摩擦発熱シミュレーション

カテゴリ: 連成解析 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for friction heating theory - technical simulation diagram
摩擦発熱シミュレーション

理論:摩擦が生む熱と、その行き先

概要

🙋

ブレーキディスクに細かいひび割れが出ます。ディスク全体の温度は計算上そんなに高くないのに、なぜでしょう?

🎓

全体の平均温度と表面の温度は別物だからだよ。ブレーキの摩擦熱はパッドとディスクの接触面で生まれて、ほとんどが熱を吸い込みやすいディスクに入る。短い時間の強いブレーキでは、熱が奥に伝わる前に表面にたまるから、表面だけが一時的に大きく温まる。温まった表面は膨張しようとするけど、冷たい内部に押さえられて圧縮の応力が生じ、冷えると今度は引っ張りになる。これを繰り返すと、表面に網目状のひび(ヒートチェック)ができるんだ。

摩擦による発熱

$$ q = \mu\,p\,v $$

$\mu$ は摩擦係数、$p$ は接触圧力、$v$ はすべり速度。発熱は接触している面で生じ、速度と圧力が大きいほど大きい。

熱の分配

$$ \frac{q_1}{q} = \frac{e_1}{e_1 + e_2}, \qquad e = \sqrt{k\rho c} $$

$e$ は熱浸透率で、表面から熱を吸い込む能力を表す。接触している2つの物体の表面温度が等しいとみなすと、熱は熱浸透率の比で分かれる。金属は大きく、樹脂やセラミックは小さい。

短時間加熱の表面温度

$$ \Delta T_s(t) = \frac{1}{e\sqrt{\pi}}\int_0^t \frac{q(s)}{\sqrt{t-s}}\,ds \ \ \left(= \frac{2q\sqrt{t}}{e\sqrt{\pi}}\ \text{for constant } q\right) $$

熱が届く深さ(約 $\sqrt{\alpha t}$)が物体の厚さより小さい間は、物体を半無限の固体とみなして表面温度を求められる。熱流が時間とともに変わる場合は、各時刻の加熱の効果を重ね合わせる(デュアメルの積分)。

Coffee Break よもやま話

『閃光温度』を考えたブロック

すべり合う表面の実際の接触は、目に見える面積のほんの一部の小さな突起どうしで起きている。1937年、オランダのブロックは、この突起の接触点で一瞬だけ非常に高い温度(閃光温度)が生じることを理論的に示し、歯車の焼き付き(スカッフィング)を説明した。その後イェーガーが、動く熱源の理論を整えた。ブレーキ、歯車、軸受、切削など、すべりのある機械では、この『平均では見えない局所の高温』が損傷の出発点になることが多い。

計算例:急ブレーキ

以下は仮想の条件。1,500 kgの車が100 km/hから3秒で止まり(減速度一定)、制動力の70%を前輪が受け持つ。ディスクは鋳鉄(8 kg、摩擦面の面積0.0785 m²)、パッドは樹脂系。

項目値
ディスク1枚の熱量203 kJ
平均の制動パワー67.5 kW
ディスクに入る割合(熱浸透率比)90%
ディスク全体の温度上昇50 K
制動開始時の熱流束1.55 MW/m²
表面の温度上昇の最大(1.55秒後)109 K
停止時の表面の温度上昇80 K
熱が届く深さ(3秒)6.7 mm
🙋

全体では50 Kなのに、表面は途中で110 K近く上がるんですね。停止の瞬間が一番熱いわけではないんですか?

🎓

減速度が一定なら、発熱は速度に比例して、止まる直前にはほとんど0になる。一方で表面にたまった熱は内部へ逃げていくから、表面温度はブレーキの途中、この例では約1.55秒で最大になる。平均の熱流束で一定と仮定すると停止時に118 Kと見積もってしまい、時刻も大きさもずれる。それと、ここでは摩擦面全体に熱が均一に入ると仮定しているけど、実際は接触が一部に偏って帯状や点状に熱い場所(ホットバンド、ホットスポット)ができ、局所の温度はさらに高くなる。

解析の進め方

熱と構造の連成

  1. 接触圧力の分布を構造解析で求め、μpvで発熱の分布を与える。
  2. 熱の分配は、2つの物体の熱伝導を同時に解いて界面の温度を一致させるか、熱浸透率の比で与える。
  3. 温度による熱膨張で接触圧力の分布が変わり、発熱の分布も変わる。この連成を解くと、ホットスポットが成長する不安定(熱弾性不安定)を予測できる。
  4. 温度の繰り返しによる応力から、熱亀裂の寿命を評価する。
Coffee Break よもやま話

「ディスクが波打つ」

強いブレーキを繰り返すと、ディスクの厚さが周方向にわずかに変わり、ペダルに周期的な振動(ジャダー)が出ることがある。原因の一つが熱弾性不安定だ。どこかが少し強く当たるとそこが熱くなって膨らみ、さらに強く当たる——という正のフィードバックで、熱い点が周方向にいくつか並ぶ。その場所だけ組織が変わったり、摩耗の仕方が変わったりして、冷えても厚さのむらが残る。平均の温度だけを見る解析では見えず、接触と熱の連成で初めて予測できる現象だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
平均温度だけで評価表面の熱亀裂を見落とす表面温度を過渡で解く
熱を半分ずつに分けるディスク温度を過小評価熱浸透率の比
平均の熱流で一定とする最大の時刻・値を誤る実際の減速の履歴
接触を一様とするホットスポットを見落とす接触と熱の連成
繰り返しを考えない温度が積み上がる連続制動のサイクルで解析
🙋

摩擦や非定常の熱の計算を自分でも試したいです。

🎓

摩擦係数で摩擦係数、クラッチの摩擦トルクでクラッチの摩擦、非定常熱伝導で非定常の熱伝導を試せるよ。関連する話題は半無限固体、熱応力、熱衝撃、熱疲労の記事にまとめてある。

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