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電磁気学シミュレーター

ポインティングベクトル シミュレーター — 平面波の電力束

真空中を伝わる平面電磁波の電場・磁場・ポインティングベクトルを可視化。電場振幅・周波数・観測位置・時刻を変えて、電磁波がどれだけの電力を運ぶかを直感的に学べます。

パラメータ設定
電場振幅 E_0
V/m
周波数 f
MHz
観測位置 z
m
時刻 t
ns

真空を仮定(c=2.998×10⁸ m/s, Z_0=376.73 Ω)。波は +z 方向に進行します。

計算結果
時間平均強度 ⟨S⟩
磁束密度振幅 B_0
波長 λ
瞬時ポインティング S(z,t)
電場・磁場・ポインティングベクトル

青=電場 E_x/緑=磁場 H_y/赤=ポインティング S_z(黄縦線=観測点 z)

理論・主要公式

真空中を +z 方向に進む平面電磁波は、電場と磁場が互いに直交し、両者は同位相で振動します。エネルギーは波の進行方向に運ばれます。

電場と磁場(c は真空中の光速):

$$E_x(z,t) = E_0\cos(kz-\omega t),\quad B_y = E_x/c$$

ポインティングベクトル(電力束密度)。Z_0=μ_0·c は真空インピーダンス:

$$S_z = E_x H_y = \frac{E_x^2}{Z_0}$$

時間平均強度(cos² の平均は 1/2):

$$\langle S\rangle = \frac{E_0^2}{2Z_0} = \tfrac{1}{2}c\varepsilon_0 E_0^2$$

波数 k=2π/λ、波長 λ=c/f。E_0=1000 V/m, f=1 GHz では ⟨S⟩≈1327 W/m²(太陽定数 1361 W/m² に近い)。

ポインティングベクトル シミュレーターとは

🙋
電波って「電場と磁場が振動してる」って習いましたけど、結局あれってどのくらいのエネルギーを運んでるんですか?
🎓
ざっくり言うと、平面電磁波が単位面積を1秒に運ぶエネルギー(W/m²)が「ポインティングベクトル」だ。式で書くと $S = E\times H$。電場と磁場の外積で向きが波の進行方向になる。上のシミュレーターで電場振幅 E_0 を1000 V/m にしてごらん。⟨S⟩ のカードが約1327 W/m² を示すはずだ。これは実は地表に届く太陽光(約1361 W/m²、太陽定数)とほとんど同じだよ。
🙋
え、太陽の光の電場ってたった1000 V/mなんですか?意外と小さい。
🎓
そうなんだ。逆に1 m離れた所で1万Wの電力が降り注いでいるイメージになると、たった1000 V/mで十分。理由は分母にある真空インピーダンス Z_0=376.73 Ω のおかげ。 $\langle S\rangle=E_0^2/(2Z_0)$ だから、電場が2倍になると電力束は4倍に効くんだ。シミュレーターで E_0 を 2000 V/m にしてみて。 ⟨S⟩ が4倍の約5300 W/m² に跳ね上がるよ。
🙋
「瞬時」と「時間平均」って2つ表示されてますね。これって違うんですか?
🎓
大事な区別だ。瞬時値 $S(z,t)=E_x(z,t)\cdot H_y(z,t)$ は $\cos^2(kz-\omega t)$ で振動して 0 と $E_0^2/Z_0$ の間を行き来する。一方、十分長い時間平均をとると $\cos^2$ の平均が 1/2 になって ⟨S⟩=E_0²/(2Z_0)。シミュレーターで「時間を進める」を押すと、赤い S_z の曲線が常に0以上で脈動するのが見える。電場(青)や磁場(緑)が負の領域に行っても、その積は cos² 型なので必ず正なんだ。
🙋
じゃあ周波数を変えると何が変わるんですか?
🎓
面白いことに、⟨S⟩ は周波数に「依らない」。式を見ても f は入ってこないだろう。だから100 MHzでも10 GHzでも、同じ電場振幅なら平均電力束は同じだ。変わるのは波長 λ=c/f だけ。シミュレーターで f を 1 GHz から 10 GHz にすると、波長が30 cm から3 cm に縮んで波がぎゅっと詰まるのが見えるよ。電力の運ばれ方ではなく「縞模様の細かさ」が変わるイメージだ。

