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RFID・無線通信

UHF RFID 通信リンクバジェット シミュレーター

パッシブ UHF RFID(EPC Gen2)の通信距離を、リーダー EIRP・タグ感度・偏波損失・周波数帯から設計するツールです。フォワードリンクとリバース(backscatter)リンクを別々に計算し、どちらが読取距離を制限しているか、多経路フェードを差し引いた実効読取距離はいくらかを可視化します。

パラメータ設定
リーダー EIRP
dBm
FCC 36 dBm / ETSI 35.2 dBm / 日本 30 dBm
周波数帯
地域ごとの UHF RFID 割り当て
リーダーアンテナ利得
dBi
タグアンテナ利得
dBi
汎用ラベル −2〜0、大型タグ +3
タグ感度
dBm
Impinj M730 ≒ −22、汎用 IC ≒ −18
リーダー感度
dBm
Speedway R420 ≒ −85、高性能機 ≒ −95
タグ変調損失
dB
Gen2 ASK/PSK の backscatter 変調効率
偏波損失
dB
直線偏波リーダー × 任意向きタグで 3 dB
計算結果
波長 λ (mm)
フォワード読取距離 (m)
リバース読取距離 (m)
実効読取距離 (m)
タグ RCS (dBsm)
多経路マージン (dB)
リーダー・タグ・Backscatter ダイアグラム

リーダー(左)が放射した CW を、パッシブタグ(右)が整流して給電し、インピーダンス切替で反射波(薄い青)として応答します。色は実効読取距離の余裕(緑=余裕/赤=不足)。

読取距離 vs リーダー出力
周波数帯比較(US/EU/JP/CN)
理論・主要公式

$$R = \frac{\lambda}{4\pi}\,10^{(EIRP-S_{tag})/20},\quad \sigma_{tag} = \frac{\lambda^{2}\,G_{tag}^{2}\,M}{4\pi}$$

フォワード読取距離 R と タグ RCS σ_tag。λ:波長、EIRP:リーダー放射電力、S_tag:タグ感度、G_tag:タグアンテナ利得、M:変調損失係数 (M = 10^(−L_mod/10))。

$$P_{rx} = EIRP - 2\cdot 20\log_{10}\!\frac{4\pi R}{\lambda} + \sigma_{tag,dB} + G_{reader} - L_{pol}$$

Backscatter 受信電力 P_rx。リーダー→タグ→リーダーの往復経路で 40log10(4πR/λ) の経路損失が生じる。これが S_reader を下回らない最大距離が R_reverse。

$$R_{eff} = R \cdot 10^{-L_{fade}/40}$$

多経路フェード L_fade(典型 5 dB)を往復経路に割り当てた実効読取距離。実環境では運用上この値を採用する。

UHF RFID 通信リンクバジェット — Backscatter 距離設計

🙋
アパレル店でレジを通すとカゴ全部が一瞬で読まれるあれ、RFID ですよね。でも「読取距離 5 m」とカタログに書いてあっても、実際は 2 m くらいしか届かないと聞きました。なぜ計算と現実がこんなにズレるんですか?
🎓
いいところに目をつけたね。UHF RFID は「片道」通信じゃないところがミソなんだ。リーダーが電波を出してパッシブタグを目覚めさせるフォワードリンクと、タグがアンテナを電気的に短絡/開放して反射波で返事するリバースリンク(backscatter)の二つがあって、どっちか短いほうで読取距離が決まる。しかも反射波は往復経路だから経路損失が 2 回かかる。デフォルト条件(30 dBm EIRP、タグ感度 −18 dBm)でこのツールを動かすと、フォワードは 9.3 m 届くのにリバースは 4.6 m しかない。読取距離 4.6 m がカタログ値だ。
🙋
え、片道と往復で 2 倍も差が出るんですか? じゃあタグ感度をもっと良くすれば一気に伸びそうですけど。
🎓
そう、Impinj M730 みたいな高感度 IC(−22 dBm)にするとフォワードが 15 m まで伸びる。でも今度はリバースが頭打ちになるんだ。リバースは「タグの RCS」と「リーダー感度」が支配で、タグ感度をいくら良くしてもこっちは変わらない。実務だと、フォワードとリバースが釣り合うあたりが一番コスト効率がいい。タグ感度 −20 dBm/リーダー感度 −85 dBm くらいで両方 7〜8 m に揃う設計が多いよ。スライダーを動かして両方の数値が近づくポイントを探してごらん。
🙋
RCS(タグの反射断面積)って、たった −25 dBsm って小さすぎませんか? 数 mm² しかない…
🎓
そう、RFID タグはレーダー的に見ると「ほぼ何もない」レベル。RCS は σ = (λ²/4π)·G²·M で決まって、変調損失 M で 4〜6 dB 落ちる。理想的な完全反射タグ(M=1)でも λ=33cm だと σ_max ≒ −20 dBsm くらい。これを 4W EIRP のリーダーが −85 dBm まで拾うわけだから、リバースの計算はかなりギリギリなんだ。だからリーダー感度 1 dB の改善で読取距離が 6% 伸びる。最新の Impinj R700 が −95 dBm まで感度を上げているのはそのためだよ。
🙋
倉庫だと金属棚や床の反射で電波がぐちゃぐちゃになりますよね。それも入ってますか?
🎓
多経路マージン 5 dB を実効読取距離に織り込んである。実環境では金属反射で瞬間的に 20 dB 落ち込むこともあるから、本来は周波数ホッピング(FCC は 50 ch を 0.4 秒ごとに飛ぶ)で平均化する設計をする。それでも「机上計算の 60〜70% が運用上の読取距離」というのが現場の経験則。このツールのデフォルトだと R_eff = 3.4 m。リアル倉庫で 5 m 読みたいなら、机上で 7 m 設計が必要、ってことだ。
🙋
最後に、日本だと 1 W EIRP って書いてありましたが、FCC の 4 W と比べるとめちゃくちゃ不利じゃないですか?
🎓
距離だけで言うと、EIRP が 6 dB 下がる(4 W→1 W)と R_forward は 10^(6/20) = 約 2 倍、R_reverse は 10^(6/40) = 約 1.4 倍縮む。だから FCC で 8 m 届くタグが日本では 5〜6 m。だが日本は構内無線局として中央集権的に許可される代わりに、隣接チャネル干渉が少なく安定。Decathlon の店舗 RFID も日本仕様で十分回ってるよ。EIRP を上げるだけが答えじゃなくて、「リーダー設置位置・偏波・アンテナ指向性」を最適化するほうがコスパが良いことが多い。

