熱応力解析

カテゴリ: 連成解析・熱構造 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for thermal stress theory - technical simulation diagram
熱応力解析

理論:応力を生むのは『妨げられた伸び』

概要

🙋

熱応力って、温度差があれば必ず出るものだと思っていました。違うんですか?

🎓

よくある誤解だね。熱応力の原因は温度差そのものではなく、『伸びようとしたのに伸びられなかった』ことだ。自由に伸びられる棒を一様に温めても、長くなるだけで応力は0。両端を固定すると、伸びられなかった分が応力になる。温度に差があっても、それが板の厚さ方向に直線的なら、板は曲がるだけで応力は生じない。応力になるのは、外からの拘束と、温度分布の『直線からのずれ』の2つだ。順に数値で確かめよう。

外からの拘束

$$ \sigma = -E\,\alpha\,\Delta T \quad(\text{bar}),\qquad \sigma = -\frac{E\,\alpha\,\Delta T}{1-\nu}\quad(\text{plate}) $$

鋼(E = 200 GPa、α = 12×10⁻⁶ /K、ν = 0.3)を100 K加熱すると、両端固定の棒で240 MPa、面内の2方向を拘束した板で343 MPaの圧縮になる。一般的な構造用鋼の降伏点(約250 MPa)に近く、100 Kの温度変化でも拘束されれば降伏しうる。

温度分布による内部の拘束

$$ \sigma(z) = \frac{E\alpha}{1-\nu}\left[-T(z) + \frac{1}{t}\int T\,dz + \frac{12 z}{t^3}\int T z\,dz\right] $$

外から拘束されていない広い板の式。第2項は平均温度による伸び、第3項は直線成分による曲がりで、どちらも応力にならない。残る『直線からのずれ』だけが応力になり、厚さ全体で力とモーメントがつり合う(自己つり合い応力)。

Coffee Break よもやま話

ガラスのコップはなぜ割れる

熱いお湯を厚いガラスのコップに注ぐと割れることがある。内側が急に膨らもうとするのに、まだ冷たい外側がそれを押さえ、外側に引張り応力が生じるからだ。ガラスは引張りに弱い。1910年代、アメリカのコーニング社は鉄道信号灯のガラスが雨や雪で割れる問題に悩み、熱膨張係数が普通のガラスの約3分の1のホウケイ酸ガラスを開発した。これが耐熱食器『パイレックス』のもとになった。熱応力を材料の側から減らした有名な例だ。

計算例

温度分布ごとの応力

鋼の広い板(外からの拘束なし)で、厚さ方向の温度差50 Kのとき。

温度分布応力
直線(片面が50 K高い)0(曲がるだけ)
直線・曲がりを拘束±85.7 MPa
放物線(両表面が50 K高い)表面 −114 MPa/中央 +57 MPa

放物線の分布は平均温度が表面より33 K低いので、表面は伸びを抑えられて圧縮、中央は引っ張られて引張りになる。圧縮と引張りは厚さ全体で打ち消しあう。

急冷の非定常解析

厚さ20 mmの鋼板(熱伝導率45 W/mK)を300℃から20℃の冷却媒体に入れ、非定常熱伝導を解いて表面の最大引張り応力を求めた。上限は EαΔT/(1−ν) = 960 MPa。

熱伝達率ビオ数最大応力発生時刻
ほぼ瞬時に冷却222855 MPa(上限の0.89)0.03 秒
5000 W/m²K1.11214 MPa(0.22)1.5 秒
1000 W/m²K0.2261 MPa(0.06)2.7 秒
🙋

同じ300℃の温度差なのに、冷え方で応力が14倍も変わるんですね。

🎓

ビオ数は『表面から熱が逃げる速さ』と『内部を熱が伝わる速さ』の比だ。ビオ数が小さいと板全体がゆっくりそろって冷えるので、表面と平均温度の差が小さく、応力も小さい。この比は、マンソンの近似式 1/(1.5 + 3.25/Bi − 0.5e^(−16/Bi)) で見積もるとビオ数1.11で0.23、0.22で0.06となり、計算とよく合う。焼入れで水冷が割れやすく、油冷が割れにくいのはこのためだ。

解析の手順と注意

  1. 伝熱解析で温度分布を求め、構造解析へ温度を荷重として渡す(片方向連成)。
  2. 非定常では、最大応力の時刻が表面と内部で違うので、複数時刻の温度を渡す。
  3. 基準温度(応力0の温度)を必ず設定する。
  4. 境界条件の拘束を現実より強くしない。過剰な固定は熱応力を大きく見せる。
  5. 温度依存の物性(E、α、降伏点)を入れる。高温では降伏点が下がる。
Coffee Break よもやま話

「固定しすぎた配管」

ある工場の蒸気配管の解析で、支持点をすべて完全固定にしたところ、熱応力が許容値の3倍を超えた。実際の配管はスライド支持で軸方向に動けるうえ、曲がり部が伸びを吸収する。支持条件を実物どおりにすると応力は許容値の半分以下に下がった。熱応力は『拘束の強さ』でほぼ決まるので、境界条件の置き方ひとつで答えが何倍も変わる。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
過剰な拘束応力の過大評価実際の支持を再現
基準温度の設定漏れ初期から応力が出る応力0の温度を指定
最終時刻だけ評価ピークを見逃す全時刻で最大を探す
物性を常温値で固定高温で誤差温度依存を入れる
温度場のメッシュが粗い表面勾配を見逃す表面近くを細かく
🙋

関連する内容も知りたいです。

🎓

熱応力計算ツールと熱膨張ツールで試算できるよ。関連するページは熱衝撃解析、熱膨張差、熱座屈、バイメタルが参考になる。

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