よくある質問

「1平方メートルの面を1秒間に通過するエネルギー(ジュール)」と読みます。例えば1000 W/m² の電磁波がアンテナの開口面積1 m² を通れば、毎秒1000 J=1 kJ のエネルギーが流れ込む計算です。太陽光発電の効率を見積もる時、太陽定数 1361 W/m² にパネル面積と効率を掛けて発電量を出すのは、この量を使った典型的な工学計算です。
マクスウェル方程式から $\partial u/\partial t+\nabla\cdot\mathbf{S}=-\mathbf{J}\cdot\mathbf{E}$ が導けます。これは「電磁場のエネルギー密度 u の変化+電力束の発散=ジュール熱の散逸」を表します。閉曲面を考えると、外へ出ていくポインティング流束は内部のエネルギー減少と発生する熱の和に等しく、エネルギー保存則そのものです。S は単なる便利量ではなく、エネルギーがどう空間を流れるかを表す基本量です。
電磁波は運動量も運びます。完全吸収体への垂直入射では放射圧 $p=\langle S\rangle/c$、完全反射体ではその2倍です。太陽光(⟨S⟩≈1361 W/m²)の放射圧は約 4.5 μPa とごく小さいですが、ソーラーセイルではこれを利用して推進します。光ピンセットやレーザー冷却もこの運動量輸送の応用で、ナノ粒子や原子を捕獲・冷却できます。
⟨S⟩=E_0²/(2Z_0) を逆に解くと、太陽定数に対応する電場振幅は E_0=√(2·Z_0·1361)≈1012 V/m となります。シミュレーターで E_0 を1000 V/m に設定すると ⟨S⟩≈1327 W/m² と非常に近い値が得られます。対応する磁束密度振幅は B_0=E_0/c≈3.4 μT で、地磁気(約30 μT)の1/10ほど。電磁波の電場と磁場の振幅を、身近な量と比較する良い手がかりになります。

実世界での応用

通信工学とアンテナ設計:受信アンテナの実効面積 A_eff と入射電力束 ⟨S⟩ の積が受信電力です。携帯電話の基地局からスマートフォンまで、フリスの公式 P_r=P_t·G_t·G_r·(λ/4πd)² の背後ではこのポインティングベクトルが基本量として使われています。Wi-Fi の電波強度(dBm)も、突き詰めれば W/m² から換算した量です。

太陽光発電と熱工学:地表に届く太陽光の時間平均強度(約1000 W/m²、大気を通った後)と光電変換効率を掛けて発電量を見積もります。集光型太陽炉では反射鏡で ⟨S⟩ を数百倍に集中し、数千度の高温を作って金属を溶かしたり、太陽熱化学反応を起こしたりします。

レーザー工学と光加工:レーザービームのスポット直径と総出力からビーム断面のポインティング流束 W/m² を求めます。例えば10 W のレーザーをスポット径10 μm に集光すると ⟨S⟩≈1.3×10¹¹ W/m² と太陽表面の桁を超え、金属を瞬時に蒸発させる加工が可能になります。

電磁波の安全基準と被ばく評価:無線機器の人体安全評価では、空間中のポインティング流束 W/m² を測定または計算し、SAR(比吸収率)や ICNIRP のガイドライン値と比較します。5G 基地局やマイクロ波加熱装置の周辺での電磁場の漏洩管理にも、この量が中心的な役割を果たします。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「電場の大きさだけ見ていれば電磁波のエネルギーが分かる」と考えてしまうことです。電場と磁場は同位相で振動していますが、エネルギーを運ぶのは両者の外積 $\mathbf{S}=\mathbf{E}\times\mathbf{H}$ です。電場だけ、磁場だけでは「電力束」という量は意味を持ちません。真空インピーダンス Z_0=376.73 Ω が両者を結びつける係数で、$H=E/Z_0$、$S=E^2/Z_0$ という関係になります。シミュレーターで磁場 H_y のカードが電場と独立に表示されているのは、両者が「結合した一つの波」として電力を運んでいるからです。

次に多いのが、瞬時値と時間平均値を区別せず使ってしまうミスです。瞬時ポインティング $S(z,t)=E_x H_y$ は $\cos^2(kz-\omega t)$ 型で、ピーク値は $E_0^2/Z_0$、平均値はその半分の $E_0^2/(2Z_0)$ です。例えば E_0=1000 V/m, f=1 GHz では瞬時のピーク値が2654 W/m²、時間平均が1327 W/m² と倍違います。通信や太陽光発電で「電波強度」「光強度」と言うときは、ほぼ常に時間平均 ⟨S⟩ を指します。瞬時ピークと混同すると、電力評価が2倍ずれます。

最後に、この式が「真空中の平面波」という理想化に基づくものであることを忘れる点に注意が必要です。真の電波は球面波として広がり、距離 r で 1/r² で減衰します。媒質中では Z=Z_0/n のようにインピーダンスが変わり、誘電損失や導電損失で減衰します。さらに反射・屈折・回折があると、定在波や干渉縞ができて ⟨S⟩ の分布が複雑になります。シミュレーターが示すのは「無限に広い真空中を進む単一周波数の平面波」という最も単純な場合で、ここから実用問題への拡張は媒質定数や境界条件を一つずつ加えていく形で行われます。