耐震壁の水平剛性シミュレーター 戻る
構造解析

耐震壁の水平剛性シミュレーター

地震や風による水平力に抵抗する耐震壁(せん断壁)の水平剛性を計算するツールです。壁の高さ・長さ・厚さを変えると、曲げ変形とせん断変形、全水平変位、水平剛性がリアルタイムで分かり、壁がスレンダー寄りかずんぐり寄りかで支配する変形がどう変わるかを確かめられます。

パラメータ設定
壁の高さ H
m
基礎固定面から頂部までの高さ
壁の長さ(水平)L_w
m
水平力方向に測った壁の長さ
壁厚 t_w
mm
ヤング率 E
GPa
コンクリートの曲げ剛性を決める弾性係数
せん断弾性係数 G
GPa
せん断変形のしにくさを決める弾性係数
水平力 V
kN
頂部に作用する地震・風の水平荷重
計算結果
全水平変位 δ (mm)
曲げ成分 δ_f (mm)
せん断成分 δ_s (mm)
水平剛性 k (kN/mm)
アスペクト比 H/L_w
せん断変形の割合 (%)
耐震壁の変形図 — 曲げ+せん断のラッキング

脚部固定の片持ち耐震壁に頂部の水平力 V が作用し、なめらかな曲げ曲線と、壁面グリッドが平行四辺形にゆがむせん断ラッキングが重なります。変形は誇張表示しています。

水平剛性 k と壁の長さ L_w の関係
せん断変形の割合とアスペクト比 H/L_w の関係
理論・主要公式

$$\delta=\underbrace{\frac{V H^3}{3EI}}_{\text{曲げ}}+\underbrace{\frac{1.2\,V H}{GA}}_{\text{せん断}},\qquad k=\frac{V}{\delta}$$

頂部の全水平変位 δ は曲げ成分とせん断成分の和。V:水平力、H:壁の高さ、E:ヤング率、I:断面二次モーメント、G:せん断弾性係数、A:壁の断面積。せん断項はずんぐり壁で支配し、曲げ項はスレンダー壁で支配する。

$$A = t_w\,L_w, \qquad I = \frac{t_w\,L_w^{3}}{12}$$

矩形断面の壁の断面積 A と断面二次モーメント I。t_w:壁厚、L_w:壁の長さ(水平)。I は L_w の3乗で効くため、壁を長くすると曲げ剛性が急増する。

耐震壁の水平剛性とは

🙋
「耐震壁」って、ビルの中にあるコンクリートの厚い壁のことですよね。あれってただの仕切りじゃないんですか?
🎓
仕切りに見えても、実は地震や風に対する主役なんだ。建物に横から地震の力がかかると、その水平力をいちばん受け止めるのが耐震壁、英語でいうシアウォール(せん断壁)だよ。柱や梁のラーメンだけだと建物がぐらぐら揺れやすいけど、剛い壁が入ると一気に揺れにくくなる。その「揺れにくさ」を数字にしたのが水平剛性なんだ。
🙋
水平剛性って、要するに「押したときどれだけ動くか」ですか?
🎓
そのとおり。壁の頂部を水平力 V で押して、頂部が δ だけ横に動いたら、剛性は k = V/δ。同じ力で動きが小さいほど剛い。ただし耐震壁の δ には大事なポイントがあって、変形が2種類の足し算でできているんだ。ひとつは梁みたいに弓なりに曲がる「曲げ変形」、もうひとつは壁面が平行四辺形にゆがむ「せん断変形」。左のスライダーをいじると、δ_f と δ_s が別々に出るのが見えるはずだよ。
🙋
梁のたわみだと曲げだけ習いました。せん断変形ってそんなに効くんですか?
🎓
細長い梁ならせん断はほぼ無視できる。でも耐震壁は背が低くて幅が広い、ずんぐりした形のことが多いだろう? そういう壁ではせん断変形がぐっと効いてくる。目安はアスペクト比 H/L_w。これが2〜3より大きいスレンダーな壁は曲げが支配して片持ち梁っぽく振る舞う。逆に1より小さいずんぐり壁(squat wall)はせん断が支配して、壁全体がラッキングといって平行四辺形にゆがむんだ。左で壁の長さ L_w を変えてアスペクト比を動かすと、下の「せん断変形の割合」グラフがぐいぐい変わるよ。
🙋
じゃあ、ずんぐり壁をうっかり曲げだけで計算したらどうなるんですか?
🎓
それがまさに実務でやりがちな失敗なんだ。せん断変形を足し忘れると δ を小さく見積もるから、剛性 k を実際より大きく出してしまう。建物に複数の壁があると、地震力は各壁の剛性に比例して分配される。だから一枚の壁の剛性を過大評価すると、その壁が「実際より多く力を負担できる」と勘違いして設計してしまい、地震のときに力配分がずれて危険側になる。本ツールはちゃんと曲げとせん断を足して計算しているから、ずんぐり壁でせん断がどれだけ効くかを実感してほしい。
🙋
壁を剛くしたいときは、長さ・厚さ・高さのどれをいじるのが効くんですか?
🎓
いちばん効くのは壁の長さ L_w を伸ばすことだね。曲げに効く断面二次モーメント I は L_w の3乗で効くから、壁を1.3倍長くするだけで曲げ剛性は倍以上になる。せん断剛性も断面積が増えて上がる。厚さ t_w は I にも A にも1乗で効くから、長さほど劇的じゃないけど確実。高さ H は逆で、高くするほど曲げ変形が3乗で増えてやわらかくなる。下の「水平剛性 vs 壁の長さ」グラフで L_w を動かすと、その急なカーブが見えるよ。

