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医工学・光学イメージング

光干渉断層 OCT 分解能シミュレーター

光干渉断層撮影(OCT)の軸方向分解能 Δz と横方向分解能 Δx を、中心波長・帯域幅・対物NAから即座に算出するツールです。SD-OCT / SS-OCT / フェムト秒レーザーの3種を比較しながら、網膜・心血管・皮膚OCT に必要な分解能と撮像深さ、サンプリング数、B-scan時間を設計検討できます。

パラメータ設定
光源型
SLDはSD-OCT用、Swept SourceはSS-OCT用、フェムト秒は超広帯域
中心波長 λ₀
nm
800nm帯:網膜、1050/1310nm帯:脈絡膜・皮膚・心血管
帯域幅 Δλ
nm
広帯域ほど軸分解能が向上(FWHMコヒーレンス長で決定)
対物 NA
NA↑ → 横分解能↑だがDOF↓(網膜OCTは0.05-0.15が標準)
サンプル深さ範囲
mm
A-scanで取得する深さ(網膜:2-3mm、心血管:5-10mm)
Nyquist倍率
軸分解能あたりのサンプル点数(2以上、通常2.5-3)
サンプル屈折率 n
組織:1.35-1.4、強膜・歯:1.5前後、水:1.33
計算結果
軸方向分解能 Δz (μm)
横方向分解能 Δx (μm)
焦点深度 DOF (μm)
最大撮像深さ (μm)
必要サンプリング数
A-scan速度 (kHz)
OCT光学系・サンプルアーム概念図

サンプルアームのビームが層構造試料(例:網膜10層)に入り、コヒーレンス長 ℓ_c に応じて深さ方向の干渉信号を取得します。色帯の太さが軸分解能、円錐の細さが横分解能を表します。

軸方向分解能 Δz vs 帯域幅 Δλ
横方向分解能 Δx と焦点深度 DOF vs 対物 NA
理論・主要公式

$$\Delta z = \frac{2\ln 2}{\pi}\frac{\lambda_0^{2}}{\Delta\lambda},\qquad \Delta x = 0.61\,\frac{\lambda}{NA},\qquad DOF = \frac{\pi\,\lambda}{NA^{2}}$$

Δz:軸方向分解能(ガウシアンスペクトル光源のコヒーレンス長 FWHM)。Δx:横方向分解能(Airy ディスク半径)。DOF:焦点深度(Rayleigh 領域の往復長)。組織内では Δz を屈折率 n で割って Δz/n となる。

$$N_{\text{pix}} = N_{\text{Nyq}}\,\frac{z_{\max}}{\Delta z},\qquad t_{B} = \frac{N_{A\text{-scan}}}{f_{A\text{-scan}}}$$

Nₚᵢₓ:A-scan あたりの必要サンプリング点(Nyquist 倍率 × 撮像深さ / 軸分解能)。t_B:B-scan 1枚の取得時間(A-scan 数 / A-scan レート)。帯域 Δλ が大きい→ Δz 小さい、NA が大きい→ Δx 小さいが DOF が短くなる。