よくある質問

どちらか短いほうで決まります。フォワードリンク(リーダー→タグ)は R_fwd = (λ/4π)·10^((EIRP−S_tag)/20) でタグ感度 S_tag が支配。リバースリンク(タグ→リーダー、backscatter)は経路損失が 2 回かかる(往復で 40log10(4πR/λ))ためリーダー感度 S_reader と タグ RCS が制限します。一般に低感度タグ(−15 dBm 程度)ではフォワードが、高感度タグ(−22 dBm 以下)ではリバースが支配する傾向です。本ツールはどちらが制限要因かを自動で判定します。
タグが入射した電波をどれだけ強く反射するかを面積で表した量で、σ = (λ²/4π)·G_tag²·M で計算します(M:変調損失係数)。理想的な完全反射では M=4 ですが、実際の Gen2 IC は ASK/PSK 変調で 3〜6 dB の損失があり M≒0.25〜0.5。デフォルト条件では σ ≒ −25.7 dBsm(約 2.7 mm² 相当)。RCS が小さいほどリーダーが拾える反射が弱くなり、リバース読取距離が短くなります。RCS を大きくするにはタグアンテナ利得 G_tag を上げるのが基本ですが、小型タグでは難しいトレードオフがあります。
FCC(米国、902-928 MHz)は最大 4 W EIRP(36 dBm)でフリークエンシーホッピング必須。ETSI(欧州、865.6-867.6 MHz)は 2 W ERP(≒3.28 W EIRP、35.2 dBm)でリッスンビフォアトーク(LBT)を使用。日本(916.7-920.9 MHz)は 1 W EIRP(30 dBm)の構内無線局/250 mW EIRP の特定小電力に分かれ、いずれも周波数共用ルールあり。中国(840.5-844.5 / 920.5-924.5 MHz)は 2 W ERP。本ツールの周波数帯プリセットを切り替えると波長が変わり、同じ EIRP でも読取距離が微妙に異なることを確認できます。
倉庫や金属棚などの反射環境では数 dB の干渉フェードが常時発生し、5 dB 程度のマージン確保が標準的です。本ツールでは effectiveRange = R · 10^(−5/40) で実効読取距離を計算しています(往復経路に 5 dB を割り当てるため指数は /40)。実装では (1) リンクマージンを 6 dB 以上確保、(2) リーダーを 2 台以上で死角を減らす、(3) 円偏波アンテナでタグ向きを問わず読み取る、(4) ホッピングで瞬時フェードを平均化、などを組み合わせます。RFID 倉庫設計では「机上の計算値の 60〜70% を運用上の読取距離とみなす」のが現場の経験則です。

実世界での応用

アパレル小売店・物流倉庫の在庫管理:Uniqlo・Decathlon・Walmart・Zara はアパレル全品に Gen2 タグを貼付し、レジでカゴごとの一括読取・店舗在庫の毎日棚卸を実現しています。読取距離 3〜5 m、1000 tags/sec の高速読取が必要で、リーダーは天井設置の円偏波アンテナ、タグはアイテムレベルラベル(30×80mm、利得 0 dBi 前後)が標準。年間 500 億枚以上が出荷され、Avery Dennison・SML 等が主要サプライヤーです。

