超電導体の交流損失
理論:磁束が出入りするたびに失うエネルギー
概要
超電導ケーブルは電気抵抗が0なのに、交流だと冷却が大変だと聞きました。なぜですか?
直流なら確かに損失は0だ。でも交流では電流の向きと大きさが変わるたびに、超電導体の表面から磁束が入り込んだり出ていったりする。超電導体の中の磁束は欠陥などに『ピン止め』されていて、動くときにエネルギーを失う。これが交流損失で、ヒステリシス損失の一種だ。1周期あたりの損失は周波数によらないから、50 Hzなら1秒に50回失うことになる。そして、この熱を液体窒素の温度から取り除くのは、損失そのものの何倍もの電力がかかるんだ。
ノリスの式
1周期・単位長さあたりの通電損失(J/m)。$I_c$ は臨界電流、$F$ は電流の波高値と臨界電流の比。薄いテープ(REBCOなどの高温超電導線材)は上の式、断面が楕円の線は下の式を使う。臨界状態モデル(ビーンのモデル)に基づく。
損失の電力は周波数 $f$ に比例する。77 Kで出た熱を300 Kへ捨てるには、理想的なカルノーの冷凍機でも損失の2.9倍の電力が要る。
ノリスの式と高温超電導
ノリスの式は、1970年にイギリスのノリスが、臨界状態モデルを使って楕円断面と薄帯の超電導体の通電損失を解析的に求めたものだ。当時は液体ヘリウムで冷やす金属系の超電導体の時代で、交流での利用は限られていた。1986年に高温超電導体が見つかり、液体窒素で冷やせるようになると、送電ケーブルや変圧器、限流器など交流機器への応用が一気に現実味を帯びた。薄いテープ状の線材が主流になった今も、ノリスの式は交流損失の見積もりと測定の比較の基準として使われている。
計算例:臨界電流100 Aの線材
臨界電流100 A(77 K・自己磁界)の線材に50 Hzの交流を流したときの損失(W/m)を求めた。
| 電流の波高値(F) | 薄いテープ | 楕円断面 | 楕円/テープ |
|---|---|---|---|
| 10 A (0.1) | 3.4×10⁻⁶ | 3.5×10⁻⁵ | 10.5 |
| 30 A (0.3) | 2.8×10⁻⁴ | 1.1×10⁻³ | 3.8 |
| 50 A (0.5) | 2.3×10⁻³ | 5.7×10⁻³ | 2.4 |
| 70 A (0.7) | 1.0×10⁻² | 1.9×10⁻² | 1.8 |
| 90 A (0.9) | 3.6×10⁻² | 5.3×10⁻² | 1.5 |
電流が小さいとき、楕円の線はテープの10倍も損失が出るんですか?
そう。薄いテープは損失が電流の約4乗、楕円は約3乗で増える。小さな電流では、4乗のほうがずっと小さくなるんだ。テープの端に磁束が集まって入り込む形が、楕円とは違うからだね。逆に言えば、テープでは電流を臨界電流の近くまで流すと損失が急に増える。50 Aから70 Aに4割増やすと、損失は4.4倍になる。ケーブルの設計では、臨界電流に対してどれくらいの割合で使うかが損失を大きく左右する。
例2:送電ケーブルの冷却負担
1 kmの3相ケーブルで、各相に20本のテープ(各50 A波高値、F = 0.5)を使うと、各相の実効電流は707 A。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 77 Kでの交流損失 | 139 W |
| 冷却電力(カルノー効率) | 404 W |
| 冷却電力(実際の冷凍機10〜20倍) | 1.4–2.8 kW |
| F = 0.7にした場合の損失 | 611 W(4.4倍) |
これはテープ1本を単独で置いたときの式で見積もった値で、実際のケーブルではテープどうしの磁界の影響、外部の磁界による磁化損失、金属の安定化層の渦電流損失、断熱管からの侵入熱が加わる。
解析の進め方
- 線材の臨界電流を、使う温度と磁界(大きさと向き)の関数として用意する。
- ノリスの式で通電損失の概算を出し、臨界電流に対する運転の割合を決める。
- テープの配置を含めて、H法やT-A法などの有限要素解析で磁化損失を含めた損失を求める。
- 安定化層の渦電流損失、断熱管の侵入熱を加えて、冷却系の負荷を決める。
- 測定(電気的な方法・熱量法)と比べる。
「計算の数倍の損失」
試作した超電導コイルの交流損失を測ったら、ノリスの式から見積もった値の数倍だった——という例がある。ノリスの式はテープ1本に電流を流したときの通電損失で、コイルの中ではほかの巻線が作る磁界がテープの面に垂直にかかっていた。薄いテープは面に垂直な磁界に弱く、この磁化損失のほうが通電損失よりずっと大きかった。有限要素解析でコイル全体の磁界を入れて計算し直すと、測定とよく合った。コイルやケーブルでは、自分以外の電流が作る磁界を必ず考える必要がある。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 通電損失だけを見積もる | 磁化損失を見落とす | 外部・隣接の磁界を入れる |
| 臨界電流を一定に | 損失を過小評価 | 磁界・角度の依存を入れる |
| 損失の電力をそのまま比較 | 冷却の負担を見誤る | 冷凍機の効率で換算 |
| 臨界電流の近くで運転 | 損失が急増 | 運転の割合に余裕 |
| 安定化層の渦電流を無視 | 周波数が高いと損失が増える | 金属層を解析に入れる |
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磁気ヒステリシスのシミュレーターでヒステリシスの考え方を確かめられるよ。超電導の関連は臨界電流密度、磁束ピン止め、超電導ケーブル、高温超電導と低温超電導、クエンチ解析が参考になる。
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