光干渉断層撮影 (OCT) — 軸方向・横方向分解能

🙋
眼科で「OCT撮ります」って言われたんですけど、あれって超音波エコーみたいに音じゃなくて光ですよね?なんで光で 5μm くらいの細胞層が見えるんですか?
🎓
OCT (Optical Coherence Tomography) は 1991 年に Huang らが発表した、低コヒーレント光の干渉を使った断層撮影だね。原理は光のマイケルソン干渉計で、サンプルからの後方散乱光と参照ミラーからの光を重ね、両者の光路長が一致したときだけ干渉縞が立つ。光源のコヒーレンス長が短いほど「一致」の幅が狭いので、その狭さがそのまま軸方向分解能になる。だから波長 850nm・帯域 50nm の SLD で約 5μm、超広帯域フェムト秒なら 1μm まで行ける。
🙋
なるほど…左の「帯域幅 Δλ」を上げると軸分解能 Δz がぐっと良くなりますね。逆に対物 NA を上げると横分解能は良くなるのに、焦点深度がガクッと落ちるのはなぜですか?
🎓
これはレンズ設計の根本的なトレードオフで、ガウシアンビームの式から DOF = πλ/NA² で NA の二乗に反比例する。具体的には NA=0.10 で DOF は 267μm くらいあるから網膜の 200-300μm 厚を 1 ショットでカバーできるけど、NA=0.4 だと 17μm しかなくて、外網状層しか合焦しないみたいなことになる。だから網膜 OCT は意図的に低 NA で「全層が合う」設計にして、横分解能は 15-20μm で妥協してるんだ。
🙋
じゃあ、皮膚や歯みたいに深く高解像で見たいときはどうしてるんですか?
🎓
主に 3 つの手があるよ。1 つ目は SS-OCT で 1050nm や 1310nm に波長を長くする — 散乱が小さくて深く届く。2 つ目は可変焦点(Liquid lens)で深さごとに焦点を切り替え、合焦したスライスだけ繋ぐ Gabor Domain Fusion。3 つ目が Bessel ビームや Axicon で、回折制限の細さを長距離保つやり方。最近の歯科 OCT や Skin OCT (VivoSight) はこれらの組み合わせで、横 5-10μm・深さ 1-2mm を実現している。
🙋
SD-OCT と SS-OCT で A-scan 速度が違うって書いてあるんですけど、なんで速度が違うんですか?速い方が偉いんでしょうか?
🎓
速度の差は検出方式の違いから来てる。SD-OCT は広帯域光源 + 分光器 + ラインカメラなので、カメラの読み出しが律速になって 70-100kHz が標準。SS-OCT は MEMS で 200-400kHz、最新の VCSEL で 1MHz 超まで出る。速い方が当然心拍や眼振の影響を減らせて 3D ボリュームを 1 秒で撮れる利点があるけど、その分 1 A-scan あたりの光子数が減るので感度が下がる。網膜の血流をドップラーで見る OCTA みたいに「速度命」の用途では SS が選ばれるし、低速でも高感度がいい遅い病変観察では SD が残ってる、という棲み分けだね。
🙋
「必要サンプリング数」が 1500 とかすごい数字になってますが、これってカメラのピクセル数のこと?
🎓
そう、SD-OCT なら分光器のラインカメラのピクセル数、SS-OCT なら ADC のサンプリング点数に対応する。Nyquist 定理から軸分解能あたり 2 点以上必要だけど、実用上は 2.5-3 倍を取って FFT のサイドローブを下げる。例えば 3mm 深さで軸分解能 4.7μm、Nyquist 2.5 倍なら 1588 点だから、2048 ピクセルのラインカメラがちょうど合う、というふうに装置の仕様を決めていくんだ。

よくある質問

OCTは低コヒーレント光の自己相関を A-scan として取得する装置です。光源のスペクトルがガウシアン形状の場合、コヒーレンス関数の半値全幅(FWHM)が軸方向分解能 Δz となり、Δz=(2ln2/π)·λ₀²/Δλ で表されます。組織内では屈折率 n で割って Δz/n となり、波長帯域幅 Δλ が広いほど干渉が早く減衰するため、より細かい軸分解能が得られます。中心波長 850nm・帯域幅 50nm・n=1.35 で約 4.7μm、帯域 100nm で 2.4μm 程度です。
SD-OCT(Spectral Domain)は広帯域SLD光源と分光器を組み合わせ、典型的に 70-100 kHz の A-scan 速度で 800nm 帯域、軸分解能 3-6μm が得られます。網膜OCT(Heidelberg Spectralis、Zeiss Cirrus)の主流です。SS-OCT(Swept Source)は MEMS スイープレーザーを使い、1050-1310nm 帯で 100-400 kHz、感度ロールオフが浅いため深部撮像(脈絡膜、心血管、皮膚深層)に向きます。フェムト秒レーザーは超広帯域で 1-2μm の超高分解能を実現しますが装置コストが高くなります。
対物レンズの開口数 NA を上げると横方向分解能 Δx=0.61λ/NA は良くなりますが、焦点深度 DOF=πλ/NA² は NA の2乗で急減します。例えば NA=0.10 では Δx=5.2μm、DOF=267μm(網膜全層をカバー)ですが、NA=0.4 では Δx=1.3μm、DOF=17μm しかなく、皮膚や歯のような深い試料では1層しか合焦しません。網膜OCTは Δx<20μm 程度で良い代わりに DOF を稼ぐ低NA設計、皮膚高解像OCTでは可変焦点や Bessel ビームで両立を図ります。
OCTの感度は サンプルアームに到達する光子数、検出器の量子効率、積分時間(=1/A-scanレート)の積で決まり、市販SD-OCTで概ね 90-100 dB、SS-OCTで 100-110 dB が一般的です。帯域幅を広げると同じ光子数を分散させるため帯域あたりのSNRは下がります(本ツールは帯域 50nm を基準に概算)。深部ほど感度ロールオフ(SD-OCTで 6-10 dB/mm)があり、SS-OCTはコヒーレンス長が長いため深部でも比較的フラットです。

実世界での応用

網膜 OCT(眼科):Heidelberg Spectralis、Zeiss Cirrus、Topcon Triton などの臨床機器が代表例。820-870nm SLD光源、軸分解能 3-7μm、横分解能 15-20μm で、網膜 10 層(神経線維層、神経節細胞層、外網状層、視細胞層など)を非侵襲で可視化します。糖尿病網膜症、加齢黄斑変性 (AMD)、緑内障の早期診断に必須となっており、年間 1 億スキャン以上が世界中で実施されています。

