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伝熱工学

ボイラ・炉の熱効率シミュレーター

ボイラや工業炉が燃料の熱をどれだけ有効に使えているかを、熱損失法(ジーゲルト式)で評価するツールです。燃料・空気比・排ガス温度を変えると、煙突から逃げる排ガス損失と熱効率、省エネの余地がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
燃料
ジーゲルト係数 f と量論最大CO₂濃度を自動設定
空気比 λ
理論空気量に対する実際の供給空気量の比
排ガス温度
煙突入口での排ガスの温度
給気(周囲)温度
バーナへ取り込む燃焼用空気の温度
燃料投入熱量
kW
燃料の発熱量ベースの入熱(バーナ火力)
その他の損失(放射・未燃分)
%
炉体放熱・未燃損失・ブロー損失などの合計
計算結果
排ガス損失 (%)
排ガス中CO₂濃度 (%)
その他の損失 (%)
熱効率 η (%)
有効熱出力 (kW)
排ガスへの損失 (kW)
炉・ボイラのエネルギーの流れ

バーナで燃料と空気が燃え、有効熱は被加熱体(負荷)へ、高温排ガスは煙突へ。矢印と煙の太さは燃料エネルギーの配分割合を表します。

熱効率 vs 排ガス温度
熱効率 vs 空気比
理論・主要公式

$$q_{stack}=f\,\frac{t_{flue}-t_{air}}{\mathrm{CO_2}\%},\qquad \mathrm{CO_2}\%=\frac{\mathrm{CO_2}_{max}}{\lambda}$$

排ガス損失 q_stack(ジーゲルト式)と排ガス中CO₂濃度。t_flue:排ガス温度、t_air:給気温度、λ:空気比。

$$\eta=100-q_{stack}-q_{other}$$

熱効率 η(熱損失法)。q_other:放射・未燃分などその他の損失。f は燃料固有のジーゲルト係数、λ は空気比(過剰空気比)。

ボイラ・炉の熱効率とは

🙋
工場のボイラの「熱効率」って、燃やした燃料のうち何%が役に立ったか、ってことですよね?それってどう測るんですか?
🎓
そう、その通り。測り方は2つあって、ひとつは「入出力法」——投入した燃料の熱と、蒸気が持ち出した熱を直接はかって割り算する。でも蒸気量を正確にはかるのは案外むずかしい。だから現場でよく使うのが「熱損失法」だ。発想を逆にして、100%から「逃げた熱(損失)」を引き算する。η = 100% − 損失の合計、ってわけ。このツールはこの熱損失法を使っているよ。
🙋
なるほど、逃げた分を数える方が楽なんですね。じゃあ一番大きく逃げてるのはどこなんですか?
🎓
ダントツで「排ガス損失」、煙突から出ていく排ガスの熱だね。考えてみて、燃やしたあとの排ガスは200℃とか300℃で煙突から出ていく。その熱い空気が運び去る顕熱がまるごと損失なんだ。左の「排ガス温度」を上げてみて。排ガス損失がぐっと増えて、効率が下がるのが見えるはずだ。デフォルトの天然ガスだと排ガス損失だけで7%くらいある。
🙋
7%!じゃあその排ガス損失を減らすにはどうすれば?
🎓
レバーは2つある。ひとつは「空気比を下げる」。燃焼に必要な空気よりたくさん入れると、余分な空気——その大半は燃えない窒素——まで一緒に温めて捨てることになる。空気比 λ を下げると、温める排ガスの量が減るし、排ガス中のCO₂濃度が上がってジーゲルト式の分母が大きくなる。両方の効果で損失が減るんだ。もうひとつは「排ガス温度を下げる」。エコノマイザや空気予熱器で熱を回収すれば、捨てる温度そのものを下げられる。
🙋
じゃあ空気比はどんどん下げて、1.0ぴったりにすればいいんですか?
🎓
そこが落とし穴。空気比1.0は「理論空気量ちょうど」、つまり量論点だ。でも実際の燃焼は混合が完璧じゃないから、量論点ぴったりだと酸素が足りない部分ができて、燃え残りが出る。すす(煤)や一酸化炭素が発生して、それは「未燃分損失」になる。無駄なだけじゃなく、COは中毒の危険もある。だから実機は λ=1.1〜1.3 くらいに少し余裕を持たせる。「効率の最大点」と「不完全燃焼の境界」の間で、ぎりぎりを攻めるのが燃焼管理の腕の見せどころなんだ。

よくある質問

熱効率は「熱損失法」で求めるのが実務の標準です。考え方は単純で、効率 η = 100% − 各種損失(%)です。最大の損失は排ガス損失(煙道損失)で、煙突から逃げる高温排ガスが運び去る顕熱です。本ツールではジーゲルト式 q_stack = f·(t_flue − t_air)/CO₂% で排ガス損失を求め、これに放射・未燃分などその他の損失を足して、100% から引いて熱効率を算出します。
f は燃料ごとに決まるジーゲルト係数(燃料定数)で、燃料の炭素・水素比や発熱量から導かれる値です。本ツールでは天然ガス f=0.38、重油 f=0.50、石炭 f=0.65 を使用します。f が大きい燃料ほど、同じ排ガス温度・同じCO₂濃度でも排ガス損失が大きくなります。ジーゲルト式は排ガス温度・給気温度・排ガス中CO₂濃度の3つだけで煙道損失を概算できる、現場で長く使われてきた実用式です。
空気比 λ を下げると、燃焼に不要な過剰空気(その大半は無関係に加熱される窒素)が減るため、温める排ガスの量そのものが減ります。同時に排ガス中のCO₂濃度が CO₂% = CO₂max/λ で上がり、ジーゲルト式の分母が大きくなって排ガス損失が下がります。ただし下げすぎは禁物で、量論点を割ると燃焼が不完全になり、すす(煤)や一酸化炭素が発生します。これは未燃分損失であり、無駄であると同時に危険でもあります。
排ガス損失は排ガス温度と給気温度の差 (t_flue − t_air) に比例するため、排ガス温度を下げれば損失は直線的に減ります。実機ではエコノマイザ(給水予熱器)や空気予熱器を排ガス流路に置き、捨てていた顕熱を回収して排ガス温度を下げます。経験的に排ガス温度を約20℃下げると効率は約1%向上します。ただし下げすぎると排ガス中の水蒸気が結露して硫酸などによる低温腐食を起こすため、酸露点より高い温度に保つ必要があります。

