摩擦発熱シミュレーション
理論:摩擦が生む熱と、その行き先
概要
ブレーキディスクに細かいひび割れが出ます。ディスク全体の温度は計算上そんなに高くないのに、なぜでしょう?
全体の平均温度と表面の温度は別物だからだよ。ブレーキの摩擦熱はパッドとディスクの接触面で生まれて、ほとんどが熱を吸い込みやすいディスクに入る。短い時間の強いブレーキでは、熱が奥に伝わる前に表面にたまるから、表面だけが一時的に大きく温まる。温まった表面は膨張しようとするけど、冷たい内部に押さえられて圧縮の応力が生じ、冷えると今度は引っ張りになる。これを繰り返すと、表面に網目状のひび(ヒートチェック)ができるんだ。
摩擦による発熱
$\mu$ は摩擦係数、$p$ は接触圧力、$v$ はすべり速度。発熱は接触している面で生じ、速度と圧力が大きいほど大きい。
熱の分配
$e$ は熱浸透率で、表面から熱を吸い込む能力を表す。接触している2つの物体の表面温度が等しいとみなすと、熱は熱浸透率の比で分かれる。金属は大きく、樹脂やセラミックは小さい。
短時間加熱の表面温度
熱が届く深さ(約 $\sqrt{\alpha t}$)が物体の厚さより小さい間は、物体を半無限の固体とみなして表面温度を求められる。熱流が時間とともに変わる場合は、各時刻の加熱の効果を重ね合わせる(デュアメルの積分)。
『閃光温度』を考えたブロック
すべり合う表面の実際の接触は、目に見える面積のほんの一部の小さな突起どうしで起きている。1937年、オランダのブロックは、この突起の接触点で一瞬だけ非常に高い温度(閃光温度)が生じることを理論的に示し、歯車の焼き付き(スカッフィング)を説明した。その後イェーガーが、動く熱源の理論を整えた。ブレーキ、歯車、軸受、切削など、すべりのある機械では、この『平均では見えない局所の高温』が損傷の出発点になることが多い。
計算例:急ブレーキ
以下は仮想の条件。1,500 kgの車が100 km/hから3秒で止まり(減速度一定)、制動力の70%を前輪が受け持つ。ディスクは鋳鉄(8 kg、摩擦面の面積0.0785 m²)、パッドは樹脂系。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| ディスク1枚の熱量 | 203 kJ |
| 平均の制動パワー | 67.5 kW |
| ディスクに入る割合(熱浸透率比) | 90% |
| ディスク全体の温度上昇 | 50 K |
| 制動開始時の熱流束 | 1.55 MW/m² |
| 表面の温度上昇の最大(1.55秒後) | 109 K |
| 停止時の表面の温度上昇 | 80 K |
| 熱が届く深さ(3秒) | 6.7 mm |
全体では50 Kなのに、表面は途中で110 K近く上がるんですね。停止の瞬間が一番熱いわけではないんですか?
減速度が一定なら、発熱は速度に比例して、止まる直前にはほとんど0になる。一方で表面にたまった熱は内部へ逃げていくから、表面温度はブレーキの途中、この例では約1.55秒で最大になる。平均の熱流束で一定と仮定すると停止時に118 Kと見積もってしまい、時刻も大きさもずれる。それと、ここでは摩擦面全体に熱が均一に入ると仮定しているけど、実際は接触が一部に偏って帯状や点状に熱い場所(ホットバンド、ホットスポット)ができ、局所の温度はさらに高くなる。
解析の進め方
熱と構造の連成
- 接触圧力の分布を構造解析で求め、μpvで発熱の分布を与える。
- 熱の分配は、2つの物体の熱伝導を同時に解いて界面の温度を一致させるか、熱浸透率の比で与える。
- 温度による熱膨張で接触圧力の分布が変わり、発熱の分布も変わる。この連成を解くと、ホットスポットが成長する不安定(熱弾性不安定)を予測できる。
- 温度の繰り返しによる応力から、熱亀裂の寿命を評価する。
「ディスクが波打つ」
強いブレーキを繰り返すと、ディスクの厚さが周方向にわずかに変わり、ペダルに周期的な振動(ジャダー)が出ることがある。原因の一つが熱弾性不安定だ。どこかが少し強く当たるとそこが熱くなって膨らみ、さらに強く当たる——という正のフィードバックで、熱い点が周方向にいくつか並ぶ。その場所だけ組織が変わったり、摩耗の仕方が変わったりして、冷えても厚さのむらが残る。平均の温度だけを見る解析では見えず、接触と熱の連成で初めて予測できる現象だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 平均温度だけで評価 | 表面の熱亀裂を見落とす | 表面温度を過渡で解く |
| 熱を半分ずつに分ける | ディスク温度を過小評価 | 熱浸透率の比 |
| 平均の熱流で一定とする | 最大の時刻・値を誤る | 実際の減速の履歴 |
| 接触を一様とする | ホットスポットを見落とす | 接触と熱の連成 |
| 繰り返しを考えない | 温度が積み上がる | 連続制動のサイクルで解析 |
摩擦や非定常の熱の計算を自分でも試したいです。
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