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振動工学

衝撃応答スペクトル(SRS, ハーフサインパルス)シミュレーター

ハーフサインパルス衝撃に対する1自由度系(SDOF)の応答を数値積分で計算するツールです。パルス加速度・パルス幅・固有振動数・減衰比を変えると、ピーク応答加速度・応答倍率・衝撃応答スペクトル(SRS)・時刻応答がリアルタイムで分かり、電子機器や梱包品の耐衝撃設計を検討できます。

パラメータ設定
パルス加速度 G_p
g
衝撃パルスのピーク加速度(重力加速度の倍数)
パルス幅 τ
ms
半波正弦パルスの幅。MIL-STD-810で6〜11msが標準
系の固有振動数 f_n
Hz
基板やシャシ等の対象構造の1次固有振動数
減衰比 ζ
構造の粘性減衰比。電子機器は0.02〜0.05が典型
許容ピーク加速度
g
構造内部・搭載部品の耐衝撃許容値
計算結果
周波数比 ν = f_n·τ
応答倍率
ピーク応答加速度 (g)
入力加速度 (g)
安全率 許容/ピーク
衝撃の判定
衝撃パルスとSDOF応答 — リアルタイム描画

左:入力ハーフサインパルス(G_p, τ)/右:その衝撃を受けたSDOF系の絶対加速度応答。色は応答ピーク/許容比を表します。

衝撃応答スペクトル — ピーク応答 vs 固有振動数
時刻応答 — 入力パルスとSDOF応答加速度
理論・主要公式

$$\ddot u+2\zeta\omega\dot u+\omega^{2}u=G_p\,g\,\sin\!\left(\frac{\pi t}{\tau}\right)\ \ (0\le t\le\tau)$$

1自由度系(SDOF)の運動方程式。u:基礎に対する相対変位、ω = 2π·f_n、G_p·g:入力加速度のピーク、τ:パルス幅。t>τではRHS=0で残留振動。

$$\text{SRS}(f_n) = \max_t|\ddot u_{\text{abs}}(t)|, \qquad \ddot u_{\text{abs}} = -2\zeta\omega\dot u-\omega^{2}u$$

SRSは多数の固有振動数 f_n のSDOF系の絶対応答加速度ピークをプロットしたもの。減衰なしのハーフサインでは ν = f_n·τ ≈ 0.5 付近で応答倍率約1.77となり、ζを上げると低下する。本ツールはこの方程式を陽的時間積分で解いている。

衝撃応答スペクトル(SRS)とは

🙋
「衝撃応答スペクトル」って、なんだか名前が難しいですね。普通の衝撃波形(時間 vs 加速度のグラフ)とは違うんですか?
🎓
うん、初めて聞くと混乱するよね。SRSは波形そのものじゃなくて、その衝撃を受けた『構造の応答』の地図なんだ。横軸に固有振動数fn、縦軸にピーク応答加速度をとる。同じ50gの衝撃でも、fn=10Hzの柔らかい構造と、fn=500Hzの硬い基板では揺すられ方が全然違う。SRSは『あなたの構造の固有振動数を縦軸で読み取れば、何gで応答するかが一目で分かる』っていう実用的な道具なんだ。
🙋
なるほど!じゃあ、SRSのグラフって全体的にどんな形をしているんですか?フラットな線?
🎓
面白い形だよ。低周波側(固有周期がパルスより長い領域)では応答倍率が小さい。だって構造が反応する前に衝撃が終わってしまうから。逆に高周波側(固有周期がパルスより短い領域)では応答倍率が1に漸近する。構造が瞬時に追従するから、入力加速度がそのまま応答加速度になるんだ。問題は中間だよ。ν = fn·τ ≈ 0.5、つまり固有周期がパルス幅の2倍くらいのところで、無減衰のハーフサインなら応答倍率が約1.77倍まで跳ね上がる。右上のSRSグラフでまさにこの山型が見えるはずだ。
🙋
1.77倍ですか…!じゃあ電子機器の設計だと、その『山』の周波数を避ければいいんですね。
🎓
その通り。例えばMIL-STD-810のクラシカルショック試験ではτ=6msや11msがよく使われる。τ=11msだと危険帯はおよそ45Hz付近。プリント基板の1次固有振動数がここに当たると共振してアウトだ。対策は、(1)基板にリブを入れたり取付点を増やしてfnを上げ、危険周波数を超える、(2)逆に緩衝材でパルスを長くしてτを延ばし、危険周波数を下げる、(3)粘弾性ダンパでζを上げてピークそのものを下げる、の3つ。減衰比を0から0.05に変えるだけでも応答ピークがだいぶ下がるよ。左のζスライダーで試してみて。
🙋
減衰を増やすと残留振動も小さくなりますね。時刻応答グラフで、パルスが終わった後の揺れが急速に減衰しているのが見えます。実際の落下試験ではこの『あと揺れ』も部品に効くんですか?
🎓
めちゃめちゃ効くよ。実は条件によっては、入力パルスが終わった後の残留振動のほうが瞬間ピークより大きいこともある。これを残留応答(residual response)と言って、SRSでも残留SRSと初期SRSを分けて表示することがあるんだ。例えばはんだ接合部の疲労破壊は、パルス通過後の数十サイクルの揺れで進行する。だから設計現場では『ピーク加速度何g』だけ見るんじゃなくて、SRS全体の形状と残留振動の継続時間も見る。本ツールの右下の時刻応答グラフでは、まさに入力が消えた後の自由振動の様子が確認できる。減衰比を上げると、それがすっと収束していくのが視覚的に分かるよ。

