耐火構造設計(EN 1992-1-2) 戻る
構造解析

耐火構造設計シミュレーター

Eurocode EN 1992-1-2の500℃等温線法に基づき、コンクリート断面の温度分布と火災時残存耐力をリアルタイムに計算。かぶり厚・断面幅・コンクリート強度を変えて耐火等級R30〜R120の影響を確認できます。

25 mm
250 mm
500 mm
有効面積 Aeff (cm²)
断面残存率 (%)
損傷深さ δ (mm)
耐火判定

500℃等温線法(EN 1992-1-2)

ISO 834標準火災曲線に基づく境界温度 $T(x,t)$ を近似し、500℃等温線の侵入深さ $\delta_{500}$ を求める:

$$\delta_{500}= a\sqrt{t}\cdot k_c$$

有効断面幅:$b_{eff}= b - 2\delta_{500}$
残存圧縮耐力:$N_{fi}= f_{ck}\cdot b_{eff}\cdot h_{eff}/ \gamma_c$

ここで $a \approx 0.5\text{–}0.9$ mm/min^0.5(断面形状・加熱条件による),$k_c$ は断面形状係数。

温度分布(断面深さ方向)
耐力残存率 vs 火災継続時間

耐火構造設計シミュレーターとは

🧑‍🎓
「耐火構造設計」って、具体的に何を計算しているんですか?
🎓
ざっくり言うと、火事が起きた時に建物のコンクリートの柱や梁が、どれだけの時間、壊れずに持ちこたえられるかを予測しているんだ。このシミュレーターでは、コンクリートの表面から火の熱がどれだけ中に侵入するかを計算して、まだ強度がある「有効な断面」を求めているよ。上の「耐火等級」のスライダーをR30からR120に動かしてみると、必要なかぶり厚さがどう変わるかがすぐにわかる。
🧑‍🎓
「500℃等温線」って聞きました。コンクリートは500℃を超えるとダメなんですか?
🎓
その通り。コンクリートの強度は温度が上がると急激に低下するんだ。実務では、温度が500℃を超えた部分は強度がゼロになると保守的に仮定する「500℃等温線法」がよく使われる。例えば、梁幅「b」を小さく設定してみて。火災時間が経つと、500℃の線が中心まで近づいて、有効な幅がどんどん細くなっていくのがグラフで確認できるよ。
🧑‍🎓
「コンクリート強度」もパラメータにありますね。強いコンクリートほど耐火性能も高いんですか?
🎓
一概にそうとは言えないんだ。確かに高強度コンクリート(例えばC60)は常温では強いけど、火災時に表面が「爆裂」して剥がれ落ちやすいという弱点がある。現場では、爆裂を防ぐための対策が必要になるケースが多いね。このツールで強度を変えて計算してみると、爆裂のリスクは考慮しないものの、有効断面が同じなら初期強度が高い分、残る耐力も高いという関係が理解できる。

物理モデルと主要な数式

火災発生から経過時間 $t$ 後の、コンクリート表面からの500℃等温線の侵入深さ $\delta_{500}$ を求めます。熱伝導を簡易化したモデルで、時間の平方根に比例して深くなります。

$$\delta_{500}= a \sqrt{t}\cdot k_c$$

ここで、
$\delta_{500}$: 500℃等温線の侵入深さ [mm]
$a$: 材料の熱的性質による係数 [mm/min⁰·⁵]
$t$: 火災継続時間 [min]
$k_c$: 断面形状や熱伝達条件を考慮した補正係数 [-]

侵入深さをもとに、火災時に強度を発揮できる有効断面を計算し、残存する軸圧縮耐力 $N_{fi}$ を評価します。

$$b_{eff}= b - 2\delta_{500}$$ $$N_{fi}= f_{ck}\cdot b_{eff}\cdot h_{eff}/ \gamma_c$$

ここで、
$b_{eff}, h_{eff}$: 有効断面の幅と高さ [mm]
$f_{ck}$: コンクリートの特徴強度 [N/mm²]
$\gamma_c$: 材料安全係数 [-]
この計算により、火災時にも安全に支えられる力がわかります。

実世界での応用

オフィスビル・商業施設の設計:避難時間を確保するため、主要な柱や梁にR60(60分耐火)やR90の性能が要求されます。500℃等温線法を用いて、必要なコンクリートかぶり厚さと部材寸法を効率的に決定します。

駐車場の構造設計:自動車火災を想定した耐火設計が必要です。梁天端(上面)のように一方向から加熱される部位では、補正係数 $k_c$ の値が変わり、等温線の侵入パターンが変化します。

