スロッシング(液面動揺)
理論:液体の揺れにも固有周期がある
概要
コップの水を持って歩くと、ある歩き方のときだけ大きくこぼれますよね。あれもスロッシングですか?
そのとおり。容器の中の液体は、容器の大きさと液の深さで決まる固有周期で揺れる。外から加わる揺れの周期がそれに近いと共振して、液面が大きく持ち上がる。コップなら歩く周期、タンクローリーならブレーキや旋回、石油タンクなら地震、ロケットなら姿勢制御——スケールは違っても仕組みは同じだよ。
矩形容器の固有振動数
$L$ は揺れの方向の容器の長さ、$h$ は液深。線形ポテンシャル理論(渦なし・小振幅)による。$\tanh(kh)$ は水深の効果で、深い容器では1に近づき、浅いと小さくなって周期が長くなる。
円筒容器
$R$ は半径。1.8412 はベッセル関数の導関数 $J_1'$ の最初の零点で、円筒の1次の揺れ(液面が片側で上がり反対側で下がる形)に対応する。
長周期地震動とタンク火災
2003年の十勝沖地震では、震源から200 km 以上離れた苫小牧の石油タンクで大きなスロッシングが起き、浮き屋根が損傷して火災に至った。震源から遠い場所では短い周期の揺れは弱まるが、周期数秒の長い揺れは減衰しにくく、堆積層の厚い平野では増幅される。大型タンクの固有周期がちょうどその帯域にあったことが被害を大きくした。この地震をきっかけに、日本ではタンクの耐震基準で長周期の揺れとスロッシングの扱いが強化された。
計算例
いろいろな容器の1次固有周期
| 容器 | 寸法 | 1次固有振動数 | 周期 |
|---|---|---|---|
| 実験用水槽 | L = 2 m, h = 1 m | 0.598 Hz | 1.67 秒 |
| 同じ水槽で浅く | L = 2 m, h = 0.2 m | 0.345 Hz | 2.90 秒 |
| タンクローリー(1区画) | L = 10 m, h = 1 m | 0.154 Hz | 6.49 秒 |
| 仕切り板で3区画 | L = 3.33 m, h = 1 m | 0.415 Hz | 2.41 秒 |
| 給水塔 | 直径 6 m, h = 5 m | 0.390 Hz | 2.57 秒 |
| 石油タンク | 直径 30 m, h = 12 m | 0.166 Hz | 6.04 秒 |
| 大型石油タンク | 直径 60 m, h = 20 m | 0.113 Hz | 8.83 秒 |
仕切り板を入れると、周期が6.5秒から2.4秒に短くなるんですね。揺れが増えそうに思えますが…
大事なのは加振の周期との関係なんだ。ブレーキや車線変更で液に加わる揺れはおおむね数秒の周期で、長い区画の6.5秒はそこにかかりやすい。区画を短くすると固有周期がそこから外れるうえ、1区画あたりの液の質量が減るので、車体に返ってくる力も小さくなる。仕切り板に穴をあけて流れを絞るのは、揺れを減衰させるためだよ。
地震時の液面の揺れ高さ
円筒タンクの1次モードについてよく使われる近似で、$S_a(T_1)$ は1次の固有周期での加速度応答スペクトル。直径30 m のタンクで $S_a = 0.1g$ なら、液面は約1.3 m 上下する。浮き屋根やタンク上部の余裕高さは、この値をもとに決める。実際の設計では、使用する規格の式と係数に従う。
CFDでの評価
VOFによる解析設定
- 自由表面:液と気体の界面は VOF法 で扱うのが一般的。界面が通る範囲はメッシュを細かくし、波高の数%程度の寸法にする。
- 加振の与え方:容器を動かす代わりに、容器に固定した座標系で慣性力(体積力)として加速度を与えると、メッシュを動かさずに済む。
- 時間刻み:界面が1ステップで1セル以上動かないよう、クーラン数を1未満(界面付近は0.5程度以下)に保つ。固有周期あたり数百ステップ以上が目安。
- 乱流と減衰:揺れの減衰は、壁の境界層や仕切り板の穴での渦で決まる。数値的な拡散が大きいと、実際より早く揺れが収まって見えるので注意する。
検証の手順
- 小さな初期傾き(液面をわずかに傾けた状態)から自由振動させ、液面の高さの時刻歴から固有周期を読み、上の式と比べる。数%以内なら設定は妥当。
- 同じ計算で、振幅の減り方から減衰比を求め、実験値や文献値と比べる。
- メッシュと時間刻みを細かくして、周期と減衰比が変わらないことを確かめてから、本番の加振条件に進む。
構造解析では「ばねと質量」に置き換える
タンクの耐震設計で、液体をすべてCFDで解くことはあまりない。代わりに、液体を「タンクと一緒に動く質量(インパルシブ質量)」と「ばねでつながって揺れる質量(コンベクティブ質量)」に分けた等価な力学モデルが使われる。1950年代にハウスナーが整理した考え方で、ばねの固有周期はこの記事の式で求めたスロッシングの周期に合わせる。CFDは、この簡単なモデルでは表せない大きな揺れや、屋根への衝突を詳しく見るときの道具になる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 水深の効果(tanh)を省く | 浅い容器で周期を短く見積もる | $\tanh(kh)$ を必ず入れる |
| 揺れの方向の長さを取り違える | 周期が大きくずれる | 加振方向の内のりを使う |
| 界面付近のメッシュが粗い | 波がなまり、減衰を過大評価 | 界面の通る範囲を細かく |
| 線形理論を大振幅に使う | 砕波・屋根への衝突を表せない | 大振幅はCFDで評価 |
| 2次以上のモードを無視 | 短周期の加振で応答を見落とす | $n = 2, 3$ の周期も確認 |
容器の大きさを変えて、揺れ方を見てみたいです。
スロッシングシミュレーターで容器の長さや水深を変えると、固有周期と揺れ方の変化を確かめられるよ。自由表面を数値的に扱う方法は自由表面流れ、波そのものの計算はVOF法による波浪シミュレーションにまとめてある。
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