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流体工学

ハーディ・クロス法 配管網シミュレーター

ループを含む配管網の流量分布を求める古典的反復法「ハーディ・クロス法」を体験するツールです。同じ2節点を結ぶ並列2管に全流量を流し、抵抗係数と初期配分を変えると、反復が進むにつれて各管の流量がどう収束していくかをリアルタイムで観察できます。

パラメータ設定
全流量 Q
L/s
2つの節点間を通る合計流量
管1の抵抗係数 K₁
上側の管。h₁ = K₁·Q₁²(Q は m³/s)
管2の抵抗係数 K₂
下側の管。h₂ = K₂·Q₂²(Q は m³/s)
初期配分(管1の割合)
%
反復の出発点。管1に割り当てる初期流量の割合
計算結果
管1の収束流量 (L/s)
管2の収束流量 (L/s)
損失水頭(収束)(m)
第1回流量補正 ΔQ (L/s)
収束までの反復回数 (回)
流量配分比
配管ループ図 — 流れのアニメーション

2つの節点を上下2本の管が結ぶループです。粒子の密度と速度は収束した流量配分を表し、各管の損失水頭を表示します。

反復ごとの流量収束
損失水頭 vs 管1の流量
理論・主要公式

$$h = K\,Q^{2}, \qquad \Delta Q=-\frac{\sum K\,Q^{2}\,\text{sign}}{\sum 2\,K\,|Q|}$$

各管の損失水頭 h(K:抵抗係数、Q:流量 m³/s)と、ループ流量補正量 ΔQ。補正 ΔQ はループ内の全管に同じ向きで加えられ、各接合点の連続条件を保ったままループの損失水頭の不つり合いをゼロに近づける。

$$Q_1 = Q\,\frac{\sqrt{K_2}}{\sqrt{K_1}+\sqrt{K_2}}, \qquad Q_2 = Q\,\frac{\sqrt{K_1}}{\sqrt{K_1}+\sqrt{K_2}}$$

