農業温室エネルギー収支シミュレーター 戻る
農業工学・温室設計

農業温室エネルギー収支シミュレーター

農業用温室(園芸ハウス)の熱収支を組み立てるツールです。床面積・被覆材・外気温・日射・換気回数・作物蒸散を変えると、日射ゲイン・伝導損失・換気損失・蒸散冷却と、正味の暖冷房負荷・年間暖房エネルギーがリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
床面積 A
被覆材
熱貫流率 U と透過特性が変わる
外気温 T_out
°C
室内設定温度 T_in
°C
日射 I
W/m²
透過率 τ
被覆材+汚れを含む実効透過率
換気回数 n
1/h
蒸散熱負荷
W/m²
作物が葉面蒸散で奪う潜熱(晴天時 80〜200)
計算結果
透過日射熱 (kW)
伝導損失 (kW)
換気損失 (kW)
蒸散冷却 (kW)
正味熱負荷 (kW)
年間暖房 (MWh)
温室断面図 — 日射・蒸散・伝導・換気

太陽光(黄)が被覆面を透過して内部に入り、被覆面から外へ伝導熱(赤)が逃げ、天窓から換気(青矢印)、作物(緑)が蒸散して空気を冷やします。色は正味熱負荷の符号(赤=暖房、青=冷房)。

熱収支構成 — ゲイン vs ロス
暖房負荷 vs 外気温
理論・主要公式

$$Q_{net} = Q_{cond} + Q_{vent} - Q_{solar} + Q_{transp},\quad Q_{vent} = 0.34 \cdot V \cdot n \cdot \Delta T$$

V=室容積(m³)、n=換気回数(1/h)、ΔT=室内外温度差(K)、U=熱貫流率(W/m²K)。正の Q_net は暖房負荷、負は冷房負荷。

$$Q_{cond} = U \cdot A_{cover} \cdot \Delta T, \qquad Q_{solar} = I \cdot A \cdot \tau$$

伝導損失と日射ゲイン。A_cover は被覆面積(概算で床面積×2.5)、I は日射 (W/m²)、τ は実効透過率。

$$Q_{transp} = q_{tr} \cdot A, \qquad E_{annual} \approx \max(Q_{net},0) \cdot 24 \cdot 90$$

作物蒸散による潜熱冷却(q_tr:W/m²)と、冬期 90 日の暖房エネルギー概算(MWh)。係数は地域・運転条件で調整。

温室のエネルギー収支 — 日射・透過・蒸散・暖冷房負荷

🙋
「温室」って、ガラスやビニールで囲って太陽光で温める箱、ですよね?冬でも暖かいのって、太陽だけで足りるんですか?
🎓
いいところに目をつけたね。確かにイメージはそうなんだけど、実務の農業ハウスでは「日射でもらう熱」と「被覆面から逃げる熱」「換気で逃げる熱」のバランスがとても重要なんだ。冬の朝、外気が 0〜5°C で室温を 20°C にしたい温室では、被覆面の U 値(熱貫流率)が暖房負荷の大半を決める。左のスライダーで外気温を 5°C → -5°C にしてみて、伝導損失がどれだけ増えるか見てごらん。
🙋
本当だ、外気温を下げただけで伝導損失と換気損失が一気に大きくなりました。被覆材を「二重ポリ」に変えたら半分くらいになりますね。
🎓
そう、それが二重被覆(エアハウス)の効果。ガラスや単層ポリは U=6〜8 だけど、二重ポリで 4.5、アクリル中空板で 4.0 まで下がる。寒冷地のオランダ型ハウスやイチゴ・トマト農家では、ヒートカーテン(夜間に内側に張る保温シート)と二重被覆を組み合わせて、暖房費を 30〜40% カットするのが定石なんだ。ただし透過率もちょっと落ちるから、冬の収量とのトレードオフで選ぶ。
🙋
「蒸散冷却」が冷房側に効いてるのが意外でした。作物って熱源じゃなくて、空気を冷やしてくれるんですね?
🎓
そうなんだ。トマトやキュウリの成熟した群落は、晴天時に 100〜200 W/m² ぶんの潜熱を蒸散で吸う。これは室容積に対しては馬鹿にできなくて、夏の温室では「日射の半分くらいが蒸散冷却で相殺される」イメージ。だから昼間の冷房は「換気+遮光カーテン+ミスト(fogging)+蒸散」の合わせ技で勝負する。逆に冬の夜、作物が蒸散しない時間は加湿・除湿のバランスも変わってくる。
🙋
「年間暖房 MWh」って結局いくらかかるんですか?個人農家でも分かる数字でいうと。
🎓
デフォルト条件(1000m²ガラス・冬期 90 日)で 160 MWh くらいになる。これを A 重油換算すると約 16 kL、灯油なら同じくらい、価格にして 150〜200 万円規模。CO₂ 排出は 40 トン超。だから日本では「ヒートポンプ + 二重カーテン + 木質バイオマス」の組み合わせで暖房費を半減する補助事業が走っている。NASA の Veggie/Advanced Plant Habitat(宇宙)、Plantagon や Mirai の垂直農法(都市)、オランダ Westland のガラス温室クラスタなど、世界中で「光と熱と CO₂ の最適化」が研究されているよ。

