バイメタル熱変形解析
理論:伸びの差を反りに変える
概要
バイメタルはサーモスタットに使われると聞きました。設計するときは何を計算すればいいんですか?
大きく4つある。温度でどれだけ反るか(曲率)、先端がどれだけ動くか(変位)、止めたときにどれだけ押すか(力)、そして2枚の貼り合わせ面にどれだけ応力がかかるか(はく離の危険)。最初の3つは梁の式で計算できるが、最後の界面の応力は端に集中するので、有限要素法で確かめる必要がある。サーモスタット用の高膨張合金とインバーの組み合わせで順に見てみよう。
ティモシェンコの式
$h$ は全体の厚さ、$t_1, t_2$ は各層の厚さ、$\Delta\alpha$ は熱膨張係数の差。2層のヤング率と厚さが同じなら $\kappa = 1.5\,\Delta\alpha\,\Delta T / h$ になる。
先端変位と発生力
片持ちのバイメタルでは、一様な曲率で曲がるので先端変位は長さの2乗に比例する。先端を止めたときの力は、同じ変位を戻すのに必要な力として求められる。$EI$ は2層を合わせた曲げ剛性。
ハリソンの時計からサーモスタットへ
バイメタルを最初に実用化したのは、18世紀イギリスの時計職人ジョン・ハリソンとされる。航海用時計H3で、温度によってひげぜんまいの効きが変わるのを補正するため、真鍮と鋼を貼り合わせた板を使った。反りの式が確立したのはずっと後で、1925年にティモシェンコが、2層の厚さとヤング率を含む式を論文で示した。この式は今もバイメタルだけでなく、半導体の薄膜の反りから基板の変形まで広く使われている。
計算例
例1:厚さ比と反り
高膨張合金(α = 20×10⁻⁶ /K、E = 170 GPa)とインバー(α = 1.5×10⁻⁶ /K、E = 140 GPa)、全体の厚さ1 mm、ΔT = 50 K。m はインバー側の厚さを高膨張側の厚さで割った比。
| 厚さ比 m | 曲率 [1/m] |
|---|---|
| 0.5 | 1.19 |
| 0.8 | 1.35 |
| 1.0 | 1.38 |
| 1.10(最適) | 1.39 |
| 1.5 | 1.36 |
| 2.0 | 1.27 |
最適な比はヤング率の比の平方根 √(170/140) = 1.10 と一致した。最大の曲率1.39 1/mは、ヤング率が等しいときの式 1.5ΔαΔT/h と同じ値になる。m = 0.8〜1.5 の範囲なら最大値との差は3%以内で、厚さの比には敏感でない。
例2:片持ちの変位と力
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 曲率半径(等厚、50 K) | 722 mm |
| 先端変位(長さ50 mm) | 1.73 mm |
| 1 Kあたりの変位 | 0.035 mm/K |
| 先端を止めたときの力(幅5 mm) | 2.7 N |
例3:2次元FEMで確かめる
同じ片持ちバイメタルを平面応力の4節点要素(長さ方向400×厚さ方向20分割)で解いた。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 先端変位 | 1.721 mm(式 1.730 mm、差0.5%) |
| 中央部の界面の軸応力 | インバー側 +62 MPa/高膨張側 −71 MPa |
| 界面のせん断(中央〜端から2 mm) | ほぼ0 |
| 界面のせん断(端から0.44 mm) | 4.3 MPa |
| 界面のせん断(端から0.06 mm) | 24 MPa |
反りの大きさは梁の式でぴったり合うのに、界面のせん断は式では出てこないんですね。
ティモシェンコの式は、2枚が一体で曲がるとした平均的な変形の式だからね。2枚の間で力を受け渡すのは、実は端の近くだけだ。中央では2枚の伸びの差がつり合った状態で固定されているので、せん断は要らない。自由端では軸力が0に戻らなければならないので、全体の厚さ程度の短い区間で力が一気に受け渡され、せん断が集中する。端の角は理論上の特異点なので、要素を細かくするほど大きな値が出る。数値そのものより『端から始まる』ことが大事で、実際のはく離もほとんど端から進む。
設計と解析のポイント
- 反りを大きくしたいときは、熱膨張係数の差を大きくし、全体を薄くする。
- 厚さ比は最適値から多少ずれても影響は小さい。
- 高温では熱膨張係数とヤング率が変わる。インバーはキュリー点付近から膨張が急に大きくなる。
- 先端の力を使う設計では、接点の反力で変位が減ることを考える。
- 界面の応力を見るときは、端の近くの要素を細かくし、値そのものより分布の形で判断する。
「スナップするバイメタル」
電気ポットや電気毛布の安全装置には、皿のように浅く絞ったバイメタル円板がよく使われる。平らな板だと温度に比例して少しずつ曲がるだけだが、皿形にすると、ある温度で急にパチンと反転する。接点が一瞬で離れるので、火花が出にくく、ゆっくり開いて接点が焼けることも防げる。形状による座屈(飛び移り)を利用した設計で、解析では幾何学的非線形を入れないと反転を再現できない。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 幅の広い板に梁の式 | 反りを誤る | E/(1−ν)を使う |
| 物性を常温値で固定 | 高温で外れる | 温度依存を入れる |
| 界面の最大値で判定 | メッシュで変わる | 分布とエネルギーで評価 |
| 皿形を線形解析 | 反転を再現できない | 幾何学的非線形 |
| 厚さ方向1要素 | 曲げが硬すぎる | 各層に複数要素 |
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バイメタル・サーモスタットのシミュレーターと熱膨張ツールで試せるよ。関連するページは熱膨張差、熱応力解析、はんだ接合の信頼性、熱膨張係数の傾斜設計が参考になる。
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