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構造解析

引張場作用シミュレーター — プレートガーダー

プレートガーダー(鈑桁)の薄いウェブは、低いせん断応力で斜めに座屈します。しかしそれは破壊ではなく、座屈したウェブは対角の引張帯として荷重を支え続けます。ウェブ寸法と補剛材間隔を変えて、この「引張場作用」による座屈後の終局せん断強度を確かめましょう。

パラメータ設定
ウェブのせい d
mm
上下フランジ間のウェブ板の高さ
ウェブ厚 t
mm
薄いほど座屈は早いが引張場の効果は大きい
中間補剛材の間隔 a
mm
垂直補剛材どうしの間隔。狭いほど強い
降伏応力 f_y
MPa
鋼材の降伏応力(SS400なら235程度)
ヤング率 E
GPa
構造用鋼ではほぼ 205 GPa で一定
計算結果
ウェブ細長比 d/t
補剛材間隔比 a/d
弾性せん断座屈応力 τ_cr (MPa)
せん断座屈低減係数 Cv
終局せん断強度 Vu (kN)
引張場による耐力倍率
ウェブパネルと対角引張場 — アニメーション

上下フランジと2本の垂直補剛材で囲まれたウェブパネル。せん断で斜めに座屈した波の上に、隅から隅へ走る対角の引張場(青の矢印)が形成され、補剛材は圧縮を負担します。

せん断座屈応力 τ_cr とウェブ厚 t の関係
終局せん断強度 Vu と補剛材間隔 a の関係
理論・主要公式

$$\tau_{cr}=k_v\frac{\pi^2 E}{12(1-\nu^2)}\left(\frac{t}{d}\right)^2,\qquad C_v=\frac{\tau_{cr}}{\tau_y}$$

弾性せん断座屈応力 τ_cr とせん断座屈低減係数 Cv。k_v:せん断座屈係数、E:ヤング率、ν:ポアソン比(0.3)、t:ウェブ厚、d:ウェブのせい、τ_y=f_y/√3:ウェブのせん断降伏応力。

$$V_u=d\,t\,\tau_y\!\left[C_v+\frac{1-C_v}{1.15\sqrt{1+(a/d)^2}}\right]$$

引張場作用を含む終局せん断強度 Vu。ブラケット内の第1項 C_v が座屈前のせん断耐力、第2項が座屈後に対角引張場が負担する寄与分です。a:補剛材間隔。座屈のみの耐力 Vcr=τ_cr·d·t と比べた倍率が引張場の「おまけ」の大きさを表します。

引張場作用とは

🙋
橋桁の「プレートガーダー」って、横から見ると薄い鉄板に細い柱がいっぱい立ってますよね。あの薄い板、座屈しないんですか?
🎓
いい質問だ。実は座屈するんだよ。プレートガーダーの中央の薄い板を「ウェブ」と呼ぶんだけど、せん断力を受けると、わりと低い応力で斜めにシワが寄るように座屈する。ここがポイントなんだけど――その座屈は「破壊」じゃないんだ。座屈したあとも、ウェブはまだまだ荷重を支え続けられる。
🙋
え、座屈したのに壊れない?シワが寄った板が、どうやって力を支えるんですか?
🎓
デッキチェアを思い浮かべてみて。あの布、ぴんと張ると人が乗れるよね。布は「押す」のは苦手でも「引っ張られる」のはすごく強い。座屈後のウェブも同じで、座屈で波打った板が、パネルの隅から隅へ斜めに走る「引張バンド」に再編される。この対角の引張帯が荷重を支えるんだ。これを「引張場作用(テンションフィールド・アクション)」と呼ぶ。左のツールで τ_cr を超えても Vu がずっと大きいのは、この引張場のおかげなんだ。
🙋
なるほど!じゃあ、その引張バンドは何に「引っかけて」張るんですか?布なら枠が要りますよね。
🎓
まさにそこ。引張帯のアンカー(定着点)が、上下のフランジと、両側の垂直補剛材なんだ。引張場が斜めに引っ張ると、その反作用で補剛材は圧縮を受ける。プラットトラスの「束材」が圧縮材になっているのと同じ役割だよ。だからプレートガーダーには等間隔で補剛材がずらりと並んでいる。あれは飾りじゃなくて、引張場の「枠」なんだ。
🙋
補剛材の間隔 a を狭くすると、ツールでも Vu がぐんと上がりますね。これはどういう理屈ですか?
🎓
2つ効いている。1つは補剛材を密に並べるとパネルが小さくなって、せん断座屈係数 kv が上がる――つまり座屈そのものが起きにくくなる。もう1つは、引張帯の角度が立ってくるので、引張場の終局強度の式の第2項(1+(a/d)² のルート)が大きく効くようになる。だから「補剛材を増やす」のは座屈前と座屈後の両方を底上げする、コスパのいい補強なんだ。
🙋
じゃあ、引張場作用を当て込めば、ウェブはどんどん薄くしていいんですか?
🎓
そこは慎重に。引張場が成立するには、フランジと補剛材がアンカーとしてしっかり踏ん張れることが前提なんだ。桁の端のパネルは片側にしか隣のパネルがないから、引張場をフルには見込めない――多くの規準で「端パネルには引張場作用を見込まない」としている。あと、補剛材自体の座屈や、引張場がフランジに与える付加曲げも別に確認が要る。後座屈強度はうまく使えば経済的だけど、アンカー側の検討とセットで成立する話、と覚えておいてほしい。