並列2管が h₁ = h₂ で平衡したときの収束流量(閉じた解)。反復はこの値に収束する。本ツールは反復ループを実際に回し、この式は答え合わせに用いる。

$$\Delta Q=-\frac{K_1 Q_1^{2}-K_2 Q_2^{2}}{2\,(K_1 Q_1 + K_2 Q_2)}$$

並列2管に適用した補正式。各反復で Q₁ += ΔQ、Q₂ −= ΔQ とし、|ΔQ| が許容値(1e-6 m³/s)を下回るまで繰り返す。

ハーディ・クロス法とは

🙋
「ハーディ・クロス法」って初めて聞きました。水道管の計算に使うものなんですか?
🎓
そう、まさに水道網の計算法だよ。街の給水管って、1本の枝分かれじゃなくて、何本もの管がぐるっとつながって「ループ(閉じた輪)」を作っているんだ。その全部の管に流れる流量を求めたい。ところがこれが手計算では一発で解けない。それを反復計算で実用的に解いたのが、1936年に構造技術者のハーディ・クロスが発表した方法なんだ。コンピュータが普及するずっと前の話だよ。
🙋
なんで一発で解けないんですか?流量なんて足し算で出そうですけど…
🎓
条件が2つあって、しかも互いに引っぱり合うからなんだ。1つめは「連続条件」——どの接合点でも、流れ込む量と流れ出る量が等しい。2つめは「エネルギー条件」——どの閉ループも一周すると損失水頭の和がゼロ、つまり出発点と同じ圧力に戻る。やっかいなのは、管の損失水頭が流量の2乗に比例する(h = K·Q²)こと。だから連立方程式が非線形になって、代入では解けないんだ。
🙋
2乗が入るだけでそんなに変わるんですね。ハーディ・クロスはどうやって解いたんですか?
🎓
発想がすごくきれいなんだ。まず、連続条件だけは満たすように、流量を「適当に」仮定する。これだとループのエネルギー条件は満たさないから、ループごとに損失水頭の不つり合いが少し残る。そこでループ全体に対する「流量補正量 ΔQ」を計算する——不つり合いをループの感度で割った、ニュートン法の一段だ。その同じ補正をループ内の全部の管に加える。こうすると連続条件は崩れないまま、エネルギーの不つり合いだけが小さくなる。これを繰り返すと補正がどんどん小さくなって、流量が収束するんだ。
🙋
このツールだと並列2本の管ですよね。上のスライダーで初期配分を50%から変えても、最後は同じ流量に落ち着くんですか?
🎓
そう、そこがハーディ・クロス法の頼もしいところ。初期配分を30%にしようが70%にしようが、反復を回せば同じ収束流量にたどり着く。並列2管なら答えは閉じた式でも書けて、Q₁ = Q·√K₂/(√K₁+√K₂) になる。抵抗の小さい管ほど多く流れる、という直感どおりだね。「反復ごとの流量収束」グラフを見ると、出発点が違っても同じ値にスッと寄っていくのが分かるよ。だいたい3〜5回でほぼ収束する。
🙋
たった2本でこれなら、街全体の何百本もの管はコンピュータがやってくれているんですね。
🎓
そのとおり。今の上水道シミュレーション(EPANETなどが有名)は内部でもっと洗練された解法を使っているけど、考え方の出発点はハーディ・クロス法と同じ「連続とエネルギーを交互に満たしていく」だ。地域熱供給網やガス配管網の解析でも、根っこにある考え方は変わらない。手計算時代の知恵が、いまも生きているんだよ。

よくある質問

ハーディ・クロス法は、ループ(閉回路)を含む配管網の流量分布を求める反復計算法です。各管の流量をまず適当に仮定し、各接合点で連続条件(流入=流出)を満たすようにしておきます。仮定した流量はループのエネルギー条件(一周の損失水頭の和=0)を満たさないため、ループごとに損失水頭の不つり合いが残ります。この不つり合いをニュートン法の一段で打ち消す流量補正量 ΔQ を計算し、ループ内の全管に同じ補正を加えます。これを繰り返すと補正量が小さくなり、流量が収束します。
配管網では2つの条件を同時に満たす必要があります。1つは連続条件(各接合点で流入量=流出量)、もう1つはエネルギー条件(各閉ループを一周すると損失水頭の和がゼロ)です。管の損失水頭 h は流量 Q の2乗に比例する(h = K·Q²)ため、できあがる連立方程式は非線形になり、代入で一発に解けません。1936年に構造技術者ハーディ・クロスが、この問題を反復法で実用的に解く方法を発表しました。コンピュータ普及の数十年前のことです。
ΔQ = −(Σ K·Q²·sign) / (Σ 2·K·|Q|) で求めます。分子はループ一周の損失水頭の不つり合い、分母はループ全体の流量に対する感度(損失水頭の微分の和)です。これはループの不つり合いに対するニュートン法の一段に相当します。求めた ΔQ をループ内の全管に同じ向きで加えることで、各接合点の連続条件を崩さずにループのエネルギー不つり合いを縮めていきます。
同じ2つの節点を結ぶ並列2管では、両管の損失水頭が等しくなるように流量が配分されます。h = K·Q² で h₁ = h₂ を解くと、収束流量は Q₁ = Q·√K₂/(√K₁+√K₂)、Q₂ = Q·√K₁/(√K₁+√K₂) となります。抵抗の小さい管に多くの流量が流れる形で、抵抗係数の平方根の逆比で分配されます。本ツールは閉じた式を答え合わせに使い、実際にはハーディ・クロスの反復ループを回して同じ値に収束させます。

