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構造耐震設計

地震応答スペクトル Sa/Sv/Sd シミュレーター

地震応答スペクトル(Response Spectrum)は、構造の固有周期 T と減衰比 ζ から、地震時に建物が経験する最大加速度 Sa(T)、擬似速度 Sv(T)、擬似変位 Sd(T) を求める耐震設計の中核ツールです。地盤種別と再現期間・設計基準を変えると、設計層せん断と必要変形性能をリアルタイムで確認できます。

パラメータ設定
ピーク地動加速度 PGA
g
設計地震動の最大地動加速度(site bedrock 基準)
ピーク地動速度 PGV
cm/s
地盤種別
サイト土質による増幅とスペクトル形状
再現期間 T_R
yr
475yr=設計地震、2475yr=MCE 最大想定
構造周期 T
s
建物の1次固有周期。RC10階で約1.0s
減衰比 ζ
RC=0.05、橋脚=0.02、免震=0.20-0.30
設計基準
スペクトル形状の参照規準
計算結果
地盤増幅後 PGA (g)
Sa (T) (g)
疑似速度 Sv (cm/s)
疑似変位 Sd (cm)
設計層せん断 (g)
再現期間調整後 Sa (g)
応答スペクトル曲線と SDOF 構造応答

上段: T vs Sa 応答スペクトル曲線と現在 T の位置マーカー。下段: 現在 T/ζ の SDOF 振り子(建物)が地震動で揺れる応答アニメーション。色は Sa レベル(緑→橙→赤)。

Sa(T) スペクトル — 設計基準形状
Sa / Sv / Sd 三体応答(周期 T に対して)
理論・主要公式

$$S_a(T) = a_g\,\eta\,S\cdot\mathrm{shape}(T;T_B,T_C,T_D),\quad S_v = S_a\cdot\frac{T}{2\pi},\quad S_d = S_a\cdot\frac{T^{2}}{4\pi^{2}}$$

a_g=PGA(重力加速度比)、η=減衰補正、S=地盤増幅、shape は短/中/長周期帯の周期依存形状係数。Sv・Sd は擬似スペクトル(pseudo-spectra)。

$$\eta = \sqrt{\frac{0.10}{0.05+\zeta}},\quad \mathrm{shape}(T) = \begin{cases} 1+\frac{T}{T_B}(2.5\eta-1) & T\le T_B \\ 2.5\eta & T_B\lt T\le T_C \\ 2.5\eta\frac{T_C}{T} & T_C\lt T\le T_D \\ 2.5\eta\frac{T_C T_D}{T^{2}} & T_D\lt T \end{cases}$$

Eurocode 8 Type 1 スペクトル。T_B/T_C/T_D は地盤種別ごとの周期境界、ζ は減衰比。短周期帯は加速度一定、中周期帯は速度一定、長周期帯は変位一定。

地震応答スペクトル — Sa/Sv/Sd の設計利用

🙋
耐震設計で「応答スペクトル」って必ず出てくるんですけど、結局あれは何を表したグラフなんですか?震度とは違うんですよね?
🎓
いいところを聞くね。震度(メルカリ震度や気象庁震度)は「人間や建物がどう感じたか」の体感値。一方の応答スペクトルは、もっとエンジニア向けで、「周期 T と減衰 ζ をもつ単振り子に同じ地震波を入力したら、最大でどれくらい揺れるか」を T に対して描いたグラフなんだ。横軸が建物の固有周期、縦軸が Sa(最大応答加速度)。たとえば T=1秒の RC10階建てなら、その地震動でグラフから Sa を読めば、すぐに「質量×Sa=層せん断」として設計地震力に直結する。
🙋
なるほど!じゃあデフォルトの「PGA 0.3g、地盤 B 岩盤、T=1.0s」だと、Sa が 0.375g って出てます。これってどういう意味ですか?
🎓
PGA は地面そのものの最大加速度で 0.3g。これに地盤増幅をかけてサイト PGA を出し、Eurocode 8 の形状係数に通すと、周期 1.0s の構造物は 0.375g まで揺すられるよ、ということ。地表 0.3g に対して構造応答が 0.375g、つまり地面より 25% 多く揺れる。これは中周期帯(T_C=0.5s 〜 T_D=2.0s)に入っているからで、この帯は擬似速度がほぼ一定になる「速度一定帯」と呼ばれる場所なんだ。グラフでスライダーを動かして T を 0.3s にしてみると、加速度一定帯のプラトーで Sa=0.75g まで跳ね上がるのがわかるよ。
🙋
地盤を B から E(軟弱土)に変えたら、Sa がいきなり 1.7 倍くらい大きくなりました。地盤ってそんなに効くんですか?
🎓
効くよ、というか「地盤こそが応答スペクトルを決める」と言っても言い過ぎじゃない。軟弱地盤は地震波を増幅する天然のフィルターで、振幅が 1.5〜3 倍になる上に、長周期側にスペクトルピークがシフトする。1985 年メキシコシティ地震では、震源から 400km 離れた湖底堆積層の上に立つ 8〜18 階建てだけが集中倒壊した。これはまさに地盤の卓越周期(約 2 秒)と建物の固有周期が共振したから。逆に同じビルが硬岩の上に建っていれば被害は出なかった。Vs30 や N 値で地盤種別をきちんと拾わないと、計算が安全側に大きく外れることになる。
🙋
減衰比 ζ も大きく効きそうですね。免震建物が ζ=0.20〜0.30 っていうのを聞きました。
🎓
そう、減衰補正 η = √(0.10/(0.05+ζ)) を見れば一発で分かる。標準の ζ=0.05 で η=1.0、ζ=0.20 まで上げると η≈0.63 で Sa が 4 割近く下がる。つまり免震ベアリングや鉛ダンパで構造の減衰を増やせば、上部構造に伝わる地震力が大幅に減るんだ。さらに免震は固有周期を 3〜4 秒まで長くするから、応答スペクトルの右端(変位一定帯)に入り、Sa は加速度ベースで 1/4 程度になる。「周期を伸ばす×減衰を上げる」のダブル効果で、上部構造の設計力を激減できるのが免震構造の本質だよ。
🙋
最後に、再現期間を 475 年から 2475 年に上げると Sa が 1.7 倍くらいになりました。設計ではどっちを使うんですか?
🎓
両方使うのが現代の性能設計(PBEE)の考え方なんだ。一般建物では「修復可能損傷レベル=T_R=475 年(50 年間に 10% 超過確率)」で弾性設計し、「人命安全レベル=T_R=2475 年(同 2% 超過確率=MCE 最大想定地震)」で崩壊防止を確認する 2 段階。原発や病院などの重要施設では、T_R=10000 年規模の SSE(Safe Shutdown Earthquake)まで踏み込む。Sa は概ね T_R の 1/3 乗でスケールするから、再現期間を 5 倍に伸ばすと Sa は 1.7 倍。このツールでは returnFactor=(T_R/475)^0.33 で簡易スケーリングしているから、感覚をつかむのに使ってみて。

