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電子熱設計・照明工学

LED ジャンクション温度シミュレーター

高出力 LED の順電流・順電圧・熱抵抗ネットワーク(JC + CS + HA)からジャンクション温度 T_j を求め、Arrhenius 則で L70 寿命と効率低下を予測する熱設計ツールです。ヒートシンクや MCPCB のスペックを動かすと、T_j と寿命がリアルタイムに変化します。

パラメータ設定
順電流 I_F
mA
順電圧 V_F
V
発光効率
lm/W
25°C でのデータシート値(白色 LED の代表値は 100〜170 lm/W)
周囲温度 T_a
°C
R_thJC(ジャンクション→ケース)
K/W
LED パッケージ内部の熱抵抗。データシートに記載
R_thCS(ケース→ヒートシンク)
K/W
TIM(サーマルグリス・パッド)と MCPCB の合算
R_thHA(ヒートシンク→大気)
K/W
ヒートシンクとファン構成で決まる外部熱抵抗
目標寿命
hr
計算結果
総電力 (W)
熱発生量 (W)
総熱抵抗 (K/W)
ジャンクション温度 (°C)
予測寿命 (hr)
L70 寿命 (hr)
LED 熱経路可視化 — ダイ→パッケージ→ヒートシンク

ダイ・MCPCB・ヒートシンクと、その間の熱抵抗ネットワーク(R_thJC + R_thCS + R_thHA)を表示します。色は温度(青→緑→橙→赤)で、T_j が上がるほどダイが赤くなります。

寿命 vs ジャンクション温度(Arrhenius)
熱抵抗構成(R_thJC + R_thCS + R_thHA)
理論・主要公式

$$T_j = T_a + P_{thermal} \cdot R_{th,total},\quad L_{70} = 0.7 \cdot L_{ref} \cdot 2^{(T_{ref}-T_j)/10}$$

T_j:ジャンクション温度(°C)、T_a:周囲温度、P_thermal = P_total − P_optical:ジャンクションで発生する熱(W)、R_th,total = R_thJC + R_thCS + R_thHA:直列熱抵抗(K/W)、L_ref:参照寿命(85°C で 50,000 hr)。寿命は Arrhenius 則で T_j が 10°C 下がるごとに 2 倍になる近似モデルを採用しています。

LED ジャンクション温度と熱抵抗・寿命設計

🙋
LED って「球切れしない」って聞いてたんですけど、ヘッドライトとか街路灯では普通に交換してますよね。あれって寿命があるってことですか?
🎓
いいところに気づいたね。LED は白熱電球のように「フィラメントが切れて真っ暗」にはならないんだ。代わりに、何千時間も使っていると徐々に暗くなっていく。これが「光束維持率の低下」で、業界では初期光束の 70% まで落ちた時間を L70 と呼んで、これを実質的な寿命にしているんだ。LED は球切れじゃなく「暗くなって寿命」と覚えてくれるといいよ。
🙋
L70 ってその「暗くなる」までの時間なんですね。じゃあ何を変えると暗くなるのが遅くなるんですか?スライダーをいじると寿命が劇的に変わって面白いです。
🎓
そう、寿命を一番大きく決めているのが「ジャンクション温度 T_j」だ。これは LED の半導体ダイそのものの温度のこと。経験則として T_j が 10°C 下がると寿命はほぼ 2 倍、10°C 上がると半分になる。これは Arrhenius 則と呼ばれて、本ツールでも L = L_ref · 2^((85 − T_j)/10) でモデル化している。だから、ヒートシンクで T_j を 10°C 下げられれば、設計寿命がガラッと倒れるくらい変わるんだよ。
🙋
なるほど。じゃあ T_j ってどうやって計算するんですか?電源を入れた瞬間に直接測れるわけじゃないですよね。
🎓
電気回路の「電圧 = 電流 × 抵抗」とまったく同じ式が成り立つんだ。「温度差 = 熱 × 熱抵抗」だね。LED が消費した電力のうち、光に変換できなかった分(熱発生量 P_thermal)が、半導体ダイから外の空気まで「熱抵抗」を直列に通って逃げていく。具体的には R_thJC(ダイ→ケース)、R_thCS(ケース→ヒートシンク)、R_thHA(ヒートシンク→大気)の 3 つの直列で、合計を R_th_total としたとき、T_j = T_a + P_thermal × R_th_total。デフォルト値の I=350 mA、V=3.2 V、効率 130 lm/W、各 R_th=5 + 0.3 + 3 で計算すると、P_total = 1.12 W、P_thermal ≈ 0.91 W、T_j = 25 + 0.91 × 8.3 ≈ 32.5°C になる。これがツールが返す値だよ。
🙋
電気回路と同じ考え方だったんですね!じゃあヒートシンクを大きくして R_thHA を下げれば、T_j が下がって寿命が伸びる、ってことですか?
🎓
そのとおり。実際に右パネルの R_thHA を 3 K/W から 1 K/W に下げてみてほしい。T_j が一気に下がって、予測寿命が桁で伸びるのが見える。ただし注意点もあって、まず R_thJC は LED のパッケージで決まる固定値で、ユーザー側では下げられない。だから R_thCS(サーマルグリスや MCPCB)と R_thHA(ヒートシンク)の改善が現実的な手段になる。あと、自動車のヘッドライトみたいに周囲温度 T_a が 60〜85°C にもなる用途では、いくらヒートシンクを大きくしても T_j を下げきれない。そういう場合は I_F を 70% 程度にディレーティングして P_thermal 自体を下げる、というのが王道だね。
🙋
熱抵抗の中で R_thJC は変えられない、というのは盲点でした。発光効率はどう関係しますか?効率が高いほど熱が減って T_j も下がる、で合ってますか?
🎓
原理的にはそのとおり。本ツールでは P_optical = P_total × (η/683) で光出力を近似していて、η が大きいほど熱に回る割合が減る。最新の白色 LED は 200 lm/W を超えるものもあって、5 年前と比べて熱負荷が大幅に下がっている。さらに本ツールは効率自体も T_j 上昇で 0.5%/°C 程度低下するモデルにしているので、熱設計をサボると「効率低下 → さらに熱増加 → 寿命短縮」の悪循環になる。Cree XLamp や Lumileds Luxeon の高出力品、植物工場の栽培用 LED、屋外照明や Micro-LED ディスプレイなど、熱密度が高い用途ほど、この T_j 管理が品質の決定要因になるよ。

