船舶抵抗予測

カテゴリ: 流体解析・船舶海洋 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for ship resistance theory - technical simulation diagram
船舶抵抗予測

理論:2つの相似則を同時に満たせない

概要

🙋

船の抵抗は模型を水槽で引いて測ると聞きました。小さい模型の結果を、そのまま大きな船に当てはめていいんですか?

🎓

そのままでは使えない。船の抵抗には、水面に波を作ることによる造波抵抗と、水の粘性による摩擦抵抗がある。造波抵抗を正しく再現するにはフルード数を、摩擦抵抗を再現するにはレイノルズ数を、模型と実船でそろえる必要があるが、同じ水を使う限り両方を同時にそろえることはできない。そこでフルード数をそろえて試験し、摩擦抵抗だけを計算で実船の値に置き換える。長さ150 mの船と1/30模型で、この手順を計算してみよう。

フルード数・レイノルズ数・摩擦抵抗線

$$ Fn = \frac{V}{\sqrt{gL}},\qquad Re = \frac{VL}{\nu},\qquad C_F = \frac{0.075}{(\log_{10}Re - 2)^2}\quad(\text{ITTC-1957}) $$

実船への換算

$$ C_{Ts} = C_{Tm} - C_{Fm} + C_{Fs}\ \ (\text{2D}),\qquad C_{Ts} = (1+k)\,C_{Fs} + \left[C_{Tm} - (1+k)C_{Fm}\right]\ \ (\text{3D}),\qquad P_E = \tfrac{1}{2}\rho V^3 S\,C_T $$

2次元法は剰余抵抗の係数を模型と実船で同じとし、3次元法は形状影響係数(1+k)を使って粘性抵抗全体をレイノルズ数で補正する。$P_E$ は有効馬力(抵抗×速度)。

Coffee Break よもやま話

フルードの曳航水槽

イギリスのウィリアム・フルードは、1870年代に自宅近くに世界で初めての本格的な曳航水槽を造り、模型の抵抗を測った。彼は抵抗を摩擦と残りに分け、残りの部分は速度と長さの比(今のフルード数)をそろえれば模型と実船で相似になると考えた。英国海軍の軍艦グレイハウンドを実際に引いて、この方法が正しいことを確かめた。150年後の今も、船の設計では彼の考え方が基本になっている。

計算例:長さ150 m・20ノットの船

実船:長さ150 m、浸水表面積5,000 m²、20ノット(10.29 m/s)、海水。模型:1/30、真水。模型の全抵抗係数は 4.0×10⁻³ と仮定した(測定値の代わり)。

項目模型実船
長さ5 m150 m
速度1.88 m/s10.29 m/s
フルード数0.2680.268
レイノルズ数8.2×10⁶1.3×10⁹
摩擦抵抗係数(ITTC-1957)0.003100.00148

有効馬力の推定

方法実船の全抵抗係数抵抗有効馬力
模型の係数をそのまま0.004001,085 kN11.2 MW
2次元法(フルード)0.00238645 kN6.6 MW
3次元法(k = 0.2)0.00205557 kN5.7 MW

実船の表面の粗さなどを見込む相関修正 C_A = 0.0002 を加えると、2次元法で7.2 MW、3次元法で6.3 MW。

🙋

模型の抵抗係数をそのまま使うと、ほぼ2倍の馬力を見積もってしまうんですね。

🎓

模型はレイノルズ数が小さいので、境界層が相対的に厚く、摩擦抵抗の係数が大きい。この例では模型の全抵抗のうち8割近くが摩擦で、その摩擦係数が実船では半分以下になる。だから摩擦の部分を実船のレイノルズ数で計算し直さないと、抵抗も馬力も大きく見積もってしまう。2次元法と3次元法の差は、船体の形による粘性の増え方をどう扱うかの違いで、3次元法では粘性抵抗全体がレイノルズ数とともに小さくなるので、実船の値がさらに小さくなる。今は実船のレイノルズ数でCFDを直接解いて、この換算の妥当性を確かめる研究も進んでいる。

CFDでの扱い

  1. 模型スケールのCFDは水槽試験と比べて検証し、そのうえで同じ換算をする。
  2. 実船スケールのCFDでは、境界層が非常に薄いので壁の格子(y⁺)に注意する。
  3. 自由表面はVOF法などで解き、造波抵抗をとらえる。
  4. 船の沈下とトリム(姿勢の変化)を考えると、高速で抵抗の予測が改善する。
  5. 表面の粗さや付着生物は実船の摩擦を増やすので、相関修正で見込む。
Coffee Break よもやま話

「船底のよごれで燃費が落ちた」

ある貨物船は、就航から1年ほどで同じ速力を出すための燃料が1割以上増えた。ドックで調べると、船底にフジツボや藻がびっしり付着していた。実船の抵抗の大部分は摩擦抵抗なので、表面が粗くなると抵抗が大きく増える。船底を清掃して防汚塗料を塗り直すと、燃費は元に戻った。抵抗の予測で相関修正を入れるのは、こうした実船ならではの表面の状態を見込むためでもある。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
係数をそのまま実船へ馬力を約2倍に摩擦を補正
レイノルズ数をそろえる造波が再現されないフルード数をそろえる
海水と真水の違いを無視数%の誤差密度と粘度を区別
形状影響係数を無視実船を過大評価3次元法も比較
表面の粗さを無視実船を過小評価相関修正を入れる
🙋

関連する内容も知りたいです。

🎓

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