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音響工学

スピーカーのThiele-Smallパラメータ シミュレーター

ムービングコイル型スピーカーユニットの「設計図」とも言えるThiele-Smallパラメータを計算するツールです。振動系の質量・サスペンションの柔らかさ・力係数などを変えると、共振周波数 fs・各種Q値・等価容積 Vas がリアルタイムで分かり、密閉箱とバスレフのどちらが向くかを判定できます。

パラメータ設定
振動系等価質量 Mms
g
コーン・ボイスコイル・付加空気質量の合計
サスペンションのコンプライアンス Cms
mm/N
エッジ+ダンパーの柔らかさ。大きいほど柔らかい
力係数 BL
T·m
磁束密度×ボイスコイル線長。モーターの強さ
ボイスコイル直流抵抗 Re
Ω
ボイスコイルの直流抵抗。電気的減衰に影響
振動板実効面積 Sd
cm²
コーンが空気を押す有効面積
機械抵抗 Rms
N·s/m
サスペンションの摩擦による機械的な損失
計算結果
共振周波数 fs (Hz)
電気的Q値 Qes
機械的Q値 Qms
総合Q値 Qts
等価容積 Vas (L)
推奨エンクロージャ
スピーカーユニット断面 — 振動アニメーション

コーン・サスペンション・磁気ギャップ内のボイスコイル・マグネットの断面図。コーンが前後に振動し、右上に fs での共振ピークを示す相対応答カーブを重ねて表示します。

低域応答 — 相対出力 vs 周波数
インピーダンス特性 — |Z| vs 周波数
理論・主要公式

$$f_s=\frac{1}{2\pi\sqrt{M_{ms}C_{ms}}},\qquad Q_{ts}=\frac{Q_{es}Q_{ms}}{Q_{es}+Q_{ms}}$$

共振周波数 fs(Mms:振動系等価質量、Cms:コンプライアンス)と総合Q値 Qts。Qts は電気的Q値 Qes と機械的Q値 Qms の合成です。

$$V_{as}=\rho_0 c^2\,S_d^{2}\,C_{ms}$$

等価コンプライアンス容積 Vas(ρ₀:空気密度、c:音速、Sd:振動板実効面積)。ρ₀c² ≈ 141855 Pa を用います。

$$Q_{es}=\frac{2\pi f_s M_{ms}R_e}{(BL)^2},\qquad Q_{ms}=\frac{2\pi f_s M_{ms}}{R_{ms}}$$

