\frac{D}{1-D}\cdot\frac{N_s}{N_p}$$

連続導通モード(CCM)の理想出力電圧。D:デューティ比、N_p/N_s = n:巻数比。デューティ比と巻数比の2つで出力電圧を決められる。

$$L_p=\frac{(V_{in}D)^{2}}{2\,P_{out}\,f_{sw}},\qquad I_{pk}=\frac{2\,P_{out}}{V_{in}D}$$

境界モード(CCM/DCM境界)の一次インダクタンス L_p と一次側ピーク電流 I_pk。f_sw:スイッチング周波数、P_out:出力電力。

$$E_{cycle}=\frac{P_{out}}{f_{sw}}=\tfrac{1}{2}L_p I_{pk}^{2}$$

エネルギーはON時間に結合インダクタへ蓄えられ、OFF時間に放出される。1サイクルあたりの蓄積エネルギーは出力電力をスイッチング周波数で割った値に等しい。

フライバックコンバータとは

🙋
「フライバックコンバータ」って初めて聞きました。スマホの充電器の中に入ってる回路、っていうのは本当ですか?
🎓
本当だよ。世の中の小さなACアダプタ、スマホ充電器、待機電源のほとんどがフライバックコンバータなんだ。「絶縁型のDC-DCコンバータ」の中で一番シンプルな回路で、部品点数が少なくて安い。だから5W〜100Wくらいの小型電源では圧倒的なシェアを持っているんだよ。
🙋
中にトランスが入ってるんですよね?普通のトランスとは違うんですか?
🎓
いい質問だね。見た目はトランスだけど、中身は「結合インダクタ」、つまり磁気的につながった2つのコイルなんだ。普通のトランスは入力と出力が同時に電流を流してエネルギーを素通しさせる。でもフライバックは違う。スイッチがオンの間、入力電圧が一次巻線に電流を流し込んで、磁気コアの空隙(エアギャップ)にエネルギーを「貯金」する。スイッチがオフになると磁界が崩れて、その貯金を二次巻線から出力コンデンサと負荷に「払い出す」。貯めて、放す。この繰り返しなんだ。
🙋
なるほど、エネルギーを一回貯めるんですね。じゃあ「絶縁」っていうのは?左の回路図で一次と二次が離れて描かれてます。
🎓
そこがフライバックの一番大事なところ。一次巻線と二次巻線は磁気的にしかつながっていなくて、電気的には完全に切れている。これを「ガルバニック絶縁」と呼ぶ。商用100Vや200Vにつながる一次側と、人が触れる二次側を電気的に分離できるから、感電しない安全な電源が作れる。しかも二次巻線をもう1本足すだけで、絶縁された出力をほぼタダで増やせる。複数電圧が必要な機器ではこれが効くんだ。
🙋
出力電圧はどうやって決まるんですか?左でデューティ比 D と巻数比 n を両方いじれますよね。
🎓
そう、つまみが2つあるのがフライバックの便利なところ。出力電圧は V_out = V_in·D/((1−D)·n) で決まる。巻数比 n で大まかな電圧比を決めて、デューティ比 D で微調整とフィードバック制御をする、という分担が定石だ。例えば100V入力で5V出力を作りたいなら、巻数比を大きめにして電圧を一気に落とし、Dを0.4前後で安定動作させる。左のグラフで D や n を動かすと、出力電圧がどう変わるか一目で分かるよ。
🙋
「動作モード」って結果に出てますけど、CCMとDCMって何ですか?
🎓
スイッチがオフの間に、コイルのエネルギーを全部出し切るかどうかの違いだよ。全部出し切ってから次のサイクルが始まるのがDCM(不連続導通モード)、出し切る前に次が始まるのがCCM(連続導通モード)。このツールは「境界モード」、つまりちょうど出し切った瞬間に次が始まる設計点での一次インダクタンス L_p を計算している。実務では境界モードを設計の基準点にして、そこから少しCCM寄り・DCM寄りに振って特性を調整するんだ。

