風荷重-構造連成解析
理論:風の力と、風が揺らす力
概要
工場の煙突の耐風を確認しています。台風の風速で強度を見るだけでよいでしょうか?
2つの見方が必要だね。1つは強い風が押す力で、風速の2乗で大きくなるから台風の風速で確かめる。もう1つは、風が煙突の後ろに交互に渦を作り、その周期が煙突の固有振動数と合うと大きく揺れる『渦励振』だ。こちらはむしろ普段吹くくらいの風速で起きることが多い。強さの確認と揺れの確認は別の問題として、両方見ておこう。
高さによる風速の変化
$V_{10}$ は高さ10 mの基準風速、$\alpha$ は地表の粗さで決まるべき指数(海上や平原で0.1前後、郊外で0.15前後、市街地で0.25〜0.3程度)。$q$ は速度圧。地面の摩擦で風が弱まるので、高いところほど風が強い。
抗力と根元の力
$C_d$ は抗力係数、$D$ は受風幅。高いところほど速度圧が大きく、しかも根元からの腕も長いので、曲げモーメントは上部の風で決まる。実際の設計では、風の乱れによる変動(ガスト)の影響も係数で加える。
渦励振の風速
$St$ はストローハル数(円柱で約0.2)、$f_n$ は構造の固有振動数。渦の周波数は風速に比例して上がるので、ちょうど固有振動数と一致する風速 $V_{cr}$ で共振する。一致したあとは渦の放出が構造の揺れに引き込まれて、少し風速がずれても共振が続く(ロックイン)。
タコマナローズ橋と煙突のらせん
1940年、米国のタコマナローズ橋は風速約19 m/sという、それほど強くない風で大きくねじれながら揺れ、崩落した。原因は渦励振ではなく、ねじれの揺れが風から力を受けてさらに大きくなるフラッターだったと考えられているが、『強風でなくても風で壊れる』ことを世界に示した。細長い鋼製の煙突には、外側にらせん状の板(ストレーキ)が付けられていることがある。渦が高さ方向でそろって放出されないように乱し、渦励振を抑えるための工夫だ。
計算例:高さ40 mの煙突
例1:地表の粗さと根元の力
以下は仮想の条件。高さ40 m、直径2 mの円筒、抗力係数0.7、空気の密度1.225 kg/m³(ガストの係数は含まない)。
| べき指数 | 基準風速 | 頂部の風速 | 頂部の速度圧 | 根元のせん断力 | 根元の曲げモーメント |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.10 | 30 m/s | 34.5 m/s | 727 Pa | 33.9 kN | 741 kN·m |
| 0.15 | 30 m/s | 36.9 m/s | 836 Pa | 36.0 kN | 814 kN·m |
| 0.25 | 30 m/s | 42.4 m/s | 1,103 Pa | 41.2 kN | 988 kN·m |
| 一様 | 30 m/s | 30 m/s | 551 Pa | 30.9 kN | 617 kN·m |
同じ基準風速でも、市街地のほうが曲げモーメントは3割も大きいんですね。
正確には、べき指数が大きい地形では基準高さ10 mの風速そのものが平地より小さくなるのが普通だから、同じ基準風速で比べるのは少し不公平だけどね。大事なのは、高さによる増え方を無視して一様な風速を使うと、根元の曲げモーメントを2〜4割小さく見積もってしまうこと。そして風速は2乗で効くので、設計風速を25 m/sから30 m/sにしただけで力は1.44倍になる。地域と地形に合った基準風速と分布を、設計基準に従って選ぶのが出発点だ。
例2:渦励振が起きる風速
| 煙突の固有振動数 | 共振する風速(直径2 m、St = 0.2) |
|---|---|
| 0.5 Hz | 5 m/s |
| 1.0 Hz | 10 m/s |
| 2.0 Hz | 20 m/s |
固有振動数1 Hzの煙突では、風速10 m/sという日常的な風で共振する。渦励振の揺れの大きさは、構造の減衰と質量(まとめてスクルートン数と呼ぶ)で決まり、軽くて減衰の小さい鋼製の煙突ほど大きく揺れる。対策は、固有振動数をずらす、減衰を加える(制振装置)、ストレーキで渦をそろわせない、のいずれか。揺れが繰り返されるので、強度より疲労が問題になることが多い。
解析の進め方
手順
- 設計基準から基準風速、地表の粗さ、ガストの係数を決め、静的な風荷重で強度を確かめる。
- 構造の固有振動数とモードを求め、渦励振の風速がよく吹く範囲に入らないか確かめる。
- 必要ならCFDで周りの流れを解き、流体と構造の連成で揺れの大きさを評価する。
- 周りの建物の影響は、風洞実験や3次元のCFDで確かめる。
「隣にビルが建ったら揺れ始めた」
何年も問題なかった煙突や鉄塔が、近くに高いビルが建ってから揺れるようになった、という例がある。上流の建物の後ろに生じる渦や乱れが、下流の構造物に周期的な力を与えるためだ(後流の影響)。単独の円柱の式やストローハル数では予測できず、周りの建物まで含めた風洞実験やCFDが必要になる。風の解析では、構造物の周囲の条件が変わると結論が変わりうることを覚えておこう。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 一様な風速を使う | 曲げモーメントを過小評価 | 高さ方向の分布を使う |
| 強風時の強度だけ確認 | 渦励振を見落とす | 共振風速を確認 |
| ガストを無視 | 最大荷重を過小評価 | 基準の係数を適用 |
| 周りの建物を考えない | 後流による揺れ | 風洞・CFDで確認 |
| 疲労を評価しない | 繰り返しで溶接部が割れる | 振動の回数で疲労を評価 |
風の力や渦の計算を自分でも試したいです。
抗力係数の計算で抗力、ストローハル数と渦放出とカルマン渦シミュレーターで渦の放出を試せるよ。詳しくは渦励振、橋梁の耐風、フラッター、レインバイブレーションの記事を見てね。
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