よくある質問

引張場作用とは、プレートガーダーの薄いウェブがせん断座屈した後も、対角方向の引張帯(テンションフィールド)として荷重を支え続ける現象です。ウェブは低いせん断応力 τcr で斜めの波を打って座屈しますが、これは破壊ではありません。座屈後のウェブはパネルの隅から隅へ走る引張バンドに再編され、フランジと補剛材に支えられて、座屈応力をはるかに超える荷重を担います。デッキチェアの布が斜めに張って人を支えるのと同じ原理です。
中間補剛材(垂直補剛材)は引張場のアンカー(定着点)として働くからです。座屈後のウェブの引張帯は、上下のフランジと両側の補剛材で囲まれたパネルの中で対角に張ります。このとき補剛材はプラットトラスの「束材」のように圧縮を負担します。補剛材間隔 a を狭くすると、せん断座屈係数 kv も引張場の終局強度 Vu も上がるため、桁を効率的に強くできます。これが鋼桁にずらりと補剛材が並ぶ理由です。
Cv は弾性せん断座屈応力 τcr をウェブのせん断降伏応力 τy で割った値(上限1.0)で、ウェブがせん断降伏強度のうちどれだけを「座屈前」に使えるかを表します。細長いウェブ(d/t が大きい)では Cv が小さく、座屈が早く起こります。Cv が1未満のとき、残りの強度(1−Cv)の部分を引張場作用が担います。本ツールの終局強度の式で、ブラケット内の第2項が引張場の寄与分です。
条件付きで使えます。引張場が成立するには、フランジと補剛材が引張帯のアンカーとして十分な剛性・強度を持つことが前提です。端パネル(桁端の補剛材間)はアンカーが片側しかないため、多くの設計規定で端パネルには引張場作用を見込まないとしています。また補剛材自体の座屈や、フランジへの付加曲げも別途検討が必要です。本ツールは中間パネルの後座屈強度の概算を示すもので、規準に基づく詳細照査と併用してください。

実世界での応用

橋梁のプレートガーダー:鋼鈑桁橋の主桁は、上下のフランジで曲げを、薄いウェブでせん断を負担します。ウェブを厚くすると鋼重とコストがかさむため、薄いウェブを採用し、引張場作用による後座屈強度を見込むのが現代の合理的な設計です。垂直補剛材を支間方向に等間隔で配置することで、せん断座屈係数を上げつつ引張場のアンカーを確保します。支点付近のせん断が大きい区間では補剛材間隔を詰めるのが定石です。

建築の大スパン鉄骨梁:体育館・倉庫・工場などの長大スパンを飛ばすビルドアップ(組立)H形断面の大梁でも、ウェブのせん断座屈と後座屈強度の評価が問題になります。設備配管を通すためにウェブに開口を設ける場合は、開口まわりの補剛と引張場の流れの乱れを併せて検討します。

