鉄損(コアロス)解析
理論:鉄損の3つの成分
概要
EVのモータを高速回転にしたら、鉄損が急に増えて効率が下がりました。鋼板の種類を変えれば改善しますか?
改善の方向は、鉄損のどの成分が増えたかで決まるよ。鉄損は、磁化の向きを行ったり来たりさせるのに要るヒステリシス損、鉄心の中に流れる渦電流による渦電流損、そのどちらでも説明しきれない異常渦電流損の3つに分けて考える。ヒステリシス損は周波数に比例、渦電流損は周波数の2乗に比例するので、回転を上げて周波数が上がると渦電流損が主役になる。それなら、薄い鋼板や抵抗の大きい鋼板が効くんだ。
損失の分離(Bertottiの式)
$f$ は周波数、$B$ は磁束密度の最大値、$\sigma$ は鋼板の導電率、$d$ は板厚、$\rho$ は密度。$k_h, k_{ex}$ は材料の測定から決める係数。真ん中の古典的な渦電流損は板厚の2乗・周波数の2乗に比例する。ヒステリシス損の指数は材料によって2から少しずれる。
式が成り立つ範囲
古典的な渦電流損の式は、板厚が表皮深さより十分薄く、磁束が板の厚さ方向に一様に通る場合の式。周波数が高くなって表皮深さが板厚に近づくと、磁束が表面に集まって式は損失を過大に見積もるようになる。
ケイ素を入れた鉄が変圧器を変えた
19世紀末の変圧器の鉄心は普通の鉄で、損失が大きいうえに、使ううちに鉄損が増える『経年劣化』に悩まされていた。1900年ごろ、英国のハドフィールドらが鉄に数%のケイ素を加えると電気抵抗が上がって渦電流損が減り、劣化も抑えられることを見つけた。さらに1930年代、米国のゴスが結晶の向きをそろえた方向性電磁鋼板を発明し、変圧器の鉄損は大きく下がった。日本の鉄鋼メーカーはその後、磁区を細かくする技術などで世界最高水準の低鉄損材を作り続けている。
計算例
例1:周波数と成分の割合
以下は仮想の係数(0.35 mm、50 Hz・1.5 Tでヒステリシス損1.6 W/kg・異常損0.3 W/kg、導電率2.0×10⁶ S/m)による計算。
| 条件 | ヒステリシス損 | 渦電流損 | 異常損 | 合計 | 渦電流損の割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 50 Hz, 1.5 T | 1.6 | 0.3 | 0.3 | 2.2 W/kg | 13% |
| 400 Hz, 1.0 T | 5.7 | 8.4 | 3.7 | 17.8 W/kg | 47% |
| 1 kHz, 1.0 T | 14.2 | 52.7 | 14.6 | 81.5 W/kg | 65% |
例2:板厚の効果
| 条件 | 0.35 mm | 0.20 mm | 減少 |
|---|---|---|---|
| 50 Hz, 1.5 T | 2.2 W/kg | 2.0 W/kg | −9% |
| 400 Hz, 1.0 T | 17.8 W/kg | 12.1 W/kg | −32% |
| 1 kHz, 1.0 T | 81.5 W/kg | 46.0 W/kg | −44% |
50 Hzでは薄くしてもほとんど変わらないのに、高い周波数では大きく効くんですね。
そう。50 Hzの変圧器ならヒステリシス損が主役だから、磁化しやすい方向性電磁鋼板や結晶の整った材料が効く。高速モータのように数百Hz以上になると渦電流損が主役になって、薄い板や抵抗の高い材料が効く。鉄心10 kgのモータなら、400 Hzで178 Wが121 Wになる計算だ。ただし1 kHzでは鋼板の表皮深さ(透磁率3,000と仮定して約0.21 mm)が0.35 mmより薄くなるので、古典的な式は損失を大きめに出している。実際の評価は材料メーカーの周波数別の測定値を使おう。
解析の進め方
有限要素解析での求め方
- 磁界解析で各要素の磁束密度の時間変化(波形)を求める。モータでは回転に合わせた過渡解析。
- 波形を周波数成分に分け、各成分の鉄損を足し合わせる。回転磁界では2方向の成分も考える。
- 材料のデータ(周波数・磁束密度ごとの鉄損の測定値)で係数を合わせる。
- 打ち抜きや組み立てによる劣化の係数をかけ、熱解析へ損失の分布を渡す。
注意点
- PWMの高調波:インバータ駆動では、スイッチングによる高い周波数の成分で鉄損が1〜3割増えることがある。
- 加工による劣化:打ち抜いた縁の近くは磁気特性が悪くなり、細い歯では影響が大きい。
- 応力の影響:焼きばめや圧入の圧縮応力で鉄損が増える。
「カタログ値の1.5倍の鉄損」
モータを試作して鉄損を測ったら、材料のカタログ値で計算した値の1.5倍近くあった——珍しくない話だ。カタログ値は、正弦波の磁界で、加工の影響のない試験片で測った値だ。実際のモータでは、インバータの高調波、打ち抜きの縁の劣化、ハウジングの圧入による応力、回転磁界がそれぞれ鉄損を増やす。設計の初期から、これらの補正係数を見込んでおくことが大切で、試作の測定で係数を合わせ込めば、次の設計の予測精度が上がる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| カタログ値をそのまま使う | 鉄損を過小評価 | 加工・高調波の補正 |
| 高周波で古典式を使う | 渦電流損を過大評価 | 表皮深さと比べる |
| 正弦波だけで評価 | 高調波の損失を見落とす | 波形を成分に分解 |
| 成分を分けずに対策 | 効かない材料選定 | 支配的な成分を確認 |
| 鉄損を熱解析に渡さない | 局所の過熱を見落とす | 分布として連成 |
鉄損や磁性材料の計算を自分でも試したいです。
ヒステリシス・シミュレーターでヒステリシス、表皮深さ計算で表皮深さ、変圧器効率ツールで変圧器の効率を試せるよ。関連する話題はSteinmetzの式、高周波トランス、巻線損失、モータの効率マップの記事にまとめてある。
なった
詳しく
報告