電磁成形時の発熱解析
理論:短い大電流が表皮の層に残す熱
概要
電磁成形は10万アンペアもの電流を流すのに、なぜ加工物が溶けないのですか?
流れる時間がとても短いからだ。コンデンサーにためた電気をコイルに一気に流すと、電流は数十マイクロ秒でピークに達し、1ミリ秒もしないうちに減衰する。電流は加工物とコイルの表皮の層に集中し、そこで抵抗によって熱が出るが、発熱の総量は電流の2乗を時間で積分した値(作用積分)で決まるので、時間が短ければ熱は限られる。この例では加工物の温度上昇は約32 Kにとどまる。ただしコイルは毎回この電流を受けるので、連続して打つと熱がたまっていく。電磁成形の熱の解析は、加工物の性質の変化よりも、コイルを何回、どんな間隔で使えるかを決めるために行うことが多い。
放電の電流と作用積分
C = 200 μF、V₀ = 10 kV(10 kJ)、L = 2 μH、回路全体の抵抗 R = 10 mΩ(想定)。周波数は7.95 kHz、減衰の時定数は400 μs、最初のピークは92.7 kA、作用積分は1.0×10⁶ A²s。
表皮の層の発熱
l はコイルの長さ(20 mm)、δ は浸透深さ、ρ は抵抗率、ρ_m と c は密度と比熱。電流が表皮の層に一様に流れると近似した。体積あたりの発熱 q は抵抗率によらない。
短いパルスで強い磁場を
1920年代、ケンブリッジにいたカピッツァは、コイルに大電流を流して数十テスラの強い磁場を作ろうとした。問題はコイルの発熱と、磁気の力でコイルが壊れることだった。彼は電流を流す時間を1/100秒程度まで短くすることで、コイルが溶ける前に実験を終えるという方法をとった。短いパルスで大電流を流し、熱がたまる前に終える、という考えは、電磁成形のコイルの設計にもそのまま通じている。
計算例
例1:1回の放電での発熱(10 kJ)
| 部位 | 浸透深さ | 電流密度のピーク | 体積あたりの発熱 | 温度上昇 | 1回の発熱量 |
|---|---|---|---|---|---|
| アルミ管(半径25 mm、厚さ1 mm) | 0.945 mm | 4.90×10⁹ A/m² | 7.84×10⁷ J/m³ | 32.3 K | 233 J |
| 銅コイル(内半径26 mm) | 0.736 mm | 6.29×10⁹ A/m² | 7.84×10⁷ J/m³ | 22.7 K | 189 J |
蓄えたエネルギー10 kJのうち、加工物とコイルの表皮の層に残る熱は合わせて約0.42 kJ。銅はアルミより体積比熱が大きいので、同じ体積あたりの発熱でも温度上昇は小さい。
例2:連続して打つときのコイルの平均温度
| 打つ間隔 | コイルの平均発熱 | 平均の温度上昇(hA = 1 W/K) |
|---|---|---|
| 60秒 | 3.1 W | 3.1 K |
| 10秒 | 18.9 W | 18.9 K |
| 2秒 | 94.3 W | 94.3 K |
2秒ごとでも平均94 Kなら、室温25℃で約120℃です。銅は溶けないし、大丈夫では?
銅は大丈夫でも、コイルを支える材料が持たない。電磁成形のコイルは、導体のまわりを樹脂や繊維で固め、毎回の放電で受ける大きな磁気の力(この条件で15 MPa程度)に耐えるようにしている。樹脂は100℃を超えると強度が大きく下がるものが多く、そこに繰り返しの力がかかると、はく離やき裂が進んでコイルが壊れる。しかも平均の温度より、表面の層は毎回さらに約23 K上がるので、最も熱い場所はもっと高い。さらに銅は温度が上がると抵抗が増えて、同じ電圧でも電流と磁気圧が下がり、成形の結果がばらつく。そのため、コイルの中の温度分布を時間を追って解き、冷却の流路や打つ間隔を決める。熱で弱った樹脂に磁気の力がかかる問題なので、電磁・熱・構造を連成させて評価することになる。
モデリングの進め方
- コンデンサー・配線・コイルの回路を解き、電流の波形を求める。
- 加工物とコイルの渦電流を時間を追って解き、発熱の分布を求める。
- 加工物の変形を連成させ、すき間の変化で電流が変わる効果を入れる。
- コイルの熱の解析で、繰り返しの放電と冷却を入れて温度を求める。
- 樹脂の温度と磁気の力から、コイルの寿命を見積もる。
「午後になると成形が甘くなる」
ある自動車部品の電磁成形ラインで、朝は狙いどおりに管がかしめられるのに、午後になると締め付けが弱くなる不良が出ていた。解析すると、連続運転でコイルの温度が上がり、銅の抵抗が増えて電流のピークが下がり、磁気圧が足りなくなっていた。コイルに冷却水の流路を設け、温度に応じて充電電圧を少し上げる補正を入れると、一日を通して成形の結果がそろった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 1回の放電だけで評価 | コイルの熱の蓄積を見逃す | 繰り返しを解く |
| 電流を導体全体に一様 | 発熱を過小評価 | 表皮の層を解く |
| 抵抗率を一定にする | 温まったときの電流を誤る | 温度の関数で与える |
| 樹脂の強度を室温で評価 | コイルの寿命を過大評価 | 温度での強度を使う |
| 加工物を静止したまま解く | 電流と力を誤る | 変形と連成 |
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