よくある質問

連続導通モード(CCM)の理想式では、出力電圧は V_out = V_in·D/((1−D)·n) で決まります。D はデューティ比、n は巻数比 N_p/N_s です。降圧コンバータと違い、デューティ比 D と巻数比 n の2つの独立した「つまみ」で出力電圧を調整できるのが特徴です。例えば入力100V・D=0.4・n=5なら V_out=100·0.4/(0.6·5)=13.3V となります。巻数比で大まかな電圧比を、デューティ比で微調整とフィードバック制御を担当させる設計が一般的です。
連続導通モード(CCM)と不連続導通モード(DCM)のちょうど境界となる一次インダクタンスは L_p = (V_in·D)²/(2·P_out·f_sw) で求めます。f_sw はスイッチング周波数です。このインダクタンスのとき、コンバータはCCMとDCMの境界(境界モード)で動作します。これより小さいインダクタンスを選べばDCM、大きく選べばCCM寄りになります。境界モードの値は設計の基準点として便利で、本ツールはこの L_p をマイクロヘンリー単位で表示します。
境界モードの一次側ピーク電流は I_pk = 2·P_out/(V_in·D) で決まります。このピーク電流はスイッチ(MOSFET)の電流定格、磁気コアの飽和、そして巻線の発熱を直接左右します。ピーク電流が大きいほど高価で大きな部品が必要になり、コアが磁気飽和するとインダクタンスが急減して電流が暴走します。入力電圧が低くデューティ比が小さいほどピーク電流が増えるため、低入力電圧での動作はフライバック設計の厳しい条件となります。
フライバックコンバータは一次巻線と二次巻線が磁気的にのみ結合しており、電気的には直接つながっていません。これを電気的絶縁(ガルバニック絶縁)と呼びます。スイッチがオンの間に一次巻線がコアの空隙にエネルギーを蓄え、オフの間に二次巻線へそのエネルギーを放出します。直流的な導通経路がないため、入力(商用電源側)と出力(ユーザーが触れる側)が分離され、安全規格を満たせます。さらに二次巻線を追加するだけで複数の絶縁出力をほぼ無償で得られるのも大きな利点です。

実世界での応用

ACアダプタ・USB充電器:ノートPCのACアダプタ、スマホ充電器、各種機器の付属電源は、ほぼすべてフライバックコンバータです。商用AC100/200Vを整流・平滑して数十〜400Vの一次側DCバスを作り、フライバックで5V・12V・20Vといった絶縁された低電圧出力に変換します。部品点数が少なくコストが低いため、5W〜100W帯の小型電源で圧倒的なシェアを持ちます。USB PD対応充電器では巻数比を固定し、デューティ比のフィードバック制御で出力電圧を可変させています。

機器の待機電源(スタンバイ電源):テレビ、電子レンジ、エアコンなどの待機電源として、軽負荷でも高効率なフライバックが使われます。リモコン待ち受け回路やマイコンに数Wを供給する用途では、不連続導通モード(DCM)寄りの設計で軽負荷効率を稼ぎます。近年は待機電力規制が厳しく、バーストモード制御と組み合わせて待機消費電力を0.1W以下に抑える設計が主流です。

産業機器の補助電源:インバータ、PLC、サーボアンプなどの内部では、主回路の高電圧DCバスから制御回路用の±15V・5Vなどを生成する補助電源としてフライバックが多用されます。二次巻線を複数設けるだけで絶縁された複数出力が得られるため、ゲートドライブ用の絶縁電源を安価に構成できます。広い入力電圧範囲(ワイドレンジ入力)に対応できるのもフライバックの強みです。

電源設計の事前検討と教育:詳細なSPICEシミュレーションや試作の前に、本ツールのような理想式の概算で「出力電圧・ピーク電流・一次インダクタンスがどのくらいになるか」を当たりづけします。境界モードの L_p を基準点として、コアサイズやスイッチ定格の見当をつけてから詳細設計に入ります。逆にSPICE結果がこの概算と桁違いなら、巻数比やデューティ比の入力ミスを疑うサニティチェックにも使えます。