実世界での応用

上水道(給水)網の設計:市街地の給水管網は、ポンプ場や配水池から各家庭まで、何本もの管が格子状にループしてつながっています。どの管がどれだけ流れ、どの地点でどれだけ圧力が下がるかを知らなければ、口径も配置も決められません。ハーディ・クロス法はこの解析の出発点であり、現代の上水道シミュレーション(EPANET など)も、内部の解法こそ進化しているものの「連続条件とエネルギー条件を同時に満たす」という骨格は同じです。

地域冷暖房・地域熱供給網:大規模な街区では、1か所の熱源プラントから温水・冷水を環状の配管で各ビルへ送ります。各ビルの負荷が時々刻々と変わるため、流量配分もそれに応じて変化します。配管ループの流量と圧力損失を解くことで、ポンプ動力の見積もりや、末端まで必要な温度・流量が届くかの確認ができます。

ガス配管網・産業プラント配管:都市ガスの中圧・低圧配管網も多数のループを持ち、ハーディ・クロス法の考え方で需要点への供給を解析します。化学プラントや空調ダクト網のように、複数経路に流体が分かれて再合流する系も、同じ「ループの不つり合いを反復で消す」発想で扱えます。

工学教育と数値解法の入門:ハーディ・クロス法は、非線形連立方程式をニュートン法で反復的に解くという考え方の、とても見通しのよい入門例です。並列2管という最小のループで「初期値が違っても同じ解に収束する」ことを体感すれば、より大規模な数値流体解析や回路網解析の土台になります。本ツールはその直感づくりのための教材です。

よくある誤解と注意点

まず多い誤解が、「抵抗係数 K を一定の定数だと思い込む」ことです。本ツールでは話を見通しよくするために K を固定値としていますが、実際の管路では損失水頭 h = K·Q² の K は、管摩擦係数を通じて流量(レイノルズ数)にゆるやかに依存します。乱流域では K の変化は小さいものの厳密には一定でなく、本格的な解析では各反復で摩擦係数を更新します。本ツールの値は、与えられた K に対する厳密な収束解だと理解してください。

次に、「反復が必ず数回で収束する」と過信すること。並列2管のような素直なループでは3〜5回で収束しますが、ループが多数からみ合う大規模網や、初期配分が極端に偏った場合は収束が遅くなったり振動したりします。実装では必ず反復回数に上限(本ツールでは約50回)を設け、収束しなくても無限ループにならないようにします。収束しないときは初期値の見直しや、より頑健な解法への切り替えが必要です。

最後に、「補正 ΔQ は管ごとに別々に計算する」という誤り。ハーディ・クロス法の核心は、ΔQ を「ループ全体に対して1つ」計算し、それをループ内の全管に同じ向きで加える点にあります。管ごとにバラバラに補正すると、各接合点の連続条件(流入=流出)が崩れてしまいます。同じ補正をループ一括で加えるからこそ、連続条件を保ったままエネルギーの不つり合いだけを消していけるのです。これが、この古典的手法が今も色あせない理由です。

使い方ガイド

  1. 全流量Q(L/s)を入力。例えば給水配管の総流量100L/sを設定します
  2. 管1と管2の抵抗係数(管径・長さ・粗度から算出)をそれぞれ入力。鋼管φ50mm長さ50mの場合の抵抗係数は約0.8、φ40mm長さ40mなら約1.5です
  3. 初期流量推定値ΔQを入力してシミュレーション開始。ハーディ・クロス法は反復計算で流量配分を修正し、管内損失水頭が一致する真の値に収束します

具体的な計算例

配水管ネットワークで総流量100L/s、管1(抵抗0.5)と管2(抵抗1.2)に分岐する場合:初期推定Q1=60L/s、Q2=40L/sから計算開始。第1回目の流量補正ΔQ=-8.3L/sが算出され、Q1=51.7L/s、Q2=48.3L/sに修正されます。損失水頭の差が0.001m以下になる反復回数は約6回で、最終的に各管の損失水頭が3.2mで一致して収束します

実務での注意点