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結晶解析シミュレーター

シェラーの式 シミュレーター — X 線回折からの結晶子サイズ推定

シェラーの式 D = Kλ/(β cosθ) により、X 線波長 λ・ブラッグ角 θ・実測 FWHM β_total・装置 FWHM β_inst から、結晶子サイズ D・補正後 FWHM β_corr・補正なし D・適用範囲(D ≤ 100 nm)を実時間に計算します。Gaussian 仮定の装置幅補正と、ピーク形状・D-β 双曲線を可視化します。

パラメータ設定
X 線波長 λ
Å
ブラッグ角 θ
°
実測 FWHM β_total
°
装置 FWHM β_inst
°

既定値は λ=1.54 Å(Cu Kα 線)、θ=30°、β_total=0.50°、β_inst=0.10°、K=0.94(球形粒子・FWHM 基準)。β_inst は標準試料(LaB₆、Si など、結晶子 > 1 μm)で予め測定するのが実務の常套手段です。Gaussian 仮定(β_corr² = β_total² − β_inst²)以外に、Lorentzian 仮定(線形差分)や Voigt 関数による解析もあります。

計算結果
結晶子サイズ D
補正後 FWHM β_corr
補正なし D
適用範囲判定
回折ピーク形状(FWHM 表示)

横軸=2θ(°)/縦軸=相対強度/青=試料寄与(β_corr)/灰色=装置寄与(β_inst)/黄=合成(β_total、実測ピーク)/緑矢印=β_total の半値全幅

D = Kλ/(β cosθ) の双曲線

横軸=補正後 FWHM β_corr(°、対数)/縦軸=結晶子サイズ D(nm、対数)/青=D ∝ 1/β の双曲線/赤水平線=D=100 nm(適用境界)/黄マーカー=現在の (β_corr, D)

理論・主要公式

シェラーの式は、X 線回折ピーク半値全幅 $\beta$ から結晶子サイズ $D$ を推定する式です:

$$D = \frac{K\,\lambda}{\beta\,\cos\theta}$$

$K$ はシェラー定数(球形・FWHM 基準で約 0.94)、$\lambda$ は X 線波長、$\beta$ は補正後 FWHM(ラジアン)、$\theta$ はブラッグ角です。実測ピーク幅 $\beta_{\text{total}}$ から装置幅 $\beta_{\text{inst}}$ を Gaussian 仮定で取り除くと:

$$\beta_{\text{corr}} = \sqrt{\beta_{\text{total}}^2 - \beta_{\text{inst}}^2}$$

適用範囲は概ね $D < 100$ nm(ナノ結晶〜微結晶領域)。それ以上では結晶子サイズ寄与が装置幅以下となり信頼性が低下します。微小ひずみとの分離には Williamson-Hall 法を併用します:

$$\beta_{\text{corr}}\cos\theta = \frac{K\lambda}{D} + 4\varepsilon \sin\theta$$

$\lambda$ は X 線波長(Å)、$\theta$・$\beta$ は角度(変換後ラジアン)、$D$ は結晶子サイズ(Å、本ツールでは nm で表示)。1 nm = 10 Å。