よくある質問

耐震壁を脚部固定の片持ち梁とみなし、頂部に水平力 V を加えたときの頂部変位 δ で V を割って水平剛性 k = V/δ を求めます。頂部変位は曲げ成分 δ_f = VH³/(3EI) とせん断成分 δ_s = 1.2VH/(GA) の和です。H は壁の高さ、E はヤング率、I は断面二次モーメント、G はせん断弾性係数、A は壁の断面積、1.2 は矩形断面のせん断形状係数です。
細長い梁では曲げ変形が支配的ですが、耐震壁は背が低く幅が広い「ずんぐりした」形状になることが多く、その場合せん断変形が無視できません。アスペクト比 H/L_w が約1以下のずんぐり壁では、せん断変形が全変位の大部分を占めることもあります。せん断変形を無視して曲げだけで計算すると剛性を過大に評価し、建物全体の地震力分配を誤ります。
アスペクト比 H/L_w が約2〜3を超える壁はスレンダー(細長い)壁で、片持ち梁のように曲げ変形が支配し、頂部が回転するように曲がります。一方 H/L_w が約1以下のずんぐりした(squat)壁ではせん断変形が支配し、壁面が平行四辺形にゆがむ「racking(ラッキング)」変形が主になります。アスペクト比が中間の壁は両方の変形がほぼ同程度に効きます。
建物に複数の耐震壁があるとき、地震力(水平力)は各壁の水平剛性に比例して分配されます。剛性の高い壁ほど多くの力を負担するため、各壁の k を正しく評価しないと一部の壁に力が集中し、設計が危険側になります。また壁の剛心位置の算定や、ねじれ応答の検討、層間変形角のチェックにも水平剛性が使われます。

実世界での応用

中高層RC建築の耐震設計:鉄筋コンクリート造のマンションやオフィスビルでは、エレベーターシャフトや階段室の周囲に耐震壁を配置し、地震の水平力を集中的に負担させます。各階の耐震壁の水平剛性を積み上げて建物全体の剛性を求め、固有周期や層せん断力の分布を評価します。本ツールのような片持ち梁モデルは、その第一近似として各壁の剛性をすばやく見積もるのに使われます。

地震力の壁への分配:1つの階に複数の耐震壁があるとき、地震力は各壁の剛性に比例して分配されます。剛性の高い壁ほど多くの力を負担するため、剛性の評価を誤ると一部の壁に過大な力が集中します。さらに壁の配置が偏っていると剛心と重心がずれ、建物がねじれて回転します。水平剛性は、この剛心位置の算定とねじれ応答の検討の出発点になります。