よくある質問

ジャンクション温度 T_j は周囲温度 T_a に「熱発生量 P_thermal × 全熱抵抗 R_th_total」を足して求めます。式は T_j = T_a + P_thermal · R_th_total。P_thermal は LED が入力電力のうち光に変換できなかった熱(P_total − P_optical)で、R_th_total は R_th-JC(ジャンクション→ケース)+ R_th-CS(ケース→ヒートシンク)+ R_th-HA(ヒートシンク→大気)の直列和です。本ツールは I_F・V_F・効率・各熱抵抗を入力すると T_j と寿命を即時に算出します。
LED の劣化はパッケージ樹脂・蛍光体・接合層の化学反応で進み、これが Arrhenius 則に従うためです。本ツールでは経験則として、参照寿命 L_ref(85°C で 50,000 hr)から L_pred = L_ref · 2^((T_ref − T_j)/10) で寿命を推定しています。たとえば T_j を 85°C から 75°C に下げると寿命は約 2 倍、95°C に上げると約半分になります。L70(光束 70% 維持)はその 70%(係数 0.7 倍)として算出します。
L70 は初期光束の 70% まで低下する時間を指す、照明業界の標準的な寿命指標です。LED は球切れではなく徐々に暗くなるため、ENERGY STAR・LM-80・TM-21 などのガイドラインで L70 を性能寿命と定義しています。住宅用 LED 照明では一般に 25,000〜40,000 hr、屋外街路灯では 50,000 hr 以上の L70 を要求されることが多く、本ツールの「予測寿命」と「L70 寿命」を T_j とともに確認して設計目標と比較します。
(1) フィン面積を増やす(フィン枚数・高さ・厚さの最適化)、(2) 自然対流から強制対流(ファン)に切り替える、(3) 表面を陽極酸化や黒色塗装にして輻射放熱を増やす、(4) ヒートパイプやベイパーチャンバーで熱を素早く拡散させる、の 4 つが基本です。アルミ押出フィンの場合、自然対流で 3〜5 K/W、ファン付きで 0.5〜1 K/W が一つの目安。R_thHA を 3 K/W から 1.5 K/W に下げると、本ツールでも T_j が大きく下がり寿命が指数関数的に伸びるのが確認できます。

実世界での応用

自動車ヘッドライト・テールランプ:エンジンルームの周囲温度は 60〜85°C と過酷で、走行風が当たらない停車中はさらに 10°C 以上上がります。Cree XLamp や Lumileds Luxeon の 1〜10 W 級 LED を多灯使うため、本ツールのように T_j がカットオフ温度(多くは 125°C)を超えないか、信号待ち時の最悪条件で検証します。ディレーティングカーブに沿って I_F を 70〜80% に絞る設計が一般的です。

