熱膨張係数の傾斜設計(傾斜機能材料)
理論:熱膨張の差が生む応力
概要
セラミックの板を金属にろう付けしたら、冷えたときに割れてしまいました。どう設計すればいいですか?
高温で接合してから冷やすと、金属はセラミックより大きく縮もうとする。アルミナとニッケルだと熱膨張係数の差は約5×10⁻⁶ /K、500 K冷やすと0.26%のひずみの差になる。これを界面で急に受け止めるから大きな応力が出るんだ。対策の一つが、間に組成を少しずつ変えた層を入れて熱膨張係数をなだらかにつなぐ傾斜機能材料(FGM)だよ。ただ、何が減って何が減らないかを計算で確かめておかないと、期待外れになることがある。
積層板の式
自由な板を冷やすとき、ひずみは板厚方向に直線(伸び $\varepsilon_0$ と曲率 $\kappa$)で、合力と合モーメントが0になるように決まる。両方向に同じだけ縮むので、ヤング率の代わりに $E/(1-\nu)$ を使う。
傾斜層の中では、金属の体積率 $V_m$ を厚さ方向に変え、物性を混合則で平均する(簡単な近似)。$p = 1$ で直線、$p < 1$ で金属寄り、$p > 1$ でセラミック寄りの分布になる。
宇宙往還機の熱から生まれた概念
傾斜機能材料という考え方は、1980年代半ばに日本で、宇宙往還機の機体を想定した研究から生まれた。外側は1,700 ℃を超える高温、内側は冷却されて温度差が1,000 K以上になる部材を、セラミックと金属を組み合わせて作ろうとしたとき、接合面ではく離が起きることが問題になった。そこで組成を連続的に変えて界面そのものをなくすという発想が出てきた。その後、遮熱コーティング、切削工具、生体材料などに広がっている。
計算例:アルミナとニッケルの接合
アルミナ(E 380 GPa、ν 0.22、α 8.1×10⁻⁶ /K)とニッケル(E 200 GPa、ν 0.31、α 13.3×10⁻⁶ /K)の板を接合し、500 K冷やした。直接接合(各1 mm)と、各0.75 mmの間に0.5 mmの傾斜層を入れた場合を、上の積層板の式で比べた(弾性、端部の影響なし)。
| 構成 | 界面の応力の段差(最大) | セラミック側の界面 | セラミック表面 | そり(50 mm) |
|---|---|---|---|---|
| 直接接合 | 991 MPa | −590 MPa | +342 MPa | 0.60 mm |
| 傾斜層1段 | 584 MPa | −396 MPa | +266 MPa | 0.57 mm |
| 3段 | 323 MPa | −389 MPa | +293 MPa | 0.58 mm |
| 9段 | 136 MPa | −385 MPa | +303 MPa | 0.59 mm |
| 連続(p = 1) | ほぼ0 | −382 MPa | +308 MPa | 0.59 mm |
| 連続(p = 2) | ほぼ0 | −328 MPa | +348 MPa | 0.58 mm |
段差はきれいに減りますね。でもセラミックの表面の引張は減らないし、そりも同じなんですか?
そこが大事なところだ。そりと表面の応力は、板全体として熱膨張の大きい側と小さい側がどれだけ偏っているかで決まる。傾斜層は間をなだらかにつなぐだけで、上下の偏りはほとんど変えないから、曲がり方はほぼ同じなんだ。傾斜層が効くのは界面の急な段差、つまりはく離の原因になる部分だよ。しかもp = 2のようにセラミック寄りにすると、界面の圧縮は減るけれど表面の引張は342から348 MPaに増えた。アルミナの曲げ強さは300〜400 MPa程度だから、表面の割れが問題なら、厚さの比を変える、反対側にもセラミックを付けて対称にする、といった別の対策が要る。
計算の前提に注意
この計算は弾性で、ニッケル側の最大応力は直接接合で401 MPaになった。焼きなましたニッケルの降伏応力はこれよりかなり低いので、実際には金属が降伏して応力が緩む。また、積層板の式は板の中央部の応力で、端部では界面の応力が集中して大きくなる(はく離は多くの場合、端から始まる)。傾斜層の効果が最も大きいのはこの端部の集中を和らげる点なので、最終的な判断は端部を含む2次元・3次元の有限要素解析で行う。
設計の進め方
- 接合温度から使用温度までの温度差と、両材料の熱膨張係数・弾性率・強度を集める。
- 積層板の式で、直接接合の界面の段差・表面応力・そりを見積もる。
- 問題が界面の段差(はく離)なら傾斜層、表面の割れやそりなら厚さの比や対称化を検討する。
- 段数・組成の分布・傾斜層の厚さを、端部を含む有限要素解析で比べる。金属の降伏とクリープも入れる。
- 傾斜層そのものの物性(混合則からのずれ、気孔)を試験片で確かめる。
「段数を増やしたのに割れが減らない」
セラミックと金属の接合で割れが出たため、傾斜層を3段から9段に増やした。界面のはく離は減ったのに、セラミック表面の割れは同じように出た——という例がある。表の通り、段数を増やしても表面の引張はほとんど変わらない。原因ははく離ではなく、そりによる表面の曲げ応力だった。セラミックを厚くして中立面を移すか、裏側にもセラミック層を付けて対称にすると、表面の引張は大きく下がる。割れの場所と向きから、どの応力が原因かを先に見分けることが大事だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 傾斜層で全部解決すると期待 | そり・表面の割れが残る | 原因の応力を見分ける |
| 板の中央の応力だけで判断 | 端部の集中を見落とす | 端部を含む有限要素解析 |
| 金属を弾性のまま | 応力を過大に評価 | 降伏・クリープを入れる |
| 混合則をそのまま信用 | 傾斜層の物性がずれる | 試験片で確認 |
| 接合温度をそのままΔTに | 応力を過大に評価 | 応力が残り始める温度から |
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