製造ライン・工程トレーサビリティ:自動車・電子機器の組立ラインで、部品トレイ・治具・完成品に固定タグを取り付け、各工程通過時刻と作業者 ID をひも付けて記録します。金属環境でも読めるオンメタルタグ(Confidex Ironside など、利得 +3 dBi)と短距離(〜1 m)のゲートリーダーを組み合わせ、誤読・抜けを防ぐ設計が一般的です。

マラソン・自動車レースの計測:ランナーのゼッケンや車両に貼ったタグを、フィニッシュラインのアンテナマットが ~10 cm 距離で読み取ります。多人数同時通過でのアンチコリジョン(Q-アルゴリズム)が要で、Gen2 の Slotted Aloha 系プロトコルにより 1 秒間に 200 タグ以上を読み分けます。MyLaps、ChronoTrack 等の専用システムが業界標準。

図書館・資産管理・空港手荷物:図書館の棚卸し(書架ごと一括読取で 1 人 1 時間に 5000 冊)、IT 資産タグ(PC・サーバの棚卸)、IATA RP1740c に基づく空港手荷物追跡(Delta・Las Vegas 空港など)で活用。デルタ航空は手荷物紛失率を 40% 削減しました。本ツールは「この設置距離で 99% 読めるか」のリンクマージン検証に使えます。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「カタログ値の読取距離をそのまま使う」こと。タグメーカーが提示する 10 m 等の数値は、無響室で円偏波 6 dBi リーダー・自由空間・タグ向き最適のベストケース。実環境では金属反射・多経路フェード・タグ向き・偏波ミスマッチで 50〜70% に低下します。倉庫設計では「カタログ距離の 60%」を運用値とし、本ツールに偏波損失 3 dB・多経路 5 dB を入れて再計算する慎重さが必要です。

次に、「EIRP を上げれば必ず読める」という思い込み。リバースリンクで支配的なのはリーダー感度であり、EIRP を 30→36 dBm(4 倍)上げても R_reverse は 10^(6/40)=約 1.4 倍にしかなりません。フォワードが先に限界なら EIRP 増加で改善しますが、リバース支配では効果が薄い。本ツールの「制限要因」表示でフォワード/リバースのどちらが先に詰まるか確認し、対応策(EIRP UP/リーダー感度改善/タグアンテナ大型化)を選び分けることが重要です。

最後に、「金属・水のそばにタグを貼るとなぜか読めない」問題。一般の Gen2 ラベルはダイポール構造で、金属面に直接貼るとアンテナがショートし利得が −20 dBi まで落ちます。水(人体含む)も誘電体損失で 10 dB 以上吸収。対策はオンメタル専用タグ(PCB バックグランド付き、利得 0〜+3 dBi)や、3〜10 mm のフォームスペーサで金属から離す方法。本ツールでタグ利得を −3〜0 dBi まで下げると、現実的な金属環境での読取距離が再現できます。

使い方ガイド

  1. リーダーEIRP(等価放射電力)を0~36 dBmの範囲で入力します。日本の860~870 MHz帯ではJPL規制により最大20 dBmです。
  2. リーダーアンテナ利得(通常6~9 dBi)とタグアンテナ利得(1~3 dBi)、タグ受信感度(−70~−85 dBm)を設定します。
  3. 偏波損失(0~3 dB:直線偏波の角度ズレ)を反映させると、フォワード読取距離・リバース読取距離・タグRCS・多経路マージンが自動計算されます。

具体的な計算例

リーダーEIRP 20 dBm、リーダーアンテナ利得8 dBi、タグアンテナ利得2 dBi、タグ感度−80 dBmの場合:920 MHz帯(波長λ=326 mm)でフォワード読取距離は約7.2 m、リバース(バックスキャッタ)読取距離は約3.8 mとなります。偏波損失2 dBを加えると読取距離は約15~20%減少します。タグRCSは−20~−15 dBsmが一般的です。

実務での注意点

  1. フォワードリンク(リーダー→タグ)とリバースリンク(タグ→リーダー)の非対称性により、実効読取距離はより短いリバース距離で制限されます。
  2. 金属製パレット・ラック環境では±3~5 dB の多経路フェーディングが発生し、マージン不足時は読取失敗率が増加します。
  3. タグの実装位置(水平/垂直)で偏波損失が変わるため、装置設計時は2~3 dB以上のマージンを確保してください。
  4. 屋外での過度な電離層反射(NLOS)環境では計算値の50%程度まで読取距離が低下することがあります。