心血管 OCT(IVOCT):Abbott の OPTIS(旧 LightLab)が代表機種。1310nm 帯 SS-OCT で 100kHz オーダの A-scan、横 25μm・軸 15μm 程度の分解能で、カテーテルを冠動脈に挿入してステント圧着・血栓・プラークの薄い線維性キャップ (TCFA) を撮像します。IVUS(血管内超音波)の 100μm より一桁高い分解能で、急性冠症候群の責任病変評価に使われます。

皮膚科・歯科:VivoSight(Michelson Diagnostics)や Heidelberg DermaSight など、1310nm 帯 SS-OCT で表皮〜真皮 1-2mm を撮像し、悪性黒色腫の境界決定や非黒色腫皮膚癌のマージン評価、瘢痕治療効果のモニタリングに使われています。歯科ではエナメル質下の初期う蝕(白斑病変)の探知や、接着剤と歯質の境界評価に応用が広がっています。

内視鏡 OCT・産業応用:食道バレット粘膜の異形成スクリーニング(NinePoint Medical NvisionVLE)、消化管病変の側方マージン評価が主要用途です。産業分野では、ガラス・プラスチックフィルム・コーティング厚の非接触多層膜計測、リチウムイオン電池セパレータの欠陥検査、3D プリント部品の内部空隙評価などで、計測 OCT(μm 分解能・mm 深さ)が普及しつつあります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解が 「軸分解能 Δz をそのまま空気中の値で考えてしまう」 ことです。OCT のコヒーレンス長は媒質中で n 倍に縮みません — 実際には組織の光学的厚さ(geometrical × n)でみるため、見かけの軸分解能は Δz/n になり、n=1.35 の網膜では空気中 6.4μm が組織中 4.7μm に向上します。一方で、深さスケールも n で割られるので、画像の Y 軸ラベルを「光学的深さ」のまま放置すると本当の解剖学的厚さよりも厚く表示されてしまいます。OCT 装置メーカが提供する「組織屈折率補正」を必ずオンにしましょう。

次に、「サンプリングを増やせば必ず分解能が上がる」 という誤解。Nyquist 倍率を 3 から 8 に上げても、軸分解能 Δz そのものは光源のコヒーレンス長で決まるため改善しません。増やすと FFT のサイドローブが下がってアーティファクトが減るだけで、本質的な分解能は光学系の物理限界に張り付きます。逆にサンプリングが Nyquist 以下だとミラーアーティファクト(zero-delay の対称像)やエイリアシングが出るため、最低でも 2 倍、通常 2.5-3 倍を確保するのが鉄則です。

最後に、「感度ロールオフ(深部での SNR 低下)を無視した深さ仕様」に注意。市販の SD-OCT は仕様上の最大撮像深さ 2-3mm を謳いますが、実際には深さ 1mm で 6-10 dB の感度低下、3mm では 15-20 dB 低下します。網膜のように 0-300μm に大事な情報があれば問題ありませんが、心血管のように 5-10mm 深さで均一な感度が必要な用途では SS-OCT を選ぶ必要があります。カタログの「imaging depth」は実用感度ではなく窓関数による FFT 領域の限界値なので、メーカー提供のロールオフ実測カーブを必ず確認してください。

使い方ガイド

  1. 中心波長(400~1700nm)と帯域幅(10~400nm)を入力します。SD-OCTは840nm帯域幅100nmが標準、SS-OCTは1310nm帯域幅100nmが一般的です
  2. 対物レンズの開口数NA(0.1~0.9)を設定します。網膜OCTは0.13、高解像度皮膚OCTは0.5以上が目安です
  3. 撮像深さ(100~3000μm)を指定すると、軸方向分解能Δz、横方向分解能Δx、焦点深度DOFが自動計算されます

具体的な計算例

中心波長840nm・帯域幅100nm・NA 0.13の臨床用網膜OCTでは、軸方向分解能Δz≒7μm、横方向分解能Δx≒64μm、焦点深度DOF≒2mm、A-scan速度40kHz時の必要サンプリング数2048点で撮像深さ1.5mmを実現できます。これに対し、中心波長1310nm・帯域幅100nm・NA 0.1の心血管用SS-OCTは、軸方向分解能11μm、横方向分解能130μmで、透光性が優れ血管壁深部観察に適しています。高速フェムト秒レーザーOCT(800nm帯域幅150nm・NA 0.5)は軸方向分解能3μm、横方向分解能1.6μmで、皮膚層構造の微細形態観察が可能です

実務での注意点