屋外照明・街路灯・スポーツ照明:L70 = 50,000 hr(一晩 12 時間点灯で 11 年強)を要求されることが多く、ENERGY STAR や DLC の基準にも組み込まれています。アルミ押出フィン+自然対流のヒートシンクで R_thHA を 1〜2 K/W に抑え、本ツールのように T_j を 70°C 程度に保つことで、保守費用の高い屋外灯具を長寿命化します。

植物工場・栽培用 LED(特に高 PPFD):イチゴ・レタスの完全人工光型植物工場では、PPFD 300〜600 μmol/m²/s を確保するため LED 密度が高くなります。赤色・青色・遠赤色 LED を 24 時間近く点灯するため、ヒートシンク不足は数千時間で照度低下を招き、収量に直結します。本ツールの L70 寿命と R_thHA を合わせて計画することで、栽培期間中の光量を一定に保てます。

Micro-LED・UV LED・レーザー照明の熱設計:ピクセル密度の高い Micro-LED ディスプレイや、医療・水殺菌用の UV-C LED(殺菌波長 265 nm)は熱密度が極端に高く、R_thJC が 3〜5 K/W でもダイ温度が局所的に 150°C を超えます。サブマウントへの直接ボンディングや銅ベース MCPCB、ベイパーチャンバーといった先端実装で R_thCS を 0.1 K/W 以下に詰めるのが必須で、本ツールはその効果の概算に活用できます。

よくある誤解と注意点

第一の落とし穴は、「ケース温度 T_c が低ければジャンクション温度 T_j も低い」と思い込むこと。データシートに記載されている T_c は LED パッケージ底面の温度で、実際のダイ温度 T_j はそこに P_thermal × R_thJC を足した値です。本ツールでは T_c と T_j を別の数値として出していますが、R_thJC が 5〜15 K/W ある高出力 LED では、T_c = 60°C のときに T_j が 80〜100°C に達することがあります。寿命予測や効率推定は必ず T_j で行ってください。データシートの寿命表も、断らない限りすべて T_j 基準です。

第二の落とし穴は、「発光効率(lm/W)をデータシートの 25°C 値のまま使う」こと。本ツールでも効率は T_j 上昇に対して 0.5%/°C 程度低下するモデルにしていますが、実機ではこれ以上の低下も珍しくありません。とくに赤色 LED は青色より温度依存性が大きく、85°C で 20% 以上効率が落ちる製品もあります。RGB 混色の照明では、温度上昇によって赤の比率だけが下がり、色温度が高い方向にずれるという問題もよく起きます。色管理が必要な用途では、データシートの「Junction temperature vs Luminous flux」グラフを必ず確認してください。

第三の落とし穴は、「サーマルグリスを厚く塗れば放熱がよくなる」と考えること。実際は逆で、TIM(サーマルグリスや放熱パッド)は薄く均一に塗るほど R_thCS が下がります。グリスの熱伝導率はアルミの 1/100 以下なので、厚さ 0.1 mm と 0.3 mm では R_thCS が 3 倍違うこともあります。MCPCB を基板にネジ止めする際は、推奨トルクで均一に締め、シリコングリスは「塗ったか塗らないか分からないくらい薄く」が正解です。本ツールで R_thCS を 0.3 K/W から 1.0 K/W に変えると、T_j がはっきり上昇するのが確認できます。

使い方ガイド

  1. LED順方向電流(mA)とジャンクション電圧(V)を入力します。例:自動車ヘッドライト用3W白色LEDの場合、700mA、3.2V
  2. 光束効率(lm/W)を設定します。一般的な高出力白色LEDは100~150lm/Wの範囲です
  3. 周囲温度(°C)、RthJC(接合-ケース熱抵抗)、RthCS(ケース-ヒートシンク熱抵抗)、RthHA(ヒートシンク-大気熱抵抗)を指定し、ジャンクション温度Tjとデバイス寿命を自動計算します

具体的な計算例

MCPCB基板上の高出力白色LED(順方向電流800mA、順方向電圧3.3V、効率130lm/W)を周囲温度25°Cで動作させる場合を想定します。総消費電力は2.64Wで、熱発生量は約1.96Wです。RthJC=3.5K/W、RthCS=0.8K/W(銅MCPCB使用時)、RthHA=2.0K/W(標準ヒートシンク装着時)とすると、総熱抵抗は6.3K/Wとなり、ジャンクション温度は約37.6°Cに算出されます。Arrhenius則によるL70寿命は約85,000時間と予測されます。これは栽培用LED照明や自動車補助光として十分な耐用年数です。

実務での注意点