クレーンガーダー・走行桁:天井クレーンの走行桁や橋形クレーンの主桁は、移動荷重と繰り返しせん断を受けます。ウェブが座屈と復元を繰り返すと「板の呼吸(breathing)」と呼ばれる現象が生じ、補剛材まわりの溶接部に疲労き裂が出やすくなります。後座屈強度を見込む設計では、疲労に対する配慮が特に重要です。

航空機・船舶の薄板構造:引張場作用の概念は、もともと航空機の薄板桁(ワグナー梁)で発展しました。航空機の主翼スパーや胴体フレーム、船体の隔壁など、軽量化のために極端に薄い板を使う構造では、座屈後強度を積極的に利用するのが標準的な設計思想です。本ツールの鋼桁の式と背景の物理は共通しています。

よくある誤解と注意点

まず最大の誤解が、「せん断座屈=ウェブの破壊」だと思い込むことです。τ_cr はあくまで弾性座屈が始まる応力であって、終局強度ではありません。細長いウェブでは τ_cr が降伏応力よりずっと小さく出ますが、座屈後に引張場が立ち上がるため、実際の終局せん断強度 Vu は τ_cr·d·t の2倍以上になることもあります。座屈したからといって即アウトと判断すると、不必要にウェブを厚くして鋼重を増やしてしまいます。逆に、座屈したウェブの斜めのシワを見て「不良だ」と早合点するのも禁物で、設計で後座屈を見込んでいれば波打ち自体は想定内です。

次に、「引張場作用はどのパネルでも無条件に使える」と考えること。引張場は両側のフランジと補剛材がアンカーになって初めて成立します。桁端のパネルは外側に隣のパネルがなく、片側のアンカーが弱いため、多くの設計規準で端パネルには引張場作用を見込まず、座屈応力(Cv のみ)で照査するよう求めています。また、補剛材の間隔が極端に広い(a/d が大きい)場合や、フランジが細く付加曲げに耐えられない場合も、引張場をフルには期待できません。本ツールの Vu は中間パネルでアンカーが健全であることを前提とした概算値です。

最後に、「終局強度さえ満たせば補剛材は何でもよい」という誤解。引張場の反作用で補剛材は圧縮力を受けるため、補剛材自体が座屈しない断面(必要な断面二次モーメントと断面積)が要求されます。補剛材が弱いと、引張場のアンカーが先に壊れてウェブの後座屈強度を発揮できません。さらに、引張場の鉛直成分はフランジに局所的な付加曲げを与えます。終局せん断強度の計算は出発点であって、補剛材の剛性・強度、フランジの付加曲げ、溶接部の疲労まで一式で確認して初めて設計が完結します。

使い方ガイド

  1. ウェブ高さd(mm)、ウェブ厚さt(mm)を入力してウェブ細長比d/tを設定します。一般的なプレートガーダーはd/t=100~200の範囲です。
  2. 補剛材間隔a(mm)を指定し、a/d比を決定します。a/d=1.0~3.0が標準設計範囲であり、補剛材が密なほど座屈後耐力が向上します。
  3. 鋼材降伏点fy(N/mm²)を設定(一般構造用鋼SS400=235、建築構造用SM490=340など)し、「計算実行」ボタンをクリックして終局せん断強度Vuを算出します。

具体的な計算例

H形鋼650×300×13×20(ウェブ厚13mm)のプレートガーダーで、d=624mm、t=13mm、a=1500mm、fy=235N/mm²の場合を想定します。d/t=48、a/d=2.4となり、弾性せん断座屈応力τ_cr≈98MPa、座屈低減係数Cv≈0.68と算出されます。このとき終局せん断強度Vu≈480kNが得られ、引張場作用による耐力倍率は約1.3倍(補剛材なし比較時)となります。

実務での注意点

  1. d/t比が150を超える薄いウェブでは座屈後挙動が顕著になるため、補剛材間隔a/d≦1.5に制限し、座屈低減係数Cvの低下を抑制します。
  2. a/dが3.0を超える広間隔補剛では引張場効果が減衰し、Vu計算値が実験値より過小評価されるため、設計規準の補正係数を適用してください。
  3. ウェブ厚さ削減により経済性を追求する際は、Vu≧作用せん断力Qを確保しつつ、補剛材本数と溶接コストのバランスを検討してください。