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核融合・プラズマ物理

核融合 トカマク Q値シミュレーター

D-T 核融合反応 (D+T→He-4+n+17.6 MeV) を磁場で閉じ込めるトカマク炉の Q 値・Lawson 三重積・IPB98 閉じ込め時間をリアルタイムに計算します。ITER 設計値(R=6.2m, a=2.0m, B=5.3T, T=15keV)で Q=10 / 点火条件を満たす感覚を体感でき、DEMO 商用炉の設計トレードオフを直感的に学べます。

パラメータ設定
電子密度 n_e
×10²⁰ m⁻³
中心電子密度。ITER は約 1.0×10²⁰ m⁻³ を目標
プラズマ温度 T
keV
イオン温度。1 keV ≈ 1.16×10⁷ K。15 keV は約 1.7 億 K
エネルギー閉じ込め時間 τ_E
s
熱エネルギーが 1/e に減衰する時間。H モードで稼ぐ核心指標
主半径 R
m
トーラスの中心軸からプラズマ中心までの距離。ITER=6.2m
副半径 a
m
プラズマ断面の半径。ITER=2.0m、DIII-D=0.67m
トロイダル磁場 B_T
T
ITER=5.3T (Nb₃Sn)、SPARC=12T (ReBCO 高温超伝導)
補助加熱 P_aux
MW
NBI+ECRH+ICRH の合計投入電力。ITER 計画は 50 MW
計算結果
反応率 <σv> (m³/s)
プラズマ容積 (m³)
核融合出力 P_fus (MW)
Q 値
Lawson 三重積 (m⁻³·keV·s)
IPB98 τ_E (s)
トカマク断面アニメーション — D 字形プラズマと α 粒子

超伝導コイルが作るトロイダル磁場の中で、D 字断面のプラズマが閉じ込められる様子。黄=α 粒子(He-4、3.5 MeV)、青=中性子(14.1 MeV)。Q メーターは現在の Q 値を示します。

D-T 反応率 <σv> vs 温度 T
Lawson 平面 — 三重積と各装置の運転点
理論・主要公式

$$P_{\text{fus}} = n_D\,n_T\,\langle\sigma v\rangle\,E_{DT}\,V,\qquad Q = \frac{P_{\text{fus}}}{P_{\text{aux}}},\qquad n\,T\,\tau_E \geq 3\times 10^{21}\ \mathrm{m^{-3}\,keV\,s}$$

核融合出力 P_fus は反応率 <σv>・燃料密度の積・1 反応あたりの放出エネルギー E_DT=17.6 MeV・容積 V の積。Q 値は外部加熱に対する核融合利得。Lawson 三重積で点火条件を判定する。

$$V_{\text{plasma}} = 2\pi^{2} R\,a^{2},\qquad \tau_E^{\text{IPB98}} \propto I_p^{0.93}\,B_T^{0.15}\,n^{0.41}\,R^{1.39}\,a^{0.58}\,P^{-0.69}$$

左:トーラスの幾何容積(円形断面近似)。右:H モード閉じ込めスケーリング IPB98(y,2)。プラズマ電流とサイズが効き、加熱を増やすほど τ_E が劣化する。