よくある質問

衝撃応答スペクトル(SRS, Shock Response Spectrum)は、ある衝撃波形に対して、固有振動数が異なる多数の1自由度系(仮想のSDOFオシレータ)がそれぞれ示すピーク応答加速度を、固有振動数の関数としてプロットしたものです。波形そのものではなく『この衝撃が当たったとき、固有振動数fnの構造はどれだけ揺さぶられるか』を示します。同じピーク加速度の衝撃でも、SRSが大きいか小さいかで電子部品や基板への危険性は大きく変わります。航空電子機器・自動車ECU・防衛電子機器は試験SRSへの適合で耐衝撃性能を保証します。
ハーフサインパルス(半波正弦パルス)はMIL-STD-810・IEC 60068-2-27・JIS C 60068-2-27といった国際的な衝撃試験規格で標準波形として採用されているためです。落下時の床との衝突・梱包緩衝材を介した衝撃・ハンドリング時の打撃などを近似的に再現でき、パルス幅τとピーク加速度G_pの2パラメータだけで規定できるシンプルさが特徴です。試験では衝撃試験機(ショックテスター)でこの波形を加え、供試体の動作不良・破損が無いことを確認します。本ツールはまさにこの試験条件をSDOFモデルでシミュレートします。
減衰がない理想的なハーフサインパルスに対するSRSは、周波数比 ν = fn·τ ≈ 0.5(つまり固有周期がパルス幅τの2倍)付近で最大応答倍率約1.77に達します。νがこれより小さい低周波数側では『衝撃が来る前に終わるほど構造の応答は遅い』ためインパルス支配となり応答が小さく、ν » 1の高周波数側では『構造が瞬時に追従する』ため応答倍率は1(入力加速度=応答加速度)に漸近します。減衰比ζを5〜10%に上げると残留応答が抑えられ、ピークも下がります。本ツールのSRS曲線でこの非対称な山なりが確認できます。
プリント基板やシャシ部品の固有振動数fn(モーダル解析やハンマー打試験で取得)と、想定衝撃のSRSをプロットして比較します。fnが100〜500Hz付近にあると、典型的なミリ秒オーダーのパルス(τ=5〜20ms)でν=0.5〜10の領域に入り、応答倍率1.5〜1.7倍が掛かります。例えば外部衝撃50gでも、共振域の部品は実質75〜85gを受けるわけです。対策は、(1)基板の固有振動数を試験パルス幅から外す(リブ追加・取付点増加で高周波化)、(2)緩衝材で衝撃パルス自体を延ばす(τ↑で危険周波数を低周波側へ)、(3)粘弾性ダンパで減衰比ζを上げてピーク応答を下げる、の3つです。

実世界での応用

航空電子機器・防衛装備品:戦闘機の射出座席、ミサイルのパイロエロード、艦艇の砲発射衝撃など、瞬間的に数百gのピークを伴う衝撃環境では、搭載電子機器の耐衝撃性能を試験SRS(テストSRS)への適合で保証します。MIL-STD-810 Method 516.6では一連の標準SRS(ターミナルピーク鋸歯波・台形波・ハーフサイン)が規定されており、開発段階で本ツールのようなSDOFモデルでハードウェアの想定応答を見積もり、共振帯を試験ピークから外す設計を行います。