よくある質問

応答スペクトルは、固有周期 T と減衰比 ζ をもつ無数の単自由度(SDOF)系に同じ地震動を入力したときの、各 SDOF の最大応答を T に対してプロットした曲線です。Sa は最大加速度(質量に掛けると慣性力=層せん断)、Sv は最大相対速度、Sd は最大相対変位を表します。三者はおおよそ Sv ≈ Sa·T/(2π)、Sd ≈ Sa·T²/(4π²) の関係(擬似スペクトル)で結ばれ、設計実務では Sa 曲線をベースに層せん断と変形を同時に評価します。
地盤種別 A(硬岩)に対して、E(軟弱地盤)では PGA がおよそ 1.7 倍まで増幅し、さらに長周期側にスペクトルピークがシフトします。Eurocode 8 では soil factor S を介してこの増幅を取り扱い、本ツールでは A=0.8、B=1.0、C=1.2、D=1.4、E=1.7 を採用しています。実務ではボーリング N 値や Vs30 から地盤種別を推定し、軟弱地盤の上に立つ長周期建物(高層 RC、免震建物)では特に長周期側スペクトルを念入りに確認します。
Eurocode 8 の減衰補正は η = √(0.10/(0.05+ζ)) で、標準減衰 ζ=0.05 で η=1.0、ζ=0.02 で η≈1.20(スペクトルが 20% 上振れ)、ζ=0.10 で η≈0.82、ζ=0.20 で η≈0.63 になります。橋脚や煙突は ζ=0.02、RC ビルは 0.05、ダムは 0.10、免震建物は 0.20〜0.30 を取るのが一般的です。免震で η が下がる分だけ Sa が減り、上部構造の設計力を大きく低減できるのが免震構造の本質です。
再現期間 T_R は「平均してその年数に 1 回起きる地震規模」を意味します。標準設計地震は T_R=475 年(50 年間に 10% 超過確率)で、安全設計上は T_R=2475 年(同 2% 超過確率=最大想定地震 MCE)を併用します。Sa は概ね T_R^(1/3) でスケールするため、475→2475 年で約 1.74 倍、50→475 年では 0.46 倍となります。本ツールでは設計基準スペクトルに returnFactor=(T_R/475)^0.33 を掛けて再現期間調整後 Sa を表示します。

実世界での応用

建築基準法・耐震基準の設計力算定:日本の建築基準法、米国 IBC(ASCE 7)、Eurocode 8、中国 GB 50011 のいずれも、応答スペクトルが設計地震力の出発点です。建物の 1 次固有周期 T_1 を等価質量と剛性から推定し、設計用応答スペクトルから Sa(T_1) を読み、各層の重量を掛けて層せん断力を求めます。Response Modification Factor R(日本では Ds)で塑性域の応答低減を考慮し、最終的な設計用層せん断を決定します。

