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構造解析

残留応力・溶接変形シミュレーター

Masubuchiモデルによる溶接残留応力分布と変形量をリアルタイム推定。熱入力・予熱温度・降伏応力・板厚を変えて角変形・横収縮・HAZ温度サイクルを可視化。

パラメータ設定
溶接形状
熱入力 Q
J/mm
予熱温度 T₀
°C
降伏応力 σ_y
MPa
板厚 t
mm
パス数
計算結果
ピーク引張残留応力 [MPa]
ピーク圧縮残留応力 [MPa]
角変形 Δφ [°]
横収縮 ΔT [mm]
縦収縮 ΔL [mm/m]
ピークHAZ温度 [°C]
残留応力影響幅 b [mm]
パス補正係数
残留応力分布 σ_L(y) [MPa]
HAZ温度サイクル T(t) [°C]
理論・主要公式

Masubuchiモデルによる縦方向残留応力分布:

$$\sigma_L(y) = \sigma_y\left[1-\left(\frac{y}{b}\right)^2\right]\exp\!\left[-\frac{1}{2}\left(\frac{y}{b}\right)^2\right]$$

ここで $b$:残留応力影響半幅(溶融幅の関数)。角変形の簡易推定:$\Delta\phi \approx \dfrac{0.02 Q}{\sigma_y \cdot t^2}$ [rad]

横収縮:$\Delta T \approx \dfrac{0.2 A_w}{t}$($A_w$:溶融断面積)

Rosenthal解による最高温度:$T_{max}= T_0 + \dfrac{Q}{2\pi\lambda r_0 \rho c_p}$

残留応力・溶接変形シミュレーターとは

🙋
溶接した後、製品が曲がったり歪んだりする「溶接変形」って何ですか?シミュレーターで再現できるんですか?
🎓
大まかに言うと、溶接の熱で金属が局所的に膨張・収縮し、それが拘束されて無理やり元に戻ろうとする力が内部に残るんだ。これが「残留応力」で、その結果として見える歪みが「溶接変形」だよ。このシミュレーターでは、上のスライダーで「熱入力Q」を大きくすると、変形量がどう変わるかすぐに確認できるぞ。
🙋
え、そうなんですか!じゃあ、残留応力って溶接の中心と端っこで違うんですか?図で見ると中心が赤くて端が青いですけど。
🎓
その通り!溶接部は冷えて縮もうとするけど、周りの冷たい金属に邪魔されて自由に縮めない。だから中心部には引っ張る力(引張残留応力、図の赤)が、その外側には押し込む力(圧縮残留応力、図の青)が残るんだ。右の「降伏応力σy」のバーを動かすと、この引張応力の最大値がどう変わるか確認してみよう。材料が硬いほど大きな応力が残るよ。
🙋
現場で変形を小さくするには、どうしたらいいんですか?「予熱温度T₀」ってパラメータがありますけど、これに関係ありますか?
🎓
いいところに気づいたね!予熱は特に重要な低減策の一つだ。母材をあらかじめ温めておくと、溶接部と周囲の温度差が小さくなって、収縮のひずみが緩和されるんだ。シミュレーターで「予熱温度T₀」を上げてみて。角変形や横収縮の推定値が小さくなるのがわかるはずだ。実務では厚板の溶接でよく使う手法だよ。

よくある質問

板厚が薄く熱入力が大きいと、表面と裏面の温度差が大きくなり、溶接線側に凹む角変形(逆反り)が生じます。逆に板厚が厚いと、裏面までの温度勾配が緩和され、溶接線側に凸の正の角変形になります。この挙動は増淵モデルの熱弾塑性理論に基づきます。
一般的に予熱は冷却速度を下げ、溶接部の急冷による硬化を抑えるため、最大残留応力は降伏応力に近い値まで低下しやすくなります。ただし、予熱が過度に高いと熱影響部が拡大し、応力分布の幅が広がるため、局所的なピーク応力は低下しますが、変形量が増加する場合があります。
本シミュレーターは増淵モデルに基づく簡易近似であり、単層ビードオンプレート溶接の傾向をリアルタイムで把握するのに適しています。実際の多層溶接や複雑な拘束条件では誤差が生じるため、定性的な傾向把握やパラメータ感度の確認にご利用ください。
降伏応力を高く設定すると、溶接部の最大残留応力が上昇し、弾性回復量が増えるため角変形や横収縮が大きくなる傾向があります。逆に低くすると、塑性変形が早期に発生し応力が緩和されるため、変形量は小さくなります。材料の実測値に近い値を設定することを推奨します。

実世界での応用

造船・橋梁(大型構造物):分厚い鋼板を何層にも溶接する多層盛り溶接では、パスごとの熱履歴の蓄積が複雑な変形を引き起こします。シミュレーターの「パス数」を増やすと、変形が累積していく様子を理解でき、溶接順序の最適化計画に役立ちます。

自動車・機械フレーム:薄板の溶接では、見た目の歪み(角変形)が品質不良の原因となります。熱入力Qを抑えた溶接方法(レーザ溶接など)の検討や、治具による拘束の効果を、変形量の推定値から事前にスクリーニングできます。

圧力容器・プラント配管:残留応力は疲労強度を低下させ、応力腐食割れの起点となります。シミュレーターで推定される応力分布は、そうした破壊リスクが高い領域(溶接中心部の引張応力域)を特定する手がかりとなります。

CAE解析の前処理・検証:AbaqusやSysweldで本格的な熱弾塑性解析を行う前に、このシミュレーターでパラメータ感度を素早く把握できます。また、複雑な構造物の変形予測に使われる「固有ひずみ法」の基礎となるひずみ値を、手計算で見積もる際にも利用できます。

よくある誤解と注意点

このシミュレーターを使い始める際、特に現場からCAEを学ぶ方によくある勘違いが3つあります。まず一つ目は、「シミュレーション結果がそのまま現場の絶対値」と思ってしまうこと。このツールは「増淵モデル」という代表的な理論モデルに基づいていますが、実際の変形量は継手形状(例えばすみ肉か突き合わせか)や治具での拘束の強さで大きく変わります。例えば、同じ熱入力でも、強固にクランプした場合と自由に変形できる場合では、横収縮量が数倍違うことも。ツールの出力は「傾向を把握し、対策の効果を相対比較する」ための指標と捉えましょう。

二つ目は、パラメータを単独でしか考えないこと。熱入力Qを下げれば変形は減りますが、極端に下げると今度は溶け込み不足などの欠陥を生むリスクがあります。例えば、板厚12mmの鋼板で、変形を抑えるために熱入力を極端に低く設定すると、ビードが盛り上がらずに内部にすみ肉割れが発生する可能性が。常に「変形抑制」と「溶接品質」のトレードオフを意識してください。

三つ目は、「予熱さえすれば万事解決」という思い込み。確かに予熱温度T₀を上げると変形は抑制されますが、例えばSUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼では、予熱は一般的に不要で、むしろ耐食性を損なうことも。このツールの計算は主に炭素鋼を想定しています。材料が変われば、熱膨張率や降伏応力も変わり、変形挙動は全く異なります。ツールを使う際は、その背後にある材料の前提条件を常に確認するクセをつけましょう。