核融合トカマク Q 値 — Lawson 基準と ITER 設計

🙋
「核融合発電」ってよくニュースで聞きますけど、Q 値ってよく出てくる数字、何のことですか?
🎓
ざっくり言うと「投入した加熱に対して、何倍の核融合エネルギーが出てきたか」という利得だね。Q = P_fus / P_aux。Q=1 でちょうどトントン(ブレークイーブン)、Q=5 で ITER の最低ライン、Q=10 で ITER の高目標、Q→∞ で「外部加熱なしで燃え続ける=点火」になる。商用炉の DEMO だと Q=20〜40 を狙う。2022 年に米国 NIF のレーザー核融合で初めてターゲット利得 Q>1 が出てニュースになったけど、あれは燃料カプセルの話で、施設全体で見るとまだ Q<<1 なんだ。
🙋
なるほど…。ツールでデフォルトのまま見ると Q=12.88 って出ました。これって ITER と同じくらいですよね?
🎓
そう、デフォルトは ITER の設計点を意識した値(R=6.2m, a=2.0m, B=5.3T, n=1×10²⁰, T=15keV, P_aux=50MW)にしてある。プラズマ容積 V=2π²Ra² で約 490 m³、反応率 <σv>≈1.86×10⁻²² m³/s。これで核融合出力 P_fus≈644 MW、α 粒子加熱が約 130 MW、Q=644/50≈12.9 になる。実際の ITER は α 加熱を含む損失でもっと運転点が制限されるけど、設計上は Q=10、最大 500 MW を出すのが目標だね。
🙋
下の「Lawson 三重積」が 4.5×10²¹ って出ました。これが超えないと点火しない、っていう値なんですか?
🎓
そうそう、ロソン(Lawson)の基準だね。n·T·τ_E ≥ 約 3×10²¹ m⁻³·keV·s を満たすと、核融合で出た α 粒子の自己加熱が損失を上回って、プラズマが自分のエネルギーで燃え続けられる。デフォルト値は 4.5×10²¹ で、点火条件は満たしている。プラズマ温度を 5 keV まで下げてごらん。<σv>が指数的に落ちて Q<1 になるはず。逆に温度を上げすぎても、磁場で押さえられる圧力 p=nT に上限があるから、結局 13〜20 keV あたりが最適になるんだ。
🙋
じゃあ τ_E(閉じ込め時間)はどうやって決まるんですか?スライダーで自由に動かせちゃいますけど、現実には何で決まるんでしょう?
🎓
現実の τ_E は装置のサイズと運転条件で決まる経験式があって、IPB98(y,2) というのが代表的なんだ。τ_E ∝ I_p^0.93 · B^0.15 · n^0.41 · R^1.39 · a^0.58 · P^(-0.69) という形。注目すべきは指数 1.39 の R—サイズを大きくするとめちゃくちゃ効くから、ITER は R=6.2m と巨大化したわけ。一方で加熱パワー P が増えると τ_E が悪化(指数 -0.69)するパワー劣化があって、加熱を増やしても割に合わない領域がある。本ツールでも右の「IPB98 τ_E」が IPB98 予測値で、左の入力 τ_E と比較できるよ。デフォルトでは IPB98 が約 1.30 s、入力 3.0 s だから、H モードの良い閉じ込めを仮定している状態だね。
🙋
トカマク以外の核融合方式ってあるんですか?
🎓
大きく分けて磁場閉じ込めと慣性閉じ込めの 2 系統がある。磁場系はトカマク(ITER, JT-60SA, DIII-D, EAST, KSTAR)とステラレーター(Wendelstein 7-X)。トカマクはトロイダル磁場+プラズマ電流で D 字断面を作るのが主流で、ステラレーターは外部コイルだけで 3 次元的にねじれた磁場を作る。慣性系は NIF(レーザー)や Z ピンチで、燃料カプセルを瞬間圧縮する方式。最近は ReBCO 高温超伝導コイルで小型化を狙う SPARC(B=12T)、レーザー方式の Mochi Energy など民間も活発だ。ITER は遅延しつつ 2030 年代半ばに D-T 運転、DEMO は 2050 年頃の発電実証が目標になっている。

