球面収差シミュレーター 戻る
光学シミュレーター

球面収差シミュレーター — 軸光線と辺縁光線の焦点差

平凸球面レンズで光線高さ h に応じて焦点位置がずれる球面収差を、3次収差式で可視化。曲率半径・屈折率・入射高をスライダーで変えながら、軸上球差と焦点ぼけの仕組みを学べます。

パラメータ設定
レンズ曲率半径 R
mm
屈折率 n
評価入射高 h
mm
レンズ直径 D
mm

評価入射高 h は辺縁光線の焦点ずれを評価する高さです。レンズ直径 D は描画範囲(D/2 まで)に使われます。

計算結果
近軸焦点距離 f_paraxial
軸上球面収差 LA
辺縁光線焦点 f_marginal
開口数 NA = (D/2)/f_p
平凸レンズと光線図

複数高さの平行光線(緑=中心軸近傍、赤=辺縁)/青破線=近軸焦点 f_p、橙破線=辺縁光線焦点 f_marginal

理論・主要公式

平凸球面レンズ(第二面平面)の近軸焦点距離は、屈折率 n と曲率半径 R から次式で与えられます。

$$f_\text{paraxial} = \frac{R}{n-1}$$

入射高 h における3次球面収差(焦点位置のずれ)は次式で近似できます。h が大きいほど焦点が短くなります。

$$\Delta f(h) = -\,f_\text{p}\,\frac{(n^2+2n-1)\,h^2}{8\,n\,(n-1)\,R^2}$$

辺縁光線の焦点と軸上球面収差 LA、ならびに開口数 NA は:

$$f_\text{marginal} = f_\text{p} + \Delta f(h),\quad LA = f_\text{p} - f_\text{marginal},\quad NA = \frac{D/2}{f_\text{p}}$$

球面収差は h² に比例して大きくなる「正の3次収差」です。係数の符号が負なので、辺縁光線の焦点 f_marginal は近軸焦点より短く(手前に)なります。

球面収差シミュレーターとは

🙋
写真を撮るとき、絞りを開けると周辺がボケて、絞ると全体がシャープになりますよね。あれって球面収差と関係あるんですか?
🎓
大いに関係あるよ。ざっくり言うと、球面レンズは中心軸の近くを通る光線と、辺縁を通る光線で焦点が違う場所にできてしまうんだ。式で書くと焦点ずれ $\Delta f(h)$ は入射高 $h$ の2乗に比例する。上のシミュレーターで「評価入射高 h」を増やすと、辺縁光線焦点 f_marginal が近軸焦点 f_p より手前にずれていくのが見えるよ。
🙋
え、h の2乗ということは、辺縁を通る光ほど影響が大きいんですか?
🎓
そう。だから絞りを絞って辺縁光線を遮ると、軸付近だけの光で像ができてシャープになる。デフォルトの R=100mm, n=1.5, h=20mm では LA は約5.67mm、近軸焦点 200mm に対して3%近い焦点ぼけだ。h を半分の10mmにすると LA は4分の1の約1.4mmまで減る。指数2の効きは強烈なんだ。
🙋
屈折率 n を変えると LA はどうなりますか?高屈折率ガラスを使うと改善するんでしょうか?
🎓
改善する。係数 $(n^2+2n-1)/(8n(n-1))$ を見るとわかるけど、n を1.5から1.8に上げると LA はおよそ半分になる。だから高屈折率ガラスや、屈折率の高い樹脂で1枚レンズを作ると球面収差が抑えられるんだ。さらに非球面に削れば、原理的にゼロに近づけられる。スマホカメラのレンズはほぼ全部非球面だよ。
🙋
開口数 NA = (D/2)/f_p というのは何を意味するんですか?
🎓
NA は集光の「強さ」を表す指標で、レンズが受け止めて集める光円錐の半角の正弦に対応する。デフォルトでは NA=0.150 だ。NA が大きいほど明るく解像も上がるけど、その分球面収差が h² で効いてくる。高NA設計では球面収差補正が最大の課題になるんだ。望遠鏡や顕微鏡の対物レンズが何枚もの組み合わせなのは、この高NAでの収差補正のためだよ。