シェラーの式 シミュレーターとは

🙋
触媒のナノ粒子のサイズって、電子顕微鏡で 1 個ずつ測らないとダメなんですか?XRD で測れるって聞いたんですが、なんで「ピーク幅」から粒子径が出るんですか?
🎓
いい着眼点だ。XRD の「ピーク幅」と粒子径の関係は、シェラーの式 D = Kλ/(β cosθ) で表される。結晶子(コヒーレント散乱領域)が小さいほど、ブラッグ反射が「シャープな線」から「広がった山」に変わる — 結晶面の数が少ないと建設的干渉の鋭さが失われるためだ。本ツールで既定値(Cu Kα、θ=30°、β_total=0.50°、β_inst=0.10°)のまま見ると、補正後 FWHM β_corr ≈ 0.490°、結晶子サイズ D ≈ 19.5 nm、適用範囲内と出る。触媒ナノ粒子(5〜50 nm)の典型値だ。
🙋
「補正後 FWHM」と「補正なし D」が別々に表示されてますけど、なんで補正が必要なんですか?
🎓
実測したピーク幅 β_total には「試料の結晶子サイズによる広がり」だけでなく、X 線管の発散・スリット・モノクロメータといった「装置幅」β_inst が混ざっている。両者が Gaussian 形状なら、β_corr² = β_total² − β_inst² で取り除ける。本ツールで β_inst を 0.10°→0.30° に変えてみてくれ。補正後 D(β_corr 使用)と補正なし D(β_total 使用)の差がどんどん大きくなる。装置幅補正を忘れると粒子径を過小評価する致命的な誤りを犯すんだ。
🙋
「適用範囲」って何ですか?シェラー式って常に使えるわけじゃないんですか?
🎓
そう、万能じゃない。結晶子が大きすぎる(D > 100 nm)と、結晶子サイズによるピーク広がりが装置幅以下になり、シェラー式から得る D は信頼できなくなる。本ツールで β_total を 0.1° まで小さくしてみると、D が 100 nm を超えて「範囲外」表示に変わる。逆に小さすぎる結晶子(< 2 nm)では結晶構造自体が不完全になり、Scherrer 式の前提(完全結晶)が破綻する。また、結晶子サイズだけでなく微小ひずみ(不均一ひずみ)もピーク幅を広げるので、両者を分離するには Williamson-Hall 法(cosθ vs sinθ プロット)が必要だ。
🙋
シェラー定数 K=0.94 って固定値ですか?粒子形状で変わったりしないんですか?
🎓
変わる。K は結晶子の形状と「幅」の定義に依存する係数で、球形粒子で半値全幅(FWHM)と体積平均径を使う場合に K ≈ 0.94 が標準だ。立方体形状なら K ≈ 0.89、八面体や柱状粒子では 0.8〜1.1 で変動する。実務では多くの論文で K=0.9 か K=0.94 が無断で使われるため、Scherrer 式の D には ±10% 程度の系統誤差があると考えるべきだ。最終的な検証は TEM(透過電子顕微鏡)観察と組み合わせるのが理想だ。本ツールは K=0.94 固定だが、形状補正が必要なら結果を別途乗除してくれ。

よくある質問

シェラーの式 D = Kλ/(β cosθ) は、X 線回折ピークの広がりから結晶子(コヒーレント散乱領域)のサイズ D を推定する式です。1918 年に Paul Scherrer が導出しました。K はシェラー定数(球形粒子で約 0.94)、λ は X 線波長、β は補正後のピーク半値全幅(FWHM、ラジアン)、θ はブラッグ角です。本ツールでは既定値(λ=1.54 Å の Cu Kα、θ=30°、β_total=0.50°、β_inst=0.10°)で補正後 FWHM β_corr ≈ 0.490°、結晶子サイズ D ≈ 19.5 nm、補正なし D ≈ 19.2 nm、適用範囲(D < 100 nm)と表示されます。
実測したピーク幅 β_total には、試料の結晶子サイズによる広がり(試料寄与)に加え、X 線管の発散・モノクロメータ・スリットなどの光学系による「装置幅」β_inst が混入しています。両者が Gaussian 形状なら、補正後 FWHM は β_corr = sqrt(β_total² − β_inst²) で求められます。装置幅補正をしないと結晶子サイズを過小評価してしまい、特に大きな結晶子(β_inst と β_total が近い場合)で誤差が顕著になります。本ツールで β_inst を 0.10°→0.40° に変えると、補正後 D が大きく変化することが確認できます。標準試料(LaB₆ など、結晶子 > 1 μm)で β_inst を予め測定するのが実務の常套手段です。
シェラーの式は結晶子サイズ D が概ね 100 nm 以下(ナノ結晶〜微結晶領域)で有効です。これより大きい結晶子では、ピーク幅への結晶子サイズ寄与が装置幅以下になり、シェラー式から得られる「サイズ」は信頼できなくなります。また結晶子サイズ以外にも、微小ひずみ(不均一ひずみ)がピーク幅を広げるため、両者を分離するには Williamson-Hall 法(cosθ vs sinθ プロット)が必要です。本ツールで β_total を小さくして D が 100 nm を超えると、適用範囲の判定が「範囲外」に切り替わり警告が出ます。実用上は触媒粒子(5〜50 nm)、リチウムイオン電池正極材料、磁性ナノ粒子の評価に最も多く使われます。
シェラー定数 K(無次元)は結晶子の形状とサイズ・幅の定義の取り方に依存する係数です。球形粒子で半値全幅(FWHM)と体積平均径を使う場合は K ≈ 0.94 が標準的に用いられます。立方体形状なら K ≈ 0.89、八面体や柱状粒子では 0.8〜1.1 の範囲で変動します。実務では多くの教科書・論文で K = 0.9 か K = 0.94 が無断で用いられるため、Scherrer 式で得られる D には ±10% 程度の系統誤差があると考えるべきです。本ツールでは K = 0.94 を固定とし、形状補正を必要とする場合は文献値を別途乗除してください。電子顕微鏡(TEM)観察と組み合わせて校正するのが理想的です。

