σ(シグマ)モデル(LESのサブグリッドモデル)
理論:速度勾配の特異値から渦粘性を決める
概要
LESでスマゴリンスキーモデルを使ったら、層流のはずの部分まで粘性が大きくなって、遷移が遅れてしまいました。
スマゴリンスキーはひずみ速度の大きさだけで渦粘性を決めるから、乱流でなくても速度勾配があれば粘性を足してしまう。単純なせん断流でもだ。σモデルは、2011年にニクーらがこの問題を解くために作ったモデルで、速度勾配テンソルの3つの特異値の組み合わせを使う。単純せん断、剛体回転、2次元の流れのように、乱流ではありえない勾配の形では自動的に0になるように設計されているんだ。
モデル式
$\sigma_1 \ge \sigma_2 \ge \sigma_3 \ge 0$ は速度勾配テンソルの特異値、$\Delta$ は格子幅。2次元の流れでは $\sigma_3 = 0$、剛体回転や等方的な膨張では3つが等しい、軸対称のひずみでは $\sigma_2 = \sigma_3$ になるので、どれも分子が0になる。
比較に使ったスマゴリンスキーの式。ひずみ速度 $S_{ij}$ の大きさだけで決まる。
60年かけて減らしてきた余計な粘性
最初のサブグリッドモデルは、1963年に気象学者スマゴリンスキーが大気の大循環の計算のために作ったものだ。単純で頑丈だが、壁の近くや層流の部分で粘性が大きすぎた。1990年代にはジェルマーノらのダイナミック法が係数を場所ごとに決める方法を示し、1999年のWALEは壁の近くで正しく減るように、2004年のVremanは計算を簡単にしつつせん断で0になるように工夫した。2011年のσモデルは、これらの『0になるべき場所』の条件をまとめて満たす形を、特異値という見通しのよい量で表したものだ。
計算例:基本的な流れで比べる
格子幅1 mm、速度勾配の大きさ100 1/sの基本的な流れについて、4つのモデルの渦粘性(m²/s)を計算した。係数はスマゴリンスキー0.17、WALE 0.325、Vreman 2.5×0.17²、σモデル1.35。
| 流れ | スマゴリンスキー | WALE | Vreman | σモデル |
|---|---|---|---|---|
| 単純せん断 | 2.9×10⁻⁶ | 0 | 0 | 0 |
| 剛体回転 | 0 | 4.8×10⁻⁶ | 2.6×10⁻⁶ | 0 |
| 等方的な膨張 | 2.4×10⁻⁶ | 0 | 2.4×10⁻⁶ | 0 |
| 軸対称のひずみ | 5.0×10⁻⁶ | 0.8×10⁻⁶ | 4.4×10⁻⁶ | 0 |
| 平面ひずみ(2次元) | 5.8×10⁻⁶ | 0.9×10⁻⁶ | 5.1×10⁻⁶ | 0 |
| 一般の3次元の勾配 | 4.8×10⁻⁶ | 1.1×10⁻⁶ | 4.5×10⁻⁶ | 2.5×10⁻⁶ |
単純せん断のスマゴリンスキーの2.9×10⁻⁶は、大きいんですか?
空気の動粘度は1.5×10⁻⁵ m²/sだから、その19%を余計に足していることになる。層流の境界層がこれだけ粘っこくなると、小さな乱れが育たず、遷移が遅れる。平面ひずみでは39%だ。一方σモデルは、2次元的な勾配ではどれも0で、3次元的な乱れが出てきたときだけ粘性を加える。WALEとVremanは剛体回転で0にならないから、渦の中心で粘性を加えてしまう。表を見ると、どのモデルがどの状況で余計な粘性を足すかがはっきりわかるね。
例2:壁の近くの振る舞い
すべりなしの壁の近くで、速度勾配の形から渦粘性が壁からの距離 y の何乗で減るかを計算した。乱流の渦粘性は y の3乗で減るのが正しい振る舞いだ。
| モデル | 壁の近くの減り方 | 判定 |
|---|---|---|
| スマゴリンスキー | y⁰ | 減らない(減衰関数が必要) |
| Vreman | y¹ | 減るが遅い |
| WALE | y³ | 正しい |
| σモデル | y³ | 正しい |
使い方の目安
- 層流から乱流への遷移や、層流の部分が残る流れではσモデルやWALEを優先する。
- 渦の中心が長く残る流れ(翼端渦・後流)ではσモデルが有利。
- 係数1.35は目安で、格子や数値スキームで最適値が変わる。基準の流れ(チャネル流など)で確かめる。
- 壁の近くは格子を十分細かく(y⁺ ≈ 1)するか、壁モデルと組み合わせる。
- モデルを変えて結果の差を見るのも、SGSモデルの影響を知るよい方法。
「翼端渦がすぐ消える」
翼の後ろにできる翼端渦をLESで追ったら、実験よりずっと早く弱まってしまった——という例がある。渦の中心はほぼ剛体回転で、乱れは小さい。ところが使っていたモデルは剛体回転でも渦粘性を加えるため、中心の回転を少しずつ削っていた。σモデルに変えると渦粘性は中心でほぼ0になり、渦が下流まで保たれるようになった。渦が主役の流れでは、モデルが『回転だけ』の部分で黙っていられるかが結果を左右する。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| スマゴリンスキーで遷移を解く | 遷移が遅れる | σモデル・WALE |
| 係数をそのまま信用 | 散逸が過大・過小 | 基準の流れで確認 |
| 壁の近くの格子が粗い | 壁の摩擦がずれる | y⁺ ≈ 1 か壁モデル |
| 数値粘性を無視 | モデルの効果が埋もれる | 低散逸のスキーム |
| モデルの違いだけで結論 | 格子の影響と混同 | 格子も変えて比べる |
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乱流モデルのシミュレーターと乱流境界層の計算で乱流の基本を確かめられるよ。ほかのモデルはスマゴリンスキーモデル、ダイナミックスマゴリンスキー、WALEモデル、Vremanモデル、全体像はLESの基礎と壁モデルLESが参考になる。
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