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化学工学

ヘンリーの法則 — 気体溶解度シミュレーター

水にどれだけの気体が溶けるかを、ヘンリーの法則で計算するツールです。気体の種類・分圧・水温・液量を変えると、溶解濃度や溶けた気体の総量がリアルタイムで分かり、炭酸飲料や溶存酸素のしくみを直感的に理解できます。

パラメータ設定
気体
ヘンリー定数 k_H とモル質量 M を自動設定
気体の分圧 P
kPa
液面上のその気体の分圧。大気圧は約101kPa
水温 T
温度が上がるほど気体は溶けにくくなる
液量(水)V
L
溶解した気体の総量の計算に使う
計算結果
ヘンリー定数 k_H(T) (mol/(L·kPa))
溶解濃度 (mol/L)
質量濃度 (mg/L)
溶解した気体の総量 (mg)
25℃比の溶解度 (×)
溶けやすさの判定
気液平衡 — 気体の溶解アニメーション

上の気相に分圧 P の気体分子、下の液相に溶けた気体分子を描きます。界面を行き来する分子は平衡状態を表し、密度は分圧と溶解濃度に対応します。

溶解濃度 vs 分圧
溶解度 vs 水温
理論・主要公式

$$C=k_H\,(T)\cdot P,\qquad k_H(T)=k_H(298)\,\exp\!\left[C_{vH}\left(\frac{1}{T}-\frac{1}{298}\right)\right]$$

気体の溶解濃度 C はその気体の分圧 P に比例する(ヘンリーの法則)。比例定数 k_H は気体ごとに異なり、温度 T の上昇とともに小さくなる(溶解度が下がる)。

$$T=t_{\,^\circ\!C}+273.15,\qquad C_{\text{mass}}=C\cdot M\cdot 1000$$

T:絶対温度 [K]、M:気体のモル質量 [g/mol]。質量濃度 C_mass は mg/L、溶解した気体の総量は質量濃度に液量 V を掛けて求める。

ヘンリーの法則とは

🙋
「ヘンリーの法則」って名前は聞いたことがあるんですが、ざっくり言うと何の法則なんですか?
🎓
ざっくり言うと「気体が水にどれだけ溶けるか」を決める法則だよ。ポイントは1つだけ。平衡状態では、水に溶ける気体の濃度は、その気体が水面を押している圧力——分圧——に正比例する。式にすると C = k_H·P。だから分圧を2倍にすれば、溶ける量も2倍。すごくシンプルだろう?
🙋
分圧に比例するだけなんですね。じゃあ気体の種類は関係ないんですか?
🎓
いや、そこが面白いところで、比例定数の k_H が気体ごとに全然違うんだ。左で気体を切り替えてみて。同じ100kPaでも、CO₂ は1リットルに千数百 mg 溶けるのに、酸素や窒素は数 mg〜十数 mg しか溶けない。CO₂ は水と弱く反応して炭酸になるからよく溶ける。逆に窒素みたいに水になじまない気体はほとんど溶けないんだ。
🙋
水温のスライダーを上げると溶解度がどんどん下がっていきます。温めると溶けにくくなるんですか?
🎓
そう、ここが固体と逆なんだ。砂糖は温めると溶けやすくなるけど、気体は温めると溶けにくくなる。気体が水に溶けるのは発熱反応だから、温度を上げると平衡が「溶けない側」に動く。だから夏の川や湖は溶存酸素が減って魚が酸欠になりやすい。お湯を沸かすと小さな泡が先に出てくるのも、温まった水が溶けていた空気を吐き出しているからだよ。
🙋
なるほど!炭酸飲料を開けると泡が出るのも、これで説明できますか?
🎓
まさにヘンリーの法則の代表例だね。炭酸飲料は工場で2〜4気圧の高い CO₂ 分圧の下で水に CO₂ を押し込んである。栓を開けた瞬間、液面上の CO₂ 分圧が大気レベルまで一気に落ちる。すると C = k_H·P で溶解度も落ちて、溶けきれない CO₂ が泡になって抜けていく。これが「シュワッ」だ。しかも温いとさらに k_H が小さいから、ぬるい炭酸はあっという間に気が抜けるんだ。
🙋
身近すぎてびっくりです。工学の現場でもこの法則は使うんですか?
🎓
よく使うよ。炭酸飲料の充填装置の設計、排ガスから有害ガスを水に吸収させる吸収塔(スクラバー)、ボイラー給水の脱気、それにダイバーの減圧症——急浮上で血中の窒素が泡になるあれ——も全部ヘンリーの法則で説明できる。「気体がどれだけ溶けるか・どれだけ抜けるか」を扱う場面なら、まずこの法則から考える、というくらい基本の道具なんだ。