実世界での応用

触媒ナノ粒子の粒径評価:自動車排ガス触媒(Pt/Pd/Rh 担持 γ-Al₂O₃)、燃料電池触媒(Pt/C)、固体高分子形燃料電池の Pt-Ru 合金触媒など、触媒の活性は粒子径と直接的に相関します。XRD ピーク幅から Scherrer 式で結晶子径を求め、TEM 観察と組み合わせて粒径分布を評価するのは触媒研究の基本手法です。本ツールで β_total を 0.5°→2.0° に変えると D が 19 nm→4.9 nm まで小さくなり、典型的な触媒粒子(5〜50 nm)の範囲を一望できます。触媒の劣化(粒成長)を XRD ピークの鋭化として追跡することも一般的です。

リチウムイオン電池正極材料:LiCoO₂、LiFePO₄、NMC(Ni-Mn-Co 酸化物)などの正極材料は、結晶子サイズが充放電容量・サイクル寿命・レート特性に大きく影響します。Scherrer 解析で 30〜100 nm 程度の結晶子径を制御し、ナノ複合化や表面コーティングと組み合わせて高容量・高耐久性を実現します。本ツールの「適用範囲判定」は、大きすぎる結晶子では Scherrer 式の信頼性が下がることを警告するもので、Williamson-Hall 法や TEM 観察への移行判断に役立ちます。

金属酸化物半導体ガスセンサ:SnO₂、ZnO、WO₃ などのナノ結晶薄膜は、結晶子径が小さい(10 nm 以下)ほどガス分子の吸脱着サイトが増え、感度が劇的に向上します(デバイ長との関係)。XRD パターンの Scherrer 解析でナノ結晶化の進行を定量評価し、焼成温度・前駆体組成の最適化に使います。本ツールで K=0.94 を変えると粒子形状仮定の影響が体感でき、Scherrer 式の系統誤差を理解できます。

磁性ナノ粒子・薄膜:磁気記録媒体、MRI 造影剤、磁気分離用キャリア、ハイパサーミア治療用粒子など、磁性ナノ粒子の保磁力・飽和磁化は結晶子径と密接に関係します。10 nm 以下では超常磁性転移が起こり、デバイス応用が大きく変わります。Scherrer 解析で結晶子径を制御し、磁気特性測定(VSM、SQUID)と組み合わせて材料設計を進めます。本ツールの「補正後 D」と「補正なし D」の差を見れば、装置幅補正の重要性が直感的にわかります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解が、「Scherrer 式の D は粒子径そのものを表す」というものです。実際には D は「コヒーレント散乱領域(結晶子)の体積平均サイズ」を表し、1 個の粒子が複数の結晶子(双晶・多結晶ドメイン)からなる場合、D は粒子径より小さくなります。逆に粒子間がエピタキシャルに連続している場合、D は粒子径より大きく出ることもあります。本ツールで得られる D は XRD 単独の値であり、TEM・SEM 観察と組み合わせて初めて「真の粒子径」が決まる、という認識が重要です。

次に多いのが、「装置幅 β_inst は無視できるほど小さい」という誤解です。最新の高分解能 XRD でも β_inst は 0.05〜0.15° 程度あり、結晶子径が大きい試料(D > 30 nm 程度)では β_total と β_inst の差が小さくなり、Gaussian 補正後の β_corr の不確かさが大きくなります。本ツールで β_total と β_inst を近づけてみてください — 補正後 D が急激に大きくなり発散することがわかります。標準試料(NIST SRM 660c LaB₆、Si 標準など)で β_inst を 2θ の関数として測定し、Caglioti 式 β_inst²(2θ) = U tan²θ + V tanθ + W で実装するのが厳密な手法です。

最後に、「Gaussian 仮定でいつでも補正できる」と思いがちですが、実際のピーク形状は Gaussian と Lorentzian の混合(pseudo-Voigt)や、より厳密な Voigt 関数で表現されます。Lorentzian 寄与が大きい場合は β_corr = β_total − β_inst(線形差分)の方が適切で、Gaussian 仮定では補正不足になります。Rietveld 解析や全パターンフィッティング(FullProf、TOPAS、GSAS-II)では pseudo-Voigt のパラメータを精密化し、Williamson-Hall 法と組み合わせて結晶子径と微小ひずみを同時に求めるのが標準です。本ツールは Gaussian 仮定の基本概念を理解するための入門ツールであり、論文発表の精密測定には専用ソフトウェアの使用が必須です。