よくある誤解と注意点

まず大きな誤解が、「フライバックのトランスは普通のトランスと同じ」というものです。フライバックの「トランス」は、エネルギーを素通しさせる通常のトランスではなく、エネルギーを一時的に蓄える結合インダクタです。だからこそ磁気コアにエアギャップを設けて、飽和せずにエネルギーを貯められるようにしてあります。ギャップのないコアを使うと一次側ピーク電流ですぐ磁気飽和し、インダクタンスが急減して電流が暴走、スイッチが破壊されます。本ツールが計算する境界モードの一次インダクタンス L_p は、このコア設計の出発点になる値です。

次に、「理想式の出力電圧をそのまま信じる」こと。本ツールの V_out = V_in·D/((1−D)·n) は損失ゼロ・理想結合を仮定した式です。実際には一次・二次巻線の漏れインダクタンス、巻線抵抗、ダイオードの順方向電圧降下、スイッチのオン抵抗などがあり、出力電圧は理想値より下がります。特に低出力電圧(5V以下)ではダイオードの0.5〜1Vの降下が無視できません。また漏れインダクタンスはスイッチオフ時に高電圧スパイクを発生させ、スナバ回路で吸収しないとスイッチが破壊されます。理想式は「当たりづけ」であり、最終設計には損失と寄生成分を織り込む必要があります。

最後に、「デューティ比は大きいほど良い」という思い込みです。出力電圧の式を見ると D を1に近づけるほど V_out は大きくなりますが、D=0.7を超える設計は実務では避けられます。理由は、(1) スイッチオフ時に一次巻線にかかる電圧がデューティ比とともに上昇し、スイッチの耐圧を超える、(2) 二次側からトランス経由で反射される電圧(反射電圧)が大きくなる、(3) 制御の安定性が悪化する、などです。一般にフライバックは D=0.3〜0.5付近で設計し、巻数比 n で電圧比の大半を稼ぎます。デューティ比はあくまでフィードバック制御の「のりしろ」として確保しておくのが定石です。

使い方ガイド

  1. 入力電圧(12V~48V)、デューティ比(10%~80%)、一次巻数と二次巻数の比、スイッチング周波数(50kHz~500kHz)、出力電力を設定します
  2. シミュレーターが出力電圧、出力電流、一次側ピーク電流、一次インダクタンス、サイクルあたりの蓄積エネルギーを自動計算します
  3. 動作モードが連続導通(CCM)または不連続導通(DCM)と判定されるため、設計条件を確認して巻数比やL値を調整します

具体的な計算例

入力電圧24V、デューティ比40%、一次巻数:二次巻数=3:1、スイッチング周波数100kHz、出力電力24Wの場合を想定します。出力電圧は計算式V_out=V_in×D'÷n(n=3、D'=0.6)より4.8Vとなります。出力電流I_out=24W÷4.8V=5Aです。一次側ピーク電流は、L_p値が200µHと設定時、I_pk=(24V×0.4)÷(200×10^-6÷100×10^3)=4.8Aとなり、蓄積エネルギーは1.92mJ/cycleです。周波数100kHzでは磁気素子の冷却余裕が確保できます。

実務での注意点

  1. DCM動作では軽負荷時に出力電圧が上昇するため、フローティング電源用途(モータドライバIC供給など)では帰還制御が必須です
  2. 一次ピーク電流が大きいほどMOSFET損失とコモンモード放射が増加するため、100kHz以上の周波数でI_pk<10Aに抑制してください
  3. 一次インダクタンスはコア飽和マージンを考慮し、計算値の80%程度で実装部品を選定し、ギャップ調整で微調整します
  4. 二次整流ダイオードの逆回復損失がスイッチング周波数に比例するため、200kHz超ではショットキーダイオード(VFWD≈0.4V)を採用してください