船舶抵抗予測
理論:2つの相似則を同時に満たせない
概要
船の抵抗は模型を水槽で引いて測ると聞きました。小さい模型の結果を、そのまま大きな船に当てはめていいんですか?
そのままでは使えない。船の抵抗には、水面に波を作ることによる造波抵抗と、水の粘性による摩擦抵抗がある。造波抵抗を正しく再現するにはフルード数を、摩擦抵抗を再現するにはレイノルズ数を、模型と実船でそろえる必要があるが、同じ水を使う限り両方を同時にそろえることはできない。そこでフルード数をそろえて試験し、摩擦抵抗だけを計算で実船の値に置き換える。長さ150 mの船と1/30模型で、この手順を計算してみよう。
フルード数・レイノルズ数・摩擦抵抗線
実船への換算
2次元法は剰余抵抗の係数を模型と実船で同じとし、3次元法は形状影響係数(1+k)を使って粘性抵抗全体をレイノルズ数で補正する。$P_E$ は有効馬力(抵抗×速度)。
フルードの曳航水槽
イギリスのウィリアム・フルードは、1870年代に自宅近くに世界で初めての本格的な曳航水槽を造り、模型の抵抗を測った。彼は抵抗を摩擦と残りに分け、残りの部分は速度と長さの比(今のフルード数)をそろえれば模型と実船で相似になると考えた。英国海軍の軍艦グレイハウンドを実際に引いて、この方法が正しいことを確かめた。150年後の今も、船の設計では彼の考え方が基本になっている。
計算例:長さ150 m・20ノットの船
実船:長さ150 m、浸水表面積5,000 m²、20ノット(10.29 m/s)、海水。模型:1/30、真水。模型の全抵抗係数は 4.0×10⁻³ と仮定した(測定値の代わり)。
| 項目 | 模型 | 実船 |
|---|---|---|
| 長さ | 5 m | 150 m |
| 速度 | 1.88 m/s | 10.29 m/s |
| フルード数 | 0.268 | 0.268 |
| レイノルズ数 | 8.2×10⁶ | 1.3×10⁹ |
| 摩擦抵抗係数(ITTC-1957) | 0.00310 | 0.00148 |
有効馬力の推定
| 方法 | 実船の全抵抗係数 | 抵抗 | 有効馬力 |
|---|---|---|---|
| 模型の係数をそのまま | 0.00400 | 1,085 kN | 11.2 MW |
| 2次元法(フルード) | 0.00238 | 645 kN | 6.6 MW |
| 3次元法(k = 0.2) | 0.00205 | 557 kN | 5.7 MW |
実船の表面の粗さなどを見込む相関修正 C_A = 0.0002 を加えると、2次元法で7.2 MW、3次元法で6.3 MW。
模型の抵抗係数をそのまま使うと、ほぼ2倍の馬力を見積もってしまうんですね。
模型はレイノルズ数が小さいので、境界層が相対的に厚く、摩擦抵抗の係数が大きい。この例では模型の全抵抗のうち8割近くが摩擦で、その摩擦係数が実船では半分以下になる。だから摩擦の部分を実船のレイノルズ数で計算し直さないと、抵抗も馬力も大きく見積もってしまう。2次元法と3次元法の差は、船体の形による粘性の増え方をどう扱うかの違いで、3次元法では粘性抵抗全体がレイノルズ数とともに小さくなるので、実船の値がさらに小さくなる。今は実船のレイノルズ数でCFDを直接解いて、この換算の妥当性を確かめる研究も進んでいる。
CFDでの扱い
- 模型スケールのCFDは水槽試験と比べて検証し、そのうえで同じ換算をする。
- 実船スケールのCFDでは、境界層が非常に薄いので壁の格子(y⁺)に注意する。
- 自由表面はVOF法などで解き、造波抵抗をとらえる。
- 船の沈下とトリム(姿勢の変化)を考えると、高速で抵抗の予測が改善する。
- 表面の粗さや付着生物は実船の摩擦を増やすので、相関修正で見込む。
「船底のよごれで燃費が落ちた」
ある貨物船は、就航から1年ほどで同じ速力を出すための燃料が1割以上増えた。ドックで調べると、船底にフジツボや藻がびっしり付着していた。実船の抵抗の大部分は摩擦抵抗なので、表面が粗くなると抵抗が大きく増える。船底を清掃して防汚塗料を塗り直すと、燃費は元に戻った。抵抗の予測で相関修正を入れるのは、こうした実船ならではの表面の状態を見込むためでもある。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 係数をそのまま実船へ | 馬力を約2倍に | 摩擦を補正 |
| レイノルズ数をそろえる | 造波が再現されない | フルード数をそろえる |
| 海水と真水の違いを無視 | 数%の誤差 | 密度と粘度を区別 |
| 形状影響係数を無視 | 実船を過大評価 | 3次元法も比較 |
| 表面の粗さを無視 | 実船を過小評価 | 相関修正を入れる |
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