耐震補強・既存建物の診断:古い建物の耐震診断では、既存の壁や雑壁がどれだけ水平剛性に寄与しているかを評価します。開口の少ない壁を耐震壁として加えたり、ブレースや増設壁で剛性を補ったりする補強設計でも、補強前後の水平剛性の変化を定量的に比較します。ずんぐりした補強壁ではせん断変形の寄与を正しく見込むことが重要です。

FEM解析の事前検討と検算:詳細な有限要素解析(シェル要素による壁モデル)を行う前に、本ツールのような梁理論の概算で「曲げとせん断のどちらが効くか」「剛性のおおよその桁」を把握します。FEM結果がこの概算と桁違いなら、境界条件(脚部固定の仮定)や要素分割、せん断剛性の設定ミスを疑うサニティチェックとして使えます。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「耐震壁を曲げだけの片持ち梁として計算してしまう」ことです。梁のたわみの感覚で δ = VH³/(3EI) だけを使うと、ずんぐりした壁ではせん断変形 δ_s を丸ごと無視することになります。アスペクト比 H/L_w が1前後の壁ではせん断成分が全変位の3〜5割、それ以下ではさらに大きな割合を占めることもあり、曲げだけの計算は剛性を大きく過大評価します。剛性を大きく見積もるとその壁に地震力を多く分配してしまい、設計が危険側になります。耐震壁は必ず曲げとせん断の両方を足して評価してください。

次に、「コンクリートの剛性を弾性のまま使い続ける」こと。本ツールはヤング率 E とせん断弾性係数 G を一定とした弾性計算ですが、実際の鉄筋コンクリート壁は地震時にひび割れが入ると剛性が大きく低下します。一般に、ひび割れ後の有効剛性は無ひび割れ時の0.3〜0.7倍程度に落ちると見込みます。設計ではこの剛性低下を考慮した有効断面二次モーメントや有効せん断剛性を使うのが普通で、弾性値そのままだと剛性を過大評価します。本ツールの値はあくまで弾性段階の上限の目安です。

最後に、「水平剛性が高い壁ほど良い」とは限らないという点。剛い壁は確かに変形を抑えますが、剛性が高い壁ほど地震力を多く引き受けます。つまり剛い壁にはそれだけ大きなせん断力や曲げモーメントが集中し、その力に耐えられるだけの配筋や基礎が必要になります。また建物内で剛性のバランスが偏ると、剛心が偏心して建物がねじれ、隅の柱や壁に想定外の変形が生じます。水平剛性は「大きければ大きいほど安全」ではなく、建物全体でバランス良く配置し、力の流れと変形を一体で考えることが重要です。

使い方ガイド

  1. 耐震壁の高さ(壁高さスライダー)と長さ(壁長さスライダー)、厚さ(壁厚スライダー)を設定します。RC造の場合、厚さ200~400mm、高さ3~6m、長さ2~8mの範囲が一般的です。
  2. ヤング係数(Emod)を材料に応じて入力します。RC壁の標準値は21GPa、高強度コンクリートは30GPaです。
  3. シミュレーターが自動計算する全水平変位δ、曲げ成分δ_f、せん断成分δ_sを確認し、水平剛性kの変化を観察します。アスペクト比H/L_wが小さいほど(壁が低く幅広い)せん断変形が支配的になります。

具体的な計算例

RC造耐震壁:高さH=4000mm、長さL_w=3000mm、厚さt=250mm、E=21GPa、水平力P=100kNを加える場合、曲げ変形δ_f≒1.8mm、せん断変形δ_s≒0.9mm、全変位δ≒2.7mmとなり、水平剛性k=100÷2.7≒37kN/mmです。アスペクト比H/L_w=1.33であり、変形に占めるせん断成分の割合は約33%です。壁厚を400mmに増加させるとδ_f≒0.7mm、δ_s≒0.3mmまで低減し、剛性が倍以上向上します。

実務での注意点