連成問題の縮約モデル(ROM)
理論:応答を少数の時定数で表す
概要
縮約モデルを使うと精度が落ちるのに、なぜ連成解析で使うのですか?
連成では「速さ」が精度と同じくらい大事になるからだ。例えばインバーターの回路の模擬では、スイッチの動きを追うために細かい時間刻みで数十万ステップを計算する。その毎ステップで半導体の温度を求め、温度で変わる損失を回路に戻す必要がある。詳しい有限要素の熱のモデルをそのまま入れると、計算が終わらない。そこで、熱のモデルの入力(発熱)と出力(温度)の関係だけを、少ない変数で再現する縮約モデルを作る。熱の伝わり方は線形で、応答が少数の時定数で決まることが多いので、うまく作れば数個の変数で元のモデルとほとんど同じ答えが出る。大事なのは、どの範囲で正しいかを確かめておくことだ。
フォスター回路網による縮約
元のモデルは、シリコン0.3 mm・はんだ0.1 mm・銅3 mm・放熱グリース0.1 mm・アルミ20 mmを1 cm²の面積で積み、底面を熱伝達率2,000 W/m²Kで冷やす1次元の熱のモデル(200自由度、熱抵抗6.45 K/W、最も遅い時定数32.1秒)。そのステップ応答に3項を当てはめた。
温度で増える損失との連成
P₀ = 10 W、周囲25℃。温度が1 K上がるごとに損失が0.6%増える(オン抵抗の温度依存を想定)。
フォスターとカウエル
抵抗とコンデンサーなどを組み合わせた回路で、与えられた応答を表す方法は、1920年代に電話の回路の研究から生まれた。1924年にフォスターが、1926年にカウエルが、それぞれ別の形の回路網を示した。フォスター回路網は応答を指数関数の和として表し、当てはめが簡単。カウエル回路網ははしご形で、層の並びと対応づけやすい。100年前の電話の理論が、いまパワー半導体の熱の縮約モデルとして毎日使われている。
計算例
例1:3段のフォスター回路網の当てはめ
| 段 | 熱抵抗 | 時定数 | おもに表すもの |
|---|---|---|---|
| 1 | 0.061 K/W | 0.0029秒 | チップとはんだ |
| 2 | 0.446 K/W | 0.68秒 | 銅の板と放熱グリース |
| 3 | 5.943 K/W | 32.1秒 | ヒートシンクと冷却 |
| 時間 | 元のモデル | 縮約モデル |
|---|---|---|
| 0.01秒 | 0.060 K/W | 0.067 K/W |
| 0.1秒 | 0.146 K/W | 0.140 K/W |
| 1秒 | 0.580 K/W | 0.587 K/W |
| 10秒 | 2.101 K/W | 2.098 K/W |
| 100秒 | 6.185 K/W | 6.186 K/W |
全体での当てはめの誤差は最大0.008 K/W(熱抵抗の0.1%)だが、0.01秒では相対的に1割以上ずれる。
例2:電気-熱連成の計算
| 条件 | 元のモデル(200自由度) | 縮約モデル(3状態) |
|---|---|---|
| 5秒通電・5秒停止を300秒、最高温度 | 71.79℃ | 71.76℃ |
| 連続通電の定常温度(連成あり) | 130.2℃ | 130.2℃ |
| 連続通電の定常温度(損失一定) | 89.5℃ | 89.5℃ |
連成を入れると定常の温度が89.5℃から130.2℃に上がるんですね。損失が0.6%/Kしか増えないのに、こんなに違うんですか?
温度が上がると損失が増え、損失が増えるとさらに温度が上がる、という正のフィードバックがあるからだ。損失一定なら温度上昇は熱抵抗×損失で64.5 Kだが、連成を入れると 64.5/(1 − 0.006×64.5) = 105 K になる。分母の 0.006×64.5 = 0.39 が1に近づくほど温度は急に上がり、1に達すると温度は落ち着かずに上がり続ける(熱暴走)。だから電気-熱連成では、損失を一定とした熱の計算だけでは危険側の見積もりになる。縮約モデルが役に立つのはまさにこういう場面で、回路の模擬の中で温度と損失を毎ステップやりとりしても、計算時間はほとんど増えない。ただし縮約モデルは線形の熱伝導を前提にしているので、材料の熱伝導率が温度で大きく変わる場合や、冷却の条件が変わる場合は、元のモデルで確かめるか、条件ごとに縮約モデルを作り直す。
モデリングの進め方
- 詳しい熱のモデルで、発熱源ごとのステップ応答を計算する。
- 指数関数の和で当てはめ、時定数の範囲が使い方の時間をカバーしているか確かめる。
- 複数の発熱源があれば、相互の影響(相互の熱抵抗)も入れる。
- 回路の模擬に組み込み、温度と損失をやりとりする。
- 代表的な条件で、元のモデルとの差を確かめる。
「短いパルスで外れた予測」
あるモーター駆動の装置で、縮約モデルで予測したチップの温度が、モーターの起動時の数ミリ秒の大電流で実測より10 K近く低かった。縮約モデルは秒単位の応答に合わせて作られていて、最も短い時定数が数ミリ秒より長く、チップ内の速い温度上昇を表せていなかった。短い時定数の項を2つ追加して作り直すと、起動時の温度も実測と合うようになった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 長い時間だけで当てはめ | 短いパルスの温度を誤る | 使う時間の範囲で当てはめ |
| 損失を一定にする | 温度を過小評価 | 温度と連成 |
| 1つの発熱源だけを縮約 | 隣の素子の影響を見逃す | 相互の熱抵抗を入れる |
| 冷却条件を変えて使い回す | 時定数が合わない | 条件ごとに作り直す |
| フォスターの節点の温度を使う | 物理的な意味がない | 入力と出力の関係だけ使う |
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