よくある質問

温室の正味熱負荷は Q_net = Q_cond + Q_vent - Q_solar + Q_transp で求めます。Q_cond = U·A_cover·ΔT は被覆面の伝導損失、Q_vent = 0.34·V·n·ΔT は換気損失(V:室容積 m³、n:換気回数 1/h)、Q_solar = I·A·τ は日射ゲイン、Q_transp は作物蒸散による潜熱冷却です。Q_net が正なら暖房が必要、負なら冷房・換気が必要になります。本ツールは床面積・被覆材・外気温・日射・換気回数・蒸散負荷から各項を実時間で計算します。
代表的なU値はガラス 6.0 W/m²K、単層ポリエチレン 8.0、二重ポリ 4.5、アクリル 4.0 程度です。単層ポリから二重ポリに変えるだけで伝導損失が約 44% 減り、暖房費もほぼそれに比例して下がります。一方で透過率(τ)はガラス 0.85、二重ポリ 0.70 と日射取得が少し落ちるため、冬の収量と暖房費のバランスで選びます。寒冷地ではエアハウス(二重膜)やヒートカーテンが標準、暖地ではシンプルな単層ポリで日射を稼ぐ設計が多いです。
冬の最低換気は CO₂ や湿度の管理のために 0.5〜1.0 回/h、夏のピーク時には 30〜60 回/h まで上げます。換気損失は n に比例するため、暖房中は最小限に絞り、夏は天窓・側窓を全開にして外気導入で温度上昇を防ぎます。本ツールでは 0.1〜30 1/h で操作でき、n を上げると換気損失(kW)が増え正味熱負荷が変化します。CO₂ 施肥を行う場合は換気を増やすと CO₂ が逃げるため、ヒートポンプによる脱湿で換気を減らす設計が増えています。
作物は葉から水蒸気を放出する蒸散を行い、水の気化熱(約 2,450 kJ/kg)が空気から奪われるため室温が下がります。トマト・キュウリ等の成熟したハウス作物では晴天時に 80〜200 W/m² 相当の潜熱を吸収します。これは室容積に対しては小さくない冷房効果で、ミスト散布(pad-and-fan、fogging)と組み合わせると夏の温度上昇を 5〜10 K 抑えられます。ただし湿度も上がるため、蒸散冷却・換気・除湿のバランスが温室空調設計の核になります。

実世界での応用

大規模園芸ハウス(オランダ型・日本型):1〜10 ha 規模のガラスハウスや二重ポリハウスは、トマト・パプリカ・キュウリ・イチゴの周年生産で全国に普及しています。本ツールのような熱収支モデルは、設計段階で「暖房ボイラの容量」「ヒートカーテン枚数」「天窓面積」を決める基礎計算として使われ、運転段階では「外気予報から翌日の燃料消費を予測」する制御に展開されます。オランダのカスバ・トマト農家や、北海道・愛知のトマトハウスがこの考え方で運用されています。

植物工場・垂直農法(NASA Veggie / Plantagon / Mirai):完全人工光型の植物工場は太陽の代わりに LED で光合成有効光(PAR)を与え、温度・湿度・CO₂ を高精度に制御します。LED の電気の約 70% は最終的に熱になるため、本ツールの「日射ゲイン」を LED 投入電力に読み替えると、空調容量と省エネ設計に直結します。NASA の宇宙ステーション内の Veggie ユニット、スウェーデン Plantagon、日本の Mirai レタス工場などが代表例です。

FAO・JICA の途上国温室設計:FAO(国連食糧農業機関)は乾燥地・熱帯地域での簡易ハウス(ネットハウス、ローテク温室)の普及を進めています。蒸発冷却(pad-and-fan)・遮光ネット・自然換気の組み合わせで、夏場の温度上昇を 5〜10 K 抑えるのが基本設計。本ツールの「日射 → 蒸散冷却 → 換気」の流れを地域パラメータで回すと、現地のコスト・電力事情に合う温室仕様を素早く比較できます。