Qes:磁気回路とボイスコイルによる電気的減衰、Qms:サスペンションの摩擦による機械的減衰。Qts がエンクロージャ形式(密閉/バスレフ)を決めます。

Thiele-Smallパラメータとは

🙋
スピーカーの仕様表に「fs」とか「Qts」「Vas」って書いてあるのを見たんですけど、あれって何の数字なんですか?
🎓
それが「Thiele-Smallパラメータ」だよ。ざっくり言うと、スピーカーユニット1個の低音の出方を、ほんの数個の数字だけで完全に言い表したものなんだ。昔はスピーカーの箱(エンクロージャ)作りは職人の勘と試行錯誤だった。でも1960〜70年代にオーストラリアのThieleとSmallという2人の技術者が、ユニットの低音特性は数式で予測できると示した。fs・Qts・Vasはその「予測のための物差し」なんだよ。
🙋
数式で予測できるって、すごいですね。じゃあまず fs から教えてください。左で「振動系質量 Mms」を重くすると fs がどんどん下がっていきます。
🎓
いいところを触ったね。fs は、ユニットを箱に入れない「裸」の状態で勝手に共振する周波数だ。仕組みはバネにおもりをぶら下げた振り子と同じで、コーンの質量 Mms が「おもり」、サスペンション(エッジとダンパー)の柔らかさ Cms が「バネ」。fs = 1/(2π√(Mms·Cms)) だから、おもりを重くしてもバネを柔らかくしても fs は下がる。fs はそのユニットが単体で出せる一番低い音の目安なんだ。だからサブウーファーは Mms が重くて fs が低い。
🙋
なるほど。じゃあ Q値っていうのは何ですか? Qes、Qms、Qts と3つもあって混乱します。
🎓
Q値は「共振がどれくらい強く・しつこく続くか」を表す数字だと思えばいい。ブランコを押して手を離したとき、すぐ止まれば低Q、いつまでも揺れ続ければ高Qだ。スピーカーには共振を抑える「ブレーキ」が2種類ある。磁石とボイスコイルが効かせる電気的なブレーキが Qes、サスペンションの摩擦による機械的なブレーキが Qms。その2つを合わせた総合的な制動が Qts = (Qes·Qms)/(Qes+Qms) で、これがいちばん大事なんだ。
🙋
その Qts が大事っていうのは、何に効いてくるんですか?
🎓
Qts はそのユニットに「どんな箱が似合うか」を決めるんだ。Qts が低い(おおむね0.4未満)ユニットはよく制動されているから、バスレフ(ポートのある箱)に入れると低音が伸びる。Qts が中くらい(0.4〜0.7)なら密閉箱がきれいにまとまる。Qts が高い(0.7超)と、すごく大きな密閉箱か平面バッフルじゃないとうまく鳴らない。あと Vas はサスペンションの柔らかさを「同じ柔らかさの空気の体積」で言い換えた値で、密閉箱の容積を決める目安になる。fs・Qts・Vasの3つが分かれば、箱を1枚も切る前に低音特性が読めるんだよ。

よくある質問

Thiele-Small(ティーレ・スモール)パラメータは、ムービングコイル型スピーカーユニットの低域での挙動を完全に記述する、少数の電気・機械パラメータの集合です。1960〜70年代にオーストラリアの技術者 Neville Thiele と Richard Small が体系化しました。これらの数値が分かれば、ユニットを箱に入れる前に低音特性を方程式で予測できます。代表的なのは共振周波数 fs、総合Q値 Qts、等価コンプライアンス容積 Vas の3つで、本ツールはこれらを入力寸法から計算します。
fs は自由空間(箱に入れない状態)でユニット自身が持つ共振周波数です。振動系の等価質量 Mms とサスペンションのばね(コンプライアンス Cms)が作る機械的な共振で、fs = 1/(2π√(Mms·Cms)) で求まります。fs はそのユニットが単体で素直に出せる最も低い帯域の目安で、低音を狙うなら質量を重く、サスペンションを柔らかくして fs を下げます。ただし fs を下げると能率(音圧)は犠牲になります。
Qts は共振がどれだけ強く減衰しているかを表す無次元数で、電気的減衰 Qes と機械的減衰 Qms の合成 Qts = (Qes·Qms)/(Qes+Qms) で決まります。目安として Qts が約0.4未満ならよく制動されたユニットでバスレフ(位相反転)箱向き、0.4〜0.7なら密閉箱向き、0.7を超えると大型の密閉箱や平面バッフルが向きます。本ツールは Qts から推奨エンクロージャ形式を自動判定します。
Vas はサスペンションのばねの柔らかさを「同じばね定数を持つ空気の体積」で表したパラメータです。Vas = ρ₀c²·Sd²·Cms で計算し、本ツールではリットル単位で表示します。Vas が大きいほどサスペンションが柔らかいことを意味し、密閉箱に入れたときに必要な箱の容積の目安にもなります。一般に小口径ユニットは Vas が小さく、大口径や柔らかいサスペンションのユニットほど Vas が大きくなります。

実世界での応用

エンクロージャ(スピーカー箱)の設計:Thiele-Smallパラメータの最も基本的な用途です。ユニットの fs・Qts・Vas が分かれば、密閉箱なら必要な内容積を、バスレフ箱ならポートの寸法とチューニング周波数を、箱を試作する前に計算で決められます。スピーカー設計ソフト(WinISD、VituixCAD など)はすべて、入力としてこのパラメータを要求します。本ツールはその第一歩として、ユニット側の素のパラメータを把握するのに使えます。