よくある質問

Q 値はプラズマで発生した核融合出力 P_fus を、プラズマに投入した補助加熱出力 P_aux で割った無次元量で、Q = P_fus / P_aux と定義します。Q=1 がブレークイーブン(投入と取り出しが等しい)、Q=5 が ITER の最低目標、Q=10 が ITER の高出力目標、Q→∞ が外部加熱なしで自己維持する「点火(イグニッション)」状態です。DEMO 商用炉では Q=20〜40 を狙います。1991 年 JET の初期 D-T 実験で Q≈0.12、1997 年 JET で Q≈0.65、2022 年 NIF のレーザー核融合で初めて Q>1(ターゲット利得)を達成しました。
Lawson 基準は、核融合で発生する自己加熱(D-T の場合は α 粒子加熱)がプラズマからの損失を補えるかどうかを示す条件です。D-T 核融合では n·T·τ_E ≥ 約 3×10²¹ m⁻³·keV·s が点火条件で、n は電子密度、T は温度(keV)、τ_E はエネルギー閉じ込め時間です。三重積で表すことで、密度を上げる・温度を上げる・閉じ込めを良くするという 3 つの設計自由度を 1 つの指標に集約できます。ITER の運転点は約 4×10²¹ m⁻³·keV·s を狙っており、本シミュレーターのデフォルト値で Lawson 値 4.5×10²¹ となり点火条件を満たします。
D-T 反応の反応率 <σv> は約 70 keV(約 8 億 K)でピークを取りますが、トカマクで現実的に達成できるのは 10〜25 keV です。また圧力 p=nT に対する核融合出力は n²<σv> に比例し、<σv>/T² が最大化される 13〜20 keV 付近で「磁場で押さえ込める圧力あたりの出力」が最大になります。このため ITER は 10〜20 keV、本ツールのデフォルトは 15 keV を採用しています。100 keV まで上げても出力は増えず、必要な加熱と磁場圧力ばかりが増えて損になります。
IPB98(y,2) は ITER 設計のために 1998 年に多施設データから回帰された H モードのエネルギー閉じ込め時間 τ_E のスケーリング則で、τ_E ∝ I_p^0.93 · B_T^0.15 · n^0.41 · R^1.39 · a^0.58 · P_loss^(-0.69) という形をとります。プラズマ電流とサイズで大きく稼ぎ、加熱を増やすほど閉じ込めが悪化する(パワー劣化)のが特徴です。ITER の設計値でこの式は τ_E≈3.7 秒を予測し、ELM 抑制や同位体効果を考慮して運転設計が行われています。本ツールは I_p=15MA を仮定して IPB98 を簡易計算し、入力した τ_E と比較できるようにしています。

実世界での応用

ITER(国際熱核融合実験炉):仏国カダラッシュで建設中の世界最大トカマクで、R=6.2m、a=2.0m、B_T=5.3T、I_p=15MA、Nb₃Sn 超伝導コイルを使用。設計目標は Q=10、500 MW の核融合出力を 400 秒以上維持することで、本ツールのデフォルト設定はおおむねこの ITER 運転点を意識しています。日本・EU・米・露・中・韓・印の 7 極が出資し、運転開始は当初 2025 年でしたが現在 2030 年代半ばに延期されています。

JT-60SA(日本):那珂研究所の超伝導トカマクで、ITER の補完装置。R=2.96m、B_T=2.25T、I_p=5.5MA。2023 年に初プラズマ点火を達成し、ITER 運転前に H モードや非誘導電流駆動の物理データを取得しています。本ツールで R=3.0m、a=1.1m、B=2.3T を入れると JT-60SA 相当の運転点が見えます。

SPARC・ARC(民間・MIT):Commonwealth Fusion Systems が開発中の小型高磁場トカマク。ReBCO 高温超伝導コイルで B_T=12T を達成し、ITER の 1/40 容積で Q>2 を狙う。本ツールで R=1.85m、a=0.57m、B=12T を入れると SPARC 相当の感度を確認できます。後継の ARC は 2030 年代に発電実証を計画。

DEMO・商用核融合炉:EU-DEMO、J-DEMO、CFETR(中国)などが 2050 年前後の発電実証を目指す。Q=20〜40、出力 1〜2 GW、定常運転、トリチウム自己増殖(ブランケットで Li(n,α)T 反応)が要件。本ツールで Q を最大化したい時は、副半径 a を大きくして容積(∝a²)を稼ぎ、磁場 B を高くして圧力上限を引き上げる方向に動かすと効果が見えます。

