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光学シミュレーター

全反射シミュレーター — 臨界角とエバネッセント波

屈折率の大きい媒質から小さい媒質に光が入射するとき、臨界角を超えると全反射が起こり、境界面にエバネッセント波がしみ出します。屈折率と入射角を変えて、その振る舞いを学べます。

パラメータ設定
媒質1 屈折率 n_1
媒質2 屈折率 n_2
入射角 θ_1
°
真空波長 λ_0
nm
n_1 ≤ n_2 の場合、全反射は起こりません。n_1 を n_2 より大きくしてください。

既定値(ガラス n_1=1.50 / 空気 n_2=1.00 / λ_0=633 nm の HeNe レーザー)で θ_c ≈ 41.81°、θ_1=45° で全反射、d_p ≈ 285 nm になります。

計算結果
臨界角 θ_c
状態
エバネッセント透過深さ d_p
屈折角 θ_2(θ<θ_c のときのみ)
境界面と光線

青=入射光/緑=反射光/赤=屈折光(TIR 時は表示しない)/黄色破線=エバネッセント波の減衰曲線

理論・主要公式

異なる屈折率を持つ2つの媒質の境界では、光の伝わり方を Snell の法則が支配します。

Snell の法則。n は屈折率、θ は境界面の法線からの角度:

$$n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2$$

臨界角 θ_c。n_1 > n_2 のときに定義され、これを超えると全反射が起こる:

$$\theta_c = \arcsin\!\left(\frac{n_2}{n_1}\right)$$

エバネッセント波の透過深さ d_p(振幅が 1/e に減衰する距離)。λ_0 は真空中の波長:

$$d_p = \frac{\lambda_0}{2\pi\sqrt{n_1^{2}\sin^{2}\theta_1 - n_2^{2}}}$$

全反射時には反射率 R = 1 となり、入射光のすべてが反射されます。エバネッセント波はエネルギーを境界に沿って運ぶだけで、媒質2には伝播しません。

全反射シミュレーターとは

🙋
水中から空を見上げると、ある角度から先は鏡みたいに反射して見えるって聞いたんですけど、あれが全反射ですか?
🎓
そうそう、まさにそれだよ。屈折率の大きい媒質(水 n≈1.33)から小さい媒質(空気 n=1)に光が出ようとするとき、入射角がある角度を超えるとぜんぶ反射してしまう。それが「全反射」。シミュレーターで n_1=1.50(ガラス)n_2=1.00(空気)にして、入射角スライダーを動かしてごらん。41.8度を超えた瞬間、赤い屈折光が消えて緑の反射光だけになるはずだ。
🙋
本当だ!ぴったり41.8度で切り替わりますね。これってどうやって計算するんですか?
🎓
Snellの法則 $n_1\sin\theta_1=n_2\sin\theta_2$ から導けるよ。屈折角 θ_2 が 90 度になる入射角が「臨界角」で、$\theta_c=\arcsin(n_2/n_1)$ になる。ガラスから空気なら arcsin(1/1.5)=41.81°。これを超えると Snell の式から sin θ_2 が 1 を超えてしまって、物理的にあり得ない解になる——だから屈折光が消えるんだ。
🙋
でも、全反射してても境界の下に黄色い波みたいなのが出てますよね。これは何ですか?
🎓
それが「エバネッセント波(しみ出し波)」だ。全反射しても、境界のすぐ向こう側には振幅が指数関数的に減衰する波が存在する。振幅が 1/e(約 37%)まで減る距離を「透過深さ d_p」と呼ぶ。シミュレーターの既定値だと約 285 nm——可視光の波長の半分くらいだね。とても薄いけど確実に「ある」のがミソだ。
🙋
そんな薄い波、何の役に立つんですか?
🎓
実は山ほどある。光ファイバー通信は全反射で光を閉じ込めて運ぶし、ATR 赤外分光ではエバネッセント波で試料の吸収を測る。指紋認証や近接場顕微鏡もこの波を使う。「全反射=光が完全に閉じ込められる」じゃなくて「全反射=境界に薄くしみ出した波がエネルギーを横方向に運ぶ」と理解すると、応用の幅がぐっと広がるよ。