スピーカーユニットの選定と比較:カタログには各社のユニットの T-S パラメータが必ず載っています。同じ口径でも fs が低く Vas が大きいユニットは小型バスレフでも低音が出しやすく、Qts が低いユニットはタイトで締まった低音になります。自作スピーカーやカーオーディオでユニットを選ぶとき、聴かずに数値だけで「このユニットはこういう箱に向く」と当たりがつけられます。

サブウーファーと低音再生の設計:サブウーファーは振動系を重くして fs を 20〜40 Hz まで下げ、強力なモーター(大きな BL)でしっかり制動するのが定石です。本ツールで Mms を重く、BL を大きくすると fs が下がり Qes が小さくなる様子が確認できます。ホームシアターやライブ用 PA の重低音設計では、この T-S パラメータの読み方が必須の知識になります。

故障診断・経年劣化の評価:長く使ったスピーカーはエッジが硬化・破れて Cms が変化し、fs がずれます。新品時と現状の fs・Qts を比較すれば、サスペンションの劣化を定量的に把握できます。修理やリコーン(コーンの張り替え)の前後で T-S パラメータを測定し、設計値どおりに戻ったかを確認するのも実務的な使い方です。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「Thiele-Smallパラメータは中高域の音質も表している」という誤解です。T-S パラメータが記述するのは、あくまでユニットが「ピストン運動」をする低域(おおむね 数十Hz〜数百Hz)の挙動だけです。コーンが分割振動を始める中高域の音色、指向性、歪み、解像感といった要素は T-S パラメータには一切含まれません。fs や Qts が良くても中高域がきれいとは限らず、逆も同様です。低音設計の道具と割り切って使ってください。

次に、「Mms は素のコーン質量と同じ」という思い込み。Mms(振動系等価質量)は、コーンとボイスコイルの実体質量だけでなく、コーンが押し引きする「付加空気質量(放射質量)」を含んだ等価質量です。低域の共振にはこの空気の質量も効くため、メーカー公称値は実体より重めになります。また Cms はサスペンションの「変位を加える前の柔らかさ」で、大振幅では非線形に硬くなります。本ツールは小振幅の線形領域を前提とした計算で、大入力時の挙動はこの限りではありません。

最後に、「箱に入れても fs や Qts は変わらない」という誤解。本ツールが計算する fs・Qes・Qms・Qts は、ユニットを自由空間に置いた「素」の値です。実際に密閉箱へ入れると、箱の中の空気がばねとして加わり、システムの共振周波数 fc は fs より高くなり、システムの Qtc も Qts より大きくなります。バスレフ箱ならさらに複雑な周波数特性になります。T-S パラメータはあくまで「ユニット単体」の出発点で、最終的な箱込みの特性はそこから別途計算する必要がある、という点を必ず押さえてください。

使い方ガイド

  1. 振動系質量Mms(g)を入力します。例えば8インチウーファーの場合、典型値は25~35g程度です。
  2. コンプライアンスCms(mm/N)を入力します。サスペンション特性で、値が大きいほど柔軟性が高くなります。
  3. 力係数BL(T·m)とボイスコイル抵抗Re(Ω)を入力し、計算ボタンをクリックするとfs・Qes・Qms・Qts・Vasが自動算出されます。

具体的な計算例

6.5インチミッドウーファーの例:Mms=18g、Cms=0.85mm/N、BL=8.2T·m、Re=6.3Ωを入力すると、fs=65Hz、Qes=0.38、Qms=5.2、Qts=0.35、Vas=38Lが得られます。この場合Qts=0.35は密閉型エンクロージャ向きで、高い沈み込み特性が期待できます。

実務での注意点