誘導モータの電磁界FEM解析

カテゴリ: 電磁気・モータ | 2026-10-01 改稿
Induction motor FEM electromagnetic simulation showing rotor bar eddy current distribution and air gap flux density
誘導モータの電磁界FEM解析 ── ロータバー渦電流分布とエアギャップ磁束密度の可視化

理論:すべりが電流とトルクを生む

概要

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誘導モータの始動トルクを等価回路で計算したら、実測より3割近く小さく出ました。何が足りないのでしょう?

🎓

回転子の導体棒の中で電流の分布が変わる『深溝効果』が入っていないのかもしれない。誘導モータは、回転磁界と回転子の回転の差(すべり)で回転子に電流が流れてトルクを出す。定格運転ではすべりが数%で、回転子の電流の周波数は1〜2 Hz程度とゆっくりだけど、始動時はすべりが1で、回転子にも50 Hzの電流が流れる。すると表皮効果で電流が棒の上側に集まり、抵抗が大きくなってトルクが増える。等価回路の抵抗を一定のままにすると、始動トルクを小さく見積もってしまうんだ。

等価回路とトルク

$$ T = \frac{3\,|I_2'|^2\,R_2'/s}{\omega_s}, \qquad s = \frac{n_s - n}{n_s}, \qquad Z = R_1 + jX_1 + \frac{jX_m\,(R_2'/s + jX_2')}{R_2'/s + j(X_m + X_2')} $$

1相あたりの等価回路。$R_1$・$X_1$ は固定子、$R_2'$・$X_2'$ は固定子側に換算した回転子、$X_m$ は励磁リアクタンス、$\omega_s$ は同期角速度。二次抵抗 $R_2'/s$ で消費される電力がトルクに対応する。

深溝効果

$$ \delta = \sqrt{\frac{2\rho}{\omega_2\mu_0}},\ \ \omega_2 = 2\pi s f, \qquad K_R = \xi\,\frac{\sinh 2\xi + \sin 2\xi}{\cosh 2\xi - \cos 2\xi},\ \ \xi = \frac{h}{\delta} $$

回転子の電流の周波数 $sf$ での表皮深さ $\delta$ と、棒の深さ $h$ の比 $\xi$ から、抵抗が何倍になるか($K_R$)が求まる。すべりが小さいと周波数が低く、$K_R$ はほぼ1になる。

Coffee Break よもやま話

テスラの回転磁界

誘導モータは、1888年ごろにテスラとイタリアのフェラリスがそれぞれ独立に、多相の交流で回転する磁界を作る原理を示したことから始まった。ブラシも整流子もいらない簡単な構造で、そのまま工場の動力の主役になった。かご形の回転子の導体棒を深く、あるいは二重にして始動トルクを上げる工夫は20世紀前半に生まれた。今ではインバーターで周波数を変えて運転するのが普通になり、電気自動車の駆動用にも使われている。FEMの解析は、こうした棒の形や磁気飽和を直接扱える。

計算例:4極・50 Hz・400 Vのモータ

1相あたり R1 = 0.5、X1 = 1.0、R2' = 0.4、X2' = 1.0、Xm = 30 Ω(星形結線)。同期速度1,500 rpm。回転子はアルミの棒(深さ20 mm)。

項目二次抵抗一定深溝効果あり
すべり3%(1,455 rpm)のトルク65.4 N·m65.4 N·m
すべり3%の電流18.0 A18.0 A
最大トルク(すべり)190.9 N·m (0.197)190.9 N·m (0.201)
始動トルク81.9 N·m110.1 N·m
始動電流107.0 A103.4 A

すべり3%での出力は約10.0 kW。棒の表皮深さは、すべり1(50 Hz)で12.7 mm、すべり0.1(5 Hz)で40 mm、すべり0.03(1.5 Hz)で74 mm で、抵抗の倍率はそれぞれ1.44、1.01、1.00。

🙋

定格付近ではまったく同じなのに、始動トルクだけ34%も違うんですね。

🎓

そう、深溝効果はすべりが大きい所だけで効く。始動時は棒の深さ20 mmに対して表皮深さが12.7 mmしかないから、電流が上側に集まって抵抗が1.44倍になり、トルクが増えて電流は少し減る。この計算では簡単のために抵抗の変化だけを入れて、漏れリアクタンスが下がる効果は省いているけれど、傾向はつかめる。実際の設計では、棒の断面形状(深溝・二重かご・台形など)をFEMで解き、始動から定格までのトルク曲線を求める。等価回路の定数を1組だけ使うと、始動の性能を見誤るよ。

解析の進め方

  1. 等価回路でトルク–すべり曲線、効率、力率の概算を出す。
  2. 2次元FEM(時間調和または過渡)で、磁気飽和と棒の中の電流分布を含めて解く。
  3. すべりを変えて始動から定格までのトルク・電流を求め、等価回路の定数を更新する。
  4. 鉄損・漂遊負荷損を加えて効率を求め、熱の解析へ渡す。
  5. 無負荷試験・拘束試験の結果と比べる。
Coffee Break よもやま話

「インバーターで回すと温度が高い」

商用電源で設計した誘導モータを、インバーターで運転したら、同じ負荷でも回転子の温度が高くなった——という例がある。インバーターの電圧には高い周波数の成分が含まれ、その成分に対しては回転子の棒が高い周波数の電流を運ぶことになる。深溝効果と同じ仕組みで棒の上側に電流が集まり、損失が増えていた。FEMの過渡解析でインバーターの電圧の波形を直接入れて計算すると、損失の増加が再現できた。周波数が変わると、棒の中の電流分布も変わることを忘れないようにしよう。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
二次抵抗を一定に始動トルクを過小評価深溝効果を入れる
磁気飽和を無視始動電流を誤る非線形のB–H曲線
正弦波の電源だけで評価インバーターの損失を見落とす実際の電圧波形で過渡解析
端部リングの抵抗を無視二次抵抗を過小評価端部を回路で加える
すべり1点だけで検証曲線の形を見誤るすべりを変えて比較
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