よくある質問

ヘンリーの法則は「一定温度では、液体に溶ける気体の濃度はその気体の分圧に比例する」という法則です。式で書くと C = k_H·P で、C は溶解濃度、P は液面上の気体の分圧、k_H はヘンリー定数(溶解度定数)です。分圧を2倍にすれば溶解濃度も2倍になります。比例定数 k_H は気体ごとに大きく異なり、温度が上がると小さくなります。
気体が液体に溶ける反応は発熱反応のため、温度が上がると溶解度は下がります。本ツールでは van't Hoff 形の式 k_H(T)=k_H(298)·exp[C_vH(1/T−1/298)] で温度補正をしています。例えば CO₂ では 0℃ の k_H は 25℃ の約2倍、80℃ では約4分の1になります。夏に川や湖の溶存酸素が減って魚が酸欠になりやすいのも、温めて開封した炭酸飲料がすぐ気が抜けるのも、この温度依存性が原因です。
炭酸飲料は工場で高い CO₂ 分圧(おおむね 2〜4 気圧)の下で水に CO₂ を溶け込ませています。栓を開けると液面上の CO₂ 分圧が一気に大気レベルまで下がるため、ヘンリーの法則に従って溶解度も下がり、溶けきれなくなった CO₂ が気泡として抜けていきます。これが「シュワッ」という発泡です。温かい飲料ではさらに k_H が小さく、より速く気が抜けます。
25℃の水では、CO₂ のヘンリー定数は O₂ の約26倍、N₂ の約52倍も大きく、CO₂ ははるかによく溶けます。同じ分圧でも、CO₂ は1リットルあたり数百〜千数百 mg 溶けるのに対し、O₂ や N₂ は数 mg〜十数 mg しか溶けません。これは CO₂ が水と弱く反応して炭酸を作るためで、極性の小さい O₂・N₂・CH₄ は水になじみにくく溶けにくいのです。

実世界での応用

飲料・炭酸化(カーボネーション):炭酸飲料やビール、スパークリングウォーターの製造では、冷やした水や原液に高い CO₂ 分圧をかけて溶解度を高めます。ヘンリーの法則から、目標の炭酸ガス量(ガスボリューム)を得るために必要な圧力と温度を逆算します。低温ほど k_H が大きく溶けやすいため、炭酸化は必ず冷却しながら行うのが定石です。

環境・水処理:河川や湖沼、養殖池の溶存酸素量(DO)は魚介類の生存に直結します。水温が上がると O₂ の溶解度が下がるため、夏場や温排水の流入で酸欠(貧酸素水塊)が起きやすくなります。曝気(エアレーション)装置の設計でも、ヘンリーの法則で「その水温・圧力で酸素がどこまで溶けるか」を見積もります。

ガス吸収塔・スクラバー:化学プラントや発電所では、排ガス中の CO₂・SO₂・アンモニアなどを水や吸収液に溶かして除去する吸収塔を使います。ヘンリー定数が大きい(よく溶ける)ガスほど低い液量で除去でき、塔の高さや循環水量の設計に直結します。逆に溶けにくいガスには化学反応を併用した化学吸収が必要になります。

潜水と減圧症:ダイバーが深く潜ると周囲圧が高くなり、ヘンリーの法則に従って血液や組織に溶け込む窒素量が増えます。急浮上すると圧力が急減し、溶けきれない窒素が血中で気泡となって減圧症(潜水病、「ベンズ」)を起こします。減圧停止を挟みながらゆっくり浮上するのは、気体をゆっくり抜いて気泡化を防ぐためです。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「全圧と分圧を混同する」誤解です。ヘンリーの法則で効くのは、その気体「単独」の分圧であって、混合気体の全圧ではありません。空気は約78%が窒素、約21%が酸素なので、大気圧101kPa下でも酸素の分圧は約21kPa、窒素は約79kPaです。水に溶ける酸素量を計算するときは、全圧101kPaではなく分圧21kPaを使わないと、実際の約5倍も多い誤った値が出てしまいます。本ツールでは入力した分圧をそのまま使うため、対象の気体の分圧を正しく入れてください。

次に、「ヘンリーの法則はどんな圧力・濃度でも成り立つ」という思い込み。この法則は、気体が液体に「物理的に溶解する」だけの、希薄な領域でよく成り立つ近似です。圧力が非常に高い場合や、CO₂ が水と反応して炭酸・重炭酸イオンになるような化学平衡が絡む場合、また気体が液体に大量に溶ける高濃度域では、比例関係から外れます。本ツールの CO₂ も、物理溶解分のヘンリー定数を用いた目安であり、pH が大きく動く条件での厳密な化学種分布までは扱いません。

最後に、「ヘンリー定数は1つの値」だと思わないこと。ヘンリー定数には、溶解度として表す形(k_H = C/P)と、揮発しやすさとして表す形(k_H = P/C、単位は圧力÷濃度)があり、文献によって定義も単位も逆になっていることが珍しくありません。値を引用するときは、必ず定義と単位、そして基準温度(多くは298.15K=25℃)を確認してください。本ツールは k_H = C/P の形(mol/(L·kPa))を採用し、van't Hoff 式で温度補正しています。

使い方ガイド

  1. 分圧スライダーで気体の分圧を0〜200 kPa範囲で設定します。酸素濃度測定では約21 kPa、炭酸ガス調整では5〜40 kPaが典型値です
  2. 温度スライダーで0〜40℃を指定します。水温が低いほどヘンリー定数が減少し、同じ分圧でも溶解度が増加します
  3. 液量スライダーで100〜1000 mLの水量を設定し、実際に溶解する気体の総質量を計算します
  4. リアルタイム計算により、モル濃度・質量濃度・25℃比の相対溶解度が自動更新されます

具体的な計算例

20℃の水1 L中に酸素21.3 kPa分圧を吹き込む場合、ヘンリー定数k_H = 0.00129 mol/(L·kPa)を用いると、溶解濃度 = 0.00129 × 21.3 = 0.0275 mol/Lとなります。酸素分子量32 g/molを乗じると質量濃度は0.88 mg/L、総溶解量は0.88 mgです。同じ条件で炭酸ガス10 kPa吹き込みの場合、k_H = 0.0338 mol/(L·kPa)から溶解濃度は0.338 mol/L、質量濃度は14.9 mg/Lとなり、酸素より約17倍溶けやすくなります

実務での注意点