誘電加熱解析
理論:発熱と冷却のつり合いが崩れるとき
概要
誘電加熱で、同じ条件なのにある日だけ材料が焦げたり割れたりするのはなぜですか?
熱暴走の境目の近くで運転している可能性が高い。誘電加熱では、材料の中の分子が電界の向きの変化についていこうとして、エネルギーを熱として吸収する。その吸収のしやすさを表すのが誘電損失率で、多くの材料では温度が上がると大きくなる。すると、温まった部分ほどよく吸収し、さらに温まる。冷却がこれに追いつけば温度はある値で落ち着くが、追いつかなくなると上がり続ける。この境目は鋭く、電界や材料の水分、置き方のわずかな違いで、落ち着く側から暴走する側に移る。だから誘電加熱の解析では、電磁界と温度を連成させ、損失率の温度依存を入れて、境目からどれだけ離れているかを確かめる。
発熱の式
f は周波数(2.45 GHz)、ε₀ は真空の誘電率、ε''₀ は基準温度での誘電損失率(0.05)、β は損失率の温度係数(0.02/K、例示)、E は材料の中の電界の実効値。
熱のつり合いと臨界条件
H は体積あたりの冷却の係数で、厚さ10 mmの板の両面から熱伝達率20 W/m²Kで冷える場合 H = 2h/L = 4,000 W/m³K。ρc は体積比熱(2×10⁶ J/m³K)。発熱の曲線が冷却の直線に接するときが臨界で、それより発熱が大きいと交点がなくなる。
塩ビは溶着できてポリエチレンはできない
高周波の電界で樹脂のシートを貼り合わせる高周波溶着は、レインコートやビニールの浮き輪、文具のファイルなどに使われている。この方法が使えるのは塩化ビニルのように誘電損失の大きい樹脂で、ポリエチレンやポリプロピレンは損失がとても小さいため、電界をかけてもほとんど温まらない。同じ誘電加熱でも、材料の誘電損失率が、加熱できるかどうかそのものを決めている。
計算例
例1:電界と落ち着く温度
| 電界 | 発熱(基準温度) | 損失率一定の温度上昇 | 温度依存ありの温度上昇 |
|---|---|---|---|
| 1,000 V/m | 6,815 W/m³ | 1.7 K | 1.8 K |
| 2,000 V/m | 27,259 W/m³ | 6.8 K | 8.0 K |
| 3,000 V/m | 61,334 W/m³ | 15.3 K | 25.6 K |
| 3,200 V/m | 69,784 W/m³ | 17.4 K | 35.4 K |
| 3,280 V/m | 73,317 W/m³ | 18.3 K | 45.9 K |
| 3,286 V/m | 73,576 W/m³ | 18.4 K | 50 K(臨界) |
電界が低いうちは温度依存の影響は小さいが、臨界の3,286 V/mに近づくと急に大きくなる。
例2:臨界の前後での温度の時間変化
| 電界 | 結果 |
|---|---|
| 3,000 V/m | 2時間後も25.6 Kで安定 |
| 3,500 V/m | 約4,614秒(約77分)で300 K上昇 |
3,000 V/mと3,500 V/mで、電界の差は17%しかないのに、片方は安定でもう片方は暴走なんですね。
しかも暴走はすぐには起きない。3,500 V/mでも最初の数十分はゆっくり温まるだけで、ある温度を過ぎてから急に上がる。運転中に様子を見ていても気づきにくいのはそのためだ。実際の加熱装置では、電界は場所によって違い、電磁波の定在波で強いところと弱いところができる。平均の電界が臨界より低くても、強いところだけが暴走して焦げたり割れたりする。さらに、温度が上がると誘電率そのものも変わって電界の分布が変わり、熱い場所に電界が集まることもある。だから、電磁界の解析と熱の解析を交互に解いて、局所の温度と電界を更新しながら追う。運転では、材料の表面温度を測って出力を下げる制御や、材料を動かして電界の強いところに長く置かないようにする工夫が使われる。
モデリングの進め方
- 材料の誘電率と誘電損失率を、使う周波数で温度を変えて測る。
- 簡単な熱のつり合いで、臨界の電界の見当をつける。
- 加熱装置の中の電磁界を解き、発熱の分布を求める。
- 温度を解き、温度で誘電率と損失率を更新して電磁界を解き直す。
- 最も熱い場所が臨界から十分離れているか確かめ、出力や配置を決める。
「角だけ割れたセラミックス」
マイクロ波でセラミックスの部品を加熱したところ、炉の設定温度は同じなのに、ときどき部品の角だけが割れた。電磁界と熱を連成させて解くと、角では電界が強まりやすく、しかもこの材料は温度とともに損失率が急に増えるため、角だけが臨界を超えて局所的に暴走していた。出力を上げる速さを緩め、部品のまわりに損失の小さい断熱材を置いて温度差を小さくすると、割れはなくなった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 損失率を室温の値で一定 | 暴走を見逃す | 温度の関数で与える |
| 平均の電界で判断 | 局所の暴走を見逃す | 電界の分布を解く |
| 電磁界を1回だけ解く | 温度による電界の変化を無視 | 交互に解き直す |
| 短い時間だけ計算 | 遅れて来る暴走を見逃す | 十分長く計算 |
| 冷却を過大に見積もる | 臨界の電界を高く見積もる | 実測で熱伝達率を合わせる |
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