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光学シミュレーター

レンズメーカー方程式シミュレーター — 薄レンズの結像

屈折率と両面の曲率半径から焦点距離を計算し、物体距離から像距離と倍率を導出。3本の主光線追跡で薄レンズが像を作る仕組みを直感的に学べます。

パラメータ設定
屈折率 n
曲率半径 R1(前面)
cm
曲率半径 R2(後面)
cm
物体距離 s
cm

符号規約:凸前面 R1>0、凸後面 R2<0。既定値はクラウンガラス(n=1.50)の両凸レンズです。

計算結果
焦点距離 f
像距離 s'
倍率 M=-s'/s
像種類
薄レンズの結像と光線追跡

青=軸平行光線(焦点を通過)/緑=レンズ中心通過光線(直進)/赤=入射側焦点通過光線(軸平行に出射)

理論・主要公式

薄レンズの焦点距離は、レンズ材料の屈折率 n と両面の曲率半径 R1, R2 で決まります(レンズメーカー方程式):

$$\frac{1}{f} = (n-1)\left(\frac{1}{R_1} - \frac{1}{R_2}\right)$$

物体距離 s と像距離 s' を結ぶガウスの結像式(薄レンズの公式):

$$\frac{1}{s} + \frac{1}{s'} = \frac{1}{f}$$

横倍率 M。負なら倒立、正なら正立、|M|>1 で拡大、|M|<1 で縮小:

$$M = -\frac{s'}{s}$$

符号規約は入射側を基準に、凸前面の R1 を正、凸後面の R2 を負にとります。

レンズメーカー方程式シミュレーターとは

🙋
レンズの焦点距離って、どうやって決まるんですか?値段が高い望遠レンズと安いレンズで、何が違うんですか?
🎓
ざっくり言うと、焦点距離は「ガラスの屈折率」と「両面の曲率半径」だけで決まる。これがレンズメーカー方程式 $1/f=(n-1)(1/R_1-1/R_2)$ だよ。上のシミュレーターで「曲率半径 R1」を30から100に大きくしてみて。焦点距離が一気に伸びるはずだ。曲率が緩い(半径が大きい)ほど屈折が弱く、長焦点になる。
🙋
なるほど。じゃあ「物体距離 s」を変えると、像距離 s' のカードがどんどん変わりますね。s=60で s'=100、s=200にすると s' が短くなる。
🎓
それがガウスの結像式 $1/s+1/s'=1/f$ だ。物体が遠ざかると像距離は f に近づき、最終的に s=∞(無限遠の星)なら s'=f になる。だからカメラのレンズは「焦点距離」と呼ばれるんだ。遠くの被写体を撮るとき、ピントの位置は実質的に焦点距離と同じになる。
🙋
「倍率 M=-s'/s」のカードが -1.67 になってますね。マイナスってどういう意味ですか?
🎓
負の倍率は像が倒立していることを表す。シミュレーターの右側の像が下向きの矢印になっているだろう?実際のカメラのセンサー上でも、像は上下左右が反転している。スマホで撮影してくれる人間の脳が、自動で正立に直して見せているだけだよ。|M|>1 だから拡大もしている。これがプロジェクターやスライド投影機の原理だ。
🙋
じゃあ虫眼鏡みたいに正立で見えるのは、どうやれば再現できますか?
🎓
物体距離 s を焦点距離 f より小さくすればいい。シミュレーターで s を5まで下げてみて——s'がマイナスになって「正立・拡大虚像」と表示されるはずだ。これは像が物体側に「見かけ上」できる状態で、虫眼鏡で文字を拡大して見ているのと同じ。光線追跡では、屈折後の光線を後ろに延長した先で交わる点が虚像になる。