実世界での応用

産業用ボイラの省エネ診断:食品・化学・繊維・製紙工場の蒸気ボイラでは、排ガス温度とCO₂濃度(または残存O₂)を測るだけで、本ツールと同じジーゲルト式で熱効率を即座に推定できます。エネルギー管理士による省エネ診断では、まずこの簡易計算で「いま何%の効率か」を押さえ、空気比の最適化やエコノマイザ追設で何%改善できるかを見積もります。

工業炉の燃焼管理:加熱炉・熱処理炉・ガラス溶融炉などの工業炉でも、排ガス損失は最大の損失項目です。連続式の加熱炉ではリジェネレイティブバーナ(蓄熱式バーナ)で排ガスの熱を燃焼用空気に戻し、排ガス温度を大幅に下げて効率を引き上げます。本ツールで給気温度を上げると、空気予熱の効果がそのまま効率向上として現れます。

燃焼制御・O₂トリム:近年のボイラはジルコニア式O₂センサで排ガス中の酸素を常時測り、ダンパやインバータで送風量を絞る「O₂トリム制御」を備えています。残存O₂は空気比 λ と一対一に対応するため、O₂を下げる=λを下げる=排ガス損失を減らす、という関係になります。本ツールの空気比スライダーは、このトリム制御がねらう領域を体感する教材になります。

燃料転換とCO₂排出の検討:石炭から重油、重油から天然ガスへ燃料を切り替えると、ジーゲルト係数 f が小さくなり、同じ運転条件でも排ガス損失が減って効率が上がります。本ツールで燃料プリセットを切り替えると、燃料転換が効率とCO₂排出に与える影響を定量的に比較できます。脱炭素・燃料転換の事前検討の出発点として使えます。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「排ガス温度さえ下げればいくらでも効率が上がる」という誤解です。確かに排ガス損失は (t_flue − t_air) に比例しますが、排ガス温度を下げすぎると、排ガス中の水蒸気が露点に達して結露します。重油や石炭のように硫黄を含む燃料では、結露水が三酸化硫黄と反応して硫酸となり、エコノマイザや煙道を激しく腐食させます。これが「低温腐食」で、排ガス温度には酸露点という下限があります。一般に天然ガスでも100℃前後、硫黄分の多い燃料では150℃以上を保つのが目安です。効率だけを追って排ガス温度を下げると、設備寿命を縮めます。

次に、「効率は高位発熱量(HHV)基準か低位発熱量(LHV)基準か」の取り違えです。本ツールのジーゲルト式は、排ガス中の水蒸気が運ぶ顕熱は数えますが、水蒸気が凝縮するときに出る潜熱(蒸発潜熱)は回収しない前提です。これは低位発熱量(LHV)基準の効率に相当します。一方、潜熱まで回収する潜熱回収型(コンデンシング)ボイラでは、LHV基準で100%を超える「効率」が出ることがあります。カタログ値を比較するときは、HHV基準かLHV基準かを必ず確認してください。基準が違えば同じ機器でも5〜10%も数値が変わります。

最後に、「定格の効率がいつも出ていると思い込む」こと。ボイラの効率はカタログの定格点が最も高く、低負荷では悪化します。負荷が下がると炉体からの放射損失の割合が相対的に増え、また低燃焼では空気比を絞りにくく排ガス損失も増えがちです。さらに、伝熱面に付いたすすやスケール(水あか)は熱の通り道を塞ぎ、排ガス温度を押し上げて効率を下げます。本ツールの計算は瞬間値の概算であり、実機の年間平均効率は、負荷変動・起動停止・伝熱面の汚れを織り込むと、定格より数%低くなるのが普通です。

使い方ガイド

  1. 燃焼用過剰空気比(通常1.05~1.3)を設定し、ボイラ入力熱量(例:500kW)を入力
  2. 排ガス温度(150~250℃)と室温(15~25℃)の値を入力してジーゲルト式による損失計算を実行
  3. 排ガス損失率(%)と熱効率η(%)をリアルタイム表示で確認し、有効熱出力(kW)から給湯負荷への対応可否を判定

具体的な計算例

重油ボイラ(入力1000kW、排ガス温度200℃、室温20℃、過剰空気比1.15の場合):ジーゲルト式で排ガス損失は約9.2%、その他損失2.0%となり熱効率88.8%を達成。有効熱出力は888kWとなります。天然ガスボイラで排ガス温度を180℃に低減させると損失7.8%へ改善され、熱効率90.2%で同一入力時の出力は902kWへ向上します。

実務での注意点