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空調・HVAC

全熱交換器(ERV)効率シミュレーター

換気で捨てる室内空気の「熱」と「湿気」を、入ってくる外気に移して再利用する全熱交換器(ERV)の設計ツールです。外気条件・風量・顕熱効率・潜熱効率を変えると、給気の温度と湿度、回収できる熱量、空調負荷の削減率がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
外気温度 T_oa
°C
換気で取り込む外気の乾球温度
外気相対湿度 RH_oa
%
室内(還気)温度 T_ra
°C
空調で維持している室内の設定温度
室内相対湿度 RH_ra
%
風量 V
m³/h
換気の給気・排気の風量
顕熱効率 εs
%
温度(顕熱)を交換する性能
潜熱効率 εL
%
湿気(潜熱)を交換する性能
計算結果
給気温度 T_sa (°C)
給気絶対湿度 w_sa (g/kg)
顕熱回収 Q_s (kW)
潜熱回収 Q_l (kW)
全熱回収 Q (kW)
負荷削減率 (%)
全熱交換コア — 給排気の流れ

外気と還気がコア内で交差し、薄い仕切りを介して熱と湿気を受け渡します。外気は色(高温=赤/低温=青)で温度を表し、コアを通過して給気になります。

回収熱量 vs 顕熱効率 εs
熱回収の内訳(顕熱・潜熱・全熱)
理論・主要公式

$$T_{sa}=T_{oa}+\varepsilon_s\,(T_{ra}-T_{oa}), \qquad w_{sa}=w_{oa}+\varepsilon_L\,(w_{ra}-w_{oa})$$

ERV通過後の給気温度 T_sa と給気絶対湿度 w_sa。εs:顕熱効率、εL:潜熱効率。効率1で給気=室内条件、効率0で給気=外気となる。

$$Q=\dot m\,c_p\,\Delta T+\dot m\,h_{fg}\,\Delta w,\qquad \dot m=\rho\,V$$

回収熱量 Q は顕熱項(温度差 ΔT)と潜熱項(絶対湿度差 Δw)の和。m゙は質量流量、ρ:空気密度(1.2 kg/m³)、cp:比熱(1005 J/kgK)、hfg:水の蒸発潜熱(2.5×10⁶ J/kg)。

$$w=\frac{0.622\,p_v}{P-p_v},\qquad p_v=\frac{RH}{100}\,p_{sat},\qquad p_{sat}=611.2\,e^{\frac{17.62\,T}{243.12+T}}$$

マグナス式による絶対湿度(湿り空気の水分量)w の換算。pv:水蒸気分圧、psat:飽和水蒸気圧、P:大気圧(101325 Pa)。顕熱は温度、潜熱は湿気のやり取りに対応する。

