巻線損失解析(交流銅損)

カテゴリ: 電磁場解析 | 2026-09-30 改稿
CAE visualization for winding loss transformer theory - technical simulation diagram
巻線損失解析(交流銅損)

理論:電流は導体の中で偏る

概要

🙋

スイッチング電源のトランスが熱いので、巻線を太い箔に変えたら、もっと熱くなったんです。銅を増やしたのに、どうしてですか?

🎓

高い周波数では、電流は導体の断面全体を流れなくなるんだ。自分のつくる磁界で表面に押しやられる表皮効果と、隣の層がつくる磁界で片側に寄せられる近接効果がある。層を重ねた巻線では近接効果が特に強くて、導体を厚くすると、逆向きの渦電流が大きくなって損失が増えることがある。直流抵抗だけで巻線を選ぶと、このわなにはまるんだよ。

表皮深さ

$$ \delta = \sqrt{\frac{\rho}{\pi f \mu_0}}, \qquad \Delta = \frac{h}{\delta} $$
周波数銅の表皮深さ(20 ℃)
50 Hz9.3 mm
1 kHz2.1 mm
10 kHz0.66 mm
100 kHz0.21 mm
1 MHz0.066 mm

$h$ は箔の厚さ(丸線では直径から換算した等価な厚さ)、$\Delta$ は厚さと表皮深さの比。温度が上がると抵抗率が大きくなるので、表皮深さも少し深くなる。

Dowellの式

$$ F_R = \frac{R_{ac}}{R_{dc}} = \Delta\left[\frac{\sinh 2\Delta + \sin 2\Delta}{\cosh 2\Delta - \cos 2\Delta} + \frac{2(m^2-1)}{3}\cdot\frac{\sinh\Delta - \sin\Delta}{\cosh\Delta + \cos\Delta}\right] $$
Δ1層2層4層6層
0.51.011.031.111.25
1.01.091.412.694.82
1.51.382.788.3817.7
2.01.905.1518.139.8
3.03.019.5435.779.2

$m$ は巻線の中で磁界が0から最大まで増えていく区間の層数。第1項が表皮効果、第2項が近接効果で、層数が多いほど第2項が $m^2$ に比例して大きくなる。1層なら Δ = 2 でも1.9倍で済むが、6層では約40倍になる。

Coffee Break よもやま話

ダウエルの1966年の論文

この式は、英国のP. L. ダウエル(Dowell)が1966年に発表した論文に由来する。巻線を層ごとに1次元の導体板とみなし、各層の両側の磁界の強さから電流分布を解析的に求めた。計算機が一般的でなかった時代に、1本の式で多層巻線の交流抵抗を見積もれるようにしたことで、スイッチング電源の磁気部品設計の標準的な道具になった。丸線やリッツ線、層の間のすき間を扱うための拡張は、その後の研究で数多く提案されている。

計算例:100 kHz の箔巻線

箔の厚さを変える

4層の箔巻線(同じ巻数・同じ幅)で、箔の厚さを変えたときの交流抵抗係数と、0.1 mm 箔の直流抵抗を1としたときの交流抵抗を比べた(100 kHz、表皮深さ0.209 mm)。

箔の厚さΔF_R交流抵抗(0.1 mm 箔の直流を1)
0.1 mm0.481.091.09
0.2 mm0.962.431.22
0.3 mm1.447.392.46
0.5 mm2.4026.15.23
🙋

0.5 mm にすると銅は5倍なのに、損失は5倍になるんですね。冒頭のトランスはまさにこれか…

🎓

そう。この条件では0.1〜0.2 mm あたりが一番損失が小さい。厚さを表皮深さ程度(Δ ≈ 1)より大きくしないのが、多層巻線の基本の考え方なんだ。ただし最適な厚さは層数と周波数で変わるし、実際の電流には高調波も含まれるから、波形のスペクトルごとに損失を足し合わせる必要がある。

$$ P_{cu} = \sum_k F_{R,k}\, R_{dc}\, I_k^2 $$

インターリーブ巻の効果

一次巻線4層と二次巻線4層を「一次4層→二次4層」と巻くと、磁界は一次の4層分かけて最大まで増える($m = 4$)。「一次2層→二次4層→一次2層」のように交互に巻くと、磁界の最大値が半分になり、各区間は $m = 2$ として扱える。0.2 mm 箔の例では、$F_R$ が2.43から1.34に下がり、巻線の交流損失はほぼ半分になる。漏れインダクタンスも小さくなるが、巻線間の容量は増える。

FEMでの評価

解析の要点

  • 表皮深さを解像するメッシュ:導体の表面から表皮深さの中に、少なくとも2〜3層の要素を入れる。100 kHz の銅なら要素は0.05〜0.1 mm 程度になる。
  • 2次元断面で十分なことが多い:変圧器の窓の断面を軸対称または平面の2次元でモデル化し、周波数領域の渦電流解析で各導体の損失を求める。コイルの端部の影響が大きいときだけ3次元にする。
  • 高調波ごとに解く:矩形波に近い電流では、基本波と主な高調波の周波数で別々に解き、各周波数の損失を電流の2乗で重みづけして足す。
  • リッツ線:素線を1本ずつモデル化するのは現実的でないので、素線径から求めた等価な複素透磁率・導電率を与える均質化モデルがよく使われる。
Coffee Break よもやま話

リッツ線でも損失が減らないことがある

リッツ線は細い素線をより合わせて、表皮効果と近接効果を抑える線だ。ところが、素線が細すぎたり本数が多すぎたりすると、絶縁被膜が増えて銅の占める割合が下がり、直流抵抗の増加が交流の改善を上回ることがある。また、より方が不十分だと素線どうしの電流が均等にならず、太い線と変わらなくなる。素線径は表皮深さの半分程度を目安に、実際の周波数と巻き方で損失を比べて選ぶのが確実だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
直流抵抗だけで銅損を計算高周波で損失を大幅に過小評価Dowellの式かFEMで交流抵抗
導体を厚くすれば良いと考える近接効果で損失が増えるΔ ≈ 1 を目安に層数と一緒に決める
基本波だけで評価高調波の損失を見落とす主な高調波ごとに足し合わせる
表皮深さより粗いメッシュ渦電流損失を過小評価表皮深さに2〜3層の要素
温度による抵抗率の上昇を無視運転温度で損失が増える運転温度の抵抗率で計算
🙋

周波数や導体の厚さを変えて試したいです。

🎓

表皮深さ計算と表皮効果シミュレーターで表皮深さと電流分布、変圧器設計シミュレーターと変圧器効率シミュレーターで変圧器全体の損失の配分を確かめられるよ。鉄心側の損失はシュタインメッツ方程式(鉄損)、高周波設計の全体像は高周波トランス、巻き方と漏れの関係は漏れインダクタンスの記事にまとめてある。

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