σ(シグマ)モデル(LESのサブグリッドモデル)

カテゴリ: 乱流・LES | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for sigma model theory - technical simulation diagram
σモデル(SGS)

理論:速度勾配の特異値から渦粘性を決める

概要

🙋

LESでスマゴリンスキーモデルを使ったら、層流のはずの部分まで粘性が大きくなって、遷移が遅れてしまいました。

🎓

スマゴリンスキーはひずみ速度の大きさだけで渦粘性を決めるから、乱流でなくても速度勾配があれば粘性を足してしまう。単純なせん断流でもだ。σモデルは、2011年にニクーらがこの問題を解くために作ったモデルで、速度勾配テンソルの3つの特異値の組み合わせを使う。単純せん断、剛体回転、2次元の流れのように、乱流ではありえない勾配の形では自動的に0になるように設計されているんだ。

モデル式

$$ \nu_{sgs} = (C_\sigma \Delta)^2\,\frac{\sigma_3(\sigma_1 - \sigma_2)(\sigma_2 - \sigma_3)}{\sigma_1^2}, \qquad C_\sigma \approx 1.35 $$

$\sigma_1 \ge \sigma_2 \ge \sigma_3 \ge 0$ は速度勾配テンソルの特異値、$\Delta$ は格子幅。2次元の流れでは $\sigma_3 = 0$、剛体回転や等方的な膨張では3つが等しい、軸対称のひずみでは $\sigma_2 = \sigma_3$ になるので、どれも分子が0になる。

$$ \nu_{sgs}^{Smag} = (C_s \Delta)^2 \sqrt{2 S_{ij} S_{ij}}, \qquad C_s \approx 0.1\text{–}0.2 $$

比較に使ったスマゴリンスキーの式。ひずみ速度 $S_{ij}$ の大きさだけで決まる。

Coffee Break よもやま話

60年かけて減らしてきた余計な粘性

最初のサブグリッドモデルは、1963年に気象学者スマゴリンスキーが大気の大循環の計算のために作ったものだ。単純で頑丈だが、壁の近くや層流の部分で粘性が大きすぎた。1990年代にはジェルマーノらのダイナミック法が係数を場所ごとに決める方法を示し、1999年のWALEは壁の近くで正しく減るように、2004年のVremanは計算を簡単にしつつせん断で0になるように工夫した。2011年のσモデルは、これらの『0になるべき場所』の条件をまとめて満たす形を、特異値という見通しのよい量で表したものだ。

計算例:基本的な流れで比べる

格子幅1 mm、速度勾配の大きさ100 1/sの基本的な流れについて、4つのモデルの渦粘性(m²/s)を計算した。係数はスマゴリンスキー0.17、WALE 0.325、Vreman 2.5×0.17²、σモデル1.35。

流れスマゴリンスキーWALEVremanσモデル
単純せん断2.9×10⁻⁶000
剛体回転04.8×10⁻⁶2.6×10⁻⁶0
等方的な膨張2.4×10⁻⁶02.4×10⁻⁶0
軸対称のひずみ5.0×10⁻⁶0.8×10⁻⁶4.4×10⁻⁶0
平面ひずみ(2次元)5.8×10⁻⁶0.9×10⁻⁶5.1×10⁻⁶0
一般の3次元の勾配4.8×10⁻⁶1.1×10⁻⁶4.5×10⁻⁶2.5×10⁻⁶
🙋

単純せん断のスマゴリンスキーの2.9×10⁻⁶は、大きいんですか?

🎓

空気の動粘度は1.5×10⁻⁵ m²/sだから、その19%を余計に足していることになる。層流の境界層がこれだけ粘っこくなると、小さな乱れが育たず、遷移が遅れる。平面ひずみでは39%だ。一方σモデルは、2次元的な勾配ではどれも0で、3次元的な乱れが出てきたときだけ粘性を加える。WALEとVremanは剛体回転で0にならないから、渦の中心で粘性を加えてしまう。表を見ると、どのモデルがどの状況で余計な粘性を足すかがはっきりわかるね。

例2:壁の近くの振る舞い

すべりなしの壁の近くで、速度勾配の形から渦粘性が壁からの距離 y の何乗で減るかを計算した。乱流の渦粘性は y の3乗で減るのが正しい振る舞いだ。

モデル壁の近くの減り方判定
スマゴリンスキーy⁰減らない(減衰関数が必要)
Vremany¹減るが遅い
WALEy³正しい
σモデルy³正しい

使い方の目安

  1. 層流から乱流への遷移や、層流の部分が残る流れではσモデルやWALEを優先する。
  2. 渦の中心が長く残る流れ(翼端渦・後流)ではσモデルが有利。
  3. 係数1.35は目安で、格子や数値スキームで最適値が変わる。基準の流れ(チャネル流など)で確かめる。
  4. 壁の近くは格子を十分細かく(y⁺ ≈ 1)するか、壁モデルと組み合わせる。
  5. モデルを変えて結果の差を見るのも、SGSモデルの影響を知るよい方法。
Coffee Break よもやま話

「翼端渦がすぐ消える」

翼の後ろにできる翼端渦をLESで追ったら、実験よりずっと早く弱まってしまった——という例がある。渦の中心はほぼ剛体回転で、乱れは小さい。ところが使っていたモデルは剛体回転でも渦粘性を加えるため、中心の回転を少しずつ削っていた。σモデルに変えると渦粘性は中心でほぼ0になり、渦が下流まで保たれるようになった。渦が主役の流れでは、モデルが『回転だけ』の部分で黙っていられるかが結果を左右する。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
スマゴリンスキーで遷移を解く遷移が遅れるσモデル・WALE
係数をそのまま信用散逸が過大・過小基準の流れで確認
壁の近くの格子が粗い壁の摩擦がずれるy⁺ ≈ 1 か壁モデル
数値粘性を無視モデルの効果が埋もれる低散逸のスキーム
モデルの違いだけで結論格子の影響と混同格子も変えて比べる
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