自動車ECU・車載カメラ:路面の段差・ドアバン・タイヤ交換時の落下など、車両電子機器は日常的に数十g級のショックを受けます。ECUケースの固有振動数(典型的に200〜800Hz)と想定衝撃パルス幅(5〜15ms)から本ツールでSRSを計算すると、内部基板搭載のBGA・QFP部品が見るピーク加速度を推定でき、はんだ接合疲労寿命の評価に直結します。AEC-Q100/Q200のショック試験条件(500g/1ms半波正弦、6方向各3回)の設計検討にも有効です。

梱包設計・物流ハンドリング:段ボール梱包・発泡緩衝材を介した落下衝撃の評価では、緩衝材の動的圧縮特性から衝撃パルス幅τが決まります。本ツールでG_pとτを変えると、内容物の固有振動数に対してどれだけの応答倍率が掛かるかが視覚化でき、緩衝材厚みや材質の選定根拠になります。ISTAやASTM D5276の落下試験前に、想定SRSと内容物の脆性レベル(criticality)を比較しておくと一発設計が可能です。

HDD・SSD・モバイル機器の耐落下設計:スマートフォンや外付けストレージは1〜1.5mからのコンクリート落下で数千g・0.5ms以下のパルスを受けます。HDDのアクチュエータアームの固有振動数(1〜3kHz)はこの試験パルス幅域でν=0.5〜1.5、応答倍率1.5以上の領域に入りやすいため、ヘッドスラップ事故の主要因となります。本ツールで τ=0.5ms・G_p=1500g・fn=2000Hz を入れると、HDD設計者が直面する典型的なSRSピークが確認できます。

よくある誤解と注意点

最大の誤解は、「ピーク加速度=部品が受ける加速度」と思い込むこと。試験機が出力する衝撃50gは、あくまで取付ベースでの入力加速度です。SDOF応答理論からも分かるとおり、共振域(ν≈0.5付近)にある部品は1.5〜1.7倍に増幅され、実際には75〜85gを受けます。逆に固有振動数が高い剛体ブロックなら入力とほぼ同じ50gで済みます。データシートの「Shock: 50g」は試験条件であって、内部部品の許容値ではないことを必ず区別してください。本ツールのSRSグラフはこの増幅率を周波数ごとに視覚化します。

次に、「ハーフサインパルスは現実の衝撃と同じ」という思い込み。実環境の衝撃は理想ハーフサインではなく、ノイズや高周波成分を含む不規則波形です。試験規格でハーフサインが選ばれているのは『再現性・規格化のしやすさ』のためであり、実落下衝撃のスペクトル特性とは異なります。本格的な耐衝撃設計では、実環境のSRS(フィールドデータをSRS変換したもの)と試験SRSを比較し、試験条件が実環境を包絡しているかを確認します。本ツールは試験条件の見積もりには有効ですが、実フィールド評価には実測SRSとの照合が必要です。

最後に、「減衰比は適当に5%でいい」という割り切り。電子機器の典型値はζ=0.02〜0.05ですが、これは取付剛性・接合部のすべり・はんだ接合の粘性・周辺充填材の有無で大きく変わります。実機ハンマー打試験でhalf-power法やlogarithmic decrement法でζを実測しないと、計算SRSと実機応答が2倍以上ずれることがあります。さらに高加速度域では非線形効果(取付ボルトのすべり、はんだ降伏)でζが大幅に増えます。本ツールのζスライダーで0→0.05→0.10と変えてピーク応答の変化幅を確認し、実機ζの不確定性に対する感度を理解してから設計判断に使ってください。

使い方ガイド

  1. 入力加速度(g)とパルス幅(ms)を設定:例えば電子機器の落下試験で50g・10msのハーフサインパルスを想定
  2. 対象部品の固有振動数(Hz)と減衰比(%)を入力:PCB実装品で100Hz・5%減衰、または精密機器では200Hz・8%減衰など
  3. シミュレーション実行すると周波数応答曲線が生成され、ピーク応答加速度と周波数比νが計算される
  4. 複数の固有振動数・減衰条件でパラメータスウィープ実行可能:fnNum/fnRange、zetaNum/zetaRangeで掃引範囲を指定

具体的な計算例

輸送梱包内の精密機器を想定:入力ハーフサインパルス30g・τ=8ms(パルス幅)、対象部品の固有振動数fn=125Hz・減衰比ζ=5%の場合、周波数比ν=1.0となりレゾナンス近傍でピーク応答加速度は約65gに達します。同じ30g入力でもfn=250Hz・ζ=10%では応答は35g程度に低減されるため、制振設計の効果が明確です。許容加速度が100gの部品なら安全率は1.54倍確保できます。

実務での注意点