カーボンニュートラル農業の評価:農業温室は日本農業の燃料消費の大きな部分を占め、A 重油・LPG・電気の使用量と CO₂ 排出量の見える化が進んでいます。本ツールの「年間暖房 MWh × 排出原単位」で簡易に CO₂ を概算でき、ヒートポンプ転換・木質バイオマスボイラ導入・地中熱利用などの省エネ施策の効果試算に使えます。各地のスマート農業実証事業(農水省)でも同様のモデルが評価ツールとして用いられています。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「日射ゲインを過大評価する」こと。本ツールの Q_solar = I·A·τ は被覆面の透過率 τ を一定にした単純モデルです。実際の温室は (1) 朝晩は太陽高度が低くて反射率が上がる、(2) 隣接ハウスや構造材で遮蔽される、(3) 結露・粉塵で τ が 10〜20% 低下する、(4) 曇天・降雪で I 自体が日変動する、といった要素で日射取得は表示値より小さくなります。設計時は「ピーク日射の 70% 程度を実効値」として安全側で見るのが実務的です。冬の早朝に「日射でなんとかなる」と期待しすぎると、暖房遅延で作物が低温障害を起こします。

次に、「換気回数 n を 0 にすれば暖房負荷ゼロ」と思い込むこと。確かに本ツールでも n を最小にすれば換気損失は減りますが、実際の温室では (a) 葉面結露によるカビ・灰色かび病、(b) CO₂ 不足による光合成低下(密閉では 200 ppm 程度まで落ちる)、(c) 高湿度による蒸散停止と栄養障害、が同時に起きます。最低換気 0.5〜1.0 1/h は「燃料費を上げてでも作物のために確保する」必要条件で、ここを削ると収量が下がります。最近は除湿ヒートポンプで換気を絞りつつ湿度管理する技術が普及してきています。

最後に、「年間 MWh をそのまま電気代に換算する」こと。本ツールの年間暖房は冬期 90 日の平均負荷を 24h 連続で運転した上限値です。実際は (i) 日中は日射で暖房 OFF、(ii) ヒートカーテンで夜間損失を 30〜40% カット、(iii) ボイラ・ヒートポンプの効率(COP)が 0.9〜4.0 と幅広い、ので燃料消費は計算値の 50〜70% に収まることが多いです。一方で寒波の早朝には瞬間負荷が定格の 2〜3 倍に跳ね上がるため、ピーク負荷でボイラ容量を決め、年間消費は別途運転シミュレーションで詰めるのが定石です。本ツールの値は「相対比較・第一近似」として使い、コミット前には地域の気象データを使った時系列シミュレーション(DesignBuilder、Hortinergy 等)で再評価してください。

使い方ガイド

  1. 床面積(m²)、屋外気温(℃)、室内設定温度(℃)を入力します。標準的なトマト栽培ハウスは1,000m²、冬期屋外気温-5℃、設定温度20℃を目安とします。
  2. 日射量(W/m²)をスライダーまたは数値で設定します。晴天時は800W/m²、曇天時は300W/m²、夜間は0W/m²が目安です。
  3. シミュレータが透過日射熱・伝導損失・換気損失・蒸散冷却を自動計算し、正味熱負荷と年間暖房エネルギー(MWh)を表示します。

具体的な計算例

床面積2,000m²のキュウリハウス、屋外気温0℃、設定温度22℃、日射量500W/m²の場合:透過日射熱=900kW、伝導損失(ポリカ二重張りU値2.5W/m²K)=110kW、換気損失=60kW、蒸散冷却=45kW、正味熱負荷=185kW。12月~3月の120日間で日均暖房時間16時間運転すると年間暖房エネルギーは約355MWh。燃油ボイラー(効率85%)なら年間灯油消費量約42,000Lです。

実務での注意点

  1. ポリカーボネート被覆材のU値(伝導損失係数)は新品2.0~2.5W/m²Kですが、3年経過で2.5~3.0W/m²Kに低下するため定期的な更新が必要です。
  2. 換気損失は屋外気温と室内設定温度の差、および温室の気密性に依存します。サイドベント開度50%の場合は換気回数0.5回/hを想定してください。
  3. 蒸散冷却効果は作物の生育段階と相対湿度に連動します。着果期のトマトで相対湿度70%なら蒸散量は最大40~50kW程度です。
  4. 年間暖房エネルギー推定は平年値気象データ基準のため、異常低温年は30~40%増加する可能性があります。