よくある質問

Snell の法則 $n_1\sin\theta_1=n_2\sin\theta_2$ から $\sin\theta_2=(n_1/n_2)\sin\theta_1$ となります。n_1 ≤ n_2 のとき右辺は最大でも 1 以下に収まり、必ず実数解 θ_2 が存在します。つまり屈折光が必ず存在し、入射光のすべてが反射される条件にはなりません。全反射は屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ向かう場合に限られます。
水の屈折率を 1.33、空気を 1.00 とすると θ_c = arcsin(1.00/1.33) ≈ 48.6° です。水中から水面を見たとき、48.6° より浅い角度では空が見え、それより大きい角度では水面が鏡となり水底や周囲の景色が映り込みます。プールの底に潜って見上げると円形の窓のように空が見える「スネルの窓」現象がこれにあたります。
入射角が臨界角に近いほど d_p は大きく(深くしみ出し)、臨界角から遠ざかるほど小さく(浅く)なります。臨界角ちょうどでは分母がゼロに近づき d_p は発散しますが、これは厳密には平面波近似の限界で、実際の有限ビームでは適度な値で頭打ちになります。シミュレーターで θ_1 を 42°→60° と変えると、d_p が減少していくのが分かります。
入射角が臨界角未満では、反射率はフレネルの式で 0〜1 の値をとり、偏光(s 波・p 波)によって異なります。p 波にはブリュースター角という反射率ゼロの角度もあります。一方、入射角が臨界角以上では偏光によらず反射率 R = 1(完全反射)となります。ただし反射光には偏光に依存する位相シフトが生じ、これは Goos-Hänchen シフトの原因にもなります。

実世界での応用

光ファイバー通信:光ファイバーは中心のコア(屈折率大)と周囲のクラッド(屈折率小)から成り、コアに入った光がコアとクラッドの境界で全反射を繰り返しながら長距離を伝わります。臨界角を超える角度で入射した光だけがファイバーに閉じ込められ、これが「開口数」を決めます。海底ケーブルから家庭の光回線まで、現代の通信インフラの基礎技術です。

プリズム反射と双眼鏡:双眼鏡や一眼レフカメラのペンタプリズムでは、ガラス表面の全反射を利用して光を反射させています。金属鏡膜を使うより損失が少なく、波長依存性も小さいため、高品質な像が得られます。45°ポロプリズムは入射角 45°がガラス-空気界面の臨界角 41.8°を超えるため、自然に全反射が成立する設計です。

ATR 赤外分光法:ATR(減衰全反射)法は、屈折率の高い結晶(ZnSe や Ge)内で全反射を起こし、しみ出すエバネッセント波で試料を測定する分光法です。試料を薄膜にする前処理が不要で、固体・液体・粉末をそのまま測れるため、医薬品・食品・高分子分析で広く使われています。透過深さは数ミクロン以下なので、表面層の情報が得られるのも特徴です。

近接場光学と SPR センサー:近接場顕微鏡(NSOM)は、エバネッセント波を介して回折限界より細かい構造を観察します。表面プラズモン共鳴(SPR)センサーは金属薄膜上での全反射を利用し、生体分子の吸着を超高感度で検出します。バイオ医療の研究現場では SPR センサーが抗原-抗体反応の解析などに不可欠な装置になっています。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「全反射すると境界の向こう側には何も存在しない」と思い込むことです。実際には、全反射していてもエバネッセント波が境界面に薄くしみ出しています。シミュレーターで黄色い破線として可視化しているように、振幅は指数関数的に減衰しますが、透過深さ d_p(可視光で数百 nm)の範囲では確実に電磁場が存在します。光ファイバーの結合や ATR 分光法は、まさにこの「ありえない」はずの波を積極的に利用する技術です。「全反射=光のシャットアウト」ではなく「全反射=境界に沿うエネルギー流」と理解するのが正しい姿勢です。

次に多いのが、臨界角が屈折率の比そのものに比例すると勘違いすることです。実際の関係は $\theta_c=\arcsin(n_2/n_1)$ で、arcsin が入るため非線形になります。たとえばガラス(n=1.5)から空気では θ_c=41.81°ですが、ダイヤモンド(n=2.42)から空気では θ_c=24.4° と急激に小さくなります。ダイヤモンドが内部で何度も光を全反射してギラギラ輝く理由はここにあります。シミュレーターで n_1 を 1.5→2.4 と変化させると、臨界角が大きく変わることが体感できます。

最後に、このシミュレーターの透過深さ式が「平面波・無限ビーム」を前提としていることに注意してください。式 $d_p=\lambda_0/(2\pi\sqrt{n_1^2\sin^2\theta_1-n_2^2})$ は入射角が臨界角ちょうどでは発散しますが、実際のレーザービームは有限のスポット径を持ち、ガウシアン分布のスペクトル成分を含むため、d_p は適度な値に飽和します。また現実の界面には粗さや吸収があり、反射率は厳密には 1 ではなく 0.99999... 程度になります。設計時には、教科書式に加えて偏光(s 波・p 波)依存の位相シフトや Goos-Hänchen シフトも考慮する必要があります。