よくある誤解と注意点

最大の誤解が、「2022 年に NIF が核融合発電を達成した」という報道の解釈です。NIF(米ローレンス・リバモア研究所)が達成したのは「燃料カプセルに入射したレーザー出力に対して、燃料からの核融合出力が上回った(ターゲット利得 Q>1)」というマイルストーンで、レーザー装置全体の消費電力(約 300 MJ)に対する核融合出力(3.15 MJ)は依然 Q≈0.01 です。発電プラントとして成立させるには施設全体で Q>10 が必要で、まだ実験プラズマでも達成されていません。「核融合発電は実現した」とまとめる記事はミスリードなので、Q の定義(プラズマ Q か、施設 Q か、発電 Q か)を必ず確認してください。

次に、「磁場を強くすればするほど良い」という単純化です。トロイダル磁場 B_T を上げると β 限界(β=2μ₀p/B² の上限)に対する余裕が増え、許容できるプラズマ圧力 p=nT が B² に比例して上がるため、確かに出力は B⁴ で増えます(出力 ∝ p²V ∝ B⁴)。ただし磁場を 2 倍にすると、電磁力は 4 倍、コイルを支える構造材料の応力も指数的に増加します。Nb₃Sn 超伝導の最大磁場は約 13 T が実用限界で、それ以上は ReBCO(最大 25 T 級)が必要になりますが、コストとクエンチ保護の難易度が跳ね上がります。本ツールで B=12T を入れると IPB98 τ_E はわずかしか伸びない(指数 0.15)一方、燃料圧力余裕は大きく改善することが分かります。

最後に、「点火=商用化」ではない点。Lawson 三重積を満たしてプラズマが点火しても、商用核融合炉として成立するには別の壁が多数あります:① トリチウム(半減期 12.3 年)の自己増殖(リチウムブランケットで TBR>1.0)、② 14 MeV 中性子による炉壁損傷(dpa<100 で交換)と低放射化材料(バナジウム合金、ODS鋼)の実用化、③ ダイバータの熱流束 10〜20 MW/m² の除熱、④ ELM や破壊性ディスラプションの抑制、⑤ 経済性(kWh あたり数十円以下)。本ツールで Q=∞ になる設定でも、これらは別途解く必要があり、IFMIF-DONES のような中性子照射試験装置や材料開発が並行して進められています。

使い方ガイド

  1. プラズマ密度(10¹⁹ m⁻³ 単位)、温度(keV)、閉じ込め時間(秒)、主半径(m)を入力します
  2. トロイダル磁場強度と補助加熱電力を設定し、リアルタイム計算を実行します
  3. 反応率<σv>、核融合出力P_fus、Q値、Lawson三重積n·T·τを確認し、ITER(Q≥10目標)やDEMO(Q≥50目標)との乖離度を評価します

具体的な計算例

ITER想定条件:密度1.0×10²⁰m⁻³、温度12 keV、閉じ込め時間3.0秒、主半径6.2m、磁場5.3 Tの場合、反応率<σv>≈1.1×10⁻²²m³/s、プラズマ容積約840m³、核融合出力P_fus≈280 MWとなります。投入加熱100 MWでQ値≈2.8と計算されます。一方、密度を1.5×10²⁰m⁻³、温度15 keVに上げると、Lawson三重積が5.4×10²¹m⁻³·keV·sに達し、Q値≈8.5まで向上します。

実務での注意点

  1. Lawson三重積がn·T·τ≥3×10²¹m⁻³·keV·s以上でようやく科学的ゲイン(Q≥1)に到達するため、密度・温度・閉じ込め時間は同時改善が必須です
  2. IPB98スケーリング則による予測τ_Eと実際のプラズマ密度・温度・磁場の相関を確認し、現実的な設計マージンを50%以上設定してください
  3. 補助加熱が200 MWを超えるとジュール損失やビーム吸収効率低下により、実効Q値が低減するため、加熱電力と閉じ込め改善のバランスを見直してください