全熱交換器(ERV)とは

🙋
「全熱交換器」って、ビルや住宅の換気でよく聞く言葉ですけど、普通の換気扇と何が違うんですか?
🎓
ざっくり言うと「もったいない換気をやめる装置」だよ。普通の換気扇は、夏なら冷房で冷やした室内の空気をそのまま外へ捨てて、代わりに蒸し暑い外気をそのまま室内に入れる。せっかく作った冷たさを丸ごと捨てているんだ。全熱交換器(ERV)は、出ていく空気と入ってくる空気を装置の中ですれ違わせて、薄い仕切り越しに「熱」と「湿気」を移す。これで外気はあらかじめ室内に近い状態まで「下ごしらえ」されてから入ってくるんだ。
🙋
熱だけじゃなく湿気も移すんですか?「顕熱効率」と「潜熱効率」が別々にあるのはそのためですね。
🎓
そうなんだ。空気が持っているエネルギーは2種類あって、温度に対応する「顕熱」と、水蒸気に対応する「潜熱」がある。温度だけ交換するのが顕熱交換器(HRV)、湿気まで交換するのが全熱交換器(ERV)。日本の夏は外気が高温多湿だから、空調機が一番苦労するのは実は「湿気を取る」仕事なんだ。左の外気相対湿度を上げてみて。潜熱回収 Q_l がぐっと増えるのが分かるはずだよ。湿度の高い気候ほどERVの恩恵が大きい。
🙋
なるほど。効率を上げれば上げるほど省エネになりますよね?εs を 95% まで上げてみたら回収熱量がすごく増えました。
🎓
理屈の上ではそのとおり。給気温度 T_sa = T_oa + εs(T_ra − T_oa) を見ると、εs が1に近いほど給気は室内温度そのものに近づく。下の「回収熱量 vs 顕熱効率」グラフを見れば、効率と回収量がほぼ比例して伸びるのが分かる。ただ実務では、効率を高くするほどエレメントを大きく・流路を狭くする必要があって、ファンの圧力損失が増えて消費電力が上がる。だから「熱回収で得した分」と「ファンで損した分」を天秤にかけて、だいたい顕熱効率70〜80%あたりが現実的な落としどころになることが多いんだ。
🙋
「負荷削減率」っていうのも出ていますね。これは何を表しているんですか?
🎓
これは「ERVがなかったら空調機が処理しなければならなかった換気負荷のうち、何%をERVが肩代わりしてくれたか」を表す数字だよ。例えば外気を室内条件まで処理するのに 10 kW 必要なところ、ERVが 7 kW 回収してくれたら削減率は70%。空調機が実際に処理するのは残りの3kWで済む。これが冷房・暖房の電気代に直結する。中間期みたいに外気と室内の差が小さいときは回収量そのものが小さくなるから、実機には「外気をそのまま使うバイパスモード」が付いていて、季節で賢く切り替えているんだ。
🙋
冬はどうなるんですか?暖房のときも役に立ちますか?
🎓
もちろん役に立つよ。左の外気温度を 0°C くらいに下げて、室内を 22°C にしてみて。今度は暖かい室内空気の熱を、冷たい外気に移す方向に働く。給気が外気より暖かくなるから、暖房負荷が減る。潜熱のほうも大事で、冬の乾燥した外気をそのまま入れると室内がカラカラになるけど、ERVなら室内の湿気をある程度キープできる。ただし寒冷地では、排気の湿気がコア内で凍りつく「結露・凍結」が起きることがあって、デフロスト(霜取り)運転や予熱ヒーターで対策する。本ツールは凍結のない理想的な定常運転での上限性能を計算していると考えてね。

よくある質問

顕熱交換器(HRV)は給気と排気の間で「温度(顕熱)」だけを交換します。全熱交換器(ERV)はそれに加えて「湿度(潜熱)」も交換します。日本の夏のように外気が高温多湿なときは、湿気の処理に必要なエネルギー(潜熱負荷)が空調負荷の半分近くを占めることがあり、潜熱まで回収できるERVのほうが省エネ効果が大きくなります。一方、過乾燥が問題になる寒冷地の冬は、ERVが室内の湿気を逃がさず保つ利点があります。本ツールは顕熱効率 εs と潜熱効率 εL を別々に入力し、両方の回収量を計算します。
ERVを通過した後の給気温度は T_sa = T_oa + εs(T_ra − T_oa) で求めます。T_oa は外気温度、T_ra は室内(還気)温度、εs は顕熱効率です。給気の絶対湿度は同様に w_sa = w_oa + εL(w_ra − w_oa) で、εL は潜熱効率です。効率が 100% なら給気は室内空気とまったく同じ状態になり、0% なら外気そのままが入ってきます。本ツールは相対湿度から絶対湿度(湿り空気の水分量)をマグナス式で換算してから計算します。
回収熱量は、ERVが「外気を室内側に近づけたことで肩代わりした熱量」です。顕熱回収 Q_s は温度差から、潜熱回収 Q_l は絶対湿度差から計算し、その合計が全熱回収 Q です。空調負荷削減率は、ERVがない場合に外気をすべて空調機で室内条件まで処理する負荷 Q_full に対し、ERVが回収した Q が何%にあたるかを示します。理想的にはこの削減率は顕熱・潜熱の平均効率に近い値になります。
外気と室内の状態が近いとき(中間期・春や秋)は、そもそも回収すべき温度差・湿度差が小さいため、ERVの絶対的な回収熱量は小さくなります。このときは外気冷房(外気をそのまま使う)のほうが有利なため、実機にはバイパス機能が付いています。また、ファンの消費電力に対して回収熱量が見合わない、結露・凍結でエレメントが詰まる、フィルタ清掃を怠って風量が落ちる、といった運用面の問題でも効果は下がります。本ツールは理想的な定常運転を前提とした上限値を示します。

実世界での応用

オフィスビル・商業施設の空調:大規模建物では、法規(建築基準法・ビル管理法)で定められた必要換気量を確保しつつ、空調エネルギーを抑える必要があります。全熱交換器は外調機(外気処理空調機)と組み合わせて使われ、特に在室人数が多く湿度負荷の大きい会議室・店舗・飲食店で効果を発揮します。設計では必要換気量から風量を決め、外気条件のピーク(夏の設計外気・冬の設計外気)で回収熱量を見積もります。