よくある質問

球面収差は、レンズメーカー方程式が前提とする近軸近似が周辺光線で破綻するために起こります。対策は3つあります。第一に、絞りを絞って周辺光を遮ること(写真レンズでF値を上げると画質が良くなるのはこのため)。第二に、非球面レンズの採用——曲率を周辺で連続的に変えて理想的な集光を実現します。第三に、複数枚のレンズを組み合わせて、互いの収差を打ち消し合う方法。高級なカメラレンズが何枚もの「玉」を含んでいるのはこの理由です。
屈折率 n は光の波長に依存する(分散)ため、青い光と赤い光で焦点距離が異なります。これを補正する古典的な方法がアクロマートレンズです。低分散ガラス(クラウン)の凸レンズと高分散ガラス(フリント)の凹レンズを貼り合わせると、2色(通常は赤と青)の焦点を一致させられます。3色を一致させるアポクロマートレンズはさらに高性能で、天体望遠鏡や高級カメラに用いられます。デジタル時代には、波長別のソフトウェア補正も普及しています。
薄レンズを密着させた場合は単純で、合成焦点距離は $1/f = 1/f_1 + 1/f_2 + \cdots$ で求められます。離して配置する場合は2枚なら $1/f = 1/f_1 + 1/f_2 - d/(f_1 f_2)$ となり、間隔 d が結果に効きます。実用的なカメラレンズは6〜15枚のレンズを精密に組み合わせて、収差補正と所望の焦点距離・ズーム範囲を実現しています。設計では行列光学(システム行列)が標準的に使われ、各面での屈折と空間伝播を行列の積で表現します。
虫眼鏡は1枚の凸レンズで、物体を焦点距離より内側(s<f)に置いて正立拡大の虚像を作ります。観察者は虫眼鏡を通してその虚像を見ます。一方、望遠鏡は2枚のレンズで構成され、対物レンズ(焦点距離 f_obj が長い)で遠方物体の中間像を作り、それを接眼レンズ(焦点距離 f_eye が短い)で拡大して見ます。角倍率は M = f_obj / f_eye です。f_obj を長く、f_eye を短くするほど高倍率になりますが、視野は狭くなり、像も暗くなるため、設計上のトレードオフがあります。

実世界での応用

カメラと写真:あらゆるカメラレンズはレンズメーカー方程式に基づいて設計されます。スマホの背面カメラから、報道現場の超望遠レンズ、映画撮影用のアナモルフィックレンズまで、すべての焦点距離は曲率半径と屈折率の組み合わせで決まっています。ズームレンズは内部のレンズ群を移動させて合成焦点距離を連続的に変化させる仕組みで、設計には数十枚のレンズが使われます。

眼鏡とコンタクトレンズ:近視・遠視・乱視を補正する眼鏡は、目の屈折異常を打ち消すレンズです。近視なら凹レンズ(負の焦点距離)、遠視なら凸レンズ(正の焦点距離)を処方します。度数(ジオプター D)は焦点距離の逆数で、D = 1/f (m) です。例えば「-2.0 D」は焦点距離 −0.5 m の凹レンズを意味します。コンタクトレンズも同じ原理ですが、角膜に密着するため眼鏡より計算がわずかに異なります。

顕微鏡と望遠鏡:科学観測の基盤となる光学機器は、すべて複数のレンズの結像式の連鎖で設計されます。生物顕微鏡では対物レンズで微小物体の拡大実像を作り、それを接眼レンズで虚像として拡大観察します。天体望遠鏡は遠方天体の角倍率を稼ぐ装置で、ハッブル宇宙望遠鏡のような反射型ではレンズの代わりに曲面ミラーを使いますが、結像の数学は同じです。

レーザー光学と光通信:レーザーポインタの集光、光ファイバへのカップリング、半導体露光装置、レーザー加工機など、現代産業の多くの場面で精密な薄レンズ設計が活躍します。光通信の合分波装置では、ミクロン精度の焦点位置制御が要求され、レンズメーカー方程式は設計の出発点となります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「レンズが厚いほど焦点距離が短い」と単純に考えてしまうことです。実際に効くのは「両面の曲率半径」であって、レンズの厚さそのものではありません。厚さが効くのは「厚レンズ」として扱うときで、薄レンズ近似ではレンズの厚さを無視します。シミュレーターで R1=10 のような小さな半径にしてみてください。一気に焦点距離が短くなります。曲率が急(半径が小さい)ほどレンズの面が湾曲して光をよく曲げるため、これが焦点距離を決める本質です。

次に多いのが、符号規約を取り違えることです。本ツールでは入射側を基準に、凸の前面で R1>0、凸の後面で R2<0 と取ります。両凸レンズなら R1 正・R2 負で、f は正(収束レンズ)になります。両凹レンズなら R1 負・R2 正で、f は負(発散レンズ)になります。教科書によって符号規約が異なるため混乱しやすいですが、「中心から右方向を正」というデカルト規約を一貫して使えば矛盾しません。シミュレーターで R1, R2 の符号を反転させながら、f の符号がどう変わるか観察してみてください。

最後に、このシミュレーターが扱うのは「薄レンズ・近軸近似」であり、実レンズの性能予測そのものではない点に注意してください。実際のレンズには厚さがあり、周辺光線は近軸近似から外れて球面収差を生じます。さらに、屈折率は波長によって変わるため色収差も発生します。プロのレンズ設計では、本ツールで求めた値を「設計の出発点」として、Zemax や CODE V のような光線追跡ソフトで全光線を厳密に追跡し、各種収差を最小化するように曲率を最適化します。それでもレンズメーカー方程式は、初期検討と直感的理解の基礎として今日も最重要の式であり続けています。