トンネル内の構造物:非常に厳しい火災条件が想定されるため、R120以上の高性能耐火コンクリートの設計にこの手法が適用されます。爆裂防止策としてポリプロピレンファイバーを混入するケースが多いです。

既存建物の耐火性能診断:建築時の図面から実際のかぶり厚さを調査し、この簡易法で現状の耐火性能を評価します。性能不足が判明した場合、耐火被覆の施工などの改修計画立案に役立ちます。

よくある誤解と注意点

このツールを使い始める際、特にCAE初心者が陥りやすいポイントがいくつかあります。まず大きな誤解は、「計算結果がそのまま施工図になる」と思ってしまうこと。このシミュレーションは、あくまで初期検討や断面の妥当性チェックが目的です。例えば、計算上はR60(60分耐火)を梁幅300mmで達成できても、実際の設計では配筋の詳細(主筋の本数や配置)や継手部分の検討が必須で、それらが最終的なかぶり厚さを決めます。ツールの結果は「これでOK」ではなく、「この方向で詳細設計を進められる」という判断材料です。

次に、パラメータ設定の落とし穴。「コンクリート強度」を上げれば全て解決すると考えがちですが、先ほども触れた「爆裂」リスクはこの簡易法では計算できません。C80やC100のような超高強度コンクリートを使う計画なら、このツールで出した有効断面は楽観的すぎる可能性があります。必ず別途、爆裂対策(ファイバー混入など)の要否を検討する必要があります。

最後に、熱伝達条件の見落とし。ツール内部で使われる補正係数 \(k_c\) は、部材が火災から「四方を囲まれて加熱される」のか、「片面だけが加熱される」のかで大きく変わります。駐車場のスラブのように下面だけが火にさらされる場合と、柱のように全周を炎に包まれる場合では、同じ500℃等温線でも侵入の仕方が異なります。入力時に想定する火災シナリオと現実の構造条件が合っているか、常に確認しましょう。

関連する工学分野

この「500℃等温線法」の背後には、実は様々な工学分野の知見が詰まっています。まず根幹にあるのは伝熱工学。火災時の熱がコンクリート中をどう伝わるかは、非定常熱伝導方程式で記述されます。このシミュレーターはその解を非常に簡略化したモデルを使っていますが、より精密に解析するにはFEM(有限要素法)を用いた熱応力連成解析が必要になります。これはCAEの核心的な分野の一つです。

次に、材料科学との関わり。コンクリートの強度が温度で低下する挙動(高温下での材料特性)は、実験データに基づいています。また、爆裂のメカニズムを理解するには、コンクリート中の孔隙水の蒸気圧挙動や、ポリプロピレンファイバーが融解して蒸気逃げ道を作るプロセスを知る必要があります。

さらに、このツールの出力結果は構造力学と直結します。計算された有効断面 \(b_{eff}, h_{eff}\) を使って、曲げ耐力やせん断耐力など、軸力以外の応力も評価する必要が出てきます。つまり、耐火設計は「熱」→「材料特性」→「構造性能」という一連の流れを理解する、マルチフィジックス(連成現象)の初歩的な実践と言えるのです。

発展的な学習のために

このツールの計算ロジックに興味を持ったら、次のステップとして背景にある数式の導出を追ってみることをお勧めします。侵入深さの式 \(\delta_{500}= a \sqrt{t}\cdot k_c\) の「平方根則」は、実は熱伝導微分方程式をある仮定(半無限固体、表面温度一定)で解いたときの近似解から来ています。この「なぜ平方根になるのか」を理解すると、モデルの適用限界(例えば、非常に薄い壁には使えないなど)が見えてきます。

学習の具体的な順序としては、まず「EN 1992-1-2(ユーロコード2 第1-2部)」の原文または解説書を参照し、500℃等温線法の規定そのものを読むこと。次に、より一般的な耐火性能評価法である「昇温曲線(ISO834標準火災曲線など)」と、それに基づく部材の加熱試験の考え方を学びましょう。

CAEソフトウェアでより現実に近い解析をしたいなら、熱応力連成解析のチュートリアルに挑戦するのが良いでしょう。まずは単純なコンクリートブロックに一方から熱を加え、温度分布とそれによる熱応力が生じる様子をFEMで可視化してみてください。その結果と、このシミュレーターの簡易計算結果を比較すると、両者の違いと簡易法の意義が体感的に理解できるはずです。最終的には、実務で遭遇する「複雑形状部材」や「鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造」の耐火設計へと、学びを広げていくことができます。