よくある質問

非球面レンズは表面形状を「球面」ではなく、円錐定数や高次係数を持つ自由曲面に設計します。辺縁ほど屈折を弱める方向に微調整できるため、辺縁光線と軸光線が同じ点で交わるようにできます。スマートフォンカメラやBlu-rayピックアップの集光レンズが代表例で、1枚で球面収差ゼロに近い設計が可能です。
凸レンズと凹レンズを貼り合わせる「ダブレット(色消し)」が代表的です。凸レンズは負の球面収差、凹レンズは正の球面収差を持つため、屈折率や形状を選んで両者を打ち消します。さらに3枚構成のトリプレットや4枚構成の写真用レンズでは、球面収差・コマ・像面湾曲・歪曲・色収差を同時に抑えます。
Seidelは結像光学系の単色3次収差を、球面収差・コマ収差・非点収差・像面湾曲・歪曲の5種類に分類しました。球面収差は軸上の光線高さの関数、コマと非点・像面湾曲は像高(軸からの角度)にも依存します。レンズ設計ソフトはこの5係数と色収差2係数を目標値以下に追い込む最適化を行います。
球面収差があると、軸光線は近軸焦点で、辺縁光線はそれより手前で交わるため、両者の間に「光線束が最も細くくびれる位置」が生じます。これを最小錯乱円またはサーカル・オブ・リースト・コンフュージョン(CoLC)と呼び、近軸焦点と辺縁焦点の概ね中間に位置します。撮像素子をこの位置に置くと最も鮮鋭な像が得られます。

実世界での応用

カメラ・スマートフォンレンズの設計:写真用レンズはほぼ例外なく非球面レンズと複数枚のガラス・樹脂を組み合わせて球面収差を抑えています。特にスマートフォンカメラは1〜2mmの薄さに7〜8枚の非球面レンズを積層し、F値1.8前後の明るい高NA光学系で球面収差ゼロに近い設計を実現しています。

天体望遠鏡と顕微鏡の対物レンズ:口径の大きな望遠鏡や高倍率顕微鏡は高NAが必要で、球面収差補正の難易度が跳ね上がります。古典的なシュミット・カセグレン式望遠鏡は補正板で球面収差を打ち消し、最新の顕微鏡対物レンズは10〜15枚の精密研磨ガラスで色収差と球面収差を同時に補正します。

光ディスクピックアップとレーザー加工:Blu-rayピックアップやレーザー加工機の集光レンズは、波長より小さなスポットに絞り込むためにNA 0.85前後の超高NA光学系を使います。1枚の非球面レンズで球面収差を理論的にゼロに追い込み、波長サイズの回折限界スポットを実現しています。

眼科・コンタクトレンズ:近視矯正レンズや白内障手術後の眼内レンズも球面収差を考慮して設計されます。瞳孔が大きく開く暗所では辺縁光線の比重が増えて球面収差が顕在化するため、非球面設計の眼内レンズが夜間視力の向上に使われています。

よくある誤解と注意点

最初に陥りやすいのが、球面収差を「ピントが合わない」ことと混同する誤解です。ピントずれは像面と焦点位置の単純な距離ずれで、絞りを変えても合う位置自体は変わりません。一方、球面収差は同じ物体からの光線でも入射高ごとに焦点が異なる現象で、絞ると軸光線だけが残るため像が改善します。シミュレーターで h を小さく(例えば5mm)にすると LA が0.35mm程度まで縮むのは、まさに「絞った」状態に相当します。

次に多いのが、屈折率が高いほど球面収差は悪化すると思い込む誤解です。実際は逆で、係数 $(n^2+2n-1)/(8n(n-1))$ は n が大きいほど小さくなります。n=1.5 で約1.42、n=1.8 で約0.74、n=2.0 で約0.59 と単調に減少します。だから高屈折率ガラスは色分散こそ大きいものの、球面収差補正には有利なんです。シミュレーターで n スライダーを動かして LA の変化を確かめてみてください。

最後に、この式が「常に正確」だと思い込むこと。本シミュレーターが使っているのは Seidel の3次収差近似であり、$h/R$ が小さい場合(おおむね 0.3 以下)で良い精度を持ちます。h=50mm, R=50mm のように $h/R \approx 1$ に近づくと、5次以上の高次収差項が無視できなくなり、実際の焦点位置はこの式よりさらに大きくずれます。実務のレンズ設計では Code V や Zemax といった光線追跡ソフトで全光線を厳密に計算し、3次収差近似はあくまで初期設計の指針として用います。