免震・制震構造の効果評価:免震アイソレータ(積層ゴム+鉛ダンパなど)は構造周期を 3〜4 秒に延長し、減衰比を 0.20〜0.30 に高めます。応答スペクトル上では「右側へ移動して下に下がる」軌跡を描き、上部構造に作用する Sa が 1/3〜1/5 に低減されます。本ツールで T を 0.5s から 3.5s にスライドさせ、ζ も 0.05→0.25 に上げると、Sa の劇的な低下が体感できます。

性能設計(PBEE)・段階別検証:米国 FEMA P-58、日本の限界耐力法では、Service Level(T_R=43 年)、Design Basis Earthquake(T_R=475 年)、Maximum Considered Earthquake(T_R=2475 年)の複数レベルで応答スペクトルを用意し、それぞれで「機能維持」「修復可能」「人命安全」の基準を満たすか確認します。本ツールの再現期間スライダーはこの段階別評価を疑似体験できます。

地震ハザードマップとの連携:USGS、日本の J-SHIS、Eurocode 8 National Annex などの地震ハザードマップは、地点ごとの PGA と Sa(0.2s)、Sa(1.0s) を提供します。これらを本ツールの PGA 入力と組み合わせれば、特定地点・特定構造に対するサイト固有応答スペクトルを概算できます。詳細設計では時刻歴非線形解析に進みますが、概念設計段階ではこの種の簡易スペクトル評価で十分です。

よくある誤解と注意点

最大の落とし穴が、「設計基準スペクトル=実際の地震動」と思い込むこと。設計用応答スペクトルは過去の多数の地震記録を統計処理した「包絡(envelope)」であり、特定地震動の実際の応答スペクトルとは形状が大きく異なります。実際の地震記録(例:1995 兵庫県南部 JMA Kobe NS、2011 東日本 K-NET 仙台、2016 熊本 KMMH16)のスペクトルは、固有の卓越周期で鋭いピークを持ち、設計基準を局所的に上回ることがあります。重要構造物では時刻歴非線形解析で複数記録波を入力し、応答の散らばりを評価する必要があります。

次に、「擬似スペクトル=厳密スペクトル」という混同。本ツールが計算する Sv、Sd は擬似スペクトル PSv = Sa·T/(2π)、PSd = Sa·T²/(4π²) で、真の最大速度・変位とは ζ が大きいほどズレが出ます。ζ=0.05 ではほぼ一致しますが、ζ=0.20 を超える免震構造や ζ=0.005 の長周期構造では、真の応答スペクトル(Duhamel 積分の数値計算)を使う方が正確です。設計実務ではこの差を 5〜10% 程度の安全率で吸収しますが、研究や精密評価では区別が必要です。

最後に、「線形 SDOF の応答=実建物の応答」という単純化。応答スペクトル法は弾性 SDOF を前提にしており、塑性化や多自由度効果、ねじれ、P-Δ 効果は含まれません。Response Modification Factor R(=2〜8)で塑性化を、Modal Combination(SRSS、CQC)で多自由度を、それぞれ近似的に取り扱いますが、ピロティ建物や偏心建物、超高層では応答スペクトル法が大きく外れることがあります。2007 新潟県中越沖(柏崎刈羽 1〜2.6g 計測)、2011 東日本(長周期地震動が大阪 WTC を 2.7m 揺らした)、2024 能登半島(断層近傍パルス)の知見は、応答スペクトルだけでは捕捉できない現象として設計法の改訂に反映されています。

使い方ガイド

  1. PGA値(例:0.3g)と地盤種別(A~D、Eurocode 8準拠)を入力し、PGV(最大地盤速度)も指定します
  2. 構造物の固有周期 T(秒)と減衰比 h(通常5%)を設定してから、再現期間(475年/2475年など)と設計基準(日本の告示値/Eurocode 8/IBC 2021など)を選択します
  3. シミュレーターがSDOF系の応答スペクトル Sa(T)、疑似速度 Sv(T)、疑似変位 Sd(T) をリアルタイムに計算し、設計層せん断力係数と調整後 Sa を出力します

具体的な計算例

軟弱地盤(種別C、Vs=200 m/s)上の鋼構造5階建て(固有周期 T=0.8秒、減衰比 5%)で、基盤PGA=0.25g、PGV=25cm/sの場合:地盤増幅後 PGA≈0.45g、Sa(0.8s)≈0.62g、Sv≈39cm/s、Sd≈5.0cm、設計層せん断係数≈0.55g。2475年再現期間への調整で Sa≈0.72g に上昇し、許容応力度設計での梁の応力検定に使用します

実務での注意点

  1. 地盤種別 D(超軟弱地盤、Vs<150m/s)では短周期域で3倍以上の増幅が生じるため、杭基礎の水平耐力照査が必須です
  2. 減衰比を構造種別で使い分け:鉄筋コンクリート造は h=5%、鉄骨造は h=3~4%、木造は h=10%以上に設定して実際の履歴減衰を反映させます
  3. 日本建築学会告示値は長周期地震動(T>3秒)で他基準より厳格なため、免震・制震建物の設計ではEurocode 8との比較検証が重要です