線間電圧・線電流・力率を設定して有効電力P・無効電力Q・皮相電力Sをリアルタイム計算。フェーザ図と電力三角形を可視化。
三相平衡負荷における有効電力、無効電力、皮相電力の基本計算式です。線間電圧と線電流から直接求めることができます。
$$ \begin{aligned}P &= \sqrt{3}\, V_L \, I_L \, \cos\phi \quad \text{[W]}\\ Q &= \sqrt{3}\, V_L \, I_L \, \sin\phi \quad \text{[var]}\\ S &= \sqrt{3}\, V_L \, I_L \quad \text{[VA]}\end{aligned}$$$V_L$: 線間電圧 (V), $I_L$: 線電流 (A), $\phi$: 電圧と電流の位相差, $\cos\phi$: 力率 (PF)。電力三角形の関係 $S^2 = P^2 + Q^2$ が常に成立します。
Y結線とΔ結線における、線間値と相(内部)値の変換関係です。機器の内部設計やCAE解析では相の値が重要になります。
$$ \text{Y結線:}\quad V_L = \sqrt{3}\, V_{ph},\quad I_L = I_{ph}\\ \text{Δ結線:}\quad V_L = V_{ph},\quad I_L = \sqrt{3}\, I_{ph}$$$V_{ph}$: 相電圧, $I_{ph}$: 相電流。係数 $\sqrt{3}$ は、三相の位相が120°ずれていることから生じる幾何学的な関係です。電力$P$はどちらの結線でも $3 V_{ph}I_{ph} \cos\phi$ で計算されます。
産業用モーター・ポンプ・ファン:工場の主力動力源はほとんどが三相誘導モーターです。CAEを用いてモーターの効率(力率を含む)や発熱を評価し、最適な結線方式(Y-Δ始動等)や保守計画を立てます。シミュレーターで力率を変えた時の無効電力Qの変化は、損失評価に直結します。
電力系統の計画と運用:発電所から需要家までの送配電システムは三相が基本です。系統の電圧安定性や電力損失を解析するため、潮流計算(有効電力P、無効電力Qの流れを求める計算)が行われます。このシミュレーターで学ぶ電力の三角関係は、その基礎となります。
データセンターの電源設計:サーバーラックに給電するためのUPS(無停電電源装置)やPDU(電源分配装置)の容量(皮相電力S)を決定する際、三相入力が用いられます。力率改善機能(PFC)を持つ最新機器の効果を、パラメータを変えて確認できます。
電気自動車(EV)の充電設備:急速充電スタンドでは三相電源を利用して大電力を短時間で供給します。充電器のコンバーター回路設計や、充電時の系統への影響(力率や高調波)をCAEシミュレーションで予測する際の基礎知識として重要です。
このシミュレーターを使い始める際、特にCAE初心者がハマりがちなポイントがいくつかあります。まず「線間電圧」の定義。これは文字通り「線と線の間の電圧」で、実測値です。しかし、単相回路の感覚で「対地電圧」と混同したり、Y結線での「相電圧(線と中性点間)」と勘違いしたりしがち。例えば、配電盤の電圧計が表示する400Vは線間電圧です。シミュレーターで「200V」と設定したら、それは既に線間電圧として入力してください。
次に力率の符号。このツールでは力率は0〜1の正の値ですが、実は無効電力Qの「遅れ」と「進み」を区別するため、力率cosφに符号を持たせる(遅れ力率を正、進み力率を負とする)計算体系もあります。コンデンサを接続すると進み力率になるので、無効電力Qの値が負になります。シミュレーターで力率を変えてもQの符号は変わりませんが、実務の計算シートではこの区別が重要です。
最後に「平衡負荷」という大前提。このツールの計算式 $P=\sqrt{3}V_L I_L \cos\phi$ は、三相の負荷が完全に平衡(各相のインピーダンスが等しい)している場合のみ成立します。現実のCAE解析、例えば配電系統の故障解析では、不平衡状態が普通です。その場合は対称座標法など別の手法が必要で、このシミュレーターはあくまで理想的な平衡状態の「基礎」を学ぶものと割り切りましょう。
三相電力の計算は、単に理論を学ぶだけでなく、多岐にわたる実務的なCAE解析の基礎入力となります。例えばモーターの熱流体連成解析(CHT)。モーターの損失(銅損、鉄損)を計算する際の根本的な熱源は、このシミュレーターで求まる有効電力Pではなく、むしろ線電流$I_L$そのものです。Δ結線なら相電流$I_{ph}=I_L/\sqrt{3}$が各コイルの発熱を決めます。
また、電力系統の過渡安定度解析やパワーエレクトロニクス機器(インバータ、コンバータ)の回路シミュレーションとも深く関連します。系統解析では、発電機の出力や負荷の消費電力が三相電力で与えられます。パワエレのシミュレーションでは、交流側の電圧・電流の実効値と位相(力率角φ)が、直流側の電圧・電流を決める重要な境界条件になります。例えば、三相PWMインバータの出力を評価する際は、このツールで学んだ皮相電力Sと力率の概念が、変圧器やフィルタの容量設計に直結します。
さらに意外なところでは、データセンターの冷却設計。サーバーラックへの供給電力は三相が主流です。ラックごとの消費電力(≒有効電力P)と力率を正確に見積もることで、UPS(無停電電源装置)や配電線の容量(皮相電力Sベース)を決定し、それに伴う発熱量をCFDで予測する、という流れになります。
このシミュレーターで三相電力の「感覚」をつかんだら、次は数式の背景にある数学に少し踏み込みましょう。キーは「120°位相差」です。三相の瞬時電圧 $v_a=V_m\sin\omega t, v_b=V_m\sin(\omega t - 120°), v_c=V_m\sin(\omega t - 240°)$ を足すとどうなるか?実はゼロになります。これが中性線が不要な理由の一つ。そして、線間電圧$v_{ab}=v_a - v_b$を三角関数の公式で計算すると、振幅が相電圧の$\sqrt{3}$倍になることが導けます。この「差をとる」操作が、幾何学的にはフェーザ図で正三角形を作り、$\sqrt{3}$を生み出しているのです。
学習の次のステップとしては、「不平衡三相回路」と「瞬時電力理論」がおすすめです。不平衡回路では、有効電力Pを求めるのに $P=V_a I_a \cos\phi_a + V_b I_b \cos\phi_b + V_c I_c \cos\phi_c$ のように各相ごとに計算して足す必要があります。瞬時電力理論(p-q理論)は、電圧・電流の瞬時値からリアルタイムで有効電力・無効電力成分を抽出する手法で、アクティブフィルタの制御などに使われます。これらを学ぶと、このシミュレーターで扱っている「平衡状態での平均電力」がいかに特殊で基礎的なケースかがわかり、視野が一気に広がります。