バイメタル熱変形解析

カテゴリ: 連成解析・熱構造 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for bimetallic strip theory - technical simulation diagram
バイメタル熱変形解析

理論:伸びの差を反りに変える

概要

🙋

バイメタルはサーモスタットに使われると聞きました。設計するときは何を計算すればいいんですか?

🎓

大きく4つある。温度でどれだけ反るか(曲率)、先端がどれだけ動くか(変位)、止めたときにどれだけ押すか(力)、そして2枚の貼り合わせ面にどれだけ応力がかかるか(はく離の危険)。最初の3つは梁の式で計算できるが、最後の界面の応力は端に集中するので、有限要素法で確かめる必要がある。サーモスタット用の高膨張合金とインバーの組み合わせで順に見てみよう。

ティモシェンコの式

$$ \kappa = \frac{6\,\Delta\alpha\,\Delta T\,(1+m)^2}{h\left[3(1+m)^2 + (1+mn)\left(m^2 + \dfrac{1}{mn}\right)\right]},\quad m = \frac{t_1}{t_2},\ n = \frac{E_1}{E_2} $$

$h$ は全体の厚さ、$t_1, t_2$ は各層の厚さ、$\Delta\alpha$ は熱膨張係数の差。2層のヤング率と厚さが同じなら $\kappa = 1.5\,\Delta\alpha\,\Delta T / h$ になる。

先端変位と発生力

$$ \delta = \frac{\kappa L^2}{2},\qquad F_{block} = \frac{3\,(EI)\,\delta}{L^3} $$

片持ちのバイメタルでは、一様な曲率で曲がるので先端変位は長さの2乗に比例する。先端を止めたときの力は、同じ変位を戻すのに必要な力として求められる。$EI$ は2層を合わせた曲げ剛性。

Coffee Break よもやま話

ハリソンの時計からサーモスタットへ

バイメタルを最初に実用化したのは、18世紀イギリスの時計職人ジョン・ハリソンとされる。航海用時計H3で、温度によってひげぜんまいの効きが変わるのを補正するため、真鍮と鋼を貼り合わせた板を使った。反りの式が確立したのはずっと後で、1925年にティモシェンコが、2層の厚さとヤング率を含む式を論文で示した。この式は今もバイメタルだけでなく、半導体の薄膜の反りから基板の変形まで広く使われている。

計算例

例1:厚さ比と反り

高膨張合金(α = 20×10⁻⁶ /K、E = 170 GPa)とインバー(α = 1.5×10⁻⁶ /K、E = 140 GPa)、全体の厚さ1 mm、ΔT = 50 K。m はインバー側の厚さを高膨張側の厚さで割った比。

厚さ比 m曲率 [1/m]
0.51.19
0.81.35
1.01.38
1.10(最適)1.39
1.51.36
2.01.27

最適な比はヤング率の比の平方根 √(170/140) = 1.10 と一致した。最大の曲率1.39 1/mは、ヤング率が等しいときの式 1.5ΔαΔT/h と同じ値になる。m = 0.8〜1.5 の範囲なら最大値との差は3%以内で、厚さの比には敏感でない。

例2:片持ちの変位と力

項目値
曲率半径(等厚、50 K)722 mm
先端変位(長さ50 mm)1.73 mm
1 Kあたりの変位0.035 mm/K
先端を止めたときの力(幅5 mm)2.7 N

例3:2次元FEMで確かめる

同じ片持ちバイメタルを平面応力の4節点要素(長さ方向400×厚さ方向20分割)で解いた。

項目結果
先端変位1.721 mm(式 1.730 mm、差0.5%)
中央部の界面の軸応力インバー側 +62 MPa/高膨張側 −71 MPa
界面のせん断(中央〜端から2 mm)ほぼ0
界面のせん断(端から0.44 mm)4.3 MPa
界面のせん断(端から0.06 mm)24 MPa
🙋

反りの大きさは梁の式でぴったり合うのに、界面のせん断は式では出てこないんですね。

🎓

ティモシェンコの式は、2枚が一体で曲がるとした平均的な変形の式だからね。2枚の間で力を受け渡すのは、実は端の近くだけだ。中央では2枚の伸びの差がつり合った状態で固定されているので、せん断は要らない。自由端では軸力が0に戻らなければならないので、全体の厚さ程度の短い区間で力が一気に受け渡され、せん断が集中する。端の角は理論上の特異点なので、要素を細かくするほど大きな値が出る。数値そのものより『端から始まる』ことが大事で、実際のはく離もほとんど端から進む。

設計と解析のポイント

  1. 反りを大きくしたいときは、熱膨張係数の差を大きくし、全体を薄くする。
  2. 厚さ比は最適値から多少ずれても影響は小さい。
  3. 高温では熱膨張係数とヤング率が変わる。インバーはキュリー点付近から膨張が急に大きくなる。
  4. 先端の力を使う設計では、接点の反力で変位が減ることを考える。
  5. 界面の応力を見るときは、端の近くの要素を細かくし、値そのものより分布の形で判断する。
Coffee Break よもやま話

「スナップするバイメタル」

電気ポットや電気毛布の安全装置には、皿のように浅く絞ったバイメタル円板がよく使われる。平らな板だと温度に比例して少しずつ曲がるだけだが、皿形にすると、ある温度で急にパチンと反転する。接点が一瞬で離れるので、火花が出にくく、ゆっくり開いて接点が焼けることも防げる。形状による座屈(飛び移り)を利用した設計で、解析では幾何学的非線形を入れないと反転を再現できない。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
幅の広い板に梁の式反りを誤るE/(1−ν)を使う
物性を常温値で固定高温で外れる温度依存を入れる
界面の最大値で判定メッシュで変わる分布とエネルギーで評価
皿形を線形解析反転を再現できない幾何学的非線形
厚さ方向1要素曲げが硬すぎる各層に複数要素
🙋

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