アーク溶接電磁-熱連成

カテゴリ: 連成解析・電磁熱 | 2026-10-01 改稿

理論:電流が自分を締め付ける力

概要

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アーク溶接の解析は、熱源を置いて温度を解くだけではだめなのですか?

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溶接変形を見積もるだけならそれで十分なことが多い。しかし、溶け込みの深さや形、ビードの形を予測したいなら、電磁力を考える必要がある。アークの中を流れる電流は、自分のまわりに磁場を作り、その磁場から中心に向かう力を受ける。電極の先では電流が細く集まっているので、この力が強く、圧力が高くなる。下流ではアークが広がって圧力が下がるので、その差でプラズマが母材に向かって勢いよく吹き付ける。この流れが熱を運び、母材を押してへこませる。さらに溶融池の中でも電流が流れて電磁力がかかり、表面張力の差による流れと合わさって、溶けた金属を動かす。これらを同時に解くのがアーク溶接の電磁-熱連成である。

ピンチ圧力とアークの流れ

$$ p(R) = \frac{\mu_0 I^2}{4\pi^2 R^2},\qquad \tfrac12\rho v^2 = p(R_1) - p(R_2) $$

I は電流、R は電流が流れる半径。電流が一様に流れる柱の中心の圧力で、電極の近く(R₁ = 0.5 mm)と広がった下流(R₂ ≫ R₁)の差がプラズマを加速する。ρ はプラズマの密度(0.02 kg/m³、例示)。

溶融池の流れの大きさ

$$ u_{EM} \sim \sqrt{\frac{p(r)}{\rho_l}},\qquad u_{Ma} \sim \left(\frac{\tau^2 r}{\rho_l\,\mu}\right)^{1/3},\quad \tau = \frac{|d\gamma/dT|\,\Delta T}{r} $$

ρ_l は溶けた鋼の密度(7,000 kg/m³)、μ は粘度(6×10⁻³ Pa·s)、r は溶融池の半径(3 mm)、dγ/dT は表面張力の温度係数(4.3×10⁻⁴ N/mK)、ΔT は溶融池の表面の温度差(1,000 K)。いずれも大きさの見当をつけるための式である。

Coffee Break よもやま話

同じ規格の鋼で溶け込みが違う

1980年代のはじめ、同じ規格のステンレス鋼を同じ条件でTIG溶接しても、材料のロットによって溶け込みの深さが大きく違うことが問題になっていた。ハイプルとローパーは、鋼に含まれるごくわずかな硫黄や酸素が表面張力の温度係数の向きを変え、溶融池の表面の流れが外向きから内向きに逆転することで、浅く広い溶け込みが深く狭い溶け込みに変わると説明した。数十ppmの違いが溶接の形を左右するという発見だった。

計算例

例1:電流とピンチ圧力・アークの流れ(半径を固定した比較)

電流電極近くの圧力プラズマの流れ母材を押す圧力(半径2 mm)
100 A1,273 Pa345 m/s80 Pa
150 A2,865 Pa518 m/s179 Pa
200 A5,093 Pa691 m/s318 Pa

圧力は電流の2乗、流れの速さは電流に比例する。実際には電流を上げると電極近くの半径も広がるので、増え方はこれより緩やかになる。150 A・12 Vのアークの電力は1,800 Wで、効率0.7とすると1,260 Wが母材に入る。

例2:溶融池(150 A、半径3 mm)

項目値
アークの圧力179 Pa
重力だけで考えたへこみ2.61 mm
表面張力の圧力1,200 Pa
電磁力による流れの速さ0.107 m/s
表面張力の差による流れの速さ1.14 m/s
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表面張力の流れのほうが10倍も速いなら、電磁力は無視してもいいのでは?

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場合による。表面張力の流れは溶融池の表面に沿って働き、表面が外向きに流れるか内向きに流れるかで溶け込みの形が決まる。一方、電磁力は溶融池の中全体に働き、中心に向かって下向きに押す流れを作る。表面張力の流れが外向き(硫黄の少ない鋼)のときは、電磁力が中心を深く掘る方向に働いて形を補正する。また電流が大きくなるほど電磁力は電流の2乗で強くなり、アークの圧力も加わって、両者の比は変わっていく。さらに、表面張力の温度係数は温度によって符号が変わることがあり、溶融池の中で外向きと内向きの流れが共存することもある。だから実際の解析では、両方の力を入れて溶融池の流れと温度を連成させて解き、表面の形の変化も追う。見積もりは、どの力が主役かを最初に見当づけるためのものだ。

モデリングの進め方

  1. アークのプラズマの物性(電気伝導度・熱伝導率・放射)を温度の関数で与える。
  2. 電位と磁場を解いて、電流密度とローレンツ力を求める。
  3. アークのプラズマの流れと温度を解き、母材への熱と圧力を求める。
  4. 溶融池で、電磁力・表面張力・浮力を入れて流れと温度を解く。
  5. 溶け込みの断面を実測のマクロ組織と比べる。
Coffee Break よもやま話

「ロットが変わったら浅くなった溶接」

ある配管の自動TIG溶接で、材料のロットを変えたとたん、裏まで溶け込まない不良が増えた。溶接の条件は同じだった。成分を調べると、新しいロットは硫黄がわずかに少なく、溶融池の表面の流れが外向きになって、浅く広い溶け込みになっていた。溶融池の連成解析で、電流をパルスにして電磁力と圧力を周期的に強める条件を探し、ロットによらず裏まで溶け込む条件を決めた。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
熱源を固定の分布で置く電流を変えたときの形を誤るアークを解くか熱源を較正
表面張力の係数を一定ロットの違いを再現できない成分と温度の関数
電磁力を溶融池に入れない大電流で溶け込みを誤る電流の分布を解く
溶融池の表面を平らに固定アークの圧力の効果を見逃す自由表面を追う
プラズマの物性を一定熱の流れを誤る温度の関数で与える
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