球の抗力(Stokes/Oseen解)
理論:遅い流れの中の球
概要
微粒子の沈降をCFDで解くので、まず球の抗力で検証したいです。ストークスの式と比べればいいですか?
よい選択だけど、2つ注意がある。1つ目は、ストークス解が厳密なのはレイノルズ数がとても小さいときだけで、1に近づくと慣性の影響で1割以上ずれること。検証するレイノルズ数に合った参照値を選ばないと、正しいCFDを『合わない』と誤って判断してしまう。2つ目は計算領域の大きさ。遅い流れでは、球が周りの流れを乱す範囲がとても広いので、外側の境界が近いと抗力が大きく出てしまう。この2つを押さえれば、球の抗力はとてもよい検証問題になるよ。
抗力係数の式
$Re = \rho U d/\mu$ は球の直径を基準にしたレイノルズ数。ストークス解は慣性を無視した厳密解、オセーン解は遠方の慣性を近似的に入れた解、シラー–ナウマンの式(SN)はレイノルズ数800程度までの実験式。
沈降する粒子の終端速度。ストークスの式はレイノルズ数が小さいときだけ正しいので、大きな粒子では抗力係数とレイノルズ数を繰り返し計算して合わせる。
ストークスとオセーンのパラドックス
ストークスは1851年、振り子の空気抵抗を調べる中で、遅い流れの中の球の抗力 3πμdU を導いた。ところが同じ近似で円柱を解こうとすると解が存在しない(ストークスのパラドックス)ことがわかり、球の解も遠くでは慣性を無視できないという問題が指摘された。1910年、オセーンは遠方の流れの慣性を近似的に取り入れる方法を示し、この矛盾を解いた。のちにミリカンは、油滴の落下速度にストークスの式を使って電子の電荷を測定し、ノーベル賞につながった。
計算例
例1:解析解の適用範囲
| レイノルズ数 | ストークス | オセーン | 実験式(SN) | ストークスの差 | オセーンの差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.1 | 240 | 244 | 247 | −3.0% | −1.2% |
| 0.5 | 48.0 | 52.5 | 52.5 | −8.5% | +0.1% |
| 1 | 24.0 | 28.5 | 27.6 | −13.0% | +3.3% |
| 2 | 12.0 | 16.5 | 14.9 | −19.5% | +10.8% |
| 10 | 2.40 | 6.90 | 4.15 | −42.2% | +66.2% |
| 100 | 0.24 | 4.74 | 1.09 | −78.0% | +334% |
例2:計算領域の大きさ
遅い流れで、円筒の中心に置いた球の抗力が、円筒の直径 D と球の直径 d の比でどれだけ増えるか(ハーバーマンとセイヤーの壁の補正):
| 領域の大きさ D/d | 5 | 10 | 20 | 50 | 100 | 200 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 抗力の増加 | +68% | +26% | +11.7% | +4.4% | +2.2% | +1.1% |
直径の10倍の領域でも26%も大きく出るんですか?
遅い流れでは、球の周りの速度の乱れが距離に反比例してしかゆっくり減らない。だから外側の境界がかなり遠くても、そこで速度を固定すると流れが押し込められ、抗力が大きくなるんだ。高いレイノルズ数の計算で使う『直径の10〜20倍』の感覚で領域を作ると、低いレイノルズ数では大きくずれる。1%の精度で検証したいなら、直径の200倍程度の領域が要る。領域を大きくする代わりに、壁の補正の式で参照値のほうを直して比べる方法もあるよ。
例3:砂粒の沈降速度
| 粒径 | ストークス | 実験式で反復 | レイノルズ数 | ストークスの過大 |
|---|---|---|---|---|
| 50 µm | 2.25 mm/s | 2.18 mm/s | 0.11 | 3% |
| 100 µm | 9.00 mm/s | 7.98 mm/s | 0.80 | 13% |
| 200 µm | 36.0 mm/s | 24.8 mm/s | 4.96 | 45% |
| 500 µm | 225 mm/s | 78.6 mm/s | 39.2 | 187% |
検証の進め方
- 検証するレイノルズ数を決め、それに合った参照値(ストークス・オセーン・実験式)を選ぶ。
- 計算領域を十分大きくする(低いレイノルズ数では直径の100倍以上)か、壁の補正を入れる。
- 球の表面の近くの格子を細かくし、3段階以上で格子依存性を確かめる。
- 抗力を圧力抗力と摩擦抗力に分け、ストークス解の比(1:2)とも比べる。
- レイノルズ数を変えて、実験式との一致の傾向を確かめる。
「何度やっても2割大きい」
微粒子のCFDを検証するため、レイノルズ数0.05で球の抗力を計算したら、格子をいくら細かくしてもストークス解より2割ほど大きかった——という例がある。格子の問題ではなく、計算領域が球の直径の12倍しかなかった。遅い流れでは外側の境界が遠くても効くため、領域を直径の200倍に広げると差は1%程度になった。高いレイノルズ数の流れと同じ感覚で領域を作ると、低いレイノルズ数では思わぬ誤差が出る。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| Re 1でストークス解と比較 | 正しいCFDを誤りと判断 | オセーン・実験式を使う |
| 計算領域が小さい | 抗力が大きく出る | 直径の100〜200倍 |
| 大きな粒子にストークスの沈降速度 | 速度を大きく過大評価 | 抗力係数と反復 |
| 表面近くの格子が粗い | 摩擦抗力を誤る | 境界層を解像 |
| 合計の抗力だけ比べる | 誤差の打ち消しを見落とす | 圧力・摩擦に分ける |
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