住宅の24時間換気:シックハウス対策で住宅にも常時換気が義務付けられており、熱交換型の換気システムが省エネ住宅・ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)で標準的に採用されています。気密性の高い住宅ほど、換気で出入りする熱の割合が大きくなるため、ERVの効果が相対的に大きくなります。寒冷地では凍結対策、温暖地では夏の潜熱回収が選定のポイントです。

クリーンルーム・病院・データセンター:厳密な温湿度管理が求められる施設では、大量の外気を導入しながら室内条件を維持するため、空調負荷が非常に大きくなります。全熱交換器で外気を予冷・予熱・予除湿することで、メインの空調設備の容量と運転コストを下げられます。ただし汚染区域との交差汚染を避けるため、排気が給気に漏れないリーク率の管理が重要になります。

省エネ診断・LCC評価:建物の省エネ改修やライフサイクルコスト(LCC)評価では、ERV導入による年間の冷暖房エネルギー削減量を試算します。本ツールのような定常計算で代表的な外気条件における回収熱量を求め、それを年間の気象データ(時別の外気温湿度)で積算すると、年間削減量と投資回収年数の概算ができます。詳細な評価には動的な熱負荷計算ソフトを用います。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「カタログの交換効率がそのまま現場で出ると思い込む」ことです。カタログの顕熱効率・潜熱効率は、規定の標準風量・標準温湿度条件で測定した値です。実際には風量を増やすと交換効率は下がり(空気がコアを速く通り抜けるため)、給気と排気の風量バランスが崩れても効率は低下します。さらにフィルタの目詰まりで風量が設計値からずれると、性能も設計どおりには出ません。本ツールの計算は入力した効率がそのまま成立する理想状態なので、実機ではこの値より低めに見積もるのが安全です。

次に、「潜熱は無視してよい」という誤解。乾燥した地域や冬だけを考えると潜熱の影響は小さく見えますが、日本の夏のように高温多湿な気候では、外気を除湿する潜熱負荷が顕熱負荷と同等かそれ以上になることがあります。顕熱だけ回収して潜熱を回収しないと、せっかく温度を下げても給気が湿ったままで、空調機の除湿負荷が残ってしまいます。本ツールで外気相対湿度を上げると潜熱回収 Q_l が大きく変わることから、湿度の高い条件では潜熱の寄与が無視できないことが分かります。気候に応じて顕熱型(HRV)と全熱型(ERV)を使い分ける判断が必要です。

最後に、「ファンの消費電力を勘定に入れない」こと。ERVは熱交換コアを空気が通る分だけ圧力損失が増え、その分ファンの消費電力が増えます。回収できる熱量が大きくても、ファン動力の増加分がそれを食いつぶしてしまえば、トータルの省エネにはなりません。特に中間期で外気と室内の差が小さいときは、無理にERVを通すよりバイパスして外気をそのまま使う(外気冷房)ほうが省エネになります。実際の省エネ性は「回収熱量 − 増加したファン動力」で評価し、運転モードを季節で切り替える前提で設計してください。本ツールは熱回収側のみを扱うため、ファン動力は別途検討する必要があります。

使い方ガイド

  1. 外気温度(toaNum)と外気相対湿度(rhoaNum)を入力。例:冬季-5°C、60%RH
  2. 室内温度(traNum)と室内相対湿度(rhraNum)を設定。例:室温22°C、45%RH
  3. 設計風量(風量範囲スライダー)を0.1~1.0m³/sの範囲で選択
  4. シミュレーター実行で給気温度T_sa、給気絶対湿度w_sa、顕熱回収Q_s、潜熱回収Q_lをリアルタイム計算
  5. 空調負荷削減率(%)と全熱回収Q_totalで熱回収性能を評価

具体的な計算例

冬季換気シナリオ:外気-10°C・50%RH、室内22°C・40%RH、風量0.5m³/s、交換器顕熱効率78%・潜熱効率65%の場合、給気温度T_saは約14.4°C、給気絶対湿度w_saは2.8g/kg、顕熱回収Q_s=5.2kW、潜熱回収Q_l=1.8kW、全熱回収6.0kWで空調負荷削減率は約35%に達します。夏季冷房時(外気35°C・70%RH、室内26°C・50%RH、風量0.6m³/s)では給気温度28.5°Cまで低下し、冷房負荷を3.4kW削減できます。

実務での注意点