積層造形(金属3Dプリント)の残留応力
理論:縮もうとする層と拘束
概要
金属3Dプリンターで作った部品をベース板から外したら、反ってしまいました。事前に予測できますか?
できるよ。金属の積層造形では、レーザーで溶かした小さな領域が急に冷えて固まり、その上に次の層が重なっていく。新しい層は冷えて縮もうとするけれど、下の層に拘束されて引張の応力が残る。この応力がベース板につながっている間は保たれ、外したとたんに部品が反って応力の一部が逃げる。溶融と冷却を細かく解くのは大変なので、実務では各層に『縮もうとするひずみ』を与える固有ひずみ法で、全体の反りを素早く見積もることが多いんだ。
固有ひずみの大きさ
316L(ヤング率190 GPa、線膨張係数17×10⁻⁶ /K、造形のままの降伏応力450 MPa)では、溶融付近から室温までの熱収縮に相当する応力は降伏応力の約10倍。したがって層は塑性変形し、残る固有ひずみは降伏ひずみ程度(約0.24%)になる。
ベース板から外したときの応力と反り
拘束された状態の応力 $\sigma^*$ から、合力 $N$ と曲げモーメント $M$ を打ち消す直線分布を引くと、外した後の応力と曲率 $\kappa$ が求まる。$\delta$ は長さ $L$ の中央の反り。
溶接の知恵から生まれた計算法
固有ひずみの考え方は、もともと溶接の変形を予測するために、日本の溶接研究者たちが1970年代に発展させたものだ。溶接では溶けた部分が冷えて縮み、周りに拘束されて変形や残留応力が生じる。これは金属の積層造形とまったく同じ仕組みで、積層造形は『大量の小さな溶接を積み重ねる工程』とも言える。2010年代に金属3Dプリンターが工業的に使われ始めると、この固有ひずみ法が、部品全体の反りを数分で予測する方法として市販の解析ソフトにも取り入れられた。
計算例:ベース板の上の造形物
最も簡単な形として、ベース板の上の造形物の全層に一様な固有ひずみ(降伏ひずみ)を与え、ベース板を固定から外したときの応力と、長さ100 mmあたりの反りを弾性で求めた。造形高さ10 mmで板厚を変えた場合:
| ベース板の厚さ | 造形物の上面 | 造形物の下端 | 板の下面 | 反り(100 mm) |
|---|---|---|---|---|
| 5 mm | −146 MPa | +246 MPa | −2 MPa | 0.26 mm |
| 10 mm | −109 MPa | +222 MPa | +111 MPa | 0.22 mm |
| 20 mm | +2 MPa | +198 MPa | +149 MPa | 0.13 mm |
板厚10 mmで造形の高さを変えた場合の反り:2 mmで0.21 mm、5 mmで0.26 mm、10 mmで0.22 mm、20 mmで0.13 mm。
造形物が高くなるほど反るのかと思ったら、途中で最大になって、その後は小さくなるんですね。
バイメタルと同じで、縮もうとする層と拘束する層の曲げの硬さがつり合うあたりで、曲がり方が最大になる。造形物が高くなると、造形物そのものが硬くなって曲がりにくくなるんだ。ただし、この計算は全層に同じ固有ひずみを一度に与えた最も簡単なモデルで、実際には層ごとに順に積み重なる影響、塑性、サポート構造、ワイヤー放電などでベース板から切り離す順序で、応力の分布は変わる。実務では、試験片の反りで固有ひずみを校正してから、部品全体を有限要素法で解くのが基本だよ。
解析の進め方
- 簡単な形の試験片(カンチレバー形状など)を造形し、切り離したときの反りを測る。
- 試験片の反りに合うように固有ひずみの大きさ(方向ごと)を校正する。
- 部品全体を層ごとに有限要素法で積み上げ、反りと応力を予測する。
- 予測した変形の逆向きに形状を補正する(変形の先取り)。
- 応力除去の熱処理を、ベース板から外す前後のどちらで行うかも比べる。
「サポートを外したら割れた」
薄い張り出しのある部品を造形し、そのままワイヤー放電でベース板から切り離したところ、切断の途中で部品に割れが入った——という例がある。張り出しの付け根に大きな引張の残留応力がたまっていて、切断が進むにつれて拘束が外れ、応力が付け根に集中したのだ。固有ひずみ法で切断の手順まで追うと、応力が最大になるタイミングが再現できた。応力除去の熱処理をベース板につけたまま先に行う工程に変えると、割れはなくなった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 熱ひずみをそのまま弾性で | 応力が降伏の10倍 | 塑性・固有ひずみ |
| 固有ひずみを校正しない | 反りの大きさがずれる | 試験片で校正 |
| 切り離しの順序を無視 | 割れ・変形を見落とす | 切断の工程まで解析 |
| サポートを省略 | 拘束の違いで変形が変わる | サポートもモデル化 |
| 高いほど反ると考える | 設計の